A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 4-2

<<   作成日時 : 2011/04/08 00:14   >>

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 大きな地震で起こされたので、時間潰しがてらに上げ。 

 一子さんは千歳よりも上級の幽霊(?)です。
 誰にでも見れるし、触れるしね……。

**********

「しっかし、香織理さんが倒れるほど驚くとは思わなかったな〜」
「……そうは云うけどね。扉を開けた瞬間、壁に半分埋まっている人間が見えたりしたら、驚かない方がおかしいでしょう」
「あはは……ま、タイミングが悪かったね」
「そういう問題かしら?」


 幽霊の一子さんを見て倒れた香織理さんは、幸いにして直ぐに目を覚ました。ちょっと驚きすぎて、血の気が引いて貧血になったらしい。朝早くで血圧が下がってたのも原因だろうね。
 ともあれ、二度寝する状況でもなかったので、あたしと香織理さんはちょっと早めの朝食を食べていた。

「大体、あんなにはっきりと見える人が幽霊だなんて、直ぐに判断できるはずも無いでしょう」

 肩を竦めながら器用にトーストを齧る香織理さん。
 あたしは苦笑を返しながら、ガシャコッとトースターから持ち上がった焼き立てのトーストにジャムを塗り、大皿の上に乗せる。
 本日の朝食はトーストにスクランブルエッグ(決して玉子焼きの失敗ではない)、プチトマトやスイートコーン、レタスなどを使った三色のサラダ。後は香織理さんの淹れてくれた紅茶。
 あたしと香織理さんは休日に朝から行動するということは稀なので、軽い朝食で昼まで十分に持つのだ。

「でもさ、その割には、今は随分と落ち着いてるじゃない?」
「そうね。まあ、貴女が普通に対応しているからというのもあるのだけれど……」


 香織理さんはふわふわと漂っている一子さんを眺めた後、紅茶を啜ってから一言。

「……なんとなく陽向に似ているから、かしらね?」
「あ〜……」


 なるほど。確かに雰囲気が陽向ちゃんに似ている。どこがどうとは上手く云えないけれど、あえて云うなら。

「……おでこ?」
「……おでこね」

『はい? 私のおでこがどうかしましたか?』





『――と云うわけで、私は無事に天へと召されたのです。いやあ、聞くも涙、語るも涙の物語ですよねぇ……』
「自分で云うかな、この子は……」

 食後に始まった一子さんの昔語りは、途中でしんみりとしつつも無事に終わった。
 あまり暗い雰囲気にならないのは、やっぱり一子さんの持つキャラクターの為なんだろう。
 興奮するとやたらと早口になったり、クネクネと体を揺らしながら話されたそれは、シリアスでありながらも湿っぽくならない話だった。

「それで、折角昇天できたっていうのに、一子さんはなんだってまた此処に戻ってきたわけ?」
『う〜ん……それが、良く分からないんですよねぇ』
「分からないって……」

 眉を顰めて考え込む一子さん。くるくる回りながら腕を組んで考え込んでいるけれど……スカート丈が短い制服だからパンツが見えてます。

『きっとお盆の時期だからだと思うんですけれど、気が付いたら、お姉さまの部屋のクローゼットの中で寝てたんですよ。まあ、もう天への昇り方は分かってますから、帰ろうと思えばいつでも帰れるんですが』
「そ、そういうものなの?」

 結構簡単ですよなんて笑いながら云う一子さんだけど、それはそれで怖いんじゃないだろうか。
 しかし、まさか聖應七不思議の幽霊とお姉さまたちが知り合いだったなんて、意外にもほどがある。……まあ、あたしだって人のことは云えないんだけど。

「香織理さんは、お姉さまたちから一子さんのことって聞いたことある?」
「まさか、そんな筈無いじゃない。……まあ、他人に軽々しく話せるようなことではないし、話したらそれはそれで問題があるでしょう」


 そうだよねえ。実は幽霊と知り合いなんです、なんて云えるわけ無いし。

『あれ……薫子さんたちもお姉さまのことをご存知なんですか?』
「え? ああ……あたしが云ってるのは瑞穂さんのことじゃなくて、あたしのお姉さま――奏お姉さまのことだよ」
『ああ、なるほど。そうですよねえ、私は一年生の時の奏ちゃんしか知らないですけれど、みなさんちゃんと進級したんですよねぇ』

 シミジミと語る一子さんは、遠く離れた友人を思うような、ちょっと寂しそうな表情を浮かべた。さっきの話の中でも、一子さんとお姉さまたちは仲が良かったみたいだしね。

「ふふっ……進級なんてものじゃないわよね、薫子」
「そうだよね。奏お姉さまはみんなのお姉さま――エルダー・シスターになったし、由佳里お姉さまは生徒会長になったんだしね」

『ええっ!? 本当ですか!?』

 あたしの言葉に、一子さんは文字通り飛び上がってくるっと中で一回転。幽霊ならではの驚き方と云うべきだろうか。

「そんなに驚くことなの?」
『そりゃあもう。立派になったんですねぇ、二人とも……』
「それだけじゃないわよ? お姉さまの妹である薫子も、エルダーになったのだし」
『ええっ!? ……あははっ、またまたご冗談を。そんなに嘘ばっかり云って私を騙そうとしても駄目ですからね〜?』
「……どういう意味さ、それ」

 そりゃああたしは、歴代の中でも最も『らしくない』エルダーだろうけどさ!
 お腹を押さえて笑う香織理さんを横目に見ながら、あたしはガックリと肩を落とす。

『あ、あれ? ……もしかして、本当のことなんですか?』
「くくっ……ええ、勿論……ふふっ……しかも今年はエルダーが二人なのよ」
「香織理さん、笑い過ぎ!」

『エルダーが二人……!? そんな、それじゃあもしかして両手に花? 瑞穂お姉さまと幸穂お姉さまが一緒に……なんという天国……!』
「何を阿呆なこと云ってんの」

 あたしは夢見心地な顔になった一子さんに思わず突っ込む。頭を目掛けて振った掌は当然擦り抜けると思ったら……。

『あ痛っ!』
「あ、あれ? 一子さん触れるの?」
『……はっ!? あ、危なかった……そのまま昇天してしまうところでした……』
「……。いや……もうさ、そのまま帰っても良いんじゃない?」
「ふっ……くくっ……もう駄目……」


 普通に触れることに驚いて声を上げるものの、そのまま流されてしまって脱力する。
 そんなあたしを見て、笑いすぎて痙攣している香織理さん。だから笑い過ぎだっての。

『は〜、しかし本当のことだといっても想像できませんねぇ。奏ちゃんがエルダーですか』
「……ねえ、一子さん。貴女の知るお姉さまや由佳里さんは、どんな感じだったの?」

 なんとなく興味が出て、そんなことを尋ねてみる。あたしは勿論のこと、香織理さんもお姉さまたちの一年生の頃なんて知らないし。

『奏ちゃんと由佳里ちゃんのことですか? そうですねえ……』

 あたしたちの目線まで降りてきた一子さんは、腕組みをしながらフラフラと左右に揺れて眉を寄せる。

『奏ちゃんはいつも「はやや〜」って云ってる子で、由佳里ちゃんはハンバーグを食べていれば幸せになれる子でしたねぇ』
「……なんじゃそりゃ」
『寮の中では、いつもそんな感じでしたよ? 由佳里ちゃんは、いつもまりやさんにからかわれてましたしね』

 さっぱり分からん。ふと香織理さんを見ると、あたしと同じように呆気に取られている。……て云うか、考えて出てくる印象がそれって。もうちょっと良いところを思い出してくれればいいのに。

『私、この寮から外に出ることは殆ど無かったので、普段の学校生活で二人がどんなだったかって知らないんですよね』
「そうなの?」
『はい、この通り私は幽霊でありますから。人目に付いちゃ拙いということで、こっそりと生活していたのです』

 幽霊がこっそり生活って。いやまあ、間違ってはいないんだろうけれどさ。
 そういえば千歳の場合、あたしや千早なんかの限られた人間にしか見えないらしいけれど、話を聞くに一子さんは誰にでも見えるみたいだね。

「こっそりとは云うけれど、一子さん」
『はい?』
「聖應の七不思議の中に、一子さんの話もあるんだけど。ねえ、香織理さん?」

 あたしは香織理さんに目を向けると、香織理さんもまた頷いて、その話を続ける。

「女子寮の屋根に座る夏服の少女、って話なのだけれど……時期的に考えて、どう考えても一子さんのことよね」
『なんと! もしかして私有名人!? いけない、それはいけません。またどこからか修道士さんが来て封印されてしまいます! 急いで隠れなくっちゃ! あああでもでも、一体どこに隠れましょう!』
「え、あ、ちょ……」

 あたしたちが見ている前で、一子さんは天井を擦り抜けて居なくなってしまった。いや、いくらなんでも今日の今日で、直ぐに話が伝わる訳でも無いでしょうに。

「何て云うか……本当、幽霊っぽくない人だねぇ」
「そうね……」


 多分、自分が封印されていたという開かずの間――瑞穂さんが使っていた部屋のクローゼットの中にでも逃げ込んだんだろうけれど。

「香織理さん、部屋の鍵とか持ってる?」
「無いわよ。鍵の管理は寮母さんがしているのだし……」
「そっか。……まあ、戻ってくるのを待つしかないか」
「……彼女、いつまで此処に居るのかしらね?」


 ああ、そういえばその辺りの話を聞かなかったなあ。お盆で里帰りだって云うのなら、一週間ぐらいで天に帰る(?)んだろうけれど……。
 あたしと香織理さんは天井を眺めながら、揃って首を傾げたのだった。


 ちなみに、一子さんは一人で隠れているのが退屈だったみたいで、昼前には食堂に戻ってきた。バラエティー番組を見てケラケラ笑う一子さんに香織理さんが引いていたのはここだけの話。





 日が暮れて、夜になって。
 あたしと香織理さんは、あたしの部屋で一子さんの話を聞いていた。一子さんは学院の敷地内なら自由に動き回れるって云うけれど、やっぱり寮の中が一番落ち着くらしい。

『通学時間帯に、たま〜に屋根の上に登ってみなさんの噂話とか聞いていたんですよね。多分そのときに私の姿を見た人が居るんじゃないかと……』
「ふうん……やっぱり寂しかったの?」
『いえいえ、お姉さまを始めとして皆さん優しかったですから、あんまり寂しいって気持ちにはなりませんでした』
「なんとなく想像できるわね。お姉さまも由佳里さんも優しい人だから」
『でもでも、由佳里ちゃんは怪談話とか大の苦手で、私以外の幽霊さんは苦手だったみたいですけどね』
「あはは……そりゃ、幽霊が得意だって人はあんまり居ないと思うけれど――」

 んん? 何か今、妙なことを云わなかった?

「ちょっと待って。一子さん、この学校に一子さん以外の幽霊が居るの?」
『正確には、居た、ですけどね。第二音楽室の幽霊って聞いたことありませんか?』
「え、それって……」

 あたしは思わず香織理さんと顔を見合わせる。確かに陽向ちゃんが調べてきた七不思議の中には、その話もあったけれど……。

『お姉さまと奏ちゃんが、その方が天に召される場面に居合わせたそうで。私も『向こう』で会いましたけれど、ちょっと無愛想だけど良い人でしたよ?』

 ……向こうってどこさ。

「ま、まあ、今は居ないっていうなら問題は無いよね、うん」
「そ、そうよね。ふふふ……」


 ……案外、幽霊ってあちこちに居るのかもしれない。
 ちょっと怖い想像で咽喉が乾いたので、あたしはティーカップに手を伸ばす。……っと、もう無かったか。

「香織理さん、お茶のおかわりは?」
「……そうね、貰おうかしら」
「ん、じゃ、ちょっと待っててね」


 あたしは香織理さんのカップを受け取り、セット一式を持って食堂へと向かう。どういうわけか、あたしの後に一子さんが付いてきたけれど。……あたし、憑かれたりしてないよね?

「一子さん、部屋で待ってれば良かったのに」
『いえいえ、薫子さんは奏ちゃんの妹さんだったんでしょう? ちょっと実力を見せてもらおうかなと思いましてね』
「え? それってどういうこと?」

 一子さんの声に首を傾げながらも、あたしはお姉さまに教わった(一応教わってはいるのだ。やらせてはもらえなかったけど)方法で紅茶を準備した。
 薬缶に火を付けて湯を沸かし、カップを漱ぐのと一緒にポットを温める。
 茶葉を計ってサーバーに入れ、時間を確認してから沸騰した湯を注ぐ。
 蒸らしが終わる直前に軽くマドラーで掻き混ぜて、それから茶漉しを使ってポットへと注ぐ。最後に茶漉しを軽くトントンとして水滴を落とす。
 後は部屋へ戻って、カップに注げば良いんだけれど。

『むむむ……』

 部屋に戻って紅茶を入れていると、一子さんがあたしの手付きを見ながら唸っている。
 正直な話、そんなにじっと見詰められてるとやり難いんだけどなあ。

「はい、香織理さん」
「ん、ありがと」


 香織理さんにカップを渡してから、あたしも自分のカップに口を付ける。
 まあまあかな、なんて思っていると、一子さんが大仰に肩を落として首を振った。

『ああ、なんてことでしょうか……』
「何、急にどうしたの?」
『自称お茶淹れ日本一の私が認めた奏ちゃんのお茶淹れ技術が正しく伝授されていないなんて……私は悲しいです! 薫子さん、貴女は本当に奏ちゃんの妹さんですか!』
「ええっ!?」

 どーん! という感じで指を突きつけてくる一子さん。
 いきなりそんなこと云われても……そりゃあ、本当に触り程度しか教えてもらっていないけどさ。
 と云うかだね、『自称』お茶淹れ日本一って凄いのかどうか良く分からないでしょ。

「薫子は甘やかされていたものね。朝は起こしてもらったり、お茶は淹れてもらったり」
『ああ、私に物が掴めれば、エルダーのなんたるかを手取り足取り教えて上げるのに……』
「あ、あはは……遠慮しておくよ」
『そうだ! 私が薫子さんに取り憑いて、実際に体を動かしてみましょうか!』
「ええっ!?」

 良いことを思い付いたって顔で一子さんが手を叩く。取り憑くって、一子さんもそんなこと出来るの?

『大丈夫ですよ、ちゃんと前例もありますし』
「前例!? いやいや、遠慮しておきます!」
『え〜……』

 口を尖らせる一子さんだけど、全力で断っておく。千早を見ていれば、憑依されるのがどれだけ大変か分かるからね。

「ふふっ……まあ、取り憑くのは兎も角として、少しは女らしさを勉強するのも良いんじゃない?」
「……香織理さん、他人事だと思って……」
「だって他人事だもの」
「くっ……香織理さんのイジワル!」
「あら、怖い怖い……さて、薫子が本格的に怒り出す前に退散しましょうか」


 香織理さんは含み笑いをしながら立ち上がると、お茶のセットを手に取って扉へと向かう。

「お詫びに、これは私が洗っておくわね。それじゃ、おやすみなさい」
「あ、うん、お休み」

『お休みなさ〜い』

 パタンと扉が閉まると同時、あたしの口から欠伸が漏れる。
 時計を見ると、まだ午後十時過ぎ。いつもならもっと起きているんだけど、今日は早く起きた上に色々と疲れることがあったからなあ。

「ふあ……あたしもそろそろ寝るかなあ」
『ええ〜……まだ夜はこれからですよ〜?』
「いや、そりゃ幽霊的にはそうなんだろうけどさ」

 幽霊の活動時間なんてものは、普通、草木も眠る丑三つ時なんだろうからさ。……確か午前二時だっけ?

『まあ、眠いなら仕方がありませんか……それじゃ私も眠るとしますかね』
「えっ?」

 幽霊って眠る必要が有るの?
 呆気に取られたあたしの前で、一子さんはあたしのベッドに滑り込む……って。

「ちょっと待てぃ」
『はい?』
「なんであたしのベッドに入る」
『え……そりゃ勿論、寝るからですが』

 布団の中から顔だけ出した一子さんが、何云ってるの? って顔であたしを見上げる。

「いや、そうじゃなくて……何、一子さん、あたしと一緒に寝るの?」

 他人と一緒に寝たことなんて、物心付いてからこっち、お姉さま相手にしかしてないんだけど。

『……駄目ですかね?』
「いや、なんだ……ほら」

 寝ている間に取り憑かれたりとか、呪われたりとか、何か妙なことになったりしないとも限らないし? まあ、一子さんみたいな良い人っぽい幽霊が、そんなことをするとは思わないけどさ。
 思わず顔を見合わせて、さて何て云って断ろうかと考えていると、一子さんがぽつりと呟いた。

『……私、前は瑞穂お姉さまと一緒に寝てたんですよね』
「えっ?」
『私、幽霊なのに……瑞穂お姉さまとは何の関係も無い女の子なのに……床で眠らせるのは可哀想だからって、一緒に寝てくれたんです』

 瑞穂さんがただ優しいだけの人じゃないってのは知ってたけど、そんなことがあったんだ。度胸が有ると云うか、何と云うか。

『ホントにホントに素敵な人で、あれこそ正に私の理想のエルダーでした……。私は幽霊だから物を擦り抜けられるのに、私が部屋の中に居るからってお出掛けする時も部屋に鍵を掛けなかったりして……ちょっと間の抜けたところもありましたけどね』

 苦笑を浮かべた一子さんは、そこでチラッとあたしの顔を見上げてきた。……まあ、云いたいことは分かる。
 あたしもまた苦笑すると、一子さんの身体の横に自分を滑り込ませた。

「……ズルイよね。そんな風に云われちゃったら、同じエルダーとして嫌とは云えないじゃんか」
『えへへ……ありがとうございますっ』

 やれやれ……。
 あたしの横に居る一子さんの身体は熱くもなく冷たくもなく、だけど女の子らしい柔らかさを確かに感じていて……なんか不思議な感じ。
 一子さんの身体は布団を擦り抜けているので、当然布団が膨らむ筈も無い。
 要するに、ペタンと潰れた布団から一子さんの首から上だけが覗いている感じなのだ。……瑞穂さん、良くこれで眠れたなあ。

『それじゃ、お休みなさいです』
「ん、お休み、一子さん」

 うん、深く考えないで早く目を瞑ってしまおう。気にしたら負けだ。何しろ相手は幽霊なんだから。



『んん……むにゃ……お姉さまぁ〜……』
「ちょ、ちょっと……抱き付かないで……」
『うへへ〜……』

 寝言を云う幽霊とか……て云うか、幽霊が夢を見るとか在り得るの!?





「――薫子、もう朝よ。起きているの? ……薫子?」

 んん……。

「しょうがないわね……入るわよ? ……ほら、今日も朝を抜く気――あら」

 香織理さん、もう少し寝かせて……。

「ふむ、どうしたものかしらね。……そうだ。え〜っと……へえ、ちゃんと写ったわね。こういうのも心霊写真と云うべきなのかしら?」

 んん……何云ってるの……。

『ふにゅぅ……お姉さまぁ……』

 あ〜……何、この柔らかいの。あたし抱き枕なんか持ってたっけ……って。

「はっ!?」
「あら、起きちゃった?」


 目の前にある一子さんの顔を見て、寝惚けていた頭が急速に覚醒する。
 ふと視線を向けると、香織理さんがニヤニヤしながらあたしたちを覗き込んでいた。

「それにしても意外ねぇ。まさか、一緒に寝ているなんて」
「いや、これはそのだね……って、一子さん、もう離してよ」

『う〜ん……』

 あたしに抱き付いていた一子さんの腕を解いて何とか上半身を起こすと、もそもそと一子さんが動いた。起きたのかな?

『お姉さまぁ……行っちゃ嫌ですぅ……』

 ぎゅ、っと。あたしの首に腕が回された。寝惚けてる……ってあれ、ちょっと、何で顔が近付いて。

『ん〜……ちゅ』
「……!?」
「あ」


 ズキュウウウウン!!
 唇が! 一子さんの唇がぁ!

「あらあら……」

 ちょ、見てないで助けて!? 何で一子さんこんなに力が強いの……って、舌!? 舌がぁ!? HA・NA・SE!!

「ぶはあっ!!」
『ひゃん!』

 思いっきり一子さんを押し退けて、なんとか身体を離す。

『んん、なんですかぁ。随分と乱暴な起こし方ですねぇ……あれ?』
「うっ……ううっ……」
『あ、あれ? どうしました、薫子さん?』

 キス……あたしのファーストキス……しかもディ〜プ……。

「うっ……うわぁ〜〜〜〜ん!!」
『ええっ!? 何でいきなり泣き出すんですか!?』
「あらら……どうしましょうかね」

**********

 自称お茶淹れ日本一。
 小説「櫻の園のエトワール」の冒頭で奏が言っているのは一子のことです。
 でも実は、自称ではなくて他称。
 瑞穂の母・幸穂が、一子に対して「お茶を淹れたら日本一ね」と誉めたからなんですよね。


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内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
第四章・第二話拝見しました。
…といってもかなり遅れての感想となりまして申し訳ございません。
今話で一子が事情を説明して、絡んできましたね。ここからオリジナルな展開になるのか?
はたまた原作と交わるのか、期待してお待ちしています。
では、失礼します。

2011/04/17 21:09
どうも、お久し振りです。
最近は更新の方も滞っておりますので、感想を書いていただけるだけでありがたいです。
そろそろオリジナル色が強くなるだろうと思いますので、付いてこられるかが心配では有りますが……それは兎も角。
次話は半分ほどしか進んでおりません。肩凝りがとんでもないことになっていて、頭痛から何から併発しております。マッサージに通って頑張っていますけど、キーを打つのも大変……。
今週末ぐらいには仕上げたいと思いますので、そのときはまた宜しくお願いします。
A-O-TAKE
2011/04/18 23:00
細かいですが一つ

・「ちょっと待って。一子さん→最初の括弧だけ色が黒のまま

物をすり抜けるから中に浮いて寝てるんですよね…想像が全く出来ない。
想像出来ても変ですけど
Leon
2012/01/31 20:15
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