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zoom RSS 妃宮さんの中の人 5-1

<<   作成日時 : 2011/07/03 17:10   >>

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 タイトル詐欺……?


**********

 私は宮藤陽向、『エルダーの事件簿』を書いている女子高生です。
 頭の中で色々考えながらお姉さまたちのことを文章に書くのって、ほんとに楽しいです。
 でも、一旦本物の事件に巻き込まれるともう大変。書くよりそっちの方に夢中になってしまうんです。
 どうして私、こうなんでしょうねえ。





 第五話 晴れのちユキ、ときどき泥棒





「あ〜……暑い……」

 二学期初日。朝の段階で既に30℃を超えている。この分なら今日も真夏日になるだろう。

「あ〜……暑い……」
「お姉さま、おはようございます!」
「ごきげんよう。今日も頑張ってね」
「はいっ!」


 エルダーとしての立場故、見た目はピシッと背筋を伸ばし、下級生の挨拶にもきちんと返答する。しかし。

「あ〜……暑い……」
「もう、情けないわねえ。あの子たちはあんなに元気なのに」


 ぶつぶつと文句を云っていると、背後から香織理さんの声が聞こえる。そちらを見なくてもどんな顔をしているかは分かっているので、あえて聞こえない振りをした。

「ごきげんよう、お姉さま!」
「ごきげんよう、今日も頑張ってね」
「はいっ!」


 ふう……確かに、あの子たちは元気だよねえ。
 何であたしが元気が無いかと云えば、ずばり、寝不足だからである。まあなんだ、どうしてそうなったかは押して知るべし。
 昇降口に入って靴を履き替え、教室へと向かう道すがら。香織理さんと別れた後に珍しくケイリに出会った。

「あれ、ケイリ。おはよう」
「やあ薫子、おはよう。……随分と眠そうだね?」
「ああ……やっぱりケイリには分かるか……」
「ふふっ、夜更かしも程々にね」
「ところで、どうして朝からこんなところに?」


 ケイリが来たのは屋上へと続く階段から。校舎の屋上は何も無い場所なので、立ち入る人間だって滅多に居ない。ましてや今は日差しも厳しい。

「なに、ちょっとした観察をね。それじゃ、また後で」
「あ、うん。……うん?」


 観察……それに『また後で』って……ううむ、相変わらず良く分からないなあ。

「みんな、おはよう」

 首を捻りながら教室へ向かい、扉を潜りながら声を掛ける。既に結構な人数が教室の中に居て、ふと時計を見るともう結構な時間だった。

「おはよう、薫子さん」
「おはようございます、薫子さん。今日は遅かったですね?」


 鞄を机の脇に掛けながら腰を下ろすと、聖さんと茉清さんがやって来る。夏休みが終わって一段と仲良くなった感じがするなぁ。

「んん、ちょっと眠くってね。それに暑いし」

 寝不足とだるさで軽い貧血のような感じになったあたしは、机の上に体を投げ出した。ぐでっとしたあたしを見た茉清さんは、肩を竦めて苦笑する。

「まあ、確かに暑いね。でも、私たちに比べたら、薫子さんは大したこと無いでしょう?」
「え、なんでさ?」
「外を歩いて体が熱くなったと思えば、電車の中に入れば容赦無い冷房で冷やされる。それが終わったらまた、学校まで暑い中を歩くんだ。正直、辛いよ」
「ああ、分かります。私なんて背が低いから、人いきれでくらくらしちゃって……」


 むむ……そうなのか。良く考えたら、あたしは小学、中学、そして高校と歩いて登校してるからなあ。通勤ラッシュとは無縁だし。

「なるほどね〜。それに比べれば、あたしは確かに恵まれてる」
「そうですよ。寮では朝食の後もゆっくり出来るんでしょう? 羨ましいわ」


 何気なく呟いた言葉が聞こえたのか、こよりさんが会話に加わってきた。こよりさんは遠距離通学で、部活の朝練がある日は5時起きだとか聞いたことがある。

「こよりさん、朝が弱いんだっけ」
「そうなの。今更かもしれないけれど、寮に入れば良かったかも」
「あはは……まあ、寮だってギリギリまで寝ていられるとかって訳じゃないけどね」


 二度寝なんてしようものなら確実に遅刻だしね。ただまあ、それでもゆっくりしてられる時間はあるし、その所為でうとうとしてしまって、慌てて跳ね起きることもあるんだけど。
 今日だって、香織理さんが出て来ないあたしを心配してくれなければ、どうなっていたか……。

「それにしても……暑い……」

 もう少し、冷房が強くならないかなあ。外気温と殆ど変わらない設定温度(設定は28℃)だから、風が当たらないと涼しく感じないよ。エアコンの前でぐったりしたい。

「やれやれ。……冬の夜、寒いなと呟く声に寒いねと返事があれば、心は温かくなると云った人が居たけれど――」
「――暑いときに暑いねって返事があると、余計に暑く感じますよね」
「はいはい、もう云うのは止めます〜ぅ」


 唇を尖らせて文句を云うあたしに、三人の笑い声が重なった。

「……そういえば、千歳はどうしたの?」

 ふと気が付いて視線を巡らすけれど、先に寮を出たはずの千歳の姿が見えない。薄情にも人のことを置いていったくせに、どこに消えた?

「千歳さんなら、鞄を置いて……その、お腹が痛い〜って云って……」

 ……トイレか。そう云えば、食事の後で史ちゃんからアイスを分けてもらってたっけなあ。何をやってるのかね、あの子も……。



 あっ。
 っと云う間に放課後になって。



「や〜れやれ、結局一日中暑いまんまだったなあ」
「薫子ちゃんも、一日中『暑い』って云いっぱなしだったね!」
「うっさい」


 千歳と連れ立って教室を出ながら、軽口を云い合う。
 TVから聞こえてくるニュースでは、関東の北側だけ冷夏だとかなんだとか云ってたけれど、この辺りは普通に暑い。
 残暑が治まるまで――夏が終わるまで、もう少し掛かりそうだ。

「あれ、薫子ちゃんに千歳ちゃん」
「ん? あ、初音」
「初音ちゃんも帰り?」


 昇降口へ向かって階段を下りると、珍しいことに初音が居た。生徒会でいつも遅くまで居残っているので、こんな時間に昇降口に居るのは珍しい。
 気になってそれを尋ねてみると。

「ふふ、今日だけですけどね。休みの間の部活動報告とか、明日にならないと出てきませんから」

 ああ、成程ね。……いつも一緒の沙世子さんが居ないところを見ると、初音を上手く追い出したのかもしれないけど。
 まあ、偶にはそんな日が有っても良い。初音だって少しは気を休めないとね。

「うふふ、今日は優雨ちゃんと一緒に遊ぼうっと」

 笑いながらそんなことを云う初音は、本当に嬉しそうだ。仲直り出来てからこっち、この姉妹も上手くやっている。
 何て云うか、初音が笑っているとみんなが安心出来るから、ずっとこの調子だといいなあ。

「んで、その優雨ちゃんとは一緒に帰らないの?」
「……それなんだけどね、最後の授業は体育だったらしくて、着替えが終わるのを待ってるの」
「えっ、優雨ちゃん、体育に出たの?」


 千歳が驚いた声を上げる。勿論あたしも驚いた。確か未だ、授業に出られるほどじゃないって云ってた気がするけれど。

「ううん、見学だけだけど、ほら、今日からもう冬服じゃない? その格好で見学じゃ暑くて大変だからって、体操服に着替えたみたいなの」
「なんだぁ……びっくりしたよ〜」
「それ、普通に陽の当たらない場所で見学してれば良かったんじゃ……」


 体操服だって、この炎天下の中じゃ暑いだろうに。いや、もしかすると優雨ちゃんがそれを望んだのかな?
 ま、着替えてからホームルームが終わるまで、大した時間も掛からないだろう。

「偶には一緒に帰りますかね。良いかな、初音?」
「うん、勿論」
「あ、それじゃ私も〜」


 千歳が手を上げて話に乗ってくる。そんなに急ぐ用事もないし、ちょっと脇に寄って待ってますかね。
 会釈しながら帰っていく生徒たちを見ながら、あたしたちは優雨ちゃんを待つ。五分経ち、十分経ち、あれおかしいな、何て思っていると。

「あ、優雨ちゃん……どうしたの?」

 何人かのクラスメイトと一緒に現れた優雨ちゃんは、しょんぼりとした、泣きそうな表情をしていた。



「おメダイが……無くなった?」
「……うん」


 おメダイってのは普通はマリア様とかの彫刻がされている、お祈りに使うメダルのことを指すわけだけど、聖應ではちょっと違う。
 制服のリボンタイの中央に在る、留め具を模したブローチがそれに当たるのだ。聖應の校章も兼ねているそれは、その性質上簡単に取り外しが出来るようになっている。

「着替えの時にどこかに落としちゃったとか、そういう話?」

 安全ピンのようなもので留めているのではなくて、リボンタイの金具に引っ掛けるようになっているので、着替えのときとかに落としてしまうこともあるのだ。
 もっとも、そういう物である関係上、無くしてしまうことも少なくないので、普通に購買で売られていたりする。ちょっと値は張るけれど。
 でも、優雨ちゃんはあたしの問いに首を振って。

「ううん……」

 ふるふると首を振る優雨ちゃん。はて、無くなったんじゃないとすると、もしかして誰かが持っていった?

「優雨ちゃん、どういうことなの?」
「……あのね、カラスさんが」
「「「烏?」」」


 優雨ちゃんのその言葉に、あたしたちは顔を見合わせる。言葉足らずだと思ったのか、優雨ちゃんのクラスメイトが前に出て口を開いた。

「えっとですね、今日は暑かったじゃないですか。だから更衣室の空気を入れ替えるために窓とカーテンを開けておいたんです。どうせ、誰も覗いたりしないと思って……」
「え、更衣室だよ? それはちょっと……」
「はしたないと云うか、シスターに見つかったら大変ですね」


 あたしと初音の言葉に、その子は首を縮ませてしまう。
 たとえ男の視線が無かったとしても、それはちょっと問題だ。ここはお嬢様学校であるからして、その手のことは大目に見てもらえないからね。

「まあ、立場上は見過ごせないんだけど……それで?」
「あ、はい。それで、そのう……リボンって、結構汗を吸って湿ったりするじゃないですか。だから、陽の当たる机の上に、並べて置いておいたんです」


 あ〜、何となく話は見えてきたぞ。

「それで、授業が終わって更衣室に入ったら、大きな烏が机の上に居て――」
「驚いて声を上げたら、烏の方も暴れて大騒ぎ――」
「何とか追い払って後片付けをしていたら、優雨ちゃんのおメダイが無くなっていて――」
「ああ、ストップストップ! みんな一斉に云わないで」


 あたしが声を上げると、ピタッとみんなが口を噤んだ。みんな、ちょっと興奮しすぎだよ。
 初音はちょっと腰を落として優雨ちゃんと目線を合わせ、頭をそっと撫でながら話を促した。

「それで、烏が優雨ちゃんのおメダイを持っていったところは見たのかな?」
「……ううん。でも、カラスさんは光っている物を持っていくから。私、病院に居るときに見たことがある……」


 そういえば、あたしも聞いたことがあるなあ。烏が光り物を嫌うって話。
 しかし、そうなるとその烏を見付けないと、優雨ちゃんのおメダイは出てこないってことになる。
 さてどうしようかと首を傾げたとき、一足早く千歳がポンと手を打った。

「よしっ。優雨ちゃん、これからおメダイを探しに行こう!」
「えっ……」
「烏が見付からなくても、もしかしたらどこかに落ちてるかもしれないし。まだ諦めるのは早いよ。ねっ」
「……うん」
「あ、じゃあ私も手伝います!」
「あ、私も!」


 優雨ちゃんの頷きに合わせて、クラスメイトの子たちも次々と手を上げる。……優雨ちゃん、みんなに好かれてるね。

「よし、それじゃあ行こうか」
「あ、みんな、ちょっと待って」
「ん? どうしたの初音」


 折角その気になったところだったのに、とあたしが初音の方を向くと、初音はちょっと眉を寄せて、何かを思い出すような表情をした。

「烏って稀に人を襲うこともあるから、気を付けないといけないなって思って。……そう、思い出した。何年か前に、焼却炉のゴミを漁りに来た烏が、生徒を襲ったことがあったんだよ」
「えっ? それ、本当?」
「うん。今は焼却炉の周りにフェンスが張ってあるから、烏も来なくなったみたいだけど」
「むむむ……」


 そうなると、みんなでぞろぞろ行くと逆に危ないかなあ。飛んでくる鳥ってのは結構怖いから、パニックになるかも。

「ここはやっぱり、少数で――」
「大丈夫だよ。こっちには薫子ちゃんが居るんだから!」


 あたしや初音だけで行くから、と云おうとしたあたしの言葉に被せるように、自信満々に千歳が胸を張った。

「えっ、ちょっと」
「あ、そうですね! 騎士の君が付いていて下さるなら安心です!」
「そうですわ!」
「いや、そんな簡単なことじゃないんだけど……はぁ、もう」


 ブイッとサインを出して笑う千歳を横目で睨む。悪気が無いのは分かってるんだけど……後で覚えてろよ?



 中庭に出たあたしたちは、更衣室の窓を背にして辺りを見回す。烏がどっちに飛んでいったのかは分からないけれど、少なくともここから見える方向に飛んでいったのは確かだろう。

「さて……ぱっと見た限りでは分からないなあ」

 この中で一番背が高いのはあたしだけど、さすがに庭全体を俯瞰して見れるわけじゃない。……もしかして、二階か三階の窓から見たほうが良かったかな?

「あっ、犯人発見!」
「ん? あ……」
「本当だ、あそこに居ますね」


 千歳が声を上げて指差した方向、高さが15mほどの春楡の木の真ん中、その枝の端の方に大きな烏が留まっていた。
 う〜ん……この辺りには割と烏が居る方だけれど、学校の敷地内にあれだけの大きさのやつが来るのは珍しいな。
 あたしたちが眺めている中、その烏は獲物を探すように首を振って周囲を伺っていた。

「何してるんだろう、あれ。餌を探してるのかな?」
「どうでしょうか……あれだけの大きさならもう何年も生きているでしょうし、この辺りに餌が無いことも分かってると思うけれど……」
「烏は頭が良いって云うもんね……」


 千歳の質問に首を傾げながら答える初音。あたしはそれに同意しながらも、やっぱり餌探しなんじゃないかなあと考える。
 聖應の敷地内は、外から容易に中が伺えないように、結構な数の木が植えられている。校門を出た道路の向かい側の公園もそうだ。
 つまり、生ゴミなんかを漁らなくても、虫とかを捕って餌にすることが出来るということだ。むしろ、最近のゴミ処理事情を考えたら、駅前で餌を探すよりもこっちに来る方が楽かもしれない。

「ま、あそこに烏が居るってことは、あの辺りを探すのが良いってことだね……でも、どうしようか」
「う〜ん、ちょっと近付くのは怖いですね」


 優雨ちゃんのクラスメイトの一人がそう云うと、みんながそれに頷いた。さっきはどれくらいの大きさか分からなかったから安心していたけれど、じっくりと観察してしまうと怖さが先に来てしまうんだろう。

「何か、追い払う方法はないかな……ん?」

 ばさり、と大きな翼を広げながら烏が飛び立った。一度、空高く舞い上がると、ゆっくりとこちらに向かって……こちらに向かって?

「あ、あいつこっちに来る!?」
「わ、わわっ」
「み、みんな頭を下げて!」
「きゃあっ!」


 初音が叫び、みんながそれに従って頭を抱えてしゃがんだ瞬間、バサッという羽ばたきの音が直ぐ傍で聞こえた!

「くっ……この」

 しゃがんだままの体勢で空を見ると、烏はさっきとは別の木に留まってこちらを伺っていた。
 羽を広げて今にも飛び立とうとしている辺り、何でこっちを狙ってるのか知らないけれど、どうやらあちらはヤル気らしい。

「むむっ、やるかこの〜!」
「こら千歳、挑発しないの!」
「だって〜」


 だってじゃないって。あたしは、立ち上がって「荒ぶる千歳さんのポーズ」とか云ってる千歳を窘める。ただでさえ目立つんだから……あ、まさか。

「千歳、いいから逃げなさい」
「え、何で?」
「髪よ髪! あんたの銀髪は陽に映えるんだから!」


 あたしの声に、その場に居るみんなが「あ」と呆けたような声を上げる。きらきらキューティクルは誰だって羨ましいけれど、烏に襲われるなんて普通は考えない。

「あ、ヤバッ!」

 ぼけっとしている間に、こっちを見ていた烏が飛び立った。そのまま真っ直ぐこちらへと向かってくる。
 あたしは思わず烏と千歳の間に割って入って――

「薫子!」

 ――聞き慣れた声と共に、あたしの前に何かが飛んでくる。思わず掴んだそれは……木の枝? ええい、考えてる場合じゃない!

「とりゃっ!」
「クエェッ!」


 手首を捻って投げた枝は回転しながら烏へと飛んで、当たりこそしなかったものの、反撃に驚いた烏は翼を翻してどこかへと飛んでいってしまった。

「は〜……」
「ふわ〜……ありがと、薫子ちゃん」


 肩を下ろして息を吐くあたしに、千歳がホッとした様子で笑いかける。やれやれ、とりあえずは無事だったか。

「お礼なら、武器をくれた方に云った方が良いかな。……ありがと、ケイリ」
「いいえ、無事で良かったですよ」


 あたしが振り向いた先――枝の飛んできた方から、ケイリがゆっくりと歩いてくる。良いタイミングで出てきたものだけど、もしかして出待ちでもしてたんじゃないだろう?
 あたしの視線に気が付いたのか、ケイリは僅かに肩を竦めて。

「朝のうちから、あの烏には気を配っていたんですよ」
「朝から? ……あ」


 そう云えば、朝、屋上へ続く階段から降りてきたっけ。ってことはあの時から、ある程度のことは分かっていた?

「登校したとき、あの烏が敷地の中に入っていくのが見えてね。どこに行ったのかなと、ちょっと観察していたんです」

 それが役に立つとは思わなかったけれど、なんてケイリは云うけれど。日頃から不思議少女っぷりを見せられているあたしとしては、どう考えたって偶然とは思えないね。

「それで、薫子たちはどうして烏と喧嘩するようなことになったんですか?」

 そんなあたしの気持ちも知らず、悪戯っぽい瞳を輝かせながら、ケイリはあたしたちへと問い掛けてきた……。



「――なるほどね」

 事情を知ったケイリは、おメダイの無い優雨ちゃんの胸元を見ながら何度か頷く。

「ねえ、ケイリの占いとか不思議パワーで、優雨ちゃんのおメダイを見付けられない?」
「不思議パワーって……薫子は私を何だと思っているのかな……」


 うっ、ケイリに呆れた目で見られた。あたしにとってはケイリは十分不思議っ子だけどねえ。
 じっ、と期待するような目でケイリを見上げる優雨ちゃんに、ケイリはちょっと申し訳なさそうに笑うと。

「ごめんね。私はそれほど万能じゃないから、優雨の望みを叶えてあげることは出来ないんだ」
「そう……」


 しゅんとしてしまう優雨ちゃんに、初音がそっと寄り添ってその肩を抱く。
 烏が去った後に三々五々と散っておメダイを探していた千歳たちも、結果を出せずに戻って来た。やっぱり、そう簡単には見付からないか。小さな物だし、ひょっとしたら巣まで持っていってしまったのかもしれない。

「ね、優雨ちゃん。仕方が無いから、新しいのを用意しよう?」
「……でも……」


 優しく語り掛ける初音だけど、優雨ちゃんの眉は晴れない。

「何か、あのおメダイに拘りでもあるの?」
「……あのね、あのおメダイは、初音から貰ったものだから……」


 初音から? はて、どういうことだろう。みんなの視線が、優雨ちゃんから初音へと移る。ちょっと首を傾げていた初音は、何かを思い出したのか、大きく目を見開いた。

「もしかして、対面式のおメダイ?」

 優雨ちゃんは初音の言葉に頷く。
 対面式のおメダイ……入学式の後、新入生は生徒会主催の対面式に出ることになっている。
 新入生はここで初めて上級生と会うことになるんだけど、この対面式では、生徒会のメンバーと何名かの上級生(全員ではないのだ)が、新入生におメダイを付けてあげるのが慣わしになっているのだ。
 一品物と云うわけではないおメダイだけど、憧れの上級生におメダイを付けてもらった子は宝物として大事に取って置くなんてことも聞いたりする。

「そっか、それで……」
「……」


 優雨ちゃんが泣きそうな顔をしていた理由も、安くはないと云っても替えのあるおメダイを探そうとしていることも、それで分かった。

「優雨ちゃん、そんなに気にしなくて良いんだよ。きっとあのおメダイは、役目を終えて神様のところに帰ったんだ」


 初音はそっと、肩を落としている優雨ちゃんを抱きしめた。優雨ちゃんの頭を撫でて慰めている初音は、とっても優しい顔をしている。
 暫くそうしていた初音は、あたしたちがじっと見ていることに気が付いたのか、ちょっと顔を赤くしながら優雨ちゃんを解放した。

「はつね……」

 名残惜しそうな顔をして初音を見上げる優雨ちゃんの頭を、もう一回だけ優しく撫でて。

「そうだ、優雨ちゃん。私、良いこと思い付いたの」
「えっ……?」


 首を傾げる優雨ちゃん。初音は優雨ちゃんの可愛い仕草に笑いながら、自分のリボンからそっとおメダイを外した。
 そして、ちょっとしゃがんで優雨ちゃんと目線を合わせてから、そのリボンに自分のおメダイを取り付ける。

「はつね……良いの?」
「うん。優雨ちゃんへのプレゼント」
「……ありがとう」


 おお……優雨ちゃんが笑った。きゅっと初音に抱き付いている姿を見ると、こっちまで優しい気分になれるな。
 ふと気が付くと、優雨ちゃんのクラスメイトたちが小声で「流石は生徒会長」「お優しいですわ」「優雨さんが羨ましい」「私もあのおメダイになりたい」……ちょっと待て、最後のはなんだ。

「ふむ、これで一件落着、かな?」

 その場の空気を纏めるようにケイリが声を出して、みんながそちらを向く。ケイリは注目が集まるのを待ってから、さっき烏が留まっていた春楡の木を指差して。

「初音、おメダイの問題は良いとして、烏は何か対策を考えた方が良いと思いますね」
「えっ……うん、そうですね。人を襲うとなると、ちょっと問題ですね。生徒会の方でも、みんなに注意を呼びかけないと」
「そうだね、あたしもそうした方が良いと思う」
「烏なんて退治しちゃえばいいんだよ、もう……」


 さっき襲われたことを根に持っているのか、ぷくっと膨れた千歳が過激なことを云った。
 う〜ん、退治するのは兎も角として、どうにかしなきゃいけないのは確かだよね。
 暑い今の時期に中庭でご飯を食べたりする人は少ないだろうけれど、万が一お弁当を持った子が襲われたりしたら大変だし。





「それで結局、その烏はどうすることになったんですか?」

 夜。食事の後の茶飲み話でも、烏の一件が話題になった。
 放課後直ぐの時間帯だったので、結構な人数があのどたばたを見ていたみたい。面白い物好きの陽向ちゃんなんか、今も目を輝かせて初音の話を聞いている。

「う〜ん、本当なら退治出来れば良いんだけどね」
「……ねえ千歳、こう、なんか弓矢みたいのでプスッと出来ない?」
「え〜? 無理だよ。私、弓道もアーチェリーもやったことないもん」


 あ、そうなんだ。千歳って――いや、この場合は千早か――何でも出来るイメージがあるから、そういうのも出来るかなって思ったんだけど。

「私がやったことがあるのは、クレー射撃だよ」

 ライフルか何かを構えるようなポーズをして、口でバーン! とか云ってる千歳。そうか、クレー射撃か……。

「……うぇ……それは駄目でしょ」

 思わず、烏があの円盤みたいにパーンと飛び散る様を想像してしまったじゃないか。

「そ、そうですね」
「いえ、それ以前にお屋敷から銃を持ち出すことなんて出来ないのですが……」
「いえ、あの……そもそも、烏を勝手に退治するのは、法律で禁止されてるんですけど」
「え、そうなの陽向ちゃん?」
「はいです。確か鳥獣保護なんたらっていう法律がありまして」


 雑学豊富な陽向ちゃんが云うのなら、嘘じゃないんだろう。でもそうなると、放っておくしかないってことになるのか。

「取り合えず生徒会の方から、窓を開けっ放しにしないことと、烏を挑発しないようにすることを指示する心算だけど……」
「まあ、相手が相手だものね。こちらが注意していても危険なことには変わりないか」


 う〜ん、とみんなが首を捻る。烏が留まりそうな木を切っちゃう、なんて過激なことは出来ないし。場所が場所だから、フェンスで囲うって方法も使えないしね。

「巣の場所が分かれば、区役所に連絡して駆除してもらえるんですけどね」
「でもさ、焼却炉の時の烏も、巣の場所は分からなかったんでしょ?」
「そうなんですよね……だから、フェンスを張るしか方法がなかったんですけど」
「……まあ、私たちが考えていても仕方がないわ。学院側に任せましょう」
「……そうだね」


 ちょっと納得はいかないけれど、他に方法が無いんじゃあどうしようもないしね。

「そういえば、人間がたくさんの鳥に襲われるって云う古典映画がありましたねえ」
「ああ、それお姉さまと見たことある。あれは怖かったわ……」


 陽向ちゃんの言葉に、あたしはお姉さまと見に行ったヒチコック特集を思い出す。……今日の仕返しに、カラスが大量に押し寄せてくるなんて、無いよね……?





 翌日、朝礼で生徒会から発表のあった内容は、ちょっと不満はあったものの無事にみんなに受け入れられた……んだけど。
 お昼休み、食堂でばったり会った淡雪さんが、いきなりこんなことを云ったのだ。

「聞きましたよ、お姉さま方。お姉さま方が烏退治をするそうですね」
「え、ええ〜!?」


 何でそんな話になったの!?

**********

 おメダイの話は嘘八百なので信じないように。
 聖應の制服って校章とか無いな〜ってのと、対面式におメダイを貰うって話が原作に書かれていたので、どうせならリボンのブローチをおメダイにしてしまおうということになりました。

 今回の淡雪の出番は、最後の部分だけ。淡雪と千歳の話のはずなのになあ……

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
第五章第一話読ませていただきました。
今話では烏事件がメインと仰られていましたので、とても楽しみにしています。
原作でも今章は淡雪とのメインストーリーであったと記憶していますので、千歳と彼女がどういった関係を築くのか、期待しています。
では、次話をお待ちしております。
失礼しました。

2011/07/03 23:13
唯さん、こんばんは。
今回は出番の無かった淡雪ですが、次回以降は中心となります。
この話では相手が千早ではないために原作の気の強さが出てこないので、ちょっと物足りないと思うかもしれませんが……
雅楽乃との関係辺りにも微妙な変化が有りますので、上手く書けたらいいなと思ってます。
では、次は早めに上げる予定なので、もう暫くお待ち下さい。
A-O-TAKE
2011/07/06 20:46
報告です


・「何か、追い払う方法はないかな……ん?」→会話文だが色が黒のまま


クレー射撃で烏がぐちゃぐちゃになるのもエグイですけど、矢で射るのも結構エグイですよね
どちらにしても難度は高いのかな〜って思うのですが、経験がないのでちょっとやってみたいですね
もちろん、烏をターゲットに、じゃないですが
Leon
2011/11/25 18:28
妃宮さんの中の人 5-1 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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