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zoom RSS 妃宮さんの中の人 プロローグ1

<<   作成日時 : 2010/09/06 23:05   >>

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 ネタ的なおとボク2のSS。

 ギャグです。
 怒らないで下さい。
 石を投げないで下さい。

**********

 妃宮さんの中の人
 プロローグ1


 
 妃宮千歳。
 一目会ったその日から、あたしは彼女の魅力にやられてしまった。とは云っても、別に恋愛感情ではないけれど。
 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の三拍子が揃ったパーフェクトなお嬢様。
 その能力とは裏腹に、ちょっと天然の入った性格と、ほんわかとした無邪気な笑顔で周囲を圧倒する可愛い人。
 今年、名門・聖應女学院の三年生に編入し、瞬く間に全校の人気者となった人。
 あたしこと七々原薫子が、彼女に理想の女性像を見てしまったのも仕方のないことだと思わない?
 よりにもよってその理想の人が、あたしの住む女子寮に入寮して、しかも隣人だったりするのですよ。



「えへへっ……好きだよ、薫子ちゃん」

 そう、コレは夢。

「薫子ちゃんはかっこいいよね」

 下着姿の千歳さんがあたしに云い寄ってくるなんて、ありえないこと。

「今日から私のカレになってよ……」

 いやいや、夢だからって何でこんな展開なのさ。『騎士の君』なんて呼ばれててもあたしは女だよ?

「キスしよ……」

 そんなことを考えている間に、千歳さんの唇が迫ってくる。可愛い色のリップを塗った、綺麗な形の唇が――



「うっはああああ!?」

 乙女にあらざる叫び声を上げて、あたしはベッドから跳ね起きた。
 心臓に悪い夢だ。跳ね上がった心臓がタップダンスを踊っている。

「我ながら、どんな夢見てんのよ……」

 はっきり云おう。あたしは美人に弱い。
 自分には無い女らしさというか、憧れというか、とにかく見た目が美人だと気後れしてしまうのだ。
 同じ寮生である神近香織理さんに対してもそう。そもそも同学年なのにさん付けで呼んでしまうのは、そういう気持ちが働いているからだと自分でも理解できる。
 同じ女なのに何を云っているのか、と考える人もいるだろう。
 でも、ホンモノの美人というのは迫力があるのだ。笑顔なんか顕著である。
 千歳さんの笑顔は別の意味で逆らいがたいんだけど。

「薫子ちゃ〜ん、凄い声だったけど、どうかしたの〜?」

 おっと、噂をすればというやつだ。流石に朝っぱらからあんな奇声を上げていれば、心配にもなるだろう。
 あたしは寝起きの姿を手早く直し、気分を落ち着ける為に深呼吸をしてから部屋の扉を開けて、心配そうな顔をしている千歳さんに朝の挨拶をする。

「おはよう、千歳さん。ちょっと夢見が悪かっただけだから心配しないで」
「おはよう、薫子ちゃん。ビックリしたよ?」
「あはは、ゴメン」


 素直に頭を下げると、千歳さんは『てへり』なんて擬音が聞こえてきそうなほどの無邪気な笑みを浮かべた。あたしは思わず先程の夢を思い出して赤面してしまう。
 そう、この笑顔が曲者なのだ。
 美人というのは大抵の場合、綺麗な笑顔を浮かべる。場合によっては相手を威嚇したり馬鹿にしてるようにも見える笑みだ。
 だけど千歳さんの場合、美人のくせに、実に子供っぽい無邪気な笑顔を浮かべるのだ。こう、思わず抱き締めたくなるような。

「もう直ぐ朝ごはんだから、早く着替えて降りてきてね」

 あたしがぼけっと見惚れていると、千歳さんは笑いながら階下へと降りていった。
 ん? もう直ぐ朝ごはん?
 ふと室内に振り向いて、大量に並べてある目覚まし時計を見る。瞬間、カチリと小さな音が聞こえた。

「やっば!!」

 あたしは慌てて時計たちの前に飛ぶと、騒々しく自己主張を始めた彼等の頭を叩き始めた。



「おはよう、薫子。今日は普通に起きられたみたいね?」

 あたしが女子寮の食堂に入ると、開口一番、香織理さんが皮肉げな笑みを浮かべて出迎えた。
 去年の半ばから女子寮に入ってきた香織理さんだけど、あたしがトコトン朝に弱いのは既に知られている。というか、この春から入寮した他のみんなにも知られちゃってるけど。

「む〜、香織理さんの意地悪」
「でもでも、今日の薫子お姉さまは、しっかりと目が覚めているみたいですね?」


 口を尖らせたあたしに対して、「いつもはもっと眠そうですもんね〜」なんて云いながら笑い声を出すのは宮藤陽向ちゃん。女子寮で香織理さんの世話をする新一年生だ。
 聖應女学院では、下級生は上級生のことを『お姉さま』と呼ぶのが一般的だけど、女子寮ではそれとは別に、上級生の世話をする下級生を妹、世話をされる代わりに色々と指導する上級生を姉と呼ぶのが慣わしだ。
 つまり、陽向ちゃんは香織理さんの妹となるんだけど。

「陽向ちゃんさ、この一週間でだいぶ香織理さんの教育が行き届いたみたいだね」

 その、あたしをからかう様な笑みを浮かべるところとか。

「どういう意味ですか〜それ。私は素直で可愛い陽向ちゃんで通ってるのに」
「ほうほう、それはつまり、私は素直でもなければ可愛くもないという訳かな?」


 次の瞬間、香織理さんの手が伸びて陽向ちゃんのほっぺを左右に引っ張った。

「いひゃいいひゃい! きゃおるこおねえひゃま、ヘルプ!」

 ん、まあ、アレはアレで仲が良い証拠なんだろうから、私が手を出す必要は無いだろう。
 良く伸びる陽向ちゃんのほっぺを眺めながら、あたしの席を引く。

「おはようございます、薫子お姉さま」
「ん、おはよう、史ちゃん」


 二年生で、あたしと千歳さんの妹を務めている度會史ちゃんが、腰掛ける瞬間にさり気無く椅子の背を押しながら、あたしに朝の挨拶をした。
 本来は千歳さんの侍女として入寮してきた史ちゃんだけど、下級生の人員不足の為、あたしの妹も引き受けてくれているのだ。
 ちなみに侍女というのは……まあ簡単に云えば主人(この場合は千歳さん)の身の回りの世話をする人のことだ。分かりやすくいえばメイドさん。
 身の回りの世話が本職だけあって、良く気が利くし、なんでもそつなくこなしてしまう。千歳さんとは別の意味でパーフェクトな女の子だろう。今だって、手早く配膳を済ませていく。
 食卓には、あたしの親友である寮監の皆瀬初音や、その妹の栢木優雨ちゃん、勿論千歳さんの姿もある。つまりあたしが一番最後だったわけだ。あたしはもう一度みんなに朝の挨拶をしてから、遅れたことを謝罪する。

「大丈夫です、薫子お姉さま。まだ余裕はありますし」
「でも、お腹を空かせている人も居るようですし、早くお祈りを済ませてしまいましょうか」


 史ちゃんの言葉に続いた初音の言葉に、さっと周囲を見まわす。
 すると、なんと千歳さんが眼をキラキラさせながら料理を見詰めていた。なんというか、もの凄いギャップが……。心なしか、史ちゃんが千歳さんを見る目に諦観が混じってる。

「主よ、今から我々がこの糧をいただくことに感謝させ給え。アーメン」
「アーメン」


 それでもまあ、初音の祈りに合わせてみんなが唱和し、この日の朝食も無事に終わったのでした、まる。



 みんなで仲良く登校中。

「おはようございます、お姉さま方」
「ごきげんよう、お姉さま方」


 あたしと千歳さんが並んで歩いていると、下級生のみんながすかさず挨拶をしてくる。
 新学期の登校初日、クラスメイトから云われたように、あたしと千歳さんが並んでいると王子様とお姫様のように見えるのだろう。
 あたしとしては甚だ不満のある喩えなのだが、まあ、みんながあたしに求めるのが『騎士』であるので仕方のないところだろう。

「みんな、おはよう〜」

 のほほんとした挨拶と笑顔を返す千歳さんを見て、顔を赤らめた下級生たちは早足で駆けて行った。
 最上級生としては、そんな彼女たちにはもっと淑女らしい振る舞いをするよう指導しなきゃいけないんだけど……あの子たちの気持ちも分からなくはないので強く云えない。大体、あたしが云うなって返されるのがオチだし。

「千歳ちゃん、もう聖應には慣れましたか?」

 楽しそうに歩く千歳さんに、初音が声をかける。返事なんて聞くまでもないと思うけど。

「うん。みんな優しくて、楽しくて、とっても嬉しいよ」

 千歳さんは、本当に嬉しそうに笑う。人生楽しんでますって感じ。
 そんな千歳さんを見ていると、この平穏で暖かい空間を守ってあげたいと柄にもなく思ってしまう。これは母性本能ってやつだろうか?
 そんな事をつらつら考えながら校舎の中に入り、クラスメイトの千歳さんと共に教室を目指す。

「今日も一日よろしくね、薫子ちゃん」

 語尾からハートマークが出てそうな言葉と共に、千歳さんがあたしの手をキュッと握ってくる。
 一次接触(直接触れること)を好むらしい千歳さんは、度々こうしてあたしに触れる。そういうのに慣れて居ないあたしは、多分、今もまた顔を赤くしているのだろう。
 危険だ。
 いつか、今朝見た夢のような展開になってしまうんじゃないかってくらい、あたしは千歳さんに翻弄されてる。
 何とかしなくちゃいけない。
 せめて、触られても赤面しないくらいにはならないと、あたしの精神が持たないよ……。



「で、私のところに相談に来た、と」

 お昼休みの学生食堂。あたしは時間になると同時に隣のクラスへとお邪魔して、香織理さんを強引に引っ張ってきた。

「うん。ホント、何とかしないとなって思って……」

 それなりに友人の居るあたしだけど、こと人間関係において相談の出来る相手というと、卒業してしまった奏お姉さまか、香織理さんぐらいだった。親友である初音は絵に描いたようなお嬢様で、この手の話題では一緒になって悩んでしまうことが多いのだ。

「香織理さんは、ほら、女の子の扱いは得意じゃない? 何かヒントでもあれば、助かるんだけど」

 あたしの言葉に、香織理さんは眉を寄せて微妙な顔をする。あたしの云った『女の子の扱いが得意』というのは、性的な意味も含んでいるからだ。
 まあそれ以上に人間関係の機微に優れている人で、寮内では自然と相談役みたいな感じになっているんだけど。

「私にそういうことを聞きにくるってのは、つまり、薫子は千歳さんを『落としたい』のかしら? 去年はあんなに真面目だったのに」
「え? いや、そうじゃなくて」
「私の誘いは断るくせに、新入りの子に目移りして、あまつさえ私に相談に来るなんて……」


 よよよ、なんて泣き真似をする香織理さん。ホント、この他人をからかう癖を何とかしてくれれば、頼りになる人なんだけどなあ。

「あの、周りの人が見てるんでそろそろ泣き真似を止めてくれませんかね……?」
「あら、つまらない」


 あっさりと泣き止んだ香織理さんは、しれっとした顔で口を尖らせる。
 去年、香織理さんが入寮した頃は、この厄介な性格もあって大喧嘩をしたものだけど、結局はそれが縁で仲良くなったんだよなあ。ま、それは兎も角。

「でも正直な話、私の『方法』では、薫子の役にはたたないでしょう?」
「う、やっぱりそうなのかな」


 確かに、香織理さんの冗談のように、あたしは千歳さんと恋仲になりたいとかそういう訳ではなく、あくまでも日常生活で不自由がないように仲良くなりたいのだ。

「結局は慣れよ、慣れ。時間を掛けてゆっくりと、ね」
「ううっ……それはそうなんだけど……」
「薫子の性格上、のんびりしないで一朝一夕に片を付けたいところなんだろうけれど、人間関係ってそんなに簡単にどうにかなるものではないでしょうに」
「確かにその通りだけど。でも、ほら、なんと云いますか……」


 あたしの精神的にはかな〜り危ないのですよ。あんな変な夢見ちゃうわけですし。

「それでも、早く何とかしたいって云うのなら、私との時みたいに胸襟開いて語り合ってみるとか……」

 頭を抱えて唸り始めたあたしを見かねたか、香織理さんが溜め息混じりに呟く。

「いや、それが難しいから問題なんじゃない」

 正直な話、千歳さんは善人という言葉を形にしたような人で、見ているこっちが不安になるくらいのお人よし。そんな人だから、面と向かって話し合うのに照れてしまうのだ。

「じゃあ、物理的に襟を開いてみる?」
「は?」
「裸の付き合い……というのは本来別の意味だけど。千歳さんと一緒にお風呂にでも入ってみれば良いのではないかしらね?」
「な……!?」


 香織理さんがニヤリと笑った。きっとあたしの顔はまた赤くなっているんだろう。

「だから〜、そんなことが出来ないから困ってるんじゃ〜ん……」

 結局、あたしは机に突っ伏して泣き言を漏らすしかないのだった。
 こんな時、奏お姉さまならどうするんだろうなあ。あたしってば、お姉さまが居なくなったら一人で起きることも出来ない駄目な子なんだ……。

「ほら、鬱々しないの、『騎士の君』。貴女の強みは正面からぶつかることでしょう?」
「そんな、人を猪みたいに」


 頭の上から投げかけられる言葉に、べしゃりと潰れたままで返す。

「間違ったことを云っているかしら? 良くも悪くも、薫子はそれしか出来ないでしょう」

 そうなんだよね。そもそも、こうして悩むのがあたしらしくないというか。

「む〜……でもなんか、遠回しに『おバカな子』って云われている気がする」

 自分でも理解していることだけど、それでも憮然として云い返す。だけど、それを聞いた香織理さんは優しく笑って。

「それこそ、間違ったことを云っているかしら?

 どうせおバカですよ〜だ。



 寮の夕食はコテージパイがメインだった。聞きなれない料理名に首を傾げる人も多いだろうが、基本、寮での食事はイギリス料理なのだ。
 もっとも、あたしの友人であるところのケイリ・グランセリウスによると、ここまでしっかり味付けされていればイギリス料理とは別物なんだそうだが。
 件のコテージパイというのは、実はパイというのは名前ばかりでパイ皮は使っておらず、挽肉やら野菜やらを炒めたモノの上にマッシュポテトをパイ皮のように使ってオーブンで焼き上げるもの。
 イギリスでは定番の家庭料理……というか、昔、貧困層でも安易に手に入れられるジャガイモと、クズ野菜やクズ肉なんかを有効利用するために考えられた料理らしい。
 ちなみに同じ製法で羊肉を使う時はシェパーズパイ(羊飼い:シェパードから来ているらしい)と云い、牛肉を使う場合をコテージパイ(コテージは建物のコテージだって)と云うそうな。
 流石は千歳さん、料理のことも良く知っているなあ、と感心しきり。寮母さんと味付けに関して話が出来るだけのことはある。
 まあ、そんな薀蓄を聞いたのは食事の後のお茶の時間だ。食事中にそんな難しいこと云われたって、ねえ?



 夕食後のお茶の時間が終わる(大体夜の八時)と、自由行動になる。
 寮生の意思を尊重するなんて建前的なことは兎も角として、この寮の寮則は非常にザルで、寮生たちは自由とそれに伴う責任を身を持って知ることになるのだ。
 例えば、夜更かししたら朝起きれなくなる、という実に当たり前のこととか。

「ん……美味し」

 陽向ちゃんと一緒にテレビを見ながらおかわりで貰った紅茶に口を付けると、自然と言葉が漏れる。

「ありがとうございます、薫子お姉さま」

 私の呟きを聞き止めた史ちゃんが、軽く会釈した。

「む〜……先輩である史お姉さまにお茶を淹れて貰うのは申し訳ないんですが……ホントに美味しいですねぇ」

 下級生が上級生を世話するのが規則である寮内では、陽向ちゃんが遠慮したくなるのも当然なんだけれど、職業柄、他人の世話をするのが当たり前になっている史ちゃんは、誰の世話も受けようとしないのだ。

「この味に慣れると、色々と厳しいですね〜。史お姉さま、今度お茶の入れ方を教えてください。香織理お姉さまに教えてもらうよりも上達しそうです」

 本来は直接の姉である香織理さんに教えてもらうのが筋なのに、陽向ちゃんはそんなことを云っている。
 まあ、これだけ美味しいお茶を淹れられる人が目の前に居るなら、そちらに教えを請いたくなるのは当たり前だろう。
 あたしの姉である奏お姉さまも紅茶の入れ方に関しては名人芸だったものだが、史ちゃんもそれに負けてはいない。流石は、人に仕えることを本職とする侍女さんと云ったところだ。
 あたしは、これはやはり、相手に誠心誠意お仕えすると云う心構えからくるものなんだろうな、なんて考える。
 そういえば昔、お姉さまがあたしに云ったことがある。『今、目の前に居る貴女の為に。そういう気分に自然となれるのが、この場所』なのだ、と。

「ん……?」

 そう思うと、さっきの陽向ちゃんの言葉の裏もなんとなく分かるような気がする。
 要は、香織理さんの為にこっそりと上達して喜ばせる、みたいな考えなんだろう。軽い言動とは裏腹に、陽向ちゃんはかなり大人な性格をしている。それは香織理さんも認めるところなのだから。

「ふふっ」
「何です、薫子お姉さま。変な笑い方して」
「ん〜、別に。陽向ちゃんは香織理さんのことが好きなんだなあって」
「いやまあ……否定はしませんけど、正面から云われると照れますね」


 あたしが陽向ちゃんに追撃を仕掛けようと口を開きかけた時、不意に食堂のドアが開いた。

「史、まだここに居たんだ。私、そろそろお風呂に入るけれど、史はどうするの?」

 夜着を持った千歳さんだ。相変わらずのフリフリなピンク色。一体何着持ってるんだろうなぁ、アレ。

「勿論、お手伝いします。直ぐに用意してまいりますので、暫くお待ち下さい」

 云うや否や、史ちゃんはささっとお茶の道具を片付けてから姿を消した。まるで忍者みたいだ。

「千歳お姉さま、お風呂上がったら教えてくださいね。私、この番組を見終わってからにしますんで」
「うん。……それ、面白いの?」


 陽向ちゃんの言葉に頷いた千歳さんは、テレビを覗き込んで首を傾げている。千歳さん、バラエティ番組とかにあまり縁が無さそうだもんなぁ。
 ちなみに、画面の中には、遠い異郷のジャングルで奮闘している女性タレントが映っている。

「面白いですよ。番組スタッフの無茶振りに泣く泣く応えるリアクション芸人とか」
「そ、そうなんだ……」


 陽向ちゃんの忌憚無い言に千歳さんが若干引いている。彷徨った目があたしの方を向いた。

「まあ、楽しみ方は人それぞれだから。ちなみにあたしは、可愛い動物が目当てね」

 あたしは苦笑交じりに千歳さんに答えてあげる。陽向ちゃんは稀にああやって毒を吐くから驚くんだよね。

「そっか……ところで、薫子ちゃんはどうするの?」

 安心したような表情で数回頷いた千歳さんは、あたしに主語の抜けた質問をした。

「ん? どうするとは?」
「お風呂だよ、お風呂。一緒に入る?」


 お風呂か。
 昼に香織理さんの云っていたことを思い出したあたしは色々と想像してしまい、顔に血が集まるのを自覚した。

「……駄目?」
「あ、えっと、ど、どうしようかな?」


 あたしは小首を傾げて上目遣いをする千歳さんに戸惑って、思いっきりどもる。くそう、美人なのに可愛いなんて、やっぱり反則だ。

「お待たせしました、千歳さま」
「あ、うん」


 あたしが明確な答えを返せないうちに史ちゃんが準備を済ませて戻ってくると、千歳さんは残念そうな顔をしながら「また今度ね」と囁いて、お風呂場へと歩いていった。

「ん〜、今のはちょっといただけませんねぇ」
「……陽向ちゃん?」


 纏まらない思考のままで椅子に座ったあたしを見ながら、陽向ちゃんが言葉を繋げた。

「薫子お姉さまはスパッと答えるのが常ですからね。ああいう中途半端な返事だと、相手が気にしちゃいますよ?」
「う」


 まあ、それはあたしにも分かる。普通に考えれば特に悩むようなお誘いでもないのだから、ああいう中途半端な態度なら、きっぱりと断っちゃった方が良いのだ。
 まっずいなぁ、あれ、変な勘違いさせちゃうのかもしれない。

「ほらほら、今ならまだ間に合いますから、ササッと追いかけたらどうですか?」

 陽向ちゃんがせっついてくる。
 ええい、これも良い切っ掛けだ。女は度胸、行くぞあたし!

「ゴメン陽向ちゃん、後片付け宜しく。あと……ありがとね」
「どういたしまして〜」


 ひらひらと手を振る陽向ちゃんを背に、あたしは行動を開始した。



 手早く入浴の準備を済ませ、脱衣所に入る。どうやら、二人は既にお風呂に入っているみたいだ。あたしが脱衣所に入ったのに気が付かないようで、なにやら話し声が漏れ聞こえてくる。

「ねえ、史。私、薫子ちゃんに変なことしたのかな?」
「そのようなことは無いと思いますが。どうかなさいましたか?」
「う〜ん……何かね、偶に、お話しているとき、真っ赤になって目を逸らされちゃうの。もしかして、何か怒るようなことをしちゃったのかな……」


 うわあ、あたしの話をしてる。しかも、なんてタイムリーな!

「……ご心配は無用かと」
「そうなの?」
「はい。薫子お姉さまは、多分、照れておられるのだと思います」


 しかも見抜かれてる〜!
 ていうか、千歳さんが気付いてなかったのは態度で分かるけど、史ちゃんにはやっぱりバレバレだったのね。

「照れてるの?」
「恐らく、ですが」


 ぬあぁぁ、こんなの針の筵だ、恥ずかしすぎる!
 こんなタイミングで二人の前に出るなんて無理!

「そっか。嫌われてないなら、もっと仲良くなれるよね」
「はい、大丈夫です」


 あたしが脱衣所の壁に寄りかかりながら身悶えていると、どうやら話が一段落したみたい。
 成り行き的に立ち聞きのようになってしまったけど、仕方ない。素っ裸のまま脱衣所で突っ立ってたら風邪を引いてしまうから、お邪魔させてもらうとしよう。
 お互いに仲良くなりたいと思ってるなら、素直になっちゃえば良い。あたしが赤くなるのは恥ずかしいからなんだってカミングアウトしてしまえば、千歳さんに変な誤解されずに済むんだ。
 あたしは自分の道具を抱え直してお風呂の引き戸を開けようとすると、中から再び千歳さんの声が漏れてきた。

「それにしても、今日で一週間。何事も無くてよかったね」
「そうですね。どうなる事かと気を揉んでおりましたが」
「ちーちゃんも疲れてるよね。偶には体を返して、ゆっくり疲れを取ってもらおうか」


 ちーちゃんって誰? なんて思いながら、あたしは引き戸を開けた。

「すみませ〜ん……やっぱりあたしもお邪魔させてもらいたいんですけど」
「薫子お姉さま!?」


 あたしがお風呂場に踏み込むと、史ちゃんが仰天したような声を上げて振り向く。
 史ちゃんの後にいる千歳さんにも声をかけようとした時、不意に、カメラのフラッシュみたいに強烈な光があたしの目を襲った。

「わっ!? 痛っ!!」

 視力を奪われたあたしは、足を滑らせて風呂場に尻餅をしてしまう。あまりの痛みに涙目になりながらふっと千歳さんの方を見て、あたしは言葉を失った。
 だって……千歳さんが光ってるんだもの。

「あ……あああああ……」

 史ちゃんの視線があたしと千歳さんの間を何度も行き来している。こんなに狼狽する史ちゃんなんて簡単に見れるものじゃないだろうけれど、千歳さんから目を離せないあたしはそれに気が付かなかった。



 ゆっくりと、千歳さんの背中から何かが浮かび上がる。
 それは、10歳ぐらいの小さな女の子の姿で。
 半透明なその女の子と、あたしの視線が交わる。

『あは……ばれちゃった』

 舌を出しながらお茶目に云うその姿は、千歳さんそのものだった。





 こうしたあたしは、妃宮さんの『中の人』と初邂逅を果たしたのだ。




**********
 元ネタは勿論、「姫宮さんの中の人」。
 だって、名前があまりにも似てるから……。
 

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
 元ネタが分かりませんでした……

 こっちではまことにお久しぶりです。お仕事の方はいかがですか?


 しかしさすがに筆がお早い。楽しませていただきましたです。……やっぱ薫子はこうでなくては! 千早君の正体がバレてからこっち、態度をがらりと一変させてしまった彼女が残念至極でしたんで。(笑)
 ところで最後の場面、千歳さんが出て行ってしまったということは千早君は「早くも男バレ」ということになるはずなんですが、そこはスルーですか薫子さん。……流石だ。(大爆)
aki
2010/09/07 00:25
お返事ありがとうございました
一応この話での報告ですのでここでまとめて書きます

では早速ちょっと思い出したので…
「工藤陽向」は原作では「宮藤陽向」です

あとの細かい部分はまた追い追い報告させて頂きます
Leon
2011/11/02 00:59
Leonさん、ご指摘どうもです。
早速直しました。名前は単語登録してあるんですけど、偶に変換ミスするんですよね……。
A-O-TAKE
2011/11/03 15:33
プロローグに関して
・会話文の色がここだけ青、他は緑

その1に関して
・幽霊千歳の会話文がここだけ青、他は赤


改行に関しても報告させて頂こうかと思ったのですが、自分は携帯から見てるので良いのかどうか…
Leon
2011/11/06 08:13
Leonさん、ご指摘どうもです。

会話文の色、修正しました。
文章の改行に関しては、狙って空けている場所とそうでない場所が混ざってますので、長文過ぎて読みにくい! ってところ以外はスルーでお願いします(笑)
A-O-TAKE
2011/11/06 19:36
報告です


・恥かしすぎる!→恥ずかしすぎる!
・千歳さんから目を放せない→千歳さんから目を離せない


まとめて報告出来れば良かったんですが、たまたま読んでみたらまだありまして…
Leon
2011/11/15 18:05
お手数掛けます。
修正終了です。
A-O-TAKE
2011/11/17 14:57
報告です

・あたしが赤くなるのは恥かしいからなんだって→あたしが赤くなるのは恥ずかしいからなんだって

何度もすみません
Leon
2012/01/17 21:19
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