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zoom RSS 妃宮さんの中の人 4-エピローグ

<<   作成日時 : 2011/06/07 23:01   >>

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 今回はちょっと短め。

 う〜ん、どうしても蛇足的な感が否めない。まあ、エピローグはどの話でもそうなんですが。


**********



 夏の日差しに照らされながら、乾いた土の上を歩く。
 あたしと同じように陽に照らされた地面は、乾いた風に吹かれて土埃を舞い上げる。……どこの西部劇かと思うような感じだけれど、残念ながら此処は日本だ。自動車が入れない細い道なので、地面が固められていないだけ。
 網目の様に細かく区分けされたその場所を、目的の場所に向かって歩く。何しろ久しぶりではあるし、どこも同じような見た目なので、簡単に迷ってしまいそうだ。

「お嬢、こっちですぜ」
「……あれっ?」


 訂正……迷ってたみたいだ。方向を修正して、その場所へ。

「ああ、ここだ、ここだ」

 あたしの記憶の中にある場所と一致する場所を見付た。
 家の大きさと比べて、実に大人しい――普通の――作りのそれは、果たして親父の望みなのか、それとも此処に眠っている母さんの望みなのか。
 碌に写真も残っていない、顔も良く分からない母さんの墓。何で普通の家と同じように先祖と一緒に祭ってないのか、そんなことも良く分からない。今まで一度も聞けたことが無いんだから。
 そう、あたしにとっては思い入れも無い、そんな場所。

「……それでも、二年も放っぽって良いわけじゃないよね」

 あたしは、来なかった期間を侘びるように、お墓に向かって頭を下げた。


 毎年欠かさず訪れる親父が掃除をしているので、あたしがすることは殆ど無い。風に吹かれてどこからか飛んできたお菓子の包みを捨てたり、ちょっと萎れた花を新しいものに変えたり、そんなことぐらいだ。

「ねえ、順一さん。親父ってやっぱり一人で掃除してるの?」
「ああ。手伝おうと思っても触らせてもらえねえ。親父なりのルールがあるんだろ」
「そう……」


 子供の頃は、良く分からないなりにあたしも手伝っていたけれど、気拙くなってからこっち、どうしてそうするのかってことを聞けずじまいになってるからな……。
 一通りの片付けを済ませてから、線香を上げて手を合わせる。
 来れなかった時間のあれこれを話すには時間が足りない。……いや、正直に云えば何を話していいか分からない。結局、元気でやっていることを報告するぐらいだ。

「……さて」

 あたしはそっと立ち上がって、もう一度軽く頭を下げてから踵を返す。

「ん? もう良いんですかい?」
「うん。顔を見せに来ただけだから」


 これは単純に、あたしの自己満足の為だからね。十分も掛からないような目的の為に車を出して付き合ってくれた順一さんには悪いけど、そこは勘弁してもらうしかない。

「……来年は、遅れないように来るからさ」

 だから、心配してあたしのところに出てきたりせずに、ゆっくりと眠っててよね。……一子さんみたいに明るく出てきてくれるなら、まあ、会ってみたいとは思うけど。


 駐車場へと戻り、忘れ物が無いかを確認してから車へと乗り込む。

「うわ、暑いねえ……」
「ははっ、今が一番暑い時間帯だからな」


 車の中はむわっとしていて、冷房も直ぐには効かない。順一さんは車の中でタバコを吸ったりしないので、まだマシな方なんだろう。親父の車だったら、そりゃあもう……。

「どうしました、そんな顔して」
「ああ、いや、なんでも」


 いけない、顔に出てたな。まあ、あのタバコと整髪料とその他諸々の臭いは思い出したいものじゃない。

「さて、もう良い時間ですし、どこかで一服していきますかい?」
「う〜ん、お誘いは嬉しいけど、色々と柵が……」
「なんだいそりゃ」
「いや、聖應は男女交際禁止だからさ?」


 バックミラー越しに尋ねる順一さんに苦笑で返す。家族で外食ってのなら兎も角、男女で二人っきりだと、それがどういう関係であれ話題になることは間違いない。制服着てなきゃ大丈夫と思いたいけれど、あたしはそれなりに有名人だからね。

「やれやれですな」
「全くだよ」
「……ふむ、それじゃ、持ち出し出来る冷たい物でも買いますかね」


 アイスか何かをコンビニで……いや、昨日、史ちゃんが冷蔵庫の奥に隠してあったビスケットサンドアイスをお裾分けしてくれたし、アイスじゃ無い方が良いかな。

「そうだ。順一さんは、駅前ホテルの裏の方にある、ケーキ屋さんの場所って分かる?」
「ふん? ……ああ、そう云えば在ったなあ。そこにしますかい?」
「うん。あ、勿論買いに行くのはあたしだから、安心してよ?」
「そりゃ助かる。ああいう空気の店には入り難いからな」


 あはは、そりゃそうだろうね。あたしだって入り難い時があるんだから。





 学園の門に車を着けてもらって、後部座席から降りる。
 普段はこんなことしないけれど、夏休み期間中で人の目も少ないし、何より夏の暑さの中だ。駅から歩いて帰ってくるのは遠慮したい。

「それじゃまた、何かあったら連絡するから。……暑中見舞い、ちゃんとみんなで分けてよね?」
「分かってますよ。いくらお嬢からの差し入れが珍しいからって、独り占めなんてしやしませんて」


 尤も、先に親父が目を付けたらどうなるか分かりませんが、なんてククッと笑う順一さん。いや、いくら親父でもそんなことはしないだろうけどさ。
 去っていく車を見送ってから、門の脇に居る顔馴染みの守衛さんに、冷えた缶コーヒーを渡しながら声を掛ける。何年も前から警備員をしている、ちょっとお腹の出たいい歳のおじさまだ。

「いつもご苦労様です。はい、これ差し入れ」
「お、こりゃどうも。……そうそう、もう香織理ちゃんは帰ってるよ。お昼前ぐらいだったかな?」
「え、ホント? ありがとね」


 どうせ一人だと思って、外で順一さんとお昼を食べてきちゃったからな。電話で連絡くらいすれば良かったかな?
 あたしは小走りで寮の玄関へと急ぐ。別にあたしが書置きも無しに出かけたからって怒ったりするような香織理さんじゃないだろうけれど、心配はしてるかもしれないし。
 玄関の鍵を開けて、ちょっと深呼吸をしてから扉を開けた。

「ただいま〜」
「あら、おかえりなさい」


 玄関で靴を脱ぎながら声を掛けると、食堂の方から香織理さんの声がする。ぱた、ぱたと、スリッパを鳴らしながら出迎えに来てくれた。

「どこに出かけていたの? 出不精の貴女が随分と遠出をしていたみたいだけれど」
「出不精って……そうかなあ。いや、その……ちょっと墓参りにね」


 苦笑しながら返す言葉に、香織理さんはちょっと目を丸くしてから、ふわっと微笑んで。

「そう、良かったわね」

 ……ご苦労様でもお疲れ様でもなくて、そう云ってくれるのが、香織理さんなりの優しさなんだろうな。

「うん。……あ、これお土産。『ペストリー・アカシヤ』のロールケーキ」

 あたしはちょっと照れながら、お土産の紙袋を渡す。実家のみんなへの差し入れと一緒に買ったものだ。まあ、ちょっと散財だったけれど。

「あら、結構良い物じゃない。珍しいわね」
「ところで香織理さんや、偶には二人で山分けなんてどうかね?」
「……ふふっ、七々原屋、おぬしも悪よのう――な〜んて。荷物を置いていらっしゃい。お茶の用意をしておくわ」
「は〜い」


 ノリノリで返してきた香織理さんは、紙袋を片手に笑いながら食堂へと消えていく。折角の二人っきりなのだ、ちょっとくらいの悪戯心があってもいいよね。


 手早く着替えを済ませて食堂に下りてくると、そこには意外な状態のロールケーキが待っていた。なんと、中央から両断されただけ。

「……香織理さん、なんだってこんな」
「だって山分けでしょ? こんな切り方も遊びがあって良いじゃない」
「いや、恵方巻きじゃないんだからさ」


 ロールケーキを両手に持って、豪快に齧り付けとでも云うのだろうか。最近は確かに巻き寿司以外のものもあると聞くけど。

「やあねえ、さすがにそのままにはしないわよ」

 追加で食卓に用意されたのはナイフとフォーク。つまりあれか、ステーキのように切り分けながら食べるのか。

「香織理さん、実は横着しただけ?」
「おほほ……だってこのケーキ、柔らかくて切り難いんだもの」


 ちょっと目を逸らしながら苦笑する香織理さん。
 まあ確かに、ふわっふわな作りが売りのロールケーキだものね。史ちゃんみたいにベテランでなければ、切るのは難しいか。

「ま、良いか。味に変わりがあるわけじゃないし」
「そうそう、邪魔が入らない――」


 香織理さんが云い終わらないうちに、ぴんぽーんという呼び出し音が鳴った。

「――残念」
「誰かな?」


 寮の人間はみんな鍵を持っている筈だし、他に誰か尋ねてくるような人って居たかな。考えてたってしょうがないので、二人で玄関へと足を向ける。
 ぴんぽーん。
 ぴんぽーん。
 ぴんぽぴんぽぴぽぴぽぴぽぴんぽーん。

「はいはい、今開けま〜す」

 なんだ、このせっかちな鳴らし方は。
 小学生みたいだなんて思いながら扉を開けると、そこに居たのは、大きなキャリーケースに寄りかかるようにしてぐったりとした陽向ちゃん。汗まみれの顔に安堵を浮かべて、弱々しい声を上げた。

「ああ、お姉さま方、居て下さって良かったです〜……」
「あれ、陽向ちゃん。……鍵は?」
「いえ、本当はもっと遅くに帰ってくる心算だったので、寮の部屋に置きっぱなしで」


 ありゃま。ま、それも仕方が無いか。あたしと香織理さんはどこにも出かける予定が無いって、ちゃんと連絡しておいたからね。
 取り合えず、力の抜けている陽向ちゃんに手を貸そうと一歩踏み出すと、あたしの後ろから香織理さんが飽きれたような声を上げた。

「あら陽向じゃない、もう家族旅行は終わり?」
「こ、この状況を見てそう返してくるとは、流石はお姉さまですね」
「今日は暑いものね。駅からその重たそうなケースを引っ張ってきたんでしょう?」
「はあ……まあ……」


 ああ、なるほどねえ。その状況が直ぐに分かる香織理さんも凄いけど、身の丈の半分ぐらいある重たそうなケースを引っ張ってきた陽向ちゃんも良く頑張ったもんだ。

「タクシーぐらい使えばいいのに」
「いやあ、私はぽっと出の小金持ちですから、節約するのが板に付いてまして」


 何云ってるんだか。取り合えず玄関先で話をしててもしょうがないので、香織理さんが陽向ちゃんを寮の中へと上げ、あたしはその荷物に手をかける。

「うわ、重っ。何入ってるのこれ?」
「ああ、それはこの夏の戦利品……げふんげふん。夏のお土産です」
「お土産……?」


 なんか、本の詰まった段ボール箱ぐらいの重さがあるんだけど、一体どんなお土産なんだか。

「……ふうん。陽向、それってお台場のお土産?」
「ぎくうっ!? 何故それを……」
「んん? 何の話?」
「いえいえ、分からなければ良いのですよ!」


 陽向ちゃんが慌ててあたしからケースを取り返すと、背中に回して、そのまま廊下を押していく。……香織理さんは中身がなんだか知ってるみたいだけど、一体何なんだか?

「そ、それよりも、私は何か冷たいものでも頂きたいのですが!」

 自分の部屋の前にケースを置いた陽向ちゃんは、話を誤魔化すように食堂へと入っていく。あたしと香織理さんはそんな陽向ちゃんを見送ってから、お互いを見て肩を竦めた。

「……ホント」
「……似てるわよね」
「おおっ!? お姉さま方はおやつの途中でしたか! こりゃ良いところに帰って来ました!」


 騒がしくって、ちょっと抜けていて、勿論優しいところもあって。ムードメーカーな陽向ちゃん。そりゃ、最初はおでこが似てるなんて云っちゃったけどさ。
 あたしたちは苦笑しながら、陽向ちゃんの後に続いて食堂に入る。

「云っておくけれど、勿論、陽向の分は無いからね?」
「なんとっ!?」
「もう十分も早ければ、陽向の分も用意できたのにねえ。タクシーに乗って帰ってくれば間に合ったのにねえ」
「う……ぐ……後生ですお姉さま、哀れな妹めにお裾分けを……」
「貴女の持ってきた『お土産』と交換というのは?」
「ぬおぉぉぉ、それはっ……!」


 ……絶好調だね、香織理さん。にやにやと笑いながらからかう姿が実に楽しそうだ。う〜ん、あたしがからかわれてる時もあんな感じなのだろうか。

「ほら、香織理さん、そんなに苛めないで。今から三等分に直そうよ」
「仕方が無い、このくらいにしておきますか」


 笑いながら厨房へと入っていく香織理さん。ちゃんとアイスティーも一緒に用意してくる辺り、そつが無いよね。
 さて、二等分にされているものを三等分に直すのは大変だなあ。……おっと、ちょっとずれたか。香織理さんの云ったとおり、柔らかくて切り難い。……あ、またずれた。

「あ、ちょっと何してるの薫子」
「あはは……ゴメン」


 三等分にする筈が、いつの間にやら七分割。

「……やれやれ。ま、三人で一つの皿から突くのも悪くない、か」
「おお、お姉さま話が分かる! では私はこれを」
「「あ」」


 ちゃっかりと最大サイズのものを取り寄せる陽向ちゃん。

「じゃあ私はこっち」
「ぬあっ!? し、姉妹揃って汚い!」
「弱肉強食よ」


 細かく崩れそうになっている部分があたしのか……なんか納得いかないぞ。

「大丈夫ですよ、総合的な量でなら薫子お姉さまが一番です!」
「はいはい、そういうことにしておきましょ」
「じゃ、改めて、頂きます」
「……んんっ! おいしいですね〜!」


 さっきまでのやり取りを忘れたようにして盛り上がる姉妹を見ながら、あたしもロール状ではなくなったケーキを口に運ぶ。うん、おいしい。

「それはそれとして、貴女のお土産もちゃんと出しなさいよね?」
「ぶふぅっ!? だ、駄目ですよ、あれは私の血と汗と涙を代償として得たものなんですから!」


 ……ホント、どんなお土産なんだか。
 やれやれ、残り少ない高校最後の夏休みだけど、この分だと最後まで騒がしくなりそうだね。





 その日の夜、珍しく親父から電話があった。

「とりあえずな、暑中見舞いと残暑見舞いの違いぐらい覚えとけ」

 ……偶に話をしたと思ったらそれなの?






**********


 PSP版のケイリ夏休みで、陽向が言っている「やることをやるだけ」って、多分二次創作関係だと思うんですけどね。そんなわけで、この話の中では家族旅行後に夏コミ、という強行軍の陽向です……まあ、どうでもいいことですが。

 それと、暑中見舞いと残暑見舞いは、立秋を境目と覚えておくといいです。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
第四章最終話、読ませていただきました。
今話では薫子が家族に関わる描写が書かれていましたが、今後父親と向き合うような場面があるのか、期待して待っています。…この作品内では原作よりかは多少、父親との仲は原作より改善されているかんじですかね??
そして現在梅雨の季節となっていますが、お体にお気をつけてお過ごしください。では、次章の投稿を心よりお待ちしております。
失礼します。

2011/06/13 19:59
唯さん、こんばんは。

薫子と父親との関係は、普通に話すけど仕事の話は嫌い、というレベルですかね。ゲームでは特に触れられていませんが、小説では「尊敬しているし好きだけど」と薫子が言っているので、その程度にはということで。
次回はEXを挟んでから次話の予定。今週末ぐらいに更新できるよう頑張ります。
では、また。


A-O-TAKE
2011/06/15 21:25
報告です


・気まずくなってからこっち→気拙くなってからこっち
・大きなキャリーケースをに寄りかかるように→大きなキャリーケースに寄りかかるように


ヒロイン昇格とはならなかった陽向ですが…あのテンションの陽向が千早に惚れるのもいまいち想像出来ないからいっか…なんて思ったりします
Leon
2012/02/01 08:26
ここまで修正終了。

そういえばキャラ箱のヒロインって、テンション高めの人ってあまり居ないですよね。アリスマのりっちゃんくらい?
一子は……まあ、一応エンディングも有るしヒロインと言えなくもないか。
A-O-TAKE
2012/02/13 21:51
妃宮さんの中の人 4-エピローグ A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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