A-O-TAKEの隠し部屋

アクセスカウンタ

zoom RSS 妃宮さんの中の人 3-4

<<   作成日時 : 2011/01/30 19:48   >>

トラックバック 0 / コメント 6

 PSP版発表記念?

 香織理が好きな私は落ち込んでますよ……

**********


「星に願いを、って云ってもなぁ」

 史ちゃんに手渡された短冊を眺めながら、少しばかり頭を捻る。こういうのって、小学校の低学年ぐらいまでが対象でしょ?

「ふふっ……懐かしい。聖應ではやらないけれど、駅前の商店街で飾られている笹竹に、飾付けのボランティアをしたりしたなあ」
「ああ、そういえば一年の時の奉仕活動で、そんなこともやったっけ」
「へえ、お姉さま方もやったんですか? 私のクラスは幼稚舎へお手伝いに行きましたけど」


 ああ、そういえば幼稚舎は七夕飾りをするんだよね。その辺りのこと、聖應っておおらかというか……キリスト教系の学校だけど、情緒教育の一環として日本独自のイベントも結構行なわれたりするんだ。
 どうせなら、学校全体のイベントとして……いや、やっぱり駄目。エルダーとしての仕事が増えるだけだしね。

「しかし、なんだ……願い事って云っても、何を書けば良いもんだか」
「そんなに難しく考えることは無いでしょ?」


 香織理さんは特に迷うことなく、短冊に鉛筆を走らせている。気になってそれを覗き見ると。

「……世界平和ぁ? 胡散臭っ!」
「あら、失礼ね。どうせ神様にお願いするなら、自分で出来ないことを頼む方が良いでしょう?」


 う〜ん……どうなんだろ。まあ、ある意味香織理さんらしいけれど。こんな所で自分の願いを出すような人じゃないものね。
 香織理さんは笹に短冊を括り付けると、そのまま、飾付けをしている千歳と史ちゃんの手伝いを始めた。

「そういえば、この飾りもちゃんと意味があるのよね?」
「はい。紙衣は病気災害を除く身代わり、投網は豊漁、巾着は節約と商売繁盛、短冊は学問や書道の上達を願ったそうです」
「ふうん……流石は史ちゃん、物知りだね」
「ありがとうございます」
「ううん……じゃあ、学問に関係した願いごとの方が良いのかな?」


 陽向ちゃんはそう云って、自分の短冊になにやら書き込む。どれどれ……?

「小説家になれますようにって……学問、関係ある?」
「ありますとも。文学って云うぐらいですから!」


 自信満々にそう云って、陽向ちゃんは笹に短冊を括り付けた。
 あたしはどうするかな。どうせなら、もっと直接的に……。

「あら、成績が上がりますように、だって。薫子、そういうのは日頃の努力の積み重ねなのよ?」
「い、良いじゃない、別に……なんていうの? そう、自分への叱咤激励!」
「まあ、有言実行という言葉も有るけれどね……」


 呆れて肩を竦める香織理さんだけど、ほら、目に見えて効果のあると分かる方が、願い事っぽいじゃない。
 あたしと千歳、初音も短冊を括り付けて……うん、中々に立派な七夕飾りになった。
 千歳と初音の短冊にも目を走らせてみる。千歳は『友だちが沢山出来ますように』、初音は『優雨ちゃんが元気になりますように』か。

「ねえ、史ちゃん。この短冊、まだ余ってるかな?」
「はい、十分に用意してあります。お使いになりますか?」


 史ちゃんが懐から短冊を取り出すと、初音は礼を云ってからそれを受け取る。鉛筆を走らせてから飾られていくそれは……なるほど、言葉で駄目でなら文字にするってことか。

「初音、諄くならない程度にしておかなきゃ駄目だよ?」
「うん」


 後は、優雨ちゃんが短冊を飾りに来た時にこれを見て、少しでも心を動かしてくれれば良いんだけどね。





 翌朝。

「ん……あれ……?」

 あたしは珍しく、自力で時間前に目を覚ました。枕元にある時計を手に取って時間を確認する。

「うわ、六時って……なんで?」

 昨夜はいつもと同じ時間に寝たのに、こんな早い時間に目が覚めるなんて……自分で云うのもなんだけど、今日は雨だな。目を擦りながら身を起こし、カーテンを開けてみると。

「う〜ん……なんという良い天気」

 快晴じゃん。日の出の早い夏の朝、既に太陽は建物の上に顔を出している。雲なんてどこにも見えない。こりゃ、今日にも梅雨明けだね。
 眩しさに目を細めながら視線を降ろすと、きっと朝練なのだろう、寮の前の道を歩いていく生徒がちらほらと見える。
 中には、テラスを指差しながら談笑している子たちも居て……ああ、七夕飾りのせいか。表側から見ても結構目立ってるみたいだ。
 ……おっと、寝起きの格好をあの子たちに見られるのは、エルダーとして拙いよね。折角起きたんだし、早く着替えちゃうか。


「んん〜っ! 早起きも良いもんだね〜」

 グッと伸びをしながら息を吸い、身体の伸びを解していく。扉を開けて廊下に出ると朝特有の静かな空気があたしを出迎えて、自然と体が引き締まる。
 あたしは昔、親爺に云われて剣道の朝稽古に行っていたことがあるんだけど……物音のしない静かな空間っていうのは、こんな何でもない廊下でさえも、清らかなものに見えてしまうものだ。

「……あれ? 千歳?」

 廊下を進むと、七夕飾りの前に千歳が立っているのが見えた。流石、あたしと違って早起きだよね。

「よっ、千歳。おはよう」
「あ、薫子……ちゃん」


 あたしが片手を挙げて挨拶すると、幾分か大人しめの声が返ってくる。……ん?

「あれ、もしかして千早?」
「……はい」


 近寄って囁くと、静かに頷く千早。今日は特に服を着替えるような授業も無いし、休養日に充てたのかな? いや、千早がそれで休めるかどうかは別だけど。

「それにしても早いんだね。千歳はいつも早起きだけど」
「……いや、私の場合、化粧に手間が掛かりますから」


 あ〜……そりゃそうか。元が同じ顔とは云っても、簡単にばれるような化粧じゃ駄目だもんね。千早が女の子の化粧の仕方を知っているとも思えないし。
 苦笑した千早が七夕飾りの方に視線を移したので、あたしも改めてそれを見上げる。静かな朝風の中で揺れている短冊を何気なく手に取って、そこに書いてある文を読んだ。

『優雨ちゃんと仲良くなれますように』

 苦笑しながらその短冊を手放して、他の物へと目を向ける。あっちも、こっちも、優雨ちゃん、優雨ちゃん。

「やれやれ……諄くならない程度にって云っておいたのに」

 まあ、初音だって藁にも縋る――じゃなかった、神様にでも縋りたい気持ちなんだろう。もっとも、そんな時であっても自分の願いより先に優雨ちゃんの健康を気遣う願いの方が多いっていうのは、なんとも初音らしいところだけど。

「そういえば、なんで千歳は七夕飾りなんて云い出したのかな?」

 事情を知ってそうな千早に尋ねると、千早は目線を変えないまま。

「……入院していた処で、七夕をお祝いしたそうなんです。その時はまだ、自由に動き回ることも出来て……何人かの友だちと一緒に、お願い事をしたそうですよ」
「ふうん、そうなんだ」
「あの頃は分からなかったですが、どの短冊を見ても、どことなく遠慮したものばかりだったんですよね。もっと我が儘を云ってもいいのにって、そう思ったことを覚えています」
「……そう」


 きっとみんな、良い子だったんだろう。遠慮することを知っている子供って云うのは、ちょっと悲しいな。

「あの時にも、こう書いていたんですよね……」

 千早はそう云って、千歳の書いた短冊を見る。きっと千歳にしてみれば、とっても大事な願いなんだろうな。

「ね、千歳は今を楽しめているのかな?」
「……そうなら良いと、思います」


 笹が擦れる音を聴きながら二人でしんみりとしていると、不意に、その短冊が目に付いた。

「ん? 『薫子お姉さまが早起きできますように』……これ、史ちゃん?」
「あ……もう、史は最近、遠慮が無くなってきましたね。ちゃんと云っておかないと」
「あ、あはは……まあ、堅苦しくお仕えされるよりは、妹みたいに接してもらった方が嬉しいけどね……」


 ちょっと生意気な妹、と云うのはあんな感じなんだろうか。……はっ? まさか、早く目が覚めたのはこれの所為?





「3−Bの烏橘ですが、七々原さんはいらっしゃいますか?」
「はい、少しお待ちくださいね。……薫子さん、烏橘副会長がお見えですよ」


 ふ、二日連続!? しかも昼前!

「お、お待たせしました〜……」
「……なんでそんなに卑屈なの?」


 沙世子さんが怖いからです、とは云える筈も無く。

「まあまあ。今日も初音のこと?」
「……ええ」


 憮然とした表情で沙世子さんが頷く。……何であたしの所に来て愚痴るんだろうか、この人は? 友だちだって居るだろうに。

「昨日とは打って変わって静かなんだけど、思い詰めているような感じなのよ」
「昨日の遣り方が失敗だったんで、何か作戦でも考えているんでしょ」
「……ちょっと、大丈夫なの?」
「だ〜か〜ら、そんなに心配なら沙世子さんが話を聞いてあげれば良いじゃないの」
「それが出来ないから困ってるんじゃない」


 何で出来ないのさ。あたしに聞きに来る方がよっぽど困るでしょうに、全く……。

「初音だって偶には違う人からの意見も聞きたいだろうから、遠慮することなんかないのに」
「それは……そうかもしれないけど」
「なんなら、あたしから聞いたってことにして良いから。ねっ?」
「……そうね、そこまで云うなら」


 な〜にがそこまで云うならよ。去っていく沙世子さんの背中に舌を出しながら、口の中だけで文句を云う。
 なんだってあたしが沙世子さんに気を使わなきゃいけないんだか。あたしに対してはこれだけ強気なのに、初音に対しては弱いんだから……。

 この時は、これでとりあえず落ち着くかなと思っていたんだけど。果たして、沙世子さんの助言が功を奏したのかどうか。今度は初音が、昼食に誘ってきたのだった。



「初音は相変わらずのクラブサンドだね」
「え、駄目かな……?」
「いや、好きなら良いんだけどさ。さて、あたしは……ビーフシチューにでもしますか」
「……私は、ポトフにしましょう」


 食券売り場の前に居るのは、あたしと初音、そして千早。エルダー二人が並んでいるということもあって、周りからの注目度は抜群だ。
 初音が千歳ちゃんも一緒にと云うから、こうして連れ立って来たわけだけど。千早、大丈夫かな?
 料理を受け取ってテーブルへと向かうと、食事を終わって談笑していた何人かの子が、気を使って席を立つ。
 全方位から視線を浴びるのは遠慮したいので、窓際にあるテーブルを選んで、何かを期待していそうな子たちに会釈してから腰を下ろした。
 ……背後で『笑ってくださったわ!』とか云ってるけど、とりあえず忘れておこう。

「じゃ、先に食べちゃいますかね?」
「そうですね。では……主よ、今から我々がこの糧をいただくことに感謝させ給え。アーメン」
「「アーメン」」


 お祈りを済ませて食事に手を付ける。うむ、相変わらずの安定した美味しさだね。

「ポトフって、初めて見ました……」
「え、そうなの? 千歳は結構食べているから、見たことぐらいあるかと思ってた」
「そう云えば、初音ちゃんの前でこれを食べたことは無かったですね」


 ……千早、微妙に言葉遣いが……。あまり込み入った話になると、鍍金が剥がれそうで怖いよ。

「時間を掛けてゆっくり作るから、色は少々悪いですけど。柔らかくて美味しいですよ」
「そうなんだ。私も今度頼んでみますね」


 スプーンで野菜が切れるくらい、じっくりと煮込んで作っているんだって。あたしも食べたことがあるけれど、結構美味しかった。
 あんまり食べないのは、あれだ……歯応えが少ないから、腹持ちが悪そうなんだもん。

「それで……話って云うのは、優雨ちゃんのことでしょ?」
「うん」
「しかしねえ……正直、あたしなんかじゃ、どうしていいかさっぱりなのだよ」
「……千歳ちゃんは?」
「話を聞いてもらえないというのは、結構な難題だし……今日、七夕飾りを書いてもらって、それを優雨ちゃんに自分で付けてもらえば、初音ちゃんが書いた短冊も見てもらえると思うのだけれど……」
「後はそれを見て、優雨ちゃんがどう思うかだよねぇ……初音?」


 あたしと千早がそんなことを云っていると、初音が目を丸くしていた。はて、何かおかしなことを云ったかな?

「……七夕飾りって、その為に用意したんですか?」
「「……え?」」
「私はてっきり、七夕の飾りを話の種にして、優雨ちゃんを頑張る気にさせるのかなって……」
「いや、あれはどっちかと云うと、仲直りさせる為のアイテムなんだけど……」


 ちょっと恥ずかしそうに目を伏せて、初音が顔を赤くする。
 いや、話を聞いてもらえないなら、七夕の話も出来ないじゃないの。そういうところ、初音は結構天然さんだよね。

「ま、まあ、それは兎も角。もし話を聞いてもらえるようになったとして、初音はどうやって仲直りする心算なの?」
「う〜ん……仲直りもそうなんだけどね、私、もっと優雨ちゃんが楽しく生活できるようになってほしいの」
「ほぅ?」
「優雨ちゃん、あんまり表情が変わらないし、窓から外をずっと眺めてることが多いし……優雨ちゃんの体力的には難しいって分かっているんだけど、もっと外に出て、色んなことを知ってもらいたいんだ」


 胸の前で手を組み、静かに語る初音の姿は……本当に、優雨ちゃんのことを考えているお姉さんだった。

「でもそうなると、優雨ちゃんには、健康になれるようにリハビリをしてもらわなくちゃいけないよね」
「そうだね……優雨ちゃんに外の世界が楽しいんだよって知ってもらって、自分から健康になる努力をしてもらわないと」
「やっぱり、難しいですかね?」


 あたしと千早の言葉に、初音が首を捻る。うん、結構な無理難題に聞こえるよね。優雨ちゃんと仲の良い千歳にしても、そういう話となると駄目そうだし。
 なにより、人に云われて努力するんじゃあ、優雨ちゃんが今まで居ただろう病院での生活と、何も変わらないしね。

「う〜ん……まあ、そんな未来のことを考えるより、先ずは初音とちゃんと話が出来るようになる方が先だよね」

 何か良い方法は無いものか。あたしや千歳はともかく、千早なら何か良い案が浮かぶんじゃないだろうか?
 そう思って千早の方を見ると、いつの間にか食事を終えていた千早は、なにやら上を見上げて考え込んでいる。あたしは何気なくそちらに目をやって……って、あれ、千歳じゃん! 付いて来ちゃったの? 優雨ちゃんみたいに誰か見える人が居るかもしれないから、『外』に出ている時は寮内で大人しくしているって云ってたのに。
 あたしが口を尖らせると、中に浮いている千歳はちょっと苦笑いし、千早に何か云ってから空を滑って戻っていった。……あたしには良く聞こえなかったけど、何の話をしてたんだろう?
 首を傾げたあたしを余所に、千早はちょっと考えると、初音に向かって口を開いた。

「……あのね、初音ちゃん。歌とか、どうかな」
「「歌?」」


 突拍子も無いその言葉に、あたしと初音の疑問が重なる。あ、もしかしてこれが千歳の入れ知恵なのかな?

「普通の言葉では無理でも、歌詞という形にすると、案外聴いてくれるかもしれないよ?」
「……私が歌うんですか?」
「うん」
「そ、そうですよね……う〜ん……」


 いきなり歌って云われても、そりゃ困るよねぇ。初音は別に音痴じゃない……どころか、結構上手な部類だけどさ。

「優雨ちゃんはクリスチャンの子だし、賛美歌の中からそれらしいのを探してみようかな……?」

 あれ、これは意外というか。初音、結構乗り気じゃない。賛美歌なら確かに……ん?

「ねえ、千歳。賛美歌っていうか、どんな歌であってもアカペラだと結構大変だけど、その辺りはどうするの?」
「ああ、それなら私がピアノを弾きますから」
「「えっ!?」」


 何だ、今日は驚かされてばっかりだな。
 それにしても千早、ピアノも弾けるのか……本当に万能なんだね。完璧過ぎて鼻に付くけど、まあ、今だけはその才能に乾杯してやろう。

「さて、これなら問題は解決かな?」
「あ、待って、薫子ちゃん」


 食事を終えたあたしは、特に問題も無さそうなので席を立とうとしたけれど、初音が待ったを掛ける。

「……千歳ちゃん、ピアノはどこで弾くの? いくらなんでも礼拝堂を借りるわけにはいかないし」
「ふふっ……良い場所があるんですよ」


 公私混同をしない初音らしい意見がその口から漏れたけど、千早は不適に笑って初音を宥める。
 あ……そうか、あそこか。

「ね、初音。第二音楽室って、知ってる?」
「ちょ……薫子ちゃん、先に云わないで……」






 その日の夜。
 優雨ちゃんのところに短冊を持っていくのは、満場一致で千歳――千早の役目となった。
 云い出しっぺが千歳なのだから、これは有る意味当たり前の結果なんだけど……ちょっと心配なのは仕方が無い。だって今は、千歳じゃなくて千早なんだし。
 優雨ちゃんの部屋に短冊を持った千早が入っていくのを見届けてから、あたしは史ちゃんの部屋を訪れた。
 史ちゃんの部屋は階段脇――テラスの直ぐ隣なので、窓から身を乗り出さなくてもテラスの様子が窺えるからだ。
 もっとも、窓を開けていてはいくらなんでも拙いだろうということで、いつぞやに使った監視カメラを窓の外に設置してあるんだけど。
 ……しかし、なんだ。突っ込もうかどうしようか迷うところではあるけれど。

「史ちゃんの部屋って、いつ見ても凄いよね……」
「……何が、でしょうか?」


 一言で云えば、電子の要塞っぽい。
 大型のパソコンが三台並んでたりするんだけれど、これは一体何に使っているんだろう? 本棚には専門書みたいなのが並んでいるし、部屋の隅には何か用途の判らない機械が置いてあるし……。

「ま、まあ、人それぞれだしね」
「?」


 史ちゃんは無表情のままで可愛らしく首を傾げるんだけど、背景と激しくミスマッチです。うぉんうぉんと云う機械のファンが回る音、ちょっと強めの冷房……史ちゃんがアイスを大量に食べても平気なのは、寒さに慣れているからだったりして。

「と、ところでさ、史ちゃんは今回のことをどう思う? 千歳じゃなくて千早に任せてるけど、大丈夫なのかな?」
「心配する必要はないかと」
「そうは云ってもさ……」


 史ちゃんは千早に対して結構厳しいけれど、それでも千早のことをとっても信頼している。その様子を喩えるなら、ツンデレって云うべきだろうか?
 本人は否定するだろうけれど、千早のことを語る史ちゃんは柔らかい顔をしているのだ。
 あたしは、千早のことを良く知らないまま過ごしてきたけれど。
 今まで特に困ったことは無かった――いや、ある意味では非常に困ってる――からといって、これからもそうであるとは限らないのだし、知る機会があるのならそれに越したことは無いだろう。

「……どうやら、お出でになったようです」
「おっ……」


 史ちゃんの声に視線をパソコンのモニターに向けると、千早と優雨ちゃんが連れ立ってテラスへと入ってきた様子が映し出されていた。



「優雨、好きなところに付けていいのよ?」
「……うん……」


 千早の言葉に頷いた優雨ちゃんは、七夕飾りをじっと眺めた後、風に吹かれて鼻先をくすぐった笹に手を伸ばした。
 可愛い手を動かして、しっかりと笹に短冊を括り付ける。何が書いてあるのかはちょっと見えないけれど……どことなく満足そうな顔をしているから、嫌々書いたって訳じゃないんだろう。

「……天使さま、ちとせはどんなお願いをしたの?」
「千歳さんは……ああ、有った。これよ」
「友だちが、沢山出来ますように……」


 千歳の書いた短冊を読んだ優雨ちゃんが、顔に疑問を浮かべて千早を見上げる。

「どうしたの?」
「ん……ちとせ、友だち沢山居ると思う……」
「……なのに、どうしてこんなお願いを書いたのかって、そういうこと?」
「……うん」


 なるほど、優雨ちゃんからしてみれば不思議なんだろうね。既に叶っている願いを書く意味はあるのだろうか、そんなところだろう。
 千早は優雨ちゃんの前で膝を落とし、目線を合わせて薄く微笑む。
 ああいう表情を見ると、千早と千歳が全くの別人に見えるね。千早は男だっていうのに、大人びた美女に見えてしまう。

「千歳さんは、きっと……もっともっと沢山の、そう、世界中の人と友だちになりたいのではないかしらね」
「……せかいじゅうの人……」


 そりゃまた、随分とスケールの大きな話になったなあ。でも、千歳なら実際に云いそうな気がする。

「優雨は、友だちを作るにはどうしたら良いと思う?」
「え……? ……お話を、する?」
「ふふ……そうね。それが一番、お互いを理解する方法ね」


 優雨ちゃんの答えに満足したのか、千早の笑みが大きくなった。

「世界中の人と友だちになるには、世界中の人とお話をしなくてはいけない。……なら、世界中を旅しないといけないわね」
「……凄い……」
「ええ、凄いわね。千歳さんはきっと……そうやって世界を旅して、見たことの無いものを見て、聞いたことの無いことを聞いて……色んなことを知りたいのだと思うわ」
「……」


 ……それは、千歳がどんなに頑張っても、きっと叶わないことなんだろうな。時間が無いっていうことは、それだけで大きな枷なんだ。
 優雨ちゃんは千早の言葉を聞いてなにやら考えると、ゆっくりと口を開いた。

「……ちとせが知りたいものって……そんなにいっぱいあるのかな……?」
「え?」
「ちとせ、色んなことを知ってる……なのに……」


 優雨ちゃんの疑問に驚いた千早は、幾つか言葉を考えているようだったけれど。首を振ってそれらを払い除けたのか、凄くシンプルな答えを出した。

「千歳さんは欲張りだから、世界中の素敵なものを知りたいのでしょうね」
「素敵なもの……」
「そう。優雨は、素敵なものを知りたいって、そう思わない?」
「……ん……」


 あれ、優雨ちゃんが俯いちゃった。どうしたんだろう?
 スカートを握っている手が、迷うようにモジモジと動いている。

「素敵なものは……いつも、窓の向こうにあるの」
「窓の、向こう?」
「うん……わたしはいつも、お客さん。見ているだけ……」
「……そう」


 お客さんというのがどういう意味か分からないけれど……それは千早も同じなんだろう。ちょっと困った顔をしているのが分かる。
 でも、見ているだけって云うのは、ちょっと悲しい言葉だな……。

「……優雨は、自分で素敵なものを見付けに行きたいって、そう思ったことは無い?」
「……ん……わからない……」


 『ある』でも『無い』でもなく『分からない』か。それは多分、考えたことが無いってことなんだろうな。

「そう……つまり、優雨は素敵なものの見付け方を、未だ知らないのね」
「……わたしにも、見付けられる?」
「勿論。だって、ここにも――」


 優雨ちゃんの質問に千早はニッコリと笑って、優雨ちゃんの胸を指差した。

「――素敵なものがあるのだから」
「え……わたし……?」
「そう。分かるかしら?」
「……」


 分かるかしらって云われても……優雨ちゃんは困ったように首を振る。あたしにだって分からないよ。

「それを知ったら、優雨もきっと、世界中の素敵なものを知りたくなると思うわ。……知りたい?」
「……うん……」
「ふふっ……そうね。知りたいわよね」
「うん……知りたい……」


 な、なにか云い包められているような気がするぞ? 千早、口が上手いというか……。
 ともあれ、千早は優雨ちゃんの言葉に深く頷くと、そっと一枚の短冊を手に取った。

「さて、そこで問題です。素敵なものを見付けるのは、友だちが沢山居ると簡単になります。では、友だちを作る方法はどうすれば良いでしょうか?」
「……え?」
「さっき、優雨も自分で云っていたわよね?」
「……」


 云いよどんだ優雨ちゃんに、千早は手に取った短冊を見せながら耳元で何かを囁いている。何を云ってるんだろう、もの凄く気になる……。

「どう、出来る?」
「……ん……頑張る……」




「あ……! 今、頑張るっていった! だよね、史ちゃん」
「はい、確かに」


 おお……ちょっとばかり心配だったけど、千早め、やるじゃないか。
 仲良くテラスを出て行く二人を見送ってから、史ちゃんが窓を開けてカメラを回収する。

「史ちゃんの云うとおりだったね〜」
「はい」


 背中を向けながらの言葉だったけど、その響きはどこか誇らしげだった。

「史は、千早さまを信じておりますから」


**********

 初音のシナリオが出来るという事は、きっと薫子と香織理が語った「啖呵を切った初音」も見れるのだろうけど……PCで見たいんですよっ!



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
第三章四話更新お疲れ様です。今回は初音・薫子Sideと千早・優雨Sideの二面(主観は薫子)ので進んで行きましたね。
相変わらずの初音の天然さや優雨の最後の決意の様なものが見ていて微笑んでしまいそうな感じでした。
次回作を期待しております。
では、失礼します。

PS.(という名の本題)
PSP版おとボク2の販売を教えていただき感謝感激です。早速ページへと飛び、詳細を調べさせていただきました。
初音ルートということは、やはり、というかとても気になっている所なのですが、沙世子との絡みがどういった形で表現されるのかが気になりますね。彼女は私の中ではかなりの好印象でしたので……。
優雨のルートは、病気を克服し、『窓の向こう』へと歩み出し始めた彼女と共に進む……という感じになるのではないでしょうか?
惜しむべきはやはり、PCでのファンディスクなどでの販売では無いことでしょうか…。ファンディスクなどを期待する方向でまいりましょう。
では、今度こそ失礼します。

2011/01/30 22:58
唯さん、こんばんは。

薫子主役の一人称で書き始めた本作ですが、それだけだと大変なんですよね。
でも私、短い話の中でころころと視点が変わるのは好きじゃないんで、こういう形(覗き見する薫子)で書いております。戸惑わないで読んでくれているのなら嬉しいですが……。

PSP版に関しては……どこかのゲームのように、PC版と一般ゲーム機との間を行ったり来たりするような事にならなければ、それで良いと思います。
PSP版の発売後に、PCで完全版だとかそういうのが発表されなければね。
雑誌媒体などに出ていながら使われていなかったCGが結構あったので、まあそれがPSP版の伏線になっていたんでしょう。
まあ、私はPSPを持っているので、とりあえず予約はしておこうと思います。

では、また。
A-O-TAKE
2011/01/31 21:21
報告です


・感謝させたまえ→感謝させ給え
・素敵なものの見つけ方を→素敵なものの見付け方を


今更ですが、原作でも思いましたが、ちーちゃんは優し過ぎますよね
以前の学校での妬みは壮絶なものだったんでしょうか…
Leon
2011/11/10 13:25
追加報告です


・きっと朝連なのだろう→きっと朝練なのだろう
・ちょっと恥かしそうに目を伏せて→ちょっと恥ずかしそうに目を伏せて


ちょっと質問なのですが、千早の一人称は「わたし」なのでしょうか、「わたくし」なのでしょうか
別にたいして気にする事でもないんですが気になったもので…
原作では千早がメインで「わたくし」ですが、こちらは千歳がメインだからどうなのかな、と思いまして
千歳は「わたし」だと思うんですけどね
Leon
2011/11/23 13:05
度々すみません

・あれ、これは以外というか→あれ、これは意外というか


そういえば…ポトフって単品なんだろうか?
女性の昼食とは言え、さすがに足りないと思うのは私が男だからなんでしょうね…
Leon
2012/01/30 21:55
文章修正中〜やはり土日は接続が重い……

千早の一人称は、千歳の真似をする時は「わたし」です。一応外交官の勉強をしているので、正式な場なんかでは男の格好でも「わたし」でしょう。
……いや、女装しているのは学院にいる時だけですけど。

>ポトフ
ゲームの中ではどうだったかな……描写されてなかったと思うけれど、クロワッサンみたいな小さ目のパンは付いてると思います。
千早は細いから足りるだろうけれど、薫子だと足りなさそうですね。
A-O-TAKE
2012/02/04 19:15
妃宮さんの中の人 3-4 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる