A-O-TAKEの隠し部屋

アクセスカウンタ

zoom RSS 謝意の在処〜六花ルート・小夜音〜

<<   作成日時 : 2007/01/01 00:00   >>

トラックバック 0 / コメント 0

 六花ルート後・小夜音の物語。
 キャラメルBOX様の掲示板に初めて投稿した作品です。






     謝意の在処




 2022年12月25日

 散花蝕は消えるときに、様々なものを残していった。
 住民の帰還問題、大国間の利権問題。
 空き巣狙いの強盗団等も現れ、治安の悪化も叫ばれている。
 世界中で、混乱が続いている。

 東京・新東雲

 窓の外は、吹雪いている。
 日本での異常気象も散花蝕の消滅が原因とされていた事を、私は思い出した。
 すべての事が、「おまえ達の所為だ」と責めているようだった。
 私も未だ、迷いの中にある。だからこんな考えをするのだろう。

 (泣いて縋れば、楽になれるかもしれない)
 馬鹿馬鹿しい。弱気になっている、そう思えた。
 頭を振ってその感情を否定する。
 (あなたなら、どう考えるのかしら……)
 私は振り向いて、目の前のベッドを眺めた。
 部屋の中の色は白をベースに統一されている。
 自らの纏う赤いドレスが、酷く場違いに思えた。


 ベッドの上には、六花が眠っていた。


 あれから、もうすぐ5ヶ月。六花が目覚める気配は、未だ、無い。


 ノックが聞こえ、すぐに病室のドアが開く。
 「蔵人さん」
 身を隠す隙も無く、蔵人さんが紙袋を手に入ってきた。
 せめて、返事の有無を確認してから、ドアを開けてほしかった。
 「小夜音、来ていたのか」
 私は病室の時計をちらと確認する。午後3時5分前。毎日の見舞い時間より1時間程早い。
 「今日のお見舞いは早いのですね」
 「ちょうど良い時間だったからな。急いで来たんだ。まあ、座れよ」
 (私にとっては、あまり良くありません)
 情けない私は見せたくない。だからこそ、普段は蔵人さんの来ない時間に見舞いに来たのに。
 蔵人さんは私の動揺には気付かないようだった。持ち込んだ紙袋から荷物を出している。
 「そうだ。こいつは小夜音にやるよ」
 言葉と共に、赤と白の毛糸が飛んでくる。私は両手で受け止めて、手の中の物を眺めた。
 「……帽子?」
 「似合うと思うぞ。それを被れば、即席サンタの出来上がりだ」
 「……」
 「そ、そんな目で見るなよ」
 「ドレスを着たサンタクロースは、普通いないと思いますが」
 そう言いつつも被ってみせる。窓に映った私は、やはり変だった。
 「きっとお子様に大人気だ。良かったな」

 文句を言おうと振り向くと、蔵人さんは洋菓子屋の箱を出していた。
 「ケーキを買ったら、くじ引きで当たった。俺には必要ないからな」
 (私にも、必要ありませんが……)
 箱からケーキを取り出して髪皿に移し、食べる準備をしている。
 午後3時。ちょうど良い時間とは、お茶の時間ということらしい。
 紙皿の上には、見覚えのある苺のタルト。
 視線を蔵人さんの手元から顔へと移す。
 「お前へのプレゼント、結局決まらなかったからな。目が覚めたときに誕生日プレゼントと一緒に買いに行くことにした。そういう訳で、今日はケーキだけだ」
 ベッドの上の六花へと話しかける、蔵人さんの横顔。曇りの無い、綺麗な笑顔。
 私の欲しかったもの。私だけに、見せてほしかった笑顔だった。

 羨ましい。

 そう思った瞬間、不意に、醜い感情を思い出した。
 信綱さんに負けて砕けたプライド。運命に負けて無為に死ぬことの恐怖。愛しい人に選ばれなかった悲しさ。
 そして……自分の立ちたい場所にいる、六花への嫉妬。

 必死になって否定する。頭を振る。ぐるぐる回る。視界が、記憶が。
 だが、それは確実にあるもので、とても自分を誤魔化せない。
 「……音。小夜音。聞いているのか?」
 「……え?」
 「小夜音らしくもないな。どうした?」
 「すいません。少し考え事を……」
 呼吸を整える。今の私はどんな表情をしているだろう?
 「まあ良いや。小夜音もケーキ食べるか? 3時のお茶会だ。もっとも、飲み物はコーヒーだけどな」
 こちらを向くその顔は、先と同じ、澄んだもの。だから、私は。
 「蔵人さん」
 思わず、謝ってしまっていた。
 「申し訳有りません」

 「……ダイエット中か?」
 「違います。私は真面目な話をして――」
 「解っているよ。病室に入ったときから、様子が変だったからな。六花の事だろう?」
 驚いた。見抜かれていたことよりも、それを悟らせた私の不甲斐無さを。
 よりにもよって、蔵人さんにばれてしまうなんて。
 「……そうです。私は」
 「ストップ」
 「え?」
 「それは謝っても意味の無いことだし、俺に謝るのも筋違いだ」
 「ですが……」
 「小夜音が六花に対して思った事を俺に向かって謝られても、俺に判断が下せるわけ無いだろう」
 「それでも私は、蔵人さんに謝っておきたいのです」
 「何の為に、俺に謝るんだ?」
 「何の、為に?」
 「小夜音は、俺に謝りたいわけじゃない。俺に許してもらいたいだけだ。違うか?」

 (……!)
 衝撃が来た。図星だった。
 「手厳しい、ですね」
 「ん……すまない」
 「いいえ、蔵人さんは間違っていません」
 そう。蔵人さんに謝るのは、許してもらいたいから。泣いて、縋って、甘えたいという、私の弱さなのだ。こんなにも脆くなっているなんて。以前の私はどこにいってしまったのか。


 「それにな、小夜音。六花が目覚めないことに、お前が責任を感じる必要は無いよ」
 「……え?」
 「まあ聞けよ。実は、さっきの台詞も今の台詞も、俺の言葉じゃない。六花の爺さんからだよ」
 「……(いえ、私の謝りたいことは)」
 「俺も、爺さんに謝ろうとして、止められた。あっさり見抜かれたよ。逆に、こっちが謝られちまった。六花を、許してやってくれって」
 「……(私の、醜い嫉妬の事であって)」
 「『いつまでも目を覚まさず、皆さんに心配をかけさせている。申し訳ない』ってさ」
 「……」
 「御影さんからデミウルゴスの説明を聞いて考えたそうだ。『六花が眠っているのは、きっと自分を一番に考えなかったからで、それは六花の自業自得だ。だけど、そう考える子に育ったのは、儂ら大人の責任だ』って。だから、皆さんが責任を感じる必要は無いって、そう言っていた」
 「……」
 「それでも謝りたいと思うなら、目が覚めたときに直接言えってさ。六花が考え、六花が決めた。それなら、謝罪を受けるかどうかも、六花自身で決めるべき事だって」

 「解りました。確かに、そのとおりですね」
 謝る内容は、違うのだけれど。
 確かに、六花に言わなければ意味が無い。それは当たり前の事だった。
 内心ほっとしていた。蔵人さんに悟られたのが、私の嫉妬ではなくて。
 「ちなみに俺は、笑って許す方に賭けるぜ。『いいんだよ、そんなの〜』て感じで」
 「……全然、似ていませんよ」
 私はぎこちなく笑いながら続ける。
 「どうりで、蔵人さんにしては、鋭い言葉だと思いました」
 「悪かったな。どうせ俺は、鈍感だよ」
 どうやらうまく笑えたようだ。蔵人さんも、笑っていた。


 「ご馳走様でした。次の機会には、私が紅茶を用意しますね」
 「やっぱりコーヒーじゃ合わなかったな……」
 「六花に謝ることが一つ増えましたね。苺のタルト、横取りしてしまいました」
 以前一緒にケーキを食べた時の、ものすごい表情を思い出した。
 「食べ物の事は許さないかもしれないぞ? 何しろ食い意地張ってるからな」
 「ふふ……言い過ぎですよ」
 私は笑いながら席を立つ。
 「そろそろ、失礼しますね。この後の用事もありますし」
 「あれ、引き止めちまったか?」
 「いいえ。それに、恋人同士の語らいを、邪魔するわけにはいきませんし」
 「小夜音に聞かれて、困る話は無いと思うが……」
 「違います。惚気られては堪らない、ということです」
 「……」

 病室を出る直前、声がかかる。
 「……小夜音、大丈夫か?」
 「……はい。もう大丈夫です」
 ありがとうございます、と振り向かずに言って、後ろ手に扉を閉める。
 扉に背を預けながら思う。
 今日は会いたくなかった。だから、隠れるようにして見舞いの時間をずらした。
 医者の判断を恐れているなんて、子供のような今の私を見せたくはなかったのだ。
 だが今は、蔵人さんに会って良かったと思う。
 「大丈夫か」と言ってくれた。その安心感が、私を落ち着かせてくれる。



 時間は午後4時ちょうど。そろそろ、私の病気に対する判断結果が出る頃だろう。
 私の迷い――延命の為に入院するか否か――の元を、本当は理解していた。今まで生きてきた私とは真逆の生き方。ただ、生きる為だけに生きるということ。
 到底、受け入れられるものではなかった。
 生存への意思が無いなら、生きて何かを為すという強い意志が無いなら、私はきっと壊れてしまう。
 依って立つものが、目的がなければ生きていけない。ずっとそうして生きてきたから。他の生き方を知らないから。
 だから、蔵人さんに縋ろうとしたのだろう。蔵人さんに許してもらって、楽になりたかったのだろう。
 でも――。
 「まずは、六花に謝る為に生きなければいけませんね」
 六花に直接謝る為には、生きていなければいけない。
 少し後ろ向きな理由ではある。だが、昨日までの私よりは良いだろう。
 今はまだ、この迷いは完全に晴れないけど。



 ふと、正面を見る。外はまだ雪が降っている。
 そして、窓に映る自分の頭には、赤い帽子。すっかり忘れていた。
 取ろうと伸ばした手を止める。
 なぜだろう。似合わないことが妙に可笑しい。
 笑って生きる為の力になるのなら。
 「こんなものでも、無いよりはましでしょう」
 私は呟くと、医者の待つ部屋へと歩き出した。


目次へ戻る


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

謝意の在処〜六花ルート・小夜音〜 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる