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zoom RSS 妃宮さんの中の人 プロローグ2

<<   作成日時 : 2010/09/12 22:41   >>

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 前回の続きから。



**********

 妃宮さんの中の人
 プロローグ2


 あたしは、どうやらとんでもないものを見てしまったらしい。
 名門・聖應女学院の三年生で、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の三拍子が揃ったパーフェクトなお嬢様。
 転入生でありながら、瞬く間に全校生徒の人気者となった人。
 そんな妃宮千歳さんに、中の人が居たなんて――










 あ……ありのまま、今、起こったことを話すわ!
 千歳さんの体が光ったかと思ったら、背中から10歳ぐらいの女の子が出てきたの!
 な、何を云っているのか分からないと思うけど、あたしにも何が何だか分からなかった……。
 手品だとか立体映像だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。



「薫子お姉さま、とりあえず、前をお隠しになって下さい。……千早さまも」
「はっ!?」


 あたしはあまりの衝撃に、ネタに奔っちゃうほど茫然としていたようだ。
 史ちゃんの言葉を聞いて、尻餅をついたときに取り落としたバスタオルを慌てて引っ掴むと、体を隠すようにして掻き抱く。
 でも、それはちょっと遅かったんだ。
 あたしは、改めて正面に視線を向ける。
 そこに居たのは、どこか達観したような表情をしている史ちゃんと。
 宙に浮いている半透明な女の子(幽霊?)と。
 千歳さんにそっくりの顔をした胸の真っ平らな女の子……いや、自分を誤魔化すのはよそう。
 あたしははっきりと見てしまった。背中から女の子が抜け出た千歳さんは、顔は千歳さんでも体は男の人だったのだ。
 何故それが分かるかって?
 小さい頃に親爺とお風呂に入った時に見た○○○○(自主規制)が、この人にも付いていたんだもの。
 序でに云えば、あたしがソレを見てしまったように、この男の人も尻餅ついていたあたしの姿を余すところなく見てしまっているわけで。

 えーと。
 とりあえず、叫んでいい?

「きゃああああああああああ〜!!」



「どうしたんですか、薫子ちゃん!」

 お風呂場に悲鳴の残響が残る中、真っ先に駆けつけてくれたのは初音だった。持つべきものはやはり親友だ。
 でも、純粋培養のお嬢様な初音に男の裸を見せたりしたら大変なことになっちゃうので、あたしは慌てて立ち上がり、その視線を遮ろうとした。

「ストップ、ストーップ! 初音、今お風呂場に入っちゃ危ない!」
「危ない? 一体どうしたの?」


 初音が首を傾げながら、開きっぱなしの扉から風呂場の中を覗こうとする。

「駄目だってば!」

 あたしは自分が裸であることをすっかり忘れ、初音と揉み合う。そうこうするうちに、叫びを聞いた他の人たちも集まりだす。

「なあに薫子、裸のままで何をしているの」
「薫子……寒くない?」


 寒いよ! てか優雨ちゃんに真顔でそんなことを云われる方が傷付く!

「もう大丈夫です、薫子お姉さま」

 あたしがどんな云い訳しようか迷っていると、背後から史ちゃんの声が聞こえた。
 思わず振り向くと、そこに居たのは史ちゃんと千歳さんの二人だけ。あの男の人は影も形も無い。

「……」

 あたしは何となく気になって、バスタオルに覆われた千歳さんの胸に手を伸ばす。
 もにゅもにゅ。柔らかい。本物だ。あの男の人が変装しているわけじゃないね。

「んんっ……薫子ちゃん、駄目……」
「はっ!?」


 千歳さんの喘ぎ声で我に返る。皆の視線が痛い……。

「で、薫子。一体何を騒いでいたの」
「あ〜、ええと、それは」
「私がお答えします」


 口を開きかけたあたしを遮って、史ちゃんが一歩前に出る。

「実は、薫子お姉さまがお風呂場に足を踏み入れた時、その顔を目掛けてゴキブリが飛びまして」
「へっ?」
「驚いた薫子お姉さまは、濡れていた床に足を滑らせて尻餅をつき、……ええとその、あられもないお姿を私たちに見られたことで動顛なさったらしく」
「それで、叫び声をあげたの? ……なんというか、薫子」


 香織理さんがものすごーく呆れた目であたしを見る。
 ちがう、そうじゃないと云いたいところだけれど、証拠も無いのに「男の人が居た」なんて云える訳もなし。

「……薫子ちゃん、お尻、赤くなってるよ」
「ほうあっ!?」


 初音の言葉に、あたしは慌ててお尻を隠す。けど、今度はお尻隠して胸を隠さずになっちゃうわけで。

「ふえっくしょん!」
「ほら、いつまでも裸で居るから。とりあえずお風呂に入って体を温めてきなさい」
「そうですね。史と千歳さまはもう上がりますので、ゆっくりと温まってください」


 香織理さんの言葉を継いで、史ちゃんが千歳さんを背中に庇うようにしながら云う。

「え、でも……」

 あたしは、まだ入って直ぐじゃないの、と云おうとしたのだけれど。

「ゆ・っ・く・り・温まってください」

 無表情で迫られた。怖っ!
 むう……仕方ない、追及は後回しにしよう。





「絶対、見間違いなんかじゃないよね……」

 あたしはベッドの上でうつ伏せになりながら(お尻が痛いので)、先程の光景を思い出す。
 裸の千歳さんが光ったかと思うと、その背中から10歳ぐらいの小さな女の子が出てきて、千歳さんが男の人になってしまった、と。
 冷静になって言葉にしてみると、荒唐無稽だと云える話だ。漫画や小説みたいに、千歳さんは実は男で、女へと変身するとでも云うのだろうか。

「でもなぁ〜」

 はっきり見ちゃったしなぁ、○○○○(自主規制)。あんな強烈な物を見間違えるはずが無い。

「う〜ん……」

 なんとも情けない理由だけど、赤くなっちゃったお尻の痛みが夢じゃないってことを主張している。

「やっぱり、直接聞くしかないよね。うん」

 あたしは部屋の隅に立てかけてある竹刀を手にする。とりあえず、これさえあれば同年代の人間には簡単に負けないという自負がある。剣道三段というのは、あたしが自慢できる数少ない特技なのだ。

「よしっ!」

 握り拳に気合を入れて部屋を出る。目指すは隣室、千歳さんの部屋だ。

「たのもぉーぅ!」

 道場破りよろしく声を上げる。

「はぁ〜い、開いてますよ〜」

 ……気が抜けるなぁ。



「いらっしゃい、薫子ちゃん。……なんで竹刀なんか持ってるの?」
「ああコレ、護身用だから気にしないで」
「……? まあ、とりあえず座って? 史はお部屋に帰っちゃったから、私のお茶になっちゃうけど我慢してね」


 あたしの得物に目を丸くした千歳さんだけど、深く考えずにあたしに椅子を勧めてからお茶の用意を始めた。でも、座っちゃうといざという時に直ぐ動けなくなるんだよね。

「あ〜、千歳さん、お構いなく。直ぐ済む話だから」
「そうなの?」


 手を止めてあたしを見る千歳さんに向けて、あたしは一歩詰め寄った。

「千歳さん。あたしたち、友だちだよね」
「うん、そうだよ」
「ならさ、正直に話して欲しいんだ……お風呂場でのこと」
「え゛……」


 うわ分かり易っ。思いっきり顔色が変わったじゃん。
 千歳さんと会ってからの一週間で分かったけど、正直というか善性というか、とにかく嘘が吐けない人だよね。

「えっと、何のことか分からないな〜?」
「……千歳さんさ、性格的に向いてないんだから、嘘吐くの止めようよ。ねっ?」


 何というか、見ているこっちが居たたまれなくなるくらい挙動不審なんですけど。子供だって、もうちょっと上手く誤魔化すはずだよ。

「云いにくいならさ、あたしから云おうか」

 涙目でふるふるしてる千歳さんもそれはそれで可愛くて、あたしの中の保護欲とかそういうのが首をもたげるけれど。云わなきゃ話が進まないもんね。

「あたし、はっきり見ちゃったんだよね。千歳さんの体が光って、その背中から『中の人が』出て――」

「『中の人』など居ないっ!」

 挙動不審から一転、キリッとした顔で叫ぶ千歳さん。

「ちょ、千歳さん性格変わってるんだけど」
「はっ!? いや、なにかこう云わないといけないような気がして」


 あ、元に戻った。

「……なんだか良く分からないけど。あれがどういうことなのか説明して欲しいんだ」
「その、そう、あれはゆ――」
「云っておくけど夢じゃないから。お尻痛いし」
「あ、ええと……」


 今が責め時とばかり、あたしは更に詰め寄る。勢いに乗らないと、千歳さんと間近で向かい合ってることが気になっちゃうからね。

「ほら、正直に話して」

 目だ。相手の目だけを見るんだ。

「じ〜」
「あうっ」
「じ〜」
「へう……」
「じい〜」


 目を逸らそうとする千歳さんの先に回りこんで、正面から見つめ続ける。

「ふええっ……史〜! 助けて〜!」

 ふっ。この場に居ない人間に助けを求めたって――

「話は聞かせていただきました」
「ほわっ!? い、いつの間に!?」


 耳元に、いきなり史ちゃんの声が飛び込んでくる。慌てて背後に振り向くと、いつも通り無表情の史ちゃんが居た。
 どうやって物音も立てずに部屋に入ってきたんだろう。やっぱり忍者なんじゃないだろうか、この子は。

「薫子お姉さま、いくらなんでも『たのもぉーぅ』では、何かあると自分で云っているようなものです。それに、夜なのですからお静かにお願いします」
「う……スイマセン」


 って、なんであたしが怒られなきゃいけないのさっ。いや、確かに夜中に騒いだのは悪いけど。

「史〜、助かったよ〜」
「千歳さま……」


 史ちゃんは泣きべそを掻いている千歳さんに、呆れたような冷めた声を出す。侍女というよりは教育係みたいに見える。
 史ちゃんは一度溜め息を吐いてから、千歳さんの涙をハンカチで拭った。

「事、こうなっては仕方がありません。史は、薫子お姉さまに真実をお話しするべきだと思います」
「え、でも」
「信じる信じないは薫子お姉さま次第ですが、兎も角、お話しないことには納得してくれそうもありませんので」
「……それで、相談は終わった?」


 あたしは頃合を見計らって声をかける。

「はい。ところで、その手の物は」

 史ちゃんはあたしの方へと向き直ってから、ちらとあたしの右手に握られている竹刀を見た。

「護身用。あと、嘘吐いたら叩くから」
「過激です、薫子お姉さま。泣きべそを掻いている千歳さまを叩くと?」


 いや〜、いくらなんでもそれは無理でしょ。あと史ちゃん、そんなこと口に出して云っちゃ駄目。千歳さんビクってしたよ。

「ま、冗談は兎も角として、ちゃんと話してくれるんでしょ?」
「はい。少し長くなりますので、とりあえずお掛け下さい。お茶を入れる用意も出来ていることですし」
「む……」


 仕方が無い、か。まあ、あの男の人が部屋に居る様子は無いし、竹刀を振るようなことにもならないだろう。

「ああ、忘れていました。薫子お姉さま、これを」
「ん? なにコレ?」


 ちょっと考え込んでいる間に、史ちゃんがあたしにクッションを手渡した。真ん中に穴が開いてる。通販CM等で見たことのある円座クッションだ。

「いえ、お尻が痛いのではないかと」

 ……うん、まあ、ありがたく使うけどね。なんでこの部屋にこんな物が有るのか凄く気になるけど。コレ、痔の人が使うヤツだよね……?



「さて、何からお話しするべきでしょうか」

 お茶を飲んで一息吐いてから、史ちゃんが話を切り出す。
 そう云われても、事前知識が無いあたしとしては、最初っから説明してもらわないといけないんだよね。

「とりあえず、あの女の子のことかなあ。半透明で宙に浮いてたし」

 あんまり考えたくないけど、アレって幽霊だよね?

「なるほど。それではお話ししましょう」

 ゴクリ、とあたしのノドが鳴る。

「実はアレは、お風呂場の湯気に投影した立体映像で――」
「そういうボケはいいから」
「――実はアレは、透明なフィルムに描いた絵で――」
「マジで叩くよ?」
「――仕方がありません。やはり、直接見ていただくことにしましょう」


 史ちゃんは悩ましそうに眉を寄せ、ちらりと千歳さんの方を見る。

「うん、分かった。それじゃいくよ〜」

 千歳さんは両の拳を胸の前に持ってくると、力を込めるようにぎゅっと握る。
 次の瞬間、千歳さんの体が淡く光った。

 事実は小説より奇なり、という言葉がある。あたしの目の前の光景は、正しくそれだ。
 少しばかり鋭さを増した表情の千歳さんの上に、10歳ぐらいの半透明の女の子が浮いている。
 その女の子は千歳さんの頭の上に上体を乗せると、あたしに向かって手を振った。

『やっほ〜、薫子ちゃん。私が見える〜?』
「……ええと。要するに、『貴女』が千歳さんなのね?」
『うん』

 あたしと千歳さんが会話しているのを見て、史ちゃんはふっと息を漏らした。

「どうやら、薫子お姉さまにも千歳さまが見えるようですね。見えなかったら、色々と説明するのが大変なところでした」
『普通、私は幽霊だ〜なんて云っても信じてくれないしね〜』

 いや、そういう問題なのかな、コレ。
 で、千歳さんを頭に乗っけているこの人の説明は?

「そうですね、とりあえず自己紹介を。僕の名前は妃宮――いえ、御門千早と云います。千歳さんの、双子の弟です」

 あ〜……やっぱり、男の人なのね。千歳さんと瓜二つだから、男だなんて云われても信じられないけど。

「色々と込み入った事情なので、少し話が長くなると思いますが――」

 そう前置きして彼が語ったのは、荒唐無稽なお話だった。
 事実は小説より奇なり。そして、漫画よりも滑稽なのだ。



 千歳さんは生まれつき病弱で、8年ほど前に亡くなったこと。
 現世に未練があった為に天に昇ることができず、幽霊になってしまったこと。
 泣き暮らしているお母さんや史ちゃんを見ていて何とかしたいと考えていたら、千早さんに乗り移る(取り憑く?)ことが出来るようになったということ。
 それを期に、千歳さんと親しかった何人かの人たちは、幽霊の千歳さんを見ることが出来るようになったということ。

「奥様は、千歳さまが元気になったと大層喜ばれましたが、勿論それは自然な状況では有りません」

 そりゃそうだろう。だって幽霊だし。

「特に、世間体を大事になさる旦那様は、幽霊などという存在を認めようとはせずに、八方手を尽くして千歳さまを成仏させようとなさいました」

 史ちゃんが、痛ましそうな目で千歳さんを見る。
 早くして死んじゃっただけでなく、偶然とはいえ、幽霊として戻ってきたら親から追い払われるなんて……あたしなんかじゃ、その気持ちは分からないけれど。

「昨年、政財界で名前の知られている、優れた霊能者の方が千歳さまを見にいらっしゃったのですが……」
「何か、酷いことを云われたの?」

『ええとね……私、今のままだと、悪い幽霊になっちゃうかもしれないんだって』

 あたしの質問に答えた千歳さんは、仰天するようなことをけろりと云った。

『それどころか、早く未練を無くして成仏しないと、生まれ変わることが出来なくなるかもしれないって。だから、どうしたら良いか色々と考えたの』
「奥様や千早さまと相談の末、こうして聖應女学院に編入することに決めたのです」

 ……ちょっと待った。何か、いきなり話が飛躍したよ?
 只でさえ色々と混乱してるんだから、もう少し分かりやすく説明してよ。

「姉さん――千歳さんは、生まれた時から病弱で、学校には一度も通ったことが無かったんです。それに、友だちと呼べる人間も誰も居なくて。だから……」
『この一年だけでいいから、ちーちゃんに体を借りて、学校に通わせてもらうことにしたの。友だちを沢山作って、笑って卒業したいなって』

 ……そうなんだ。

「幸いにして、僕の方も問題は無かったので、協力することにしたんです」
「えっ……でも、千早さんて千歳さんと双子なんでしょう? 学校は?」


 もしかして年齢詐称? 実は19歳だとか?

「僕は高卒認定資格を持っていますし、来年は父の仕事である外交官を継ぐために海外に留学するので、云い方は悪いですが、後腐れが無いので」

 あたしが疑問符を浮かべているのが分かったのだろう。千早さんは少々複雑な顔をしながら説明してくれた。
 ……表情を見る限り、千早さんの方も色々と問題があるみたい。

 それにしても、友だちを作って、学校を卒業したい、か。千歳さん、そんな当たり前のことも出来なかったんだね。だから、毎日あんなに嬉しそうにしてたんだ……。

『それでね、薫子ちゃん。その……』
「あ〜、うん、分かってる。内緒にして欲しいって云うんでしょ? ここまで聞いて、嫌だなんて云わないよ」

 千歳さんに笑いかける自分の声が、ちょっと鼻にかかってる。あ〜、あたし、こういう人情話に弱いんだよね。

『ホント!? ありがとう、薫子ちゃん!』

 千歳さんが嬉しそうに千早さんの頭上から(文字通り)飛び上がると、あたし目掛けて一直線に向かってきて――

「わっ!?」

 ――あたしの体をすり抜けていった。えっと、受け止めるべく伸ばしたこの手をどうすれば?

『ごめ〜ん。私に触れるのって、ちーちゃんだけなんだよね』

 てへへ、と頭を掻きながら、千歳さんがあたしの目の前に回り込んでくる。
 なんというか、今の千歳さんの容姿だとその行動が良く似合っている。いつもの無邪気な行動の原因って、千歳さんの行動パターンが10歳のそれと変わらないからなのかな。

「そういえば、もうひとつ確認なんだけど」

 あたしは、なるべくなら忘れておきたかったことを口にする。

「千早さんさ……その、さっき、見たよね?」
「えっ?」
「だから、その、お風呂場で」
「あ、ああ、えっとですね」


 半眼で睨むあたしが怖かったのか、千早さんはしどろもどろになっている。

「大丈夫です、薫子お姉さま」
「史ちゃん?」


 何がだろう。湯気で良く見えなかったとか云うの?

「千早さまは、幼い頃から千歳さまに体を貸しておられましたので、女性の裸などは見慣れておりますから」
「ちょ、ちょっと史! そんなこと云っちゃ……」


 千早さんがぎょっとして、手をわたわたと振る。

「どういうこと?」
『それは、私が説明するよ』
「千歳さん、駄目だって!」
『ええとね、私がちーちゃんに「入って」いても、実際に見たり聞いたり触ったりするのは、ちーちゃんの体なの。だから、私が見たり聞いたり触ったりしたものは、ちーちゃんの脳が記憶しているから、ちゃんと分かるんだよ』

 ちょっと待った。それって、つまり。
 一緒に更衣室で着替えたり、一緒にお風呂に入ったり、そういうのも全部分かってるって事!?

「……」

 あたしは真っ赤になったのを自覚しながら、無言で取り落としていた竹刀を引っ掴み、

「ちょ、待っ……」
「この変態がー!!」


 真っ青になっている変態の顔に、思い切り竹刀をぶん投げた。

「へぶっ」
「もう最っ低!!」


 あたしは大ダッシュで千歳さんの部屋を飛び出ると自分の部屋へ戻り、ベッドの中へうつ伏せに飛び込む。
 ああ……なんてこった。
 あたしってば、千歳さん相手に女同士のスキンシップであんな事やこんな事とかしてるじゃん!
 千歳さんも、香織理さんと一緒になってあたしを弄ったりしてたじゃん!
 そんなこんなを、全部も全部あの男に知られているなんて……恥ずかしすぎる……。

『薫子ちゃ〜ん』
「ふへっ?」

 足をばたばたさせていると、千歳さんの顔が壁をすり抜けてきた。
 顔の前に人差し指を立てて、一言。

『竹刀は投げる物じゃないんだよ?』
「そ……ですか……」

 あたしは力尽き果てた。





 悶々とした一夜が明けて。

「おはよ〜……」
「おはよう、薫子。……今日も随分と眠そうね?」


 食堂で出迎えた香織理さんが、「またなの?」と云わんばかりの顔をする。

「ちょっと寝付きが悪くて……」
「薫子ちゃん、おはよう!」
「あ、ああ、うん、おはよう千歳さん」


 いつでも元気な千歳さんの勢いに押され、あたしもまた笑顔になる。
 なんだかんだいって、やっぱり千歳さんはムードメーカーだよね。嫌味の無い綺麗な笑顔は、他人も元気に出来るんだ。
 ……でも、ホントの千歳さんは幽霊で、この人は実は男なんだよなあ。
 昨夜はずっと、今まで千歳さんにしたアレコレのことを、女装した男性を相手にしていたと仮定して思い起こし、ず〜っと身悶えていた。
 ホラ、女同士のちょっとしたスキンシップってあるじゃない?
 あたしも含めて、女っていうのは結構お互いの体を触ったりするものなのだ。勿論、それは相手が女だからなんだけど。
 だっていうのに、男……なんて……。

「あら? また元気が無くなったわね」

 DA・ME・DA!!
 一度、男だと分かっちゃうと、今が千歳さんそのもの(女の体)だって分かってても、女装した男の人にしか見えない!
 何であの人、男の癖にあんなに千歳さんそっくりなのさ!

「薫子お姉さま、頭を抱え始めましたよ?」
「……春だものね」
「……薫子、怖い」
「と、とりあえず、お祈りを済ませてしまいましょうか。コホン……主よ、今から我々がこの糧をいただくことに感謝させ給え。アーメン」
「アーメン」


 それでもまあ、いつもの通り初音の祈りに合わせてあたしも唱和し、この日の朝食も無事に終わったのでした、まる。



 みんなで仲良く登校中。

「おはようございます、お姉さま方」
「ごきげんよう、お姉さま方」
「うん、みんなおはよう〜」


 今日も今日とて、下級生のみんなは憧れの眼差しで千歳さんに挨拶していく。とはいえ、あたしは複雑だ。
 世界の真実を知るっていうのは、こんなにも辛いことなんだね……。

「いえ、それは流石に大げさではないでしょうか」

 千歳さんから数歩遅れて歩くあたしに、ススっと近寄ってきて囁く史ちゃん。

「いや、だってさ。男だよ? 男なんだよ?」
「千歳さまは立派な淑女です」
「ホントに?」
「……いえ、まあ、基本的な考え方は子供のそれと変わらないので、多々問題は有りますが」


 目を逸らしながら云わないの。

「史ちゃんって、結構千歳さんに対して辛辣だよね?」
「侍女ですから」


 それ、関係あるの?

「そのような事より、薫子お姉さまに元気が無いと、千歳さまが心配しておられます。背を丸めずに、もっとキビキビとお動き下さい」
「……」


 何を云っても無駄そうなので、あたしは朝食で得た元気を振り絞りながら足を速める。
 千歳さんの隣に並ぶと、さっきまで笑顔だったその表情がふにゃっと萎れた。

「薫子ちゃん、大丈夫? やっぱり、昨日の事で……」

 うっ……コレは……!

「ああ、うん、気にしないで! 大丈夫、大丈夫だから」
「ホントに?」
「ホントホント!」


 あたしより低い身長を更に屈めながらの涙目&上目遣い攻撃とは!
 大丈夫、以外の返事などあるだろうか! いや、ない!(反語)

「良かった。今日も一日宜しくね、薫子ちゃん!」

 嬉しそうにあたしの腕を抱え込んで、ニッコリと笑う千歳さん。
 腕に伝わる柔らかな胸の感触に、またしても、自分の顔が赤くなっているのを感じる。
 嗚呼、あたしは駄目な女だ……。きっとこのまま、色々なトラブルに巻き込まれていくんだ……。

「あは、あはは……」

 もう笑うしかないよね。

「こうして、薫子お姉さまはあっさりと丸め込まれるのでした」

 だまらっしゃい、そこの侍女。



「こんなことで、この先上手くやっていけるのでしょうか……」

 他人事みたいに云うなー!!



**********

 殆ど丸投げ状態のプロローグ。
 果たして続きを書くことができるのだろうか。

 この話の役割。

 千歳=天然さん
 薫子=巻き込まれさん
 史=万能さん

 千早=変態認定された人(笑)

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
・ベッドの上で仰向けに→ベッドの上でうつ伏せに(お尻が痛いならお尻は上では?)
・友だちだよね→友達だよね
・嘘つくの止めようよ→嘘吐くの止めようよ
・お話しない→お話ししない
・それではお話しましょう→それではお話ししましょう
・生まれ変わることが出来なくなるかもしれないって、って。→生まれ変わることが出来なくなるかもしれないって。
・友だちを沢山作って→友達を沢山作って

勘違いもあるかもしれませんが、あれ??って思った所を報告しました
Leon
2011/11/06 08:16
Leonさん、ご指摘有難うございます。
文章修正と会話文の色、修正しました。

「友だち」に関しては、「ともだち」と書くと読みにくい場所があるということ、逆に「友達」と書くと文章が硬いような気がして、あえてそのままとしておきます。

A-O-TAKE
2011/11/06 19:40
再び報告です


・恥かしすぎる……→恥ずかしすぎる……


改めて読むと…千早の第一印象最悪ですね
Leon
2011/11/15 22:45
再び、修正済みです。
A-O-TAKE
2011/11/17 14:56
妃宮さんの中の人 プロローグ2 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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