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zoom RSS 妃宮さんの中の人 2-5

<<   作成日時 : 2010/12/08 21:32   >>

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 千早は混乱している!

 作者も混乱している!
 誤字が多くて校正に時間がかかっちゃいました。

**********

「……ちとせなの?」

 可愛らしく首を傾げた優雨ちゃんが、宙に浮いている千歳をじっと見詰める。

『わうぅ……ど、どうしよ?』

 対する千歳はどうしたものかと、あたしと千早を交互に見る。しかし幸運というべきか、優雨ちゃんの追及の対象は千歳じゃなかった。
 千早の方へと振り向いた優雨ちゃんは、同じように首を傾げると。

「……あなたは、だれ?」

 やっぱりそう来ますよね〜。普段の千歳と同じ格好をした人間が居るんだから。
 言葉に詰まった千早があたしの傍に寄って来て、横目で見ながら囁いてくる。

「(ちょっと、薫子さん! なんでそんな安心した顔をしてるんですか!?)」
「(え、だって、千早が誤魔化すんでしょ?)」
「(何か考えてくださいよ!?)」
「(無理!)」


 人、それを丸投げと云う。優雨ちゃんのあの眼差しを正面から受けて、嘘を吐くなんてことはあたしには出来ないって。

「……?」

 じっと千早を見詰めている優雨ちゃん。沈黙が、痛い。
 目に見えてパニックになっている千早が、千歳を見て、あたしを見て。

「わっ、私は実は、天使なんだよ!」
「ぶうっ!?」
「……天使さま、なの?」


 唐突に何を云ってるのかな、この人は!? いつもの冷静な思考はどこいった?
 というか、さっきツッコミを入れてきた人間がそんな誤魔化し方しない!

「そう、私は千歳さんに体を貸す為に、地上に遣って来たんだ」
「……」


 いや、いくらなんでも無理があるでしょ、その説明……と思ったんだけど。

『(薫子ちゃん、大丈夫じゃないかな)』
「(え、何で?)」
『(優雨ちゃん、私と初めて会った時、私のことを天使さまって云ったの)』

 なんじゃそりゃ。千歳が天使?
 そりゃまあ、あたしも真実を知るまでは、千歳は完璧お嬢様だと思ってたけどさ。
 ……ああ、あの頃は平和だった……と、現実逃避している場合じゃないか。
 優雨ちゃんの様子を窺うと、いつものようにスカートを握っていた手が千早の方へと伸びて、その体を触り始めた。

「……えっ……と、優雨?」
「天使さま、触れた……」
「へっ?」


 ぺたぺたと千早の体を触って、その感触を確かめている優雨ちゃん。天使なんて云ったから、本当に体があるかどうか確かめてるのかな?

「あの……優雨ちゃん?」
「……なに?」


 触れられる手が男性的にヤバイところまで延びようとしたので、あたしは思わず声を掛ける。特に拘りがあるわけじゃないらしく、優雨ちゃんは素直にこちらを向いてくれた。

「えと、なんだ……今の説明で納得したのかな?」
「ん……」


 話を蒸し返したいわけじゃないけど、なんとなく気になって問いかけてみる。だって、あの説明――とも云えないような云い訳――で、何か納得できる部分があるのかって思うでしょ。
 ところがどっこい、優雨ちゃんは軽く頷くと、

「天使さまと――」

 千早を指差して、

「ちとせ、だよね……?」

 宙に浮いている千歳を指差した。ううむ、やっぱり千歳は見えているんだね。声も聞こえているみたいだし。
 ま、まあ、どうして優雨ちゃんが千歳を見えるのかはさて置いて。
 千歳を見ていた優雨ちゃんは、そのまま千歳を見詰めた後、何かに気が付いたように首を傾げた。

「……ちとせ、なんで透けてるの?」
『「「……」」』


 ……ワンテンポずれてる。たぶんそれがあたしたち三人の共通意見だろう、うん。

『え、えっとね……私、実は幽霊なんだ』
「ゆうれい……なの?」
『そう……だから普段は、天使さまの中に入っているんだ』
「……なんで、今は出ているの?」
『え? あ〜……えっと、きゅ、休憩中なんだ! 天使さまの体を動かすのって、疲れるから!』
「そうなんだ……」

 優雨ちゃんは何回か頷くと納得したみたい。どういう解釈をしたのか分からないけど、とりあえず危機は去ったかな?
 優雨ちゃんに見詰められている千早が困ったように笑みを浮かべると、優雨ちゃんがそれに釣られて微笑む。
 う〜む。傍から見ている分には実に和む光景なんだけど、よ〜く見ると、千早の頬が引きつっているのが分かる。
 前々から思ってたんだけど、千早って、真正面から見詰められるのって苦手みたいだ。史ちゃんや千歳相手なら問題無いみたいだけど、あたしを相手にしたときは微妙に視線がずれてたりするし。
 と、そんなことを考えていると。

「ん……」
「あっ……と、優雨、大丈夫?」


 優雨ちゃんの体がふらっと揺れて、千早が慌てて支える。
 あ、良く見ると優雨ちゃんの顔が赤い。興奮しているからかと思ってたけど、これって……。

「熱がありますね……」
「やっぱりか。優雨ちゃん、大丈夫?」
「ん……ちょっと、あつい……」


 そうだよ、この時間まで優雨ちゃんが学校に居るってことは、結構無理をしてるってことだもん。丸一日授業を受けるのは、体力的に厳しいって云ってたんだし。

「優雨ちゃん、無理してたの?」
「ん……朝、ちとせが頑張るって云ってたから……」


 あたしの問いに首を振った優雨ちゃんは、千歳と千早に視線を移しながら、そんなことを呟く。
 つまりそれって、千歳が頑張るって云ったから自分も頑張ってみた、ということなのかな?

『そっか、頑張ったんだね、優雨ちゃん。偉い偉い』
「あ……」

 千早に支えられている優雨ちゃんの頭を、宙に浮いている千歳の手が撫でる。いやまあ、実際に触れるわけではないんだけど、それでも優雨ちゃんは嬉しそうだ。

「しかし、どうしましょう。休ませるのであれば、保健室か、それとも寮に帰るか……」
「ん〜、時間も時間だし、ゆっくりするなら寮に帰ったほうが良いんじゃないかな」
「そうですね。……薫子さん、優雨と私の鞄もお願いできますか?」
「うん、良いよ……って、ちょっと!」


 あたしは千早の言葉に従って優雨ちゃんの鞄に手を伸ばした所で、千早の行動に目を瞠る。だって……。

「お、女の子が女の子をお姫様抱っことか、しちゃ駄目でしょ?」
「え? あっ」


 千早ってば、極々自然に優雨ちゃんの背中と膝裏に手をやって、軽々とお姫様抱っこをしてみせたのだ。
 遠巻きにこちらを窺っていた女の子たちから、微かなざわめきが伝わってきた。こりゃまた噂になるな。

「ど、どうしましょう?」
「どうしましょうって……」


 今更、背負い直すって訳にもいかないでしょ。そもそも、抱き上げられている優雨ちゃんが嬉しそうなんだもの。
 きゅっと千早の制服を掴んで、胸――偽乳だけど――に顔を寄せて安心した顔をしている。
 やっぱり背負いますなんていったら、ものすご〜くガッカリすると思うな。

「とりあえず……寮まで一気に行っちゃうのが良いんじゃない? こんなこと云うのはなんだけど、ちょっと状況を利用させてもらおうよ」
「……そうですね。出待ちをしている方々には申し訳ないですが」


 気分の悪い子を抱えているのに引き止めてくるような、そんな自分本位の考え方をするような子は居ないだろう。少なくとも、投票宣言をしようとしている子たちの中には。
 最後のチャンスをふいにさせてしまうのは申し訳ないけど、緊急事態ってことで勘弁してもらおう。

「あたしが先導して道を開けるからさ、千早はその後を付いてきて。……ああそうそう、一応お嬢様なんだから、走っちゃ駄目だからね?」
「わ、わかりました。早足で、ですね?」


 千早の言葉に頷いてから、あたしは改めて三人分の鞄を抱え込む。
 よし、行くぞっ!

「あっ、お姉さま」
「いらっしゃったわ、騎士の君よ」


 案の定、桜並木には女の子たちの集団がある。
 あたしが姿を見せると一斉に寄って来る気配を見せたけど、後ろに居た千早が優雨ちゃんを抱き上げているのを見て、その出足が鈍った。

「はい、みんなゴメンね。ちょっと急いでいるから道を開けてくれるかな?」
「あ、あの、騎士の君……?」
「ん、ちょっと気分が優れない子を連れて帰るだけだからさ」


 臆せずに話しかけてきた子に軽く説明する。たいして大きな声じゃないけど、聞き耳を立てている子には十分だろう。

「みなさん、ごきげんよう。また明日ね!」
「あっ……」


 これ以上何かを云われる前に戦略的撤退だ。あたしが女の子たちを割るように真ん中を進むと、素直に両脇に退いてくれた。
 千早に軽く目配せをして、二人で足早に通り抜ける。
 ……ううっ、いつもよりも視線の集まり方が凄い。投票宣言なんかされなくても、この行動は十分に人目を集めてるよ。
 こりゃまた、沙世子さんにネチネチと云われるんだろうなあ。胃が痛くなる……。

「薫子さん、もう少しゆっくり。あまり速いと、優雨に響きます」
「おっと、ゴメン」


 千早より少し前に出て、歩く女の子たちが邪魔にならないように道を作る。
 何人かの見知った顔も居たようだけど、とりあえず今はスルーだ。足を止めると囲まれちゃいそうだし。
 背後から聞こえてくる黄色い歓声を無視しながら、寮へと曲る道へと入る。どうやら何とかなりそうだ。

「薫子さん、先に行って扉を開けてください」
「りょーかい!」


 ショートダッシュで扉に到着。ちょっと行儀悪いけど、扉を開けて中に鞄を放り込んでから、やってくる千早の為に扉を支える。
 するりと、擦り抜けるように千早が扉の内側に入ってきた。

「は〜、なんとかなったね〜」
「そうですね……」


 閉まった扉を見ながら、靴も脱がずに廊下へと腰を下ろす。
 隣を見ると、千早も同じように腰を下ろしていた。腕の中に優雨ちゃんを抱えたままだけど。

「優雨ちゃん、大丈夫だった?」
「ん……ちょっと、楽しかった……」
「へ?」


 むむ……優雨ちゃんは大物だな。そういえば、優雨ちゃんが動揺してるところって見たこと無いや。案外、肝は大きいのかもしれない。
 とはいえ、興奮させると余計に熱が上がっちゃうので、優雨ちゃんはこのままベッドへ直行だね。
 靴を脱いで優雨ちゃんを部屋へ連れて行くか、と思ったその時、閉じられている扉を通り抜けて千歳が顔を出した。

『凄い騒ぎになっちゃってるよ。やっぱりちーちゃんは格好良いよね〜』

 その言葉に、あたしと千早は顔を見合わせてから、がっくりと項垂れる。
 ああ……明日が怖い……。





「しかし、昨日は千歳お姉さま、今日は優雨ちゃん。波乱に満ちた日々ですな〜」
「こら、陽向」
「あっ……と申し訳ありません。好きで調子を悪くしているわけじゃないですもんね」


 夕食前の一時。
 食堂に集まっているのは、あたしと香織理さん、陽向ちゃんと、生徒会を終えて帰って来た初音の四人だ。

「まあ、陽向ちゃんの気持ちも分かるけどね。暇じゃないのは良いことだと思うけど、もう少し平穏な方が楽だよ」
「なあに、それは。随分と虫のいい話じゃない?」
「あはは……」


 何事もバランスでしょ。適度に刺激があって、適度に平穏。あたしが騎士の君だからといって、騎士が必要になる事態は遠慮したいところなのですよ。
 ……最近は、騎士じゃなくって保護者って感じだけどね〜。

「……それにしても、千歳ちゃんは凄いなあ」
「ん? なに、初音?」
「うん……自分だって疲れているはずなのに、優雨ちゃんの面倒まで見てくれて……私は生徒会室で篭ってるだけなのにな、って……」


 うわ、初音が随分とネガティブになってる。珍しいこともあるもんだ。
 いつでも前向き、人のことを悪く云わないのが初音の持ち味。そういう性格だからこそ、人望ナンバーワンなんて云われているんだけど。

「私、優雨ちゃんのお姉さん、ちゃんとやれていないよね……はあ……これでエルダーになったりしたら……」

 た、溜め息が重い……。
 でもなあ……妹とどう接するか、なんてことはあたしには教えられないしなぁ。

「(出番です、香織理先生! 初音を励まして!)」
「(いきなり何を云うの、貴女は……)」


 小声で香織理さんの脇を突きながら云うと、香織理さんは呆れたように首を振った。
 でも、そこで初音を見捨てないのが、香織理さんの良いところだよね。

「初音、人には向き不向きというものがあるように、個々に対して誰かと同じ対応をしていても上手くはいかないものよ。誰かと比べて上手くやれていないとか、そういう云い方は止めなさいな」
「でも……」
「例えば、だけど」


 食卓に突っ伏したままで上目遣いする初音に肩を竦めつつ、香織理さんは陽向ちゃんの傍に立つ。
 そして、両腕を陽向ちゃんの頭に伸ばしたかと思うと。

「初音、貴女は優雨ちゃんにこんなこと出来る?」
「あいったたた!? 香織理お姉さま、いきなりなんですかぁ!?」
「え、ええ?」


 これはひどい。
 いくら差を見せるためとはいえ、香織理さんは陽向ちゃんにいきなりウメボシ(こめかみをグリグリするやつ)をするとは。初音が目を白黒させてるじゃん。

「さっきの失言のお仕置きよ。貴女はもう少し、考えてから発言するようにしなさい」
「ううっ……せめて事前に通告をですね……」
「それじゃお仕置きにならないでしょう。私の愛の鞭に感謝なさい」
「こ、こんなに苦しいなら愛など要らぬ!」


 陽向ちゃん、それは聖帝サ○ザーだよ。

「ふうん。なら、純粋に痛みだけを」
「あいったたたたぁ!?」


 あの〜、そろそろ漫才は止めてもらえないでしょうか……。

「ん……おほん。まあ、こういうワケで、愛にも色々な形があるわけよ」
「え〜……香織理さん。その締めは、さすがのあたしでも引くわ……」
「ふ、ふふっ……ありがとう、香織理ちゃん。……薫子ちゃんも。私、頑張ってみるね」
「わ、私を忘れないで下さい……ガクッ」
「あ、勿論、陽向ちゃんにも感謝してますからね? ……大丈夫?」


 まあ、元気が出たなら良しとしよう……かな。うん。深く考えちゃ駄目だ。
 さて、千早と史ちゃんは仲直りできたのかな? 食事の時間になる前に、様子を見に行ってくるとしますかね。



「もしも〜し、はいっても大丈夫ですか〜」

 あたしは部屋の扉をノックしながら、小声で尋ねる。部屋の中からは特に騒ぎは聞こえてこないので、問題は無いんだろうけれど。

『は〜い、開いてますよ〜』

 にゅっと扉から顔を出したのは千歳。当然だけど扉は開いていない。
 普段は史ちゃんが扉を開けてくれるのだけど、それが無いということは……?
 あたしはドキドキしながら扉を開けると、そこには。

「……美味しいです」
「……それは良かった」


 ビスケットサンドアイスを頬張る史ちゃんと、両手を床に付けて項垂れている千早の姿。なるほど、これがorzというやつか。実際にやっている人を見ることが出来るとは。
 多分、史ちゃんを食べ物で釣ったんだろうけど、それで機嫌を直す方も直す方……おや?

「それってセットで五千円ぐらいするビスケットサンドじゃん」
「……申し訳ありません、薫子お姉さま。これは史のものですので」
「いや、取らないから」


 史ちゃんが再び10個ワンセットで箱に入っているビスケットサンドを食べる作業――作業と云うべきだろう、ひたすら口を動かしている――に戻ったのを確認して、あたしは千早に声を掛ける。

「千早の財布なら、アレぐらいどうってこと無いでしょ。何を落ち込んでるの」

 あたし基準で考えれば結構な出費だけど、あたしみたいな中途半端な庶民と違って千早の家は立派な資産家だ。小遣いだって多いだろうに。

「……一ヶ月間、毎日です」
「は?」


 五千円×30日=十五万円。

「……はあ、なるほど」
「……ちなみに、小遣いは史に管理されてます」


 千歳は金銭感覚が微妙なので、財布の紐は史ちゃんが握っているんだって。
 つまりあれか、千早は兵糧攻めされた挙句に、史ちゃんに毟り取られたわけか。……史ちゃん、容赦無いなぁ。
 あたしは千早の肩に手を置いて、一言。

「まあ、なんだ……頑張れ」
『がんばれ、ちーちゃん!』

 反対側にはいつの間にか千歳の姿。子供の幽霊に励まされる女装少年……シュールだ。

「ところでさ、史ちゃん」
「はい、なんでしょう」


 無心にビスケットサンドを頬張っていても職業的侍女さんに隙は無い。というか、既に食べ終わっている史ちゃんは、あたしの声に姿勢を正す。

「実際のところ、エルダー選挙の行方はどうなっているのか分かる?」
「そうですね……今日までの情報をまとめて考えますと、本命は薫子お姉さま、対抗馬は初音お姉さま、穴馬は千歳さまです」
「茉清さんは?」
「茉清お姉さまは、支持者が積極的に声を上げることはありませんので……ただ、票数としては、千歳さまとそれほど変わらないかと思います」


 ふうむ……このままいくと、やっぱりあたしがエルダーになってしまうのだろうか。
 なってしまったら頑張るしかないけれど、出来ることなら遠慮したいなあ。一挙手一投足を監視されるような生活は嫌だよ。

「……ところでさ、千歳はエルダーになったとしたらどうするの?」
『やだなぁ、薫子ちゃん。私がえるだーになれるわけないじゃん。薫子ちゃんの方がお似合いだよ』
「いや、例えばの話としてね。何か拘りはあるのかな〜と」
『ん〜……なったらなったでその時だけど、出来ることなら遠慮したいなあ』
「そうなの?」
『だってさ、えるだーってみんなから尊敬されるんでしょ? 私は尊敬されたいんじゃなくて、友だちになりたいんだもん』
「……そっか」

 なるほどね。幸いにしてあたしは幾人かのエルダーと付き合いがあるけれど、尊敬できる人間であることは兎も角として、普通に話をするぐらいは出来る。同じ人間なんだしね。
 でも、昔から聖應にいる子たちはそうじゃないだろう。入ったばかりの一年生なんかは、緊張して挨拶することが精一杯だったりする。良くも悪くも、エルダーという存在は『普通の生徒じゃない』のだ。
 と、なるとだ。
 初音は生徒会長で忙しい、千歳は遠慮したい、茉清さんも性格的にパスするだろう。
 ……あたししか居ないじゃん!?

「……ですが」
「ん? まだ何か続きがあるの?」
「はい。先程の優雨さんの一件で、展開は不透明になってしまいました。もしかすると、本命が千歳さまになるかもしれません」
「うっ……そうか……」


 お姫様だっこで桜並木を行進だもんね。目立ったのは間違いない。
 う〜ん……。

「ええい、今更悩んでも仕方が無い! 今日はご飯を食べたら早く寝る!」
『お〜、薫子ちゃん、カッコイイぞ〜!』
「ほら、千早もシャンとしなさいよ。明日も千歳の身代わりをするんでしょ?」
「う……そうですね……」


 千歳はまだ力が戻っていないので、中途半端に透き通ったままだ。
 幸い、明日も制服を着替えるような授業は無いので、一応は大丈夫だろうけど。それでもちゃんと注意しておかないと、男だってばれないとも限らないからね。

『……ちーちゃん、無理なようならお休みしてもいいんだよ……?』

 ぐったりしている千早を気遣って、千歳がそっと声を掛ける。

「いえ、大丈夫ですよ。ここまできたら、毒を喰らわば皿まで、です」

 千早はそんなことを云うけれど。
 男の子の意地というわけじゃないよね、これ。なんか心配だな。
 ……いつか、ちゃんと聞かないといけないな。





 灯りを消した部屋の中。
 あたしはベッドに仰向けになって、じっと天井を見詰める。

 ――人にはそれぞれの理由があって、それは総て他の人とは違う。自分には自分だけの答えがあるっていうこと、私は忘れていました――

 あたしの答えってなんだろう。
 あたしはあたしなりに、この二年間を頑張ってきた。
 その頑張りは、エルダーになるのに相応しいものなのだろうか?
 分からない。
 そもそも、あたしがこんな難しいことで頭を悩ませたって、答えなんか出るはずがない。
 ……ああ、そうだ。
 そんなあたしにも分かることがある。
 あたしは奏お姉さまじゃない。勿論、君枝さんでもなければ瑞穂さんでもない。
 あたしはあたしだ。
 他人に誇れるようなものじゃなかったかもしれないけれど、そんなあたしの頑張りを見て、あたしを認めてくれた人たちが居る。
 立派なお嬢様じゃなくったって、成績優秀なお姉さまじゃなくったって、あたしを良いと云ってくれた人が居る。
 なら、そんな人たちの為にエルダーになるべきなのだろうか?
 ……それはなにか、違う気がする。

「はあ……」

 無性に奏お姉さまの声が聞きたい。あの優しい声で、大丈夫ですよって云って欲しい。
 枕元の携帯電話を手に取って、その名前を表示する。
 今はアルバイトで頑張っているところだろうか。劇団で練習しているだろうか。あたしと同じように、何かに悩んでいないだろうか。
 一定時間触らなかったモニターが、設定に従って暗くなる。
 奏お姉さまの名前も消える。
 また、名前を表示させる。
 時間が経って、表示が消える。





 決戦は金曜日。
 さあ、戦闘の準備はOK?
 手のひらに人って書いて飲み込んだ?
 じゃあ、行こうか。

「有効投票総数、七五二票。そのうち一七七票を獲得……真行寺茉清さん、壇上へ」

 おもいっきり眉を寄せた茉清さんが、名前を呼ばれて壇上に上がっていく。

「一七九票を獲得、皆瀬初音さん。壇上へ」

 何か、秘めた決心を感じさせる眼差しで、初音が壇上へ上がっていく。

「一八九票を獲得、妃宮千歳さん。壇上へ」

 嬉しそうな、それでいて残念そうな。そんな表情で、千早が壇上へと上がっていく。

「最後に、一九一票を獲得。七々原薫子さん、壇上へ」

 ふう……まさかあたしが、一番得票数が多いなんてなぁ……。

「どうしたの、薫子さん。壇上へ上がらなくちゃ!」

 こよりさんが、あたしの背中を押して前へと歩かせる。



 覚悟を決めろ。胸を張って行こうじゃないか。
 あたしは七々原薫子。奏お姉さまの妹なんだから。


**********

 次回、エピローグ。


 ちなみに、某ハーゲン○ッツのクッキーサンドセットは、実際でもこれぐらいの値段です。
 

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです、妃宮さんの中の人2-5、読ませていただきました。
優雨に千早/千歳の存在がばれてしまいましたが、優雨だから大丈夫でしょうね。
さて、本編もついに山場のエルダー選挙に片足を踏み入れ、章の最後を飾る為の準備に入りました。
これから先の展開がどうなって行くのか、心待ちにしております。
では、失礼します。

2010/12/15 22:33
唯さん、いらっしゃいませ。
優雨はゲーム本編でも、千早の性別は疑ってませんでしたからね。
……男だと分かっても、平気そうではありますけれど。
格好良い薫子が書きたいんですけど、中々上手くいきません。
あや先生の小説を読んで、色々と研究しますかね。

エピローグとEXは、今週末に上げられるように頑張ってます。
では、またお越しくださいませ。
A-O-TAKE
2010/12/16 23:22
報告です

・私と始めて会った時→私と初めて会った時


もう読むのは3回目くらいですかね…面白いです!!
Leon
2011/11/07 16:51
こちらも修正完了です。

うむぅ……私は十回ぐらい読んでるんだけど……思い込みから来る誤字は減らないなあ……
A-O-TAKE
2011/11/14 15:17
再び報告です


・あまり早いと、優雨に響きます→あまり速いと、優雨に響きます
・凄い騒ぎになっちゃてるよ→凄い騒ぎになっちゃってるよ


原作よりもちょっとしっかりした薫子が良いですね
まぁ確かに保護者に近い感じではあるけども
やっぱりメインが超人千早じゃないからなのかな
Leon
2011/11/21 07:20
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