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zoom RSS 小鳥遊圭SS〜ウエディングドレス〜

<<   作成日時 : 2007/01/01 00:00   >>

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 「ふう……」
 大きく息を吐きながら、ガーデンチェアに腰を下ろす。
 一瞬、借り物のドレスが傷むかなと思ったが、体を休める誘惑には逆らえない。
 大体、好きで身に着けたドレスではない。罠に掛かった結果としての姿である。
 テーブルに片肘を着いて頬を乗せて、友人たちの輪から抜け出せない「主人」を横目で見る。
 そう、主人である。夫とも言う。あるいは旦那様、もしくは亭主か。呼び方はどうでも良い。勿論、彼を主人と呼ぶからには、僕は妻だったりするのである。



 なんでこうなってしまったのかと、思わず頭を抱えたくなる。

 赤いドレスを纏った女性が友人たちの輪から抜け出して、僕が占拠したガーデンテーブルまで歩み寄った。見事な立ち居振る舞い。ドレスを普段着にしているだけの事はある。
 仕事上、ドレスを着ることも多い僕だけれど、彼女の優雅さには敵わない。まあ、争う気もないけれど。
 「お疲れのようですね」
 自分の対面に――ハンカチを敷いてから――腰を下ろす。ああ、そういえば、そんな事まで気が回らなかった。確かに疲れているようだ。
 「まあ、ね。パーティーも女性との語らいも嫌いじゃないけれど、自分が話のタネになる場合は話が違うよ」
 「今までの行いの結果でしょう?」
 肩を竦めながらの返答に、彼女は微笑みながら追い打ちをかけた。うん、悔しいけど反論できない。自業自得だから。
 競争相手と目されていなかったこの僕が、トンビが油揚げを掻っ攫っていくように、彼を自分のものにしてしまった訳だから、恨みごとの一つも言いたくなるのだろう。
 「でもさ、皆して僕を取り押さえて、無理矢理ドレスまで着せて。なんだって結婚式なんてやろうと思った訳?」
 何しろ酷いものだった。旧交を温めましょうなどと言って誘い出し、前後不覚になるまで酒を飲み、二日酔いの頭を抱えながら目を覚ましたら拘束され、あれよあれよとウエディングドレス。いやあ、全くもって一生の不覚。
 「そうですね。あえて言うなら、けじめですね」
 「はあ、けじめですか」
 「はい。だって、形に残るようなことをしなければ、いつまで経っても諦められないじゃないですか」
 僕の気のない返事が癇に障ったのか、軽く頬を膨らませながら、そんな事を言ってくる。
 そもそも僕としては、結婚しようだとか恋人になろうだとか、そういうつもりは無かったのである。
 ただまあ、なんだかんだといって頼りになるから、度々日本から連れ出しては、一緒に世界中を飛び回ったり、一緒に死線を潜り抜けたり、一緒にベッドに潜り込んだりしていたら、いつの間にかこうなってしまった訳で。
 「怒りますよ」
 そのまま言ったら怒られた。うん、やっぱり文句は言えません。
 「大体、結婚式というものは一生に一度の大切なもの。面倒くさいとかそういう理由で行わないなど、論外ではありませんか」
 「別に一度きりって事は無いと思うけれど」
 世の中には、くっついたり離れたりと磁石か何かのような人もいる訳で。
 「他の人ならいざ知らず、圭さんにとっては一生に一度でしょう」
 「……その根拠は?」
 「圭さんの隣に寄り添うような奇特な殿方なんて、一人しかいないじゃありませんか」
 凄い言われようだなあ。まあこういう仕事をしている以上、結婚生活とか幸せな家庭とか、そういうものとは縁遠くなっちゃうし、いつお互いが死ぬかも分からないのだから、一緒に居るという結果以上のモノは必要なかったというか。
 夫婦別姓が認められている現状、子供に財産を引き継がせる為以外に、婚姻届を提出するメリットは無かったりするし。
 あれ? 何か、悩んでいるのがどうでも良くなってきちゃったな。
 「いきなり頭を抱えて、どうしたのですか」
 「いや、ちょっと結婚についての哲学的なナニカを考えようと思って」
 「?」
 そんな事を話している間に、あちら側ではどんどんカオスへまっしぐら。あ、主人が空を飛んでる。胴上げにしては過激だなあ。
 「結婚したらしたで、きっと色々大変なんだろうなあ」
 「そうなのですか?」
 「そうなのですよ。世界中で、無自覚な優しさをばら撒いたりするからね」
 本人としてはそのつもりは無いのだろうけれど、こう、事件に関わった女性を誰彼構わずというか。破壊力はショットガン級、間違っても『粉をかける』とかいうレベルじゃありません。
 「それもまた、自業自得でしょう?」
 「……まあ、そうだけど」
 レディに対するさり気ない気の遣い方とか、そういった諸々があんまりにも情けなかったから、色々と教えたんだよなあ。その甲斐あって、今は立派な紳士になってくれましたが。
 一つ予想外だったのが、そういったテクニックを教えているうちに、自分も討ち取られてしまったという事で。うん、やっぱり自業自得。
 「大変だとお思いなら、しっかりと手綱を握っておけば良いだけのことでしょう?」
 「あはは、彼は突撃タイプだからね。そのあたりの感覚は覚えたというか」
 苦笑しながら立ち上がって、色々と大変なことになっている主人のところへと向かう。僕だって、自分のものを黙って他人にくれてやるほどお人好しではないのだ。手間暇かけて育てたんだし。
 「圭さん」
 さて、どうやって敵対勢力を追い払おうかと考えていると、背中から声が掛かった。足を止めて振り向くと、素敵な笑顔が目に映る。
 「なんです?」
 「一つ、約束して欲しいのですが」
 「約束ですか。構いませんけど……」



 「どうか、お幸せに」



 「……うん。分かった」
 そこには色々な意味があるようで。
 ちょっと涙が滲んでしまったのは内緒だ。






















 そんな、幸せな夢を垣間見た。


 「圭、起きた方が良いぞ」
 ガーデンチェアに座ってうたた寝していた私を、彼がそっと起こしてくれた。
 「やっぱり辛いか?」
 「そうだね……。徹夜するのも厳しくなったよ」
 いけない、いけない。パーティー会場はしっかりと警備されているけれど、だからといって気を抜いて良いわけではない。しっかりしないと。
 「ところで、どんな夢を見ていたんだ?」
 「え?」
 「何か、寝言を言ってた」
 「……そういう事を尋ねたりしないの。マナーは守りなさい、バカ亭主?」
 「酷い言われようだな」
 そう、随分と懐かしい夢だった。着ている服のせいかもしれない。
 ウエディングドレス。
 別に着慣れたくはないのだけれど、コレで人生何回目かと考える。
 いや、別に結婚と離婚を繰り返しているわけではない。仕事のせいだ。
 政治家と占い師というのは、切っても切れない間柄。古来より続く裏社会。それは僕も例外ではなく、様々なコネクションを維持する為に、政治家のご機嫌取りをしたりするのだ。
 そう、例えば。欧州に強い影響力を持つ政治家がジャパニメーションの大ファンで、親しい友人達を招いて開かれるパーティーが、仮面舞踏会を模したコスプレパーティーだったとしても、ご機嫌取りに窺わなければいけないのである。
 ちなみに、徹夜をする破目になったのは衣装合わせのためだ。去年とサイズが違っていた。ちょっとショックだ。
 色々な心の傷を癒す為にも、うたた寝ぐらいは大目に見て欲しいものである。ダメですか?
 「……なに、上目遣いで見てるんだ?」
 甘えさせてもくれないバカ亭主。どうしてこう、一方向だけ鈍いのか。



 あれから何年経ったのか。
 赤い貴婦人は既に亡く。
 さて自分は幸せなのだろうかと、ふと考えてしまう。



 「ねえ」
 「ん?」
 「そろそろ、子供を作ろうか」


 多分続かない。
 
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 いや、前半を読んでいるときには、絶対感想の最初には「ぎゃはははははは!」と書き込んでやろうとてぐすねを引いていたのですよ。ところが後半でやけにしんみりさせてくれましたな。

 いや〜、いいですね! こういう空気感。
 からっと乾いているようでありながら、そこはかとなく漂う「人の体温」というものが、圭さんには実に相応しい。大人のお話って感じで素敵です。お話の持つ疾走感もたまらない。
 良いお話をありがとうございました。(^^;



 ところで……
 ベッドにダイブって、それ何てルパン?(爆)
aki
2009/02/16 23:45
 aki様、感想有難う御座います。

 なんとなく笑い話だけで済ませるのもどうかな〜と思ったので、ちょっと構成を変えてみました。
 自分で読み直してみると、今読んでいる小説の影響出まくりです。
 ううむ、流されやすいなあ。

 
A-O-TAKE
2009/02/17 19:36
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