A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 1-1

<<   作成日時 : 2010/09/20 23:49   >>

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 続いてしまった……

 おとボク2のSS。
 言ってなかったですが、これは所謂「再構成モノ」とよばれるSSです。
 千早の活躍が見たい人は、別の話を見つけるか、ご自分で書いてくださいませ。


**********



 名門・聖應女学院の三年生で、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の三拍子が揃ったパーフェクトなお嬢様。
 転入生でありながら、瞬く間に全校生徒の人気者となった人。
 その人の名前は妃宮千歳。
 あたしの名は七々原薫子。
 どこにでも居るような二人の女の子は、ごく普通に出会い、ごく普通に友だちとなりました。
 でも、ただひとつ違っていたのは……実は千歳さんは、幽霊だったのです!



 第一話 レッドキャップにご用心?



「ところでさ、千歳さん」
「な〜に〜?」
「成仏するっていってもさ、具体的にはどうするの?」


 夜のお茶の時間。
 あたしは千歳さんの部屋で史ちゃんの淹れてくれた紅茶を堪能しながら、衝撃の事実を聞いて以来ずっと気になっていたことを聞いた。

「基本的には、千歳さまの未練が無くなれば良いのですが……」
 史ちゃんが小首を傾げながら云う。未練が無くなる――つまり、千歳さんが満足すれば良いわけだけど。
「確か、友だちを沢山作って卒業する、だったよね?」
「うん」


 卒業の方は多分問題無いだろう。千歳さんの成績は良いし、特に問題を起こすような性格でもない。問題があるとすれば、『外の人』が実は男だってばれた時だろうけど……さすがにそれは、今から心配しても仕方が無いだろう。

「友だちを沢山か。例えばどれくらいなのかな?」
「確かに、具体的な数を決めておけば、それを達成した時に満足感が得られます。目標を定めるのは良いことかと」


 確かに、なんとなくで友だちを作るより、明確な目標を持っていた方が楽だろう。達成したことで満足して、成仏しやすくなるかもしれない。

「う〜ん……でもなぁ、特にそういうの考えてなかったからな〜」

 紅茶を勉強机に置いた千歳さんは、お行儀悪く椅子を回転させながら考え込む。
 千歳さんは、あたしと一緒に居る時に、こういう子供っぽいところも多々見せるようになってきた。気を許されている、ということなんだろうな。

「ん〜……そうだ、100人にしよう!」

 ぴたり、とあたしに向き合うようにして止まった千歳さんは、にぱっと笑ってそう云った。

「100人ですか。それは、何故?」
「史は聞いたこと無い? ほら、『ともだち100人できるかな』って」


 あ〜、その歌聞いた事があるなぁ。一年生になったら、だっけ?
 微妙に具体的な数字なのがなんとも云えない。確か、今年度の聖應の生徒って、750人ぐらいっだったっけ。

「う〜ん……でも、聖應では、下級生が上級生と友だちになるってあんまり無いんだよね」

 『妹』『姉』を慕うことは良くあるけれど、友だち付き合いをするのはあまり見かけない。聖應はお嬢様学校で、初音みたいに幼等部から通っている生徒も多いので、上下関係は結構煩かったりするのだ。あたしみたいな中途編入組は例外だけど。

「そうなの? それじゃあ、取りあえずは三年生からだね」

 千歳さんは何でもないことのように云うけれど、それも結構難しいんだよね。
 何しろ千歳さんはもう有名人になっていて、奥ゆかしいお嬢様たちは声を掛けるのを憚ってしまうのだから。
 でもまあ、この場合の友だちというのは千歳さんの捉え方次第なので、どうとでもなるんじゃないかなあ。
 ぶっちゃけて云うと、相手が友だちと思ってなくても、こっちが友だちだと思ってれば良いわけで……いや、それもあんまり良くないんだけどね。

「あ、でもでも。一番のお友だちは勿論薫子ちゃんだからね!」
「あはは、それはどうも。ま、一番だと思ってくれるのは嬉しいかな」

 あははうふふ、なんて向かい合いながら笑う様は、普通の女の子してるなあ、なんて思ってるんだけど。
 でも、この綺麗な顔の持ち主が本当は男の子だって知ってると、微妙な気分になる。
 だってあたしは、同年代の男の子に笑いかけられた経験なんか無いわけで。
 そして、千歳さんの双子の弟――千早さんは、見ての通りの美男子(女顔だけど)な訳で。

「うう……」
「薫子ちゃん?」
「あ、いや、何でもないよ」


 真正面から笑いかけられると、どうしても顔が赤くなる。これは仕方の無いことだよね?
 だって本当は男なんだから、あたしは決して香織理さんみたいな趣味は無いんだから。

「……惚れましたか?」
「違う!」
「???」


 この笑顔で正面から話しかけたら、大抵の女の子は友だちになってくれるんじゃないかなあ、なんて。
 あたしはそんな風に考えていたのですよ。





 実は、あたしには義理の兄が居る。
 十歳ほど年上の義理の兄、龍造寺順一。
 もっとも、義理とは云っても、養子になっているとかそういう訳じゃない。
 母親が亡くなっていて、父親は仕事で忙しい。そんな状態で、家族同然に生活していたのが順一さんだった。必然的に一緒に居る時間は長くなり、兄弟のようになっていったのだ。
 尤も、それが遠因となって、あたしは父親の仕事が嫌いになったのだけれど――それはまた別の機会にしよう。
 兎も角、兄同然の順一さんは、今はあたしのボディガードのようなことを生業にしている。
 そんな順一さんから連絡が有ったのは、千歳さんの『友だち百人計画』が始まってから暫くしたある日の晩。四月の終わり頃の事だった。

 学校の脇にある公立の公園は結構な敷地があって、夜に見ると薄暗い。人影が殆ど無いのも当然だろう。
 あたしとしても公園の中で待ち合わせるのは嫌だったので、必然的に公園の入り口で順一さんと待ち合わせることになった。

「で、何の用なの? あたし、今日は体育があって疲れてるんだけど……」

 普段はこんなに横柄な態度は取らないんだけど、云った通り、あたしは結構疲れていた。
 運動能力には自信があったんだけど、千歳さんはあたしのそれを上回っている。勉強では千歳さんに敵わないあたしは、体育ぐらいは勝ちたいと思って、つい張り合ってしまうのだ。
 後で聞いた話によると、そもそもの体が男である千早さんの体なので、基礎能力からして優れているらしい。
 チートだ! なんて思わず云ってしまったのはご愛嬌。
 それは兎も角。

「ま、こんな時間に呼び出したのは悪かったと思ってるけどよ。勘弁してくれ」

 こんな時間とは云うものの、夜の九時位ならば、あたしぐらいの年齢ならば起きていて当然の時間だ。いや、ウチの寮にも例外は居るけど。

「……先に云っておくけど、親爺とのことについては聞かないからね」

 思わず口にしたのは、釘を刺す為の言葉。
 順一さんは、あたしと親爺の仲が拗れたのは自分のせいだと考えているから、顔を合わせるたびに色々と世話を焼こうとするのだ。
 そんなの分かってる、とばかりに肩を竦めた順一さんだけど。やっぱり、何か云いたそうだった。

「そっちについてはまた今度にするさ。今日は親爺の仕事の話だ」
「……それ、あたしに関係あるの?」


 親爺の仕事――つまりは高利貸し。今はそういう云い方をしないが、金貸しである事に変わりは無い。
「『取引先』の一つがどうもキナ臭くなったんだが……実は、その取引先の娘さんが聖應に通ってる」
「……!? そっか。そういうことも、ある、かもね」


 迂闊、と云えばいいのかな?
 聖應はお嬢様学校で、そこに居る人たちは良い家に生まれた人たちで、だから親爺の仕事と係わり合いになるような、そんな人は居ないと思ってた。

「ま、そうだな。金を借りるヤツはどこにだって居るってことだ。んで、ちょっとばかりその娘さんに気を付けて欲しい」
「ん……そんなに、危ないの?」
「ああ。資産は差し押さえ、会社は閉めて田舎に引っ込むらしい」


 順一さんの言葉に軽く息を吐く。
 個人の家で金を借りたなら『夜逃げ』なんていう物騒な選択肢も有ったりするだろうが、会社と会社――親爺の会社は、親会社である銀行から紹介された相手に金を貸す事も多い――の取引ならば、ジタバタしたって始まらない。

「分かった。とりあえず、暴力沙汰にならないように上手く立ち回れば良いのね?」
「育ちの良いお嬢さんっていうのは、突拍子の無いことをする場合がある。だから――」
「もう良いよ、分かったから」


 順一さんの言葉を途中で遮る。
 その場に、なんとも云えない空気が広がった。
 あたしは何も云わず、順一さんも何も云わない。お互いの長い付き合いで、ある程度の時間が無いとあたしが落ち着けないのを知っているからだ。
 だけど。

「――誰か居るのか!?」
「ひゃわっ!?」


 その沈黙を破ったのは、ある意味で納得できる人物だった。

「……千歳さん?」

 べしゃり、と千歳さんの持つビニール袋が地に落ちた。



「え〜っと……もしかして、密会の途中?」
「違うよ!」


 呆然としながらの千歳さんの言葉に、間髪入れずに返答する。

「……お嬢、どちらさんで?」

 肩透かしを喰らったのか、順一さんが顎で指しながら問いかけてくる。

「ああ、うん。この人は妃宮千歳さん。あたしのクラスメイトで寮の隣人。千歳さん、こっちはあたしの義理の兄で、龍造寺順一さん」

 あたしはさっとお互いを紹介する。

「そ、そっか……私、てっきり、エッチな事とか――」
「だから違うっての!」


 なんでそっちの方向に持っていくのさ!
 ――と考えて、場所と時間からすれば千歳さんの誤解も仕方の無い事だと気が付いた。

「お嬢、俺はそろそろ――」

 えっ!? こんな状態であたしを置いていくの?

「あ、待って!」

 こっそりと後退しようとした順一さんを止めたのは、ビニール袋を拾った千歳さん。
 わたわたとなにやら手を振り回してから、徐にビニール袋の中に手を突っ込んで。

「あの〜……アイスとか、食べません?」
「「……」」


 なんとも云いようが無く、あたしと順一さんは顔を見合わせたのだった。

「――お嬢。なんで俺たちは、こんなところでアイス食ってんだろうな?」
「――あたしが聞きたいよ」


 公園の入り口にある車止めに腰掛けて、あたしと順一さん、そして千歳さんはアイスを食べている。
 ハーゲンダッツのクリスピーサンドは、ちゃんとした場所で食べるなら、至福の時を過ごさせてくれるだろう。
 だがしかし、四月終わりの夜の風の中、道路を眺めながら食べるのでは台無しだ。
 しかも。

「……」

 千歳さんが、監視するかのような目であたしと順一さんを眺めている。居心地が悪いったらありゃしない。
 どうしてこういう状況なのか、あたしが知恵を絞ったって分かるわけがない。
 アイスの最後の一欠を口の中に押し込んでから、素直に千歳さんに聞いてみた。

「え〜っと、千歳さん。これは一体どういう状況なんでしょうか」

 ストレートに聞くのかよ、と順一さんが零すのが聞こえた。

「え? 馴れ初めとか聞かせてくれるんじゃないの?」

 きょとん、とした顔で、当たり前のように問う千歳さん。

「馴れ初めって……さっきも云ったけど、順一さんは義理の兄みたいな人で――」
「義理、なんでしょ? だから、どういう出会い方をしたのかな〜って」
「……」


 なんでこんな事を聞きたがるのか分からないけれど、あたしにも云い難いことはある。
 順一さんは親爺から金を借りていた家の子で、借金苦で無理心中したその一家の唯一の生き残りなのだ。
 簡単に話せるような事じゃないし、人の良さと純粋さを混ぜて作られたような千歳さんに、社会の裏側とでも云えるようなドロドロとした話を聞かせるのも嫌だ。
 だから、あたしとしては、こう口にするしかない。

「ゴメン、千歳さん。この話はとっても大事なことだから、簡単に話せないんだ」

 果たして、千歳さんはちょっと驚いたような顔をした。
 でも、あたしが申し訳無さそうな顔をしているのに気が付いたのだろう。淡い笑みと共に首を振る。

「んん、それじゃ仕方が無いよね。私としては、カッコイイ男の人と知り合う秘訣になるかな〜なんて思ったんだけど」

 ええ!? そんな理由!? て云うか。

「……格好良いってさ、順一さん」
「……そいつぁどうも」


 見慣れたあたしとしては、柄が悪い、としか云いようがないんだけどな。ま、人の事は云えないけどさ。

「ああ、なんだ……妃宮さん、だったか」
「は〜い、そうですよ」


 すちゃっと手を上げる千歳さん。

「ま、俺みたいなのと一緒に居るが、お嬢は良い女だからよ。宜しく付き合ってやってくれ」

 ……ビックリ。順一さんがこんなこと云うの初めて聞いた。

「問題無し! 薫子ちゃんとは友だちだもん!」
「そうかい。――さてお嬢。いい時間なんで、俺は帰る。詳しい事はこの中に書いてあるからよ」


 順一さんは茶封筒をあたしに手渡すと、踵を返して駅へと歩いていった。
 これは多分、さっきの話の事だろう。千歳さんが興味深そうに見てるけど、これの中身の事も簡単に云えるような話じゃないよね。



 このときのあたしは、多分、千歳さんを侮っていたんだろう。
 普段の言動――良く云えば無邪気、悪く云えば子供っぽい――から考えると、人同士の醜い争いごとなんかとは無縁の存在なんだって、なんとなく思っていたのだ。
 実際には、幼くして死んでしまった千歳さんにだって、いや、あるいはそうだからこそ、大人の汚さなんてものを知っているし。
 勿論、幽霊であろうと、今ここに存在している千歳さんには、悩みだってあるのだから。

『裕福な家庭に育ったからといって、必ず幸せな人ばかりとは限りません。色々な事情があって、色々な悩みを持って生きていることは、それ程変わりは無いのです』

 あたしは、お姉さまの言葉をすっかり忘れてしまっていたのだ。





 ちなみに、これは余談だけど。
 史ちゃんへの心付として用意されたクリスピーサンドを食べてしまった為、千歳さんは大層怒られたそうな。
 侍女に怒られるご主人様って……。





 順一さんに茶封筒を渡されてから、休日を挟んで翌々日。
 何かあるか、と心構えしていたあたしは、些か拍子抜けの時間を送っていた。
 校内で件のお嬢様を見かけたけれど、特にどうという事も無く。
 それならそれで良いや、と警戒心を落とし、あっという間に放課後になった。

「う〜ん」

 あたしは教室の机にへばりついて唸っていた。
 あの日から、千歳さんの『友だち百人計画』はスタートした訳だけど、結果どうなっているかといえば、どうも芳しくないらしい。
 そう簡単にいくとは考えてなかったけれど、今日は誰々と友だちになった、と千歳さんが報告してくれたのは、クラスメイトの僅かな人間だけだった。
 そもそも、千歳さんの云う『友だち』の条件ってなんなんだろう?
「む〜」

 唸っているあたしの前に、一人の影が立つ。
 ふと見上げると、クール眼鏡こと真行寺茉清さんが腕を組んで立っていた。

「見たところ、随分とお悩みのようだけれど。原因はあちらさんかな?」

 ちらり、と茉清さんが眺める方向には、千歳さんとクラスメイトの話し合う姿。
 ああして見る限り実に楽しそうに話しているので、友だちと云っても良いんじゃないだろうかと思うのだけれど……千歳さん的には違うらしい。

「んん、まあ、中らずと雖も遠からず」
「ふむ」


 茉清さんは首を傾げると、組んでいた腕を解いてあたしに差し出す。

「とりあえず、私に話してみるというのはどうかな。コーヒーで手を打とう」
「あ〜……まあ、良いか。話してみましょ」


 こちらから誘わないのに手を差し伸べるあたり、今日の茉清さんは随分と機嫌が良いようだ。
 あたしは肩を竦めながら立ち上がり、茉清さんの気まぐれに乗ることにした。
 目指すは食堂二階のカフェテリア。本人が居る前で話すことじゃないしね。

 放課後のカフェテリアは人が少ないとはいえ、それでもあたしたち二人の組み合わせは人目を集めたりする。自慢じゃないが、あたしも茉清さんも聖應では有名人だからだ。
 とはいえ、注目を集めるようになってから一年以上。人間というものは慣れるもので、数人程度の視線は気にならなくなった。

「それで?」

 席に着いてコーヒーを啜ってから一言。茉清さんの物云いは単純明快だ。

「んん……」

 詳しく説明できない事情というのは困りものだけど、とりあえず聞いてみたい事はある。あたしはミルクティーを含んで口の滑りを良くしてから、徐に尋ねた。

「友だちの定義って、どんなものなのかな〜って」
「――それはまた、随分と崇高なお題で」


 呆れたような、惚けたような。そんな表情をした後に、茉清さんは口を開いた。いやまあ、あたしだって妙な質問だとは思ってるけどね。

「自論を披露するのは吝かではないが、薫子さんの聞きたいのはそういうことではないわよね」
「かといって、万人に通じる理性的な答えが望みなわけでもないのですよ」
「ふむ……なるほど。しかし、彼女はそれほど困っているようには見えないのだけれど?」


 あたしにはついていけない理論で、一足飛びに答えに飛んでしまうのは茉清さんの癖だ。と、いうか、あたしの理解力が足らないだけなのかもしれないけれど。
 兎も角、悩みの原因が千歳さんの友だち付き合いにあることは分かったのだろう。茉清さんは頤に指を当てて、ふと考え込む。
 学校生活の中での千歳さんは、人間関係で困っているわけじゃない。陽性の性格は人当たりもいいし、むしろ千歳さんを嫌う人間の方が極少数だろう。
 稀に、本当に稀にだけど、能天気過ぎる物云いのせいで、千歳さんに眉を寄せる人は居たけれども。

「いや、本人の家庭の事情だから、なんとも云い難いんだけど」

 そう前置きした上で、あたしは茉清さんに説明した。
 家の都合で今まで学校に通ったことが無く、高校最後の生活で友だちを沢山作ろうと頑張っているのだ、と。

「しかし、先程の様子を見た限り、他人との軋轢があるようには見えないがね。彼女たちは十分に『友だち』だろう?」
「そう、思うんだけどね〜」


 あたしは軽く嘆息しながら、冷めないうちにミルクティーを呷った。

「何かが物足りない、というわけか。ちなみに、薫子さんは?」
「あたしはちゃんと、千歳さんから『友だち』だって認定貰ってるけどね」
「他の人と自分との違いが分からない、と。しかしそれは」


 と、口を途中で噤んだ茉清さんは、コーヒーを飲んでから苦笑した。

「誰もが違っていて当然だと思うけどね。それが個性というものでしょ?」
「答えになってな〜い」

 ぷっと膨らんだあたしの顔を見た茉清さんは、肩を竦めながら首を振る。

「最初に云ったじゃない。そんな崇高なお題、茶飲み話の序でに話したって結論なんか出ないわよ」

 奢り損かもしれない、とちょっと思ったのは内緒の話。

「ありゃ?」

 荷物を取りに教室に帰ってきてみると、千歳さんの姿が見当たらない。
 常に一緒に行動しているわけじゃないけれど、いざ居なくなってみると寂しい。って、さすがにこれは我が侭が過ぎるか。声を掛けずに席を外したのはあたしだし。
 鞄を手にして茉清さんと共に教室を出ようとした時。

「あ、薫子さん、ちょっと待ってください」

 廊下に追いかけてきたのは、クラスの受付嬢の蒔田聖さんだ。本人は気にしているので云わないが、相変わらずちんまりしていて可愛い。

「千歳さんは、御前……いえ、哘さんやそのお友だちと一緒に、ケーキを食べに行くそうです」
「はあ? ケーキ?」


 と云うか、いつの間に御前――哘雅楽乃さんという、二年生のカリスマだ――と仲良くなったんだろう? 友だち報告は無かったような気がするけど。

「はい。私や薫子さんもどうですかって誘われたんですけど……」

 聖さんはそこまで云ってから、ちらと茉清さんの方に目をやった。まあ、この流れで茉清さんを誘わないのはおかしいもんね。
 尤も、断られるだろうことは聖さんもなんとなく理解しているようで、云い難そうだ。茉清さんはぶっきらぼうな口調で話すから、機嫌が悪いと思われることもあるしね。
 ここは助け舟を出そうかな。

「茉清さんはどうする? 一緒に行く?」
「――そうだな。ちょっと気になることもあるし、お邪魔させてもらおうか」
「「えっ!?」」


 尋ねたあたしも、聖さんもビックリだ。茉清さんはどちらかというと一匹狼なのだから。
 これはやっぱり、さっきの会話のせいなのかな?

「え、ええと、それじゃ行きましょうか! 私がご案内しますね!」

 驚いたのも束の間、聖さんは喜色満面であたしたちを促した。

 駅前のケーキ屋に向かって歩く間。
 あたしは、「ああ、聖さんも茉清さんのファンなんだな」なんて、のんびりと考えていたんだ。



 翌日、聖さんの机の中に、逆さに貼り付けられた画鋲が見つかるまでは。




**********
 人物の心境。

 千歳⇒順一 あわよくばお友だちに。(周囲に千早以外の男性が居なかったので)
 茉清⇒千歳 表情がクルクル変わって、見ていて楽しいから興味あり。
 茉清⇒聖  同上。
 千歳⇒雅楽乃 妹。(友だちではない)

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
第一話が中心ですが
「ともだち」は多くが「友達」ではなく「友だち」となっているのですが、「友達」とするのが一般的なのでそちらで統一してはどうですか??
個々に、ではとても多くなるのでこういう形での報告とさせて頂きます

その1だけに関しては以下です
竜造寺順一→龍造寺順一(2箇所、サブキャラ説明も同様)
突拍子のないことをする→突拍子の無いことをする
翌々日。。→翌々日。
能天気に過ぎる物言い→能天気過ぎる物言い(自分の勘違いかもしれませんが)
Leon
2011/11/06 08:06
度々すみません

「ともだち」の件は原作でもどちらも使われておりました
確認が足りなくてすみません
Leon
2011/11/06 09:52
Leonさん、ご指摘有難うございます。
文章修正終わりました。
なお、友達→友だちで統一しています。
A-O-TAKE
2011/11/06 19:58
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