A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 3-3

<<   作成日時 : 2011/01/23 22:47   >>

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 初音暴走。

 どうしてこうなった。最初のプロットは違ったのに。

**********


「……なるほど。それで、そのまま追い出されちゃった、と」
「うん……」


 鼻を啜り上げる初音だけど、話しているうちに少しは落ち着いたみたい。
 しかし、う〜ん……。

「何と云うか……随分と嫌われたものね、初音も」
「そうだよねぇ。なんか、一方的に嫌われちゃったみたい。こりゃ素直に謝る方が良いんじゃないの?」
「ううっ……で、でもっ」


 容赦無い香織理さんとあたしの言葉に顔を上げた初音だけど、その顔に浮かんでいるのは泣き顔じゃなかった……あれ、もしかして怒ってる?

「私やっぱり、間違ったことは云ってないと思うの。頑張っちゃいけないなんてことを考える優雨ちゃんは、間違ってると思うもの」

 本当に珍しく、頬を膨らませて反論する初音。どうやら派手に一泣きしたせいで、反対方向に火が付いたみたいだ。

「でもさ、初音。優雨ちゃんが間違っているとして、それをどうやって分かってもらうの? 今の状態だと、話も聞いてもらえないんじゃない?」
「何とかしますっ!」
「な……何とかって……」


 これはイカン。あたしは思わず香織理さんを見るけど、香織理さんも諦めたように首を振った。初音がこういう状態になった時は、何を云っても無駄なのだ。あたしたちはそれを知っている。
 そう、それは去年の暮れの頃。あたしと香織理さんが冷戦状態だった時、初音があたしたちに啖呵を切った時と同じ。

『ぜぇ〜ったい、薫子ちゃんと香織理ちゃんを仲良しにしてみせますっ!』

 その時の台詞を思い出して、あたしは思わず口元を歪めた。いや、あの時はホントに驚いたもんね。

「むっ。何笑ってるんですか、薫子ちゃん!?」
「うわっ? 何でもないよっ」


 お〜怖、くわばらくわばら。
 こりゃ本格的な喧嘩になっちゃいそうだ。優雨ちゃんを相手に喧嘩なんて、って普通は思うだろうけど、初音の喧嘩は手や足が出るんじゃなくて意地が出るからなあ。要は我慢比べってことなんだけどね。

「ねえ、初音ちゃん」
「はい?」
「私もね、優雨ちゃんは間違ってると思うの」


 え、千歳ってば……ずっと黙ってたと思ったら、いきなり何云ってるの? ていうか、煽るなって。

「世の中には……頑張りたくても頑張れない人って、一杯居るんだよ。本当に頑張っても駄目な人だって居るの。でも、優雨ちゃんは違う――」

 それはもしかして、自分の事なの? 千歳……。

「ち、千歳……ちゃん?」
「初音ちゃんっ!」
「はっ、はい!?」
「一緒に頑張ろう! 優雨ちゃんに、ホントのことを教えてあげなくちゃ!」
「あ……うん、そうだね!」


 あたしが何も云えないでいる間に、なにやら訳の分からない意気投合をして盛り上がっちゃってる二人だけど。

「か、香織理さん……どうしよ?」
「どうしようって……どうしようもないんじゃない?」
「ええ〜……」


 そんなあ。香織理さんが匙を投げちゃったら、舵取り役が居なくなっちゃうじゃない。
 肩を落としたあたしの顔が面白かったのか、香織理さんはちょっと苦笑して。

「……大丈夫よ、きっと。薫子だってそう思うでしょう?」
「むう……」


 まあ、あたしだって初音のことは信用しているし、根っこのところでは結局解決しちゃうんだろうって、そう思うんだけどさ……でも。

「無鉄砲な千歳と、暴走した初音をどうにかしなきゃいけないんだよ……?」
「……が、頑張ってね、薫子。ほら、エルダーなんだし?」
「ええっ?」


 香織理さん、目を逸らさないで! あたしを一人にしないで〜!

「「えい、えい、お〜!」」





『何とかしてよね、七々原さん――』
「う〜ん……」

 ゴメンナサイ、沙世子さん……。
 でも分かってよ〜、あたしじゃあの二人は止められないんだよ〜……。

「朝でございます、薫子お姉さま。お起きになって下さい、薫子お姉さま」

 ああ、史ちゃん。助けに来てくれたんだね。ありがとぉ〜……。

「……これはまた、実力行使が必要なのでしょうか」

 ん……? はっ!?

「ス、ストップ! 起きたから大丈夫!」

 危なかった、また布団を剥がされるところだったよ。いくら相手が史ちゃんとはいえ、変な寝相とか見られたくないしね。

「……おはようございます、薫子お姉さま。まもなく朝食のお時間です」
「うん、おはよう史ちゃん。着替え終わったら直ぐに行くから」


 あたしの言葉を聞いた史ちゃんは、一礼すると部屋を出て行く。……なんか最近、あたしに対応する史ちゃんに遠慮が無くなってきた。それで良いのか職業侍女。
 枕元に在った目覚まし時計の一つを手に取ると、後10分程で朝御飯だ。さっさと着替えなくっちゃ。
 畳んで置いてあった制服に手を伸ばして……というところで、あたしは漸く、昨日の騒ぎを思い出した。ついでに夢の内容も。

「……学校休みたい……」

 どうせあたしのところに鉢が回ってくるんだろうけど、それを回避する方法は無い……んだろう、多分。
 ま、何とかなるか。今から考えてたって疲れるだけだし。取りあえずは、確りご飯を食べますかね。エネルギーが無いと何も出来ないからさ。



「みんな、おはよう」
「おはようございます、薫子ちゃん」


 初音の挨拶を聞きながら、あたしはさっと食卓周りを一瞥する。千歳、史ちゃん、香織理さん、後は初音か。

「初音、優雨ちゃんは?」
「私が迎えに行くと出てきてくれないかもしれないから、陽向ちゃんにお願いしました」


 初音はちょっと苦笑しながらそう云うけれど、それほど困っているようにも見えない。昨日までのネガティブ思考はゴミ箱へでも投げ込んじゃったんだろう。こうなると初音は手強いぞ、優雨ちゃん……。

「おっと、おはようございます、薫子お姉さま」

 お、噂をすればだね。あたしは扉前の場所を空け、陽向ちゃんを迎え入れる。

「や、おはよう陽向ちゃん。……優雨ちゃんも、おはよう」
「ん……」


 陽向ちゃんの後に居た優雨ちゃんにも声を掛けるけど……うん、これはまだちょっとご機嫌斜めだね。

「おはよう、優雨ちゃん」
「……」


 案の定というか、初音が声を掛けたけど、優雨ちゃんはスッと目を逸らしてしまう。普段であれば、これで初音がちょっと落ち込んで……となるところだけど。
 あたしや千歳たちが息を呑んで見守る中、初音は優雨ちゃんが逸らした視線の先へと回りこむと、その肩を両手で押さえて。

「お・は・よ・う、優雨ちゃん」
「……お、は……よう……?」
「うんっ、おはよう、優雨ちゃん!」


 あはっ、初音の勝ちだね。いつもと違う初音の様子に目を白黒させながら、優雨ちゃんが挨拶した。なんかちょっと脅迫っぽいのが玉に瑕だけど。
 それでも初音は優雨ちゃんの返事が嬉しかったみたいで、ニコニコしながら食卓に着いた。
 あたしは思わず香織理さんに視線を向けて――香織理さんもあたしを見て――肩を竦める。普段はポワポワな初音だけど押すときは押しまくるタイプだって、お互い知ってるからね。

「でも、何だ。優雨ちゃん、ご飯を食べられるぐらいには元気が出たみたいだね」
「あれ、薫子お姉さま、知らないんですか? 怒るとお腹がすくんですよ〜」


 あたしの呟きに陽向ちゃんが笑って答える。確かに怒るのはエネルギーを使うけど、優雨ちゃんは怒りを持続させるような性格じゃないでしょ。
 まあ、怒るってのは元気が無いと出来ないことだし、喧嘩したことで少しでも発奮したというのなら、喜んで良い……いや、やっぱ喧嘩は駄目だよね。
 さ〜て……こりゃ、今日は荒れるぞ〜……。





 沙世子さんがあたしのところに来たのは、お昼休みも終わろうとする時間帯だった。

「3−Bの烏橘ですが、七々原さんはいらっしゃいますか?」
「はい、少しお待ちくださいね。……薫子さん、烏橘副会長がお見えですよ」
「うっ……は〜い」


 聖さんの呼びかけに応えて教室の扉へと向かい、憮然とした様子の沙世子さんに声を掛ける。

「お待たせしました。……それで、初音が何かした?」
「何よ、分かっているんじゃない」


 ああ、やっぱりね。沙世子さんはあたしを人の少ない方へと導きながら、口を尖らせて文句を云うんだけれど。

「授業中は気も漫ろなくせに、休み時間になると栢木さんのところへ飛び出して行って……正直、見ていて心配なのよね」

 普段の初音とは違うから、その気持ちは分からなくもない。周りに注意を向けない初音ってのは、もの凄く珍しいから。

「一体何がどうなっているのか……聞いても良いことなの?」
「ん……まあ、簡単に云っちゃうと、初音と優雨ちゃんが喧嘩してね。仲直りする為の行動中」
「喧嘩? あの初音が、栢木さんと?」


 うん、その初音が。正直に云えばあたしも驚いてるんだけど、でも、こうと決めたら絶対に引かないのも初音の持つ一面だからね。

「その、さ。なるべくなら、余計な手出しはしないで欲しいんだよね。初音が自分でやらないと意味が無いって云うか……」
「はぁ……はいはい。全く面倒なことね」


 沙世子さんは溜め息を吐きながら云うけれど、やっぱり本当は手伝いたいんだろうね。
 そりゃあ初音だって、力を貸すと云ってくる人間を拒んだりはしないだろう。
 でも、常日頃から自分の力不足を口にしている初音だから、出来ることなら一人で解決させて自信を持たせてあげたい。

「あの様子じゃ、今日は仕事にならないだろうし……仕方が無い。今日は真っ直ぐ帰らせるから、明日までに何とかして頂戴」
「ええっ? いや、いくらなんでもそれは……」
「何?」
「……鋭意、努力致します」


 睨まないでよ。あたしにそんなこと頼まれたって、ことは人の心の問題なんだから、出来ることと出来ないことがあるんだから。
 と、云うかだね。

「……沙世子さんだって、協力すれば良いと思うけど」
「だから、生徒会の仕事を肩代わりするわよ」
「いや、そうじゃなくて。直接どうこうじゃなくても、友だちとして話を聞くくらいは出来るでしょってこと」
「……貴女、さっき自分で余計な手出しをするなって云ったじゃないの」
「話を聞くだけで、手を出してるわけじゃないしね」
「ああ云えばこう云う……全く」


 掌を上に向けて肩を竦める――アメリカンな『やれやれだぜ』のポーズ――沙世子さん。なんか妙に様になってるけど、慣れてるんだろうか。

「……出来ることはするわよ。期待されても困るけどね」
「や、あたしだって沙世子さんの期待には応えられないというか……」
「はあ?」
「……」


 云いかけた所でまたしても睨まれてしまい、口を噤む。……あれ、何かもの凄く理不尽じゃないですか?

「じゃ、宜しくね」

 あたしが何も云えないでいると、沙世子さんはさっさと一人で戻っていってしまった。
 何か今年に入ってから、沙世子さんの人当たりが厳しくなってるんだよね。口撃の対象だったお姉さん――可奈子さん、去年の副会長――が居なくなった分が、こっちに回ってきてるんだろうか。
 そんなことを考えながら、あたしも教室へと戻ってくる。

「おや、お早いお帰りで。今日はどんなお叱りだったの?」

 ニヤッと笑いながら云う茉清さんは意地悪だ。……日頃の行いとも云うけど。

「いや、別にそういう話じゃ……ねえ、茉清さん」
「なんだい?」
「胃薬持ってない?」
「……は?」


 食後の沙世子さんて、凄く消化に悪そうだよね。





 あたしの精神衛生上、学校で何があったかは割愛する。
 千歳は初音と一緒に行動すると、化学反応を起こすということだけ知っておいて欲しい。天然お嬢様二人とか……マジ勘弁。 

 今日の夕食は、寮では定番と云えるメニュー。
 どどん、という効果音が聞こえてきそうな丸々としたローストチキンと、焼き野菜にポテト。フィッシュ&チップスと並んで、一番出てくる確率が高い料理だ。
 でも別に、『ハズレ』と云う訳じゃない。むしろ寮母さんの得意料理だから頻繁に出てくるし、とても美味しいと云えるのだ。
 まあ、見た目で損をしてるとは思うけど……それも、今年になって史ちゃんが給仕をするようになってから改善したしね。

「あ、史ちゃん。あたし、今日はいつもよりお肉少なめで」
「承知しました」


 パンに挟む為に薄く切られた肉がいつもより一枚少なくなって、あたしの前に差し出される。
 肉や野菜をパンに挟んで食べる――もちろん個々に食べても良いんだけど――のが、寮では一般的な食べ方。
 この料理が定番なだけあって、あたしの外食からはサンドイッチというメニューが消えたのだ。だって、どうしても比べちゃうし。

「史〜、チャツネを取って〜」
「はい」


 付け合せの香辛料も結構豊富。……なんで豊富かと云うと、実は料理そのものの味付けが薄いから。本場イギリスのそれに比べれば全く別物、と以前ケイリは云っていたけれどね。

 此処で一つ豆知識。
 何故イギリス料理の味付けが薄いかといえば、それは昔のイギリスにおいて香辛料がとても高価だったから。あ、別にケチってる訳じゃないよ?
 胡椒一粒は金の一粒、だったかな? 兎に角それぐらいに貴重だった香辛料なので、イギリスの食卓で最高のおもてなしと云うのは、素材の貴重さではなくて香辛料をお客に自由に使わせることだったんだって。
 勿論、お客に香辛料を使わせるということは、料理の味付けは薄く――あるいは味付けしないで――出さなくちゃいけない。でないと味がとっても濃くなっちゃうからね。
 まあそんなこんなで、イギリスの伝統料理は味が薄いレシピばかりが残り、それがいつの間にか味が薄い=不味いという評価になったんだとか。
 閑話休題。

「あれ、珍しい物があるね」

 あたしが目に付けたのは、皿の端に乗っていたキャロットグラッセ。いつもは人参も焼き野菜として出されているのに、何でこれだけ?
 史ちゃんは特に気にしないでみんなに給仕していたけれど……ふむ。

「……」

 食事するみんなの様子をさり気なく見回すと、人参が嫌いな優雨ちゃんが、それを皿の端に寄せているのが見えた。
 ……あ、もしかしてこれ、初音の仕掛け? 食べ物で釣る作戦!?

「あ、ゆ……むぐっ」
「しっ、千歳、静かに」


 あたしと同じように、みんなもその様子を窺っていたみたい。あたしは空気を読まない千歳が何か云う前に口を塞ぐ。ちょっと行儀が悪いけど、勘弁ね。

「あれ、優雨ちゃん。好き嫌いは良くないよ?」

 初音がちょっと笑いながら、優雨ちゃんに語りかけた。

「……」

 あ、優雨ちゃんが口を尖らせてる。ここまで不満そうな顔を見せるのも珍しいや。つんつん、とフォークでグラッセを突く優雨ちゃんは……凄い可愛いです。
 ん……? ちょっと、初音まで笑ってちゃ駄目じゃん。

「ふふ……大丈夫だよ、優雨ちゃん。それは私が作ったの。と〜っても甘くて美味しいんだよ」
「……」
「騙されたと思って食べてみて? ね?」


 なんと初音の手作りだったとは。それは珍しいなあ。
 どれ、あたしも一口食べてみるか。優雨ちゃんが見ていることだし、美味しさをアピールすれば……。

「む……これは、甘い……」

 人参特有の苦味は無いけれど、甘すぎるんじゃ……柔らかい飴玉みたいな……。

「……ん……あむっ」

 あ、優雨ちゃん食べちゃったよ。
 優雨ちゃんが口を動かす様子を、みんな揃って見守る。

「……甘くて、美味しい……」
「ねっ、云った通りでしょう? 頑張ってよかったよねっ」


 なん……だと……?
 確かに人参の味はしないけど、逆に云えば砂糖の味しかしないんだけど……。
 初音の見守る中、優雨ちゃんは平気な顔をしてそれを食べている。
 あたしがその様子を見ていると、史ちゃんがあたしの袖口を軽く引いた。

「……薫子お姉さま」
「何、史ちゃん」
「……味に斑があるようです。こちらを」


 史ちゃんが差し出してくれたキャロットグラッセを食べてみると、今度は砂糖の味がしない。バターの味だけだ。
 初音、どんな作り方したんだろう……。あたしだってレンジで作ることが出来る、とっても簡単な料理なのに……。
 え? 勿論、奏お姉さまに習ったんだよ。夜食のおつまみ(どっちかというと酒のツマミだと思うけど)の一つ二つは作れるんだから。
 初音は後でお仕置きするとして、優雨ちゃんの食べたのが『当たり』でホントに良かったよ。

「まあ、良いのではなくて? 二人が満足しているのなら」

 それもそうだね。なんとなく嬉しそうな二人を見ながら、あたしも食事を再開することにした。
 ……お残しはあきまへんで! ということで、『ハズレ』を優雨ちゃんが引かない内にみんなで食べることになったけどね。





「あれ、初音?」
「あ、薫子ちゃん」


 お風呂から上がったあたしが寮の二階へと戻ると、初音が一人、テラスで黄昏ていた。

「どうしたの。……やっぱり、ちょっと疲れちゃった?」
「……えへ……分かっちゃう?」
「まあ、ね」


 もう二年も一緒に生活してるんだし、今日の初音が頑張ってテンション高めにしてたのは分かってる。元々そういう性格じゃないんだから、疲れるのも当然だよね。
 香織理さんとの喧嘩の時はあたしが当事者だったから、そういう姿をあたしたちに見せなかった。けど、影では成果が出ないことに落ち込んでたってことは知ってる。
 というか、奏お姉さまがそれをこっそりあたしと香織理さんに教えてくれて、それが仲直りの切っ掛けになったんだよね。

「私なりに頑張ってみたけれど……上手くいかないね」
「そう? 優雨ちゃん、あんまり怒ってなかったみたいだけど」
「ん……そうかな?」


 初音が首を傾げるけれど、少なくとも、あたしにはそう見えた。あたしの見立て通り、優雨ちゃんは怒りを持続させないタイプなんだろう。

「……それは、どうかしらね?」
「えっ?」


 突然の声に振り返ってみれば、そこには腕を組んだ香織理さんの姿。その背後には、バツの悪そうな顔で陽向ちゃんが覗いている。
 もしかして、立ち聞きしてた? いや、別に隠すほどの話じゃないとは思うけど。

「……二人共、こんな所で作戦会議?」
「そ、それよりも、香織理ちゃん。どういう意味ですか?」
「ん? ああ、優雨ちゃんのこと? そうねぇ……あたしの見た感じでは、あれは『諦め』ね」
「諦め……?」
「そう。周りの意見に流されている、とも云えるかしらね? 云っても分かってもらえないから云わない。上手く云えないから云わない。……どちらも在りえる話だけれど」
「そんな……」


 香織理さんの説明は納得できるところがあって、あたしと初音は肩を落とす。
 あたしもそんなに口が巧い方じゃないけれど、それでも云いたいことは確りと云っているからね。

「病院生活が長かったら、同世代と話すことって少ないと思いますしね〜。自分の意志よりも、親や医者の話に従わなきゃいけないですし」

 補足する陽向ちゃんに、あたしたちは揃って頷く。
 あたしたちは風邪なんか引いた時のほんの少しの時間だけ、そういう状態になるわけだけど。優雨ちゃんは多分、生まれた時からそうなんだよね。

「優雨ちゃん、頑張っても無駄だって云ったんでしたっけ? そういう状況じゃ、自分から頑張るのは無駄だって思っても仕方がないのかもしれませんねぇ」

 だから優雨ちゃんのご両親は、生きる希望を持ってもらうためにという理由で聖應に入学させたんだ。嫌々じゃなくて、自分から頑張ってもらう為に。

「じゃあ、今日一日初音が頑張ったのは、無駄ってこと?」

 それはちょっと空しいな。初音は休み時間の度に優雨ちゃんに話しに行って、生徒会の仕事だって放り出してきたのに。

「さあ、それはどうかしら……逆効果じゃないと良いのだけれど」
「えっ?」
「だって傍から見ていると、初音の行動は優雨ちゃんの母親のそれと同じよ? 思い出して。初音は優雨ちゃんになんて云われたのか」
「あっ……」


 そうだよ。初音はお母さんと同じ笑い方をしているとか何とか。
 つまり、優雨ちゃんに対してお母さんを連想させるような行動をしちゃうと、かえって頑なになってしまうかもしれないってことだ!

「そ、そんなあ……」

 ああ、初音が項垂れちゃった。そりゃそうだよね、今日一日頑張ったのが無駄……ならまだしも、逆効果だったって云われちゃったら。

「私、人参を頑張って食べてくれたみたいに……頑張った先には良いことがあるって、教えたかったんだけど……」
「ああ、あれはそういう意味だったの? あたしはてっきり、食べ物で機嫌を直してもらおうとしてるのかと……」
「やあねぇ、薫子。そんなわけ無いじゃない、貴女じゃあるまいし」
「ぬぐっ……」


 失礼な。あたしだってしょっちゅう食べ物に釣られているわけじゃないよ。どっちかっていうと、アイスに釣られる史ちゃんの方が……ん?

「……千歳と史ちゃんは?」
「そういえば、見てませんねぇ」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん!」
「わあっ!?」


 ビ、ビックリした! いきなり後ろから出てこないでよ!
 胸を押さえながら後を向くと、案の定千歳の姿。

「何か呼んだ、薫子ちゃん?」
「呼んだじゃないよ! なんだってそう、驚かすようなことを……」
「ん〜……お約束?」
「おおっ、流石は千歳お姉さま! よく分かっていらっしゃる!」
「何を馬鹿なことを云っているの、陽向……」


 ……もう良いや。云うだけ疲れる。

「……千歳ちゃん、私、どうすれば良いかなぁ」
「あれ〜? 初音ちゃん、もう諦めちゃうの?」
「そ、そんなこと無いよっ。……でも、本当にどうすれば良いのか……」


 千歳の言葉にむきになる初音だけど、直ぐに肩を落としてしまう。本当に困ってるんだね……。

「諦めるわけじゃないんだよ。でも、云っても伝わらないなら、どうすればいいのか……」
「1回で無理なら、100回云うんだよっ」
「ええっ?」
「そんな無茶な。あんまりしつこいと、本当に逆効果だよ?」
「そんなこと無いよっ!」
「わっ……」


 あたしの言葉に、千歳が大声で反論した。体勢を崩すあたしを余所に、千歳は拳を握って力強く云う。

「初音ちゃんも、優雨ちゃんも、ここに居るんだから。お互いの言葉が聞こえて、お互いの姿が見えるんだから。だから無駄になんかならないのっ!」
「ち、千歳ちゃん……?」


 あたしは勿論、初音も、香織理さんも、そして陽向ちゃんも。みんながみんな、呆気に取られて千歳の言葉を聞いた。
 ……でも、他のみんなには分からなくても、あたしには分かる。千歳は千早に憑けるようになるまで、ずっとそういう状態だったんだ。
 そうか……千歳にとっては、色んな意味で他人事じゃないんだね。

「千歳、落ち着いて。……実際の話、優雨ちゃんが話をまともに聞いてくれないんじゃ、喧嘩はずっと続いちゃうよ。何か良い考えでもあるの?」

 普段の優雨ちゃんならば、話を聞くぐらいはするだろう。
 でも今の状態じゃ、あたしたちの話は聞いてくれても、母親と同じだと思ってる初音の話は擦り抜けてしまうかもしれない。

「ふふふ……普通の話で駄目ならば、普通じゃない話をすれば良いのだ!」
「良いのだっ、て……」
「そんな訳で、話の種を用意しました! お〜い、史えも〜ん!」


 史えもんって……なんだそりゃ。

「……史は、未来から来た猫型ロボットではないのですが」

 千歳の声に応えて現れた史ちゃんは、そんなことを呟きながら、手に持っていた物をこちらに差し出してきた。

「笹……?」
「そう、もう直ぐ七夕だからね!」
「……これを、話の種にしようって?」
「どうぞ、こちらを」


 万能と云う意味でなら負けてない侍女さんは、短冊と鉛筆をみんなに配っていく。なんとまあ用意周到な。

「お星様に願い事をするのだ!」

 テラスの柵に笹を括り付けながら、千歳は楽しそうに宣言した。

**********

 プロットではもっとシリアスな喧嘩だったんだけど、話が重たすぎるので中止。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
さて、優雨と初音の喧嘩に千歳が乱入してなにやら和やか?な雰囲気になってしまったように感じましたが、まだ仲直りには時間がかかりそうですね。
やはり千歳は精神的には幼い為に状況を混乱させてしまいそうですが、うまく纏まるのでしょうか?それとも千早が出てきて解決へと導くのでしょうか?
期待して待っております。
では、しつれいします。

2011/01/24 17:17
唯さん、いらっしゃいませ。

いや、元々はギャグ系として考えた話なんですよね、「妃宮さんの中の人」は。全然そんな感じに見えないですけど。
なので、ちょっと方向を明るめの方にしようという事で、千歳にがんばってもらってます。

千早は一応、出番あります。この話での千早は、ゲーム内での千歳の立ち位置なので……ということで、どういうものかは次回のお話にて。

では、また。
A-O-TAKE
2011/01/25 21:20
報告です

・休み時間になると柏木さん→休み時間になると栢木さん
・あの初音が、柏木さんと→あの初音が、栢木さんと
・今日は真直ぐ帰らせる→今日は真っ直ぐ帰らせる


薫子が主人公なら最後は…とかいろいろ考えてみるけれど、過程がすごい楽しみです
Leon
2011/11/10 13:20
追加報告です


・ゴメンナサイ、沙世子さん……→ゴメンナサイ、沙世子さん……。
・起きて下さい→お起きになって下さい(千早にはこう云ったと思うのですが、薫子に対しては未確認です)


変な寝相って…全く薫子はどんな風に寝てるのか気になりますね
布団の中は一体!?

食後の沙世子さんが凄く消化に悪そう、だなんて第三者からすれば面白い表現ですが、沙世子さんからすると…まぁ沙世子さんに原因があるんですけどね
でも嫉妬してるからってだけじゃあんな態度取れないですよね〜
やっぱり姉の可奈子さんがあんなだから(笑)でしょうか
Leon
2011/11/23 10:40
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