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zoom RSS 妃宮さんの中の人 6-EX-1

<<   作成日時 : 2011/09/11 00:22   >>

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 悩んだけれど、生徒総会編に決定。

 過去編はまた別の機会に。

 第六話は、原作とは大きく違う展開になります。

**********


 その日の放課後、生徒会は生徒総会の準備で忙しかった。

「かいちょ〜、こっちの書類は終わりました〜」
「は〜い、そこに置いておいて下さい」


 さくらの間延びした声に応えた初音は、会長用の大きな机の角を指差す。

「会長、こちらも終わりました」
「あ、はい。それもこっちに」


 耶也子のメリハリのある声にも、同じ様に机の角を指差す。
 ペタンペタンと書類に判子を押している初音を見て、細々とした手伝いをしていた優雨が声を上げた。

「……はつね、大丈夫?」
「初音、手伝いましょうか?」
「だ、大丈夫だよ、優雨ちゃん、沙世ちゃん」


 沙世子の苦笑交じりの声に、初音は慌てて自分の見ている書類の束を腕で隠す。生徒会のメンバーの中で書類整理が一番遅いのは、会長である初音だった。

「初音は書類を読み込むから。もっと重要な書類ならそれでも良いだろうけど、どうでも良いようなものまでそんなに読まなくても良いのよ?」
「ど、どうでもいい書類じゃ有りませんよ? 生徒総会の大事な資料なんだから」
「いや〜、文面の方は定型文に則って書いてあるわけですから、ぶっちゃけ判子を押すだけでも良いと思うんですけどネエ。こう、『ぽぽぽぽーん!』みたいな」
「……つっちー、流石にそこまでどうでも良いような物では無いと思うが」


 こんな遣り取りもいつものことで、つまるところ、この生徒会は五人でバランス良く纏まっているのだった。
 初音は何とか自分の分の書類を守り通して整理を終えると、沙世子たちの纏めた書類と合わせてファイルに閉じた。

「取り合えず、これで一通りの書類は揃ったね」
「そうね。去年はもっと大変だったけど、今年は早くに手を回したから何とかなったわ」
「あ〜、去年は大変でしたネ。私も含めて手伝いが大量に掻き集められて、上を下への大騒ぎ……」


 しみじみとした顔でさくらが呟く。その時の手伝いで才覚を示したが故に、後々に生徒会に引っ張り込まれることになったからだ。
 生徒会長と陸上部の部長、更に云えば寮監督生でもあった先代・上岡由佳里は、自分に出来ることと出来ないことを見極めて、出来ないことは他人に丸投げしていた。人使いが荒いのに人誑しという厄介な才能の持ち主だったのだ。

「さてさて、後は何か有りましたっけ?」
「あ、そう云えば、今日は未だ目安箱を確認してませんでした」
「目安箱って……意見箱だろう」


 さくらは耶也子の云う突っ込みに聞こえない振りをして生徒会室の扉を開けると、扉の脇にある木製の郵便ポストを手に取った。
 意見箱は、生徒が匿名で生徒会――あるいは学院――に要望を伝える為の物だ。
 しかし、実際にこの箱が遣われることは殆ど無い。名前を隠すような後ろめたい意見は出すべきではない、と云うような考え方が一般だからだ。
 その為、箱を抱えて部屋に戻ったさくらが鍵を使って蓋を開けたとき、中から一枚の封書が床に舞い落ちたのを見た初音たちは、何かの悪戯かと思ってしまった。

「封書型爆弾……とか?」
「……さくら、貴女が拾いなさいよ」
「えっ」
「……」
「……さ、沙世ちゃん、取り合えず開けましょう?」
「そ、そうね」


 何となく拾いがたいソレを沙世子が拾い、鋏で丁寧に開封する。中から出てきた一枚の便箋には、簡潔な要望が書かれていた。
 曰く、購買部に売っているおメダイの在庫を補充して欲しい。

「……何これ?」
「あ〜、これはもしかして、アレですかネエ」
「知ってるの、さくら?」
「ええ、まあ、このところ噂になってますし」


 問い掛ける沙世子に、さくらは自分の鞄の中から一冊の薄い本を取り出しながら言葉を続ける。

「今ですね、生徒の間で上級生からおメダイを貰うのが流行ってるんですよ」
「……おメダイってこれのことでしょう? これを貰うって……」


 沙世子は自分の胸元を指差した。
 制服のリボンタイの中央に在る留め具を模したブローチを、聖應ではおメダイと呼んでいる。正式名称はおメダイでは無くて校章なのだが……おメダイとして使えるのでそう呼ばれているのだ。
 おメダイは首から掛けると大きな恵みを受けると云われている。聖應では鎖などで首からおメダイを掛ける代わりに、リボンの留め具として首元に付けることになったと云われていた。

「ええっと……この本に、その理由が載っていまして」
「何、この本……エルダーの事件簿?」
「文芸部が月一で発行している、非公認ファン倶楽部会報みたいなものですかネ」
「……こんなの、活動報告に書かれていなかったと思うけれど……」
「沙世ちゃん、ちょっと貸して。面白そう」


 沙世子は初音の手の上に本を渡すと、壁際の棚からおメダイに関する資料を探し始めた。 購買部そのものは学院の管轄だが、売り物に対するリクエストなどは生徒会が管理して、生徒総会で審議に掛けた後に学院側へと連絡されることになっている。その関係で、商品の一覧やその在庫状況等も、生徒会に資料が渡されるのである。

「へえ、凄いねこの本。小説に、写真、インタビューまである。頑張って作ってるんだ」
「……予算を使って何をしてるんだって云いたいんだけど?」
「ふふっ……でも、これも文芸部の作品には違いないんだし……あら?」
「あ、そこです会長。そのページ」


 机の上に冊子を置いて全員に見えるようにしながらページを捲っていた初音は、とあるページで手を止めた。
 小説が載っているページ。そのページの半分を使っている挿絵には、小さな少女の首元におメダイを付けてあげている、ポニーテールの少女の後姿が描かれていた。

「これ、もしかして私と優雨ちゃん?」
「えっ……?」


 あまり興味の無さそうだった優雨が、初音の隣に立ってページを覗き込む。描かれている挿絵の人物は、片目を隠す特徴的な髪型がそのままなので、優雨であることは一目瞭然だった。

「ええと、何々? 『そうだ、私良いことを思い付いた。そう云って初美は自分の胸元のブローチを外すと、戸惑っている優希の胸にそれを付けた。良いの? うん、優希へのプレゼント――』」
「きゃああああっ! 朗読しちゃ駄目ぇぇえ!」


 耶也子が声に出して文章を読むと、初音は体ごと冊子の上に載せてページ全体を覆い隠した。
 名前が微妙に違っているが、それは正しく、先の烏騒動で初音が優雨におメダイをプレゼントした場面だった。

「ああ……成程、それが小説になっているのね」

 沙世子は資料を探しながら一人ごちる。件の場面は初音と優雨が既に沙世子たちにも話しており、実際の話がどういうものなのか知っていた。
 成程、話だけを聞けばそれは確かに美談なので、真似をしたいと思う生徒も居るだろう。だが、高い金を出しておメダイを買って、それを下級生にプレゼントするというのは話が違うだろう。
 やがて、沙世子の手がファイルの束を引っ張り出した。大きなファイルを両手で抱え、中の資料に目を通す。

「ええと、おメダイは……年度の初め、全校生徒の制服を販売する際に一つずつ付属するもので……注文は百個単位の小ロット……今年の生徒数は何人だったかしら?」
「759人です、副会長」


 沙世子の問い掛けに素早く応える耶也子。沙世子はそれに頷くと、溜め息を吐いてファイルを閉じた。

「つまり、40個近い在庫が無くなったってことか……いや、毎年の余剰分が有るならもっと残ってたでしょうね。……ちょっと、拙いわね」
「どういうこと、沙世ちゃん?」
「……初音、おメダイってどれくらいの値段か知っている?」
「え? ええと……?」


 初音は首を傾げ、胸元のおメダイを見る。細かな彫刻の成された鍍金仕上げのおメダイは、ぱっと見ても価値のあるものに見える。だからこそ、優雨がおメダイを無くした時にプレゼントしたのだから。

「一ロット、つまり百個セットで生産して、一個辺りの値段が一万二千円よ」
「えっ!? そんなにするの!?」
「大量生産品だからこそ、この程度の値段で済んでいるのよね。物によってはこの十倍はするようなのもあるし」
「ああ、そう云えば純金製のとか凄いのがあったりもしますよね。これは何で出来てるんですか?」
「ダイカスト製造による亜鉛合金製って書いてあったわよ」
「……それだけだと、何がどうなのか分かりませんネエ」


 沙世子の口から飛び出した専門的な用語に、さくらが眉を寄せて首を振った。普通の女子高生が工業製品のイロハを知っている筈も無いので、この反応は当然のものだろう。云った沙世子の方だってどういう意味か分からないのだから。

「ま、それは兎も角として……取り合えず、私たちが気軽にお小遣いで買えるようなものではないってことは分かるわよね?」
「う、うん。一人で何個も買っていたりしたら大変――」


 初音が途中で言葉を止めた。実際に、その大変なことが起こっているかもしれないと気が付いたからだ。
 購買の商品在庫や売り上げは、勿論のことながら学院に報告される。誰が何個買ったのかまでは分からないだろうが、沢山在った在庫が全部売れてしまったということは、それだけ大きな金額が動いたということであり――

「――不審に思った学院側が、原因を調べるでしょうね」
『お知らせします。三年の皆瀬初音さん。三年の皆瀬初音さん――』

 沙世子が苦々しい言葉を吐いたと同時、備え付けのスピーカーから、初音を呼び出す放送が聞こえた。





 その日の放課後、三年C組は平和だった。

「それで、寮の皆さんの反応はどうだったんですか、薫子さん?」
「あ〜……不本意だけれど、好評でした」
「やれやれ……これだけみんなが褒めているのに。本当に強情よね、薫子さんは」


 何の話かと云うと、先週末に出かけた買い物の話だった。
 薫子、千歳、茉清、聖、こより。五人で服を買いに出かけて色々と見繕ったのだが、どうしてもスカートを穿こうとしない薫子に、四人掛かりで無理矢理に押し付けたのである。
 寮のみんなに好評であれば、次の機会にはそれを穿いて出かけること……そんな約束までさせられてしまった。

「大体、何でそんなに嫌がるの?」
「……あたし、実は中学までは私服でスカートを買ったことが無くて」
「ええっ!?」


 薫子の告白に、こよりと、周囲で聞き耳を立てていた多くのクラスメイトが声を上げた。いきなりの過剰反応に、云った薫子の方が驚いている。

「そ、そんなに驚かなくても良いじゃない? その……買う機会が無かったんだし」

 いくら珍しくないこととは云え、流石の薫子も不特定多数の人間に片親であるということを云う気にはなれなかったらしく、語尾を弱めながら呟く。

「……薫子さん程の美人が勿体無い……これは、薫子さんのファッションセンスを磨くためにも、もっと色々コーディネイトして差し上げないといけませんね!」
「おお……こよりちゃんが燃えてる……」


 握りこぶしを作って気炎を上げるこより。実際は服を選ぶというよりも、薫子で着せ替えをするのを楽しんでいるというのが正解なのだが。
 こよりにとって、上背が有って姿勢の良い薫子は、ファッションモデルのように色々な服を着せてみたくなるものらしい。

「今回は普段着を買ったから、次は部屋着とかパジャマを買いましょうか。薫子さんならネグリジェも良く似合いそうです」
「ええっ? いや、流石にそれは遠慮したいんだけど……」
「あ、でもでも、私も興味有ります。薫子さん、普段の部屋着はどんなものなんですか?」


 聖の質問に周囲の視線が自分に集まるのを感じながら、薫子は渋々と口を開いた。

「どんなのって云われても……普通のシャツにパンツだけど……」
「……」
「な、何かなその沈黙は!」


 何だ、普通なのか……そんな心の声が聞こえた薫子が周囲を見回す。全員が目を逸らした。苦笑した聖は、取成すように薫子に声を掛ける。

「まあまあ……でも何て云うか、勿体無いです薫子さん」
「いや、部屋着までピシッとしてるのなんて疲れるだけだから」
「私は逆に、もっとずぼらかと思ってたけれど」
「……茉清さんの中で、あたしはどんな格好をしてるんでしょうかね……」
「……いえ、別に。ところで、千歳さんはどんな服を?」


 いくらなんでも、下着姿で寮をうろついては居ないだろう……ちらりと脳裏に浮かんだ姿を追い出しながら、茉清は千歳へと話を振った。
 もう一人のエルダーならば、期待は裏切らないだろう……そんな視線を感じたのか、千歳はちょっと考えて。

「私? 私はねぇ……シャネルの五番かなっ」
「……いや、ここボケるところじゃないから」


 有名な海外女優の台詞を真似る千歳に薫子が突っ込み、控えめな笑いが響いた。
 ――そんな他愛も無い話をしている時に、下級生がこよりを尋ねてきたのだった。


「し、失礼します。二年の相澤星河と申しますが、千倉こよりお姉さまはいらっしゃいますでしょうか?」
「あ、はい。少々お待ち下さい。こよりさん」
「はいはい、さすがにこの距離なら聞こえますわ。……いらっしゃい星河。どんな御用?」


 緊張で顔を赤くしている星河が教室に入ってこないため、こよりは手で薫子たちに謝ってから廊下へと出た。何事か、と薫子たちの視線が集まってしまうのは仕方が無い。

「あの……例の話、考えて頂けましたか?」
「……ああ、これのこと?」


 上目遣いで恥ずかしげに語る星河に対し、こよりはどこか困った風に胸を指して答える。

「確かに、分かりやすい形が有れば、それは権威と直結しやすいと思うけれど……でも、それで良いのかしら? 物に頼るということは、貴女の実力は認められていないことの裏返しよ?」
「それは、そうかもしれませんが――」


 洩れ聞こえる会話の内容から、随分と深刻そうだと感じた薫子たちは、顔を寄せて頷き合う。

「こよりさん、お話中失礼。あんまり立ち話には向かなさそうな内容みたいだけど、せめて中に入ったら? 目立ってるわよ」
「あ……そうですね。星河」
「は、はい。失礼します……」


 薫子の手招きに応じたこよりは、星河の背を支えながら教室の中へと戻って来た。野次馬根性に近いものがあるが、クラスメイトたちが遠巻きに囲んで廊下からの視線を塞ぐ。

「それで、何の話なのかしら……ええっと?」
「あ、は、始めましてお姉さま。2−Cの相澤星河と申します」
「うっ」


 きらきらと、最近のクラスメイトからは感じなくなった尊敬の眼差しを受けて、薫子は少し言葉に詰まる。薫子の代わりに茉清が前に出て、こよりの話を聞くことになった。

「この子は来年のバレー部の部長候補なんですけれど、少し問題が有りましてね」
「問題?」
「私は部長兼キャプテンなんですけれど……実際のところ、一人二役は大変で、中途半端になりがちなんです。ですから、来年は部長とキャプテンで役を分けようと思うのですけれど……」


 一旦言葉を留めたこよりは、ちらと脇に控えている星河に視線を落とした。途端に、申し訳なさそうに肩を落とす星河。もう少し自信を持ってくれれば話は楽なのに、と内心で思いながらも、こよりは続ける。

「この子は参謀向きで、面倒見も良い子ですけれど。運動部というのは、何よりもまず腕前の良い子が信頼される傾向があるでしょう?」
「ああ、成程。つまり、キャプテン候補の子と対立……とまではいかなくても、部長としての立場が不安定になってしまうと」
「ええ……それで、何かハッキリと形になるような権威の象徴があればみんなも取り合えずは従ってくれる、自分がみんなから信頼されるまでの時間稼ぎになるような物が欲しいと頼まれまして」
「ふうん……」


 何となく分かる話だ、と薫子は頷く。一昨年のフェンシング部も、次の代の部長を決めるのに一悶着が有った。
 騎士の君が誕生した事件の時、薫子の相手をしたフェンシング部のエース――一条和枝と云う――が部長候補だったのだが、他ならぬこの一件で薫子に負けたことにより、その立場が揺らいでしまったのだ。
 薫子が員数外としてフェンシング部に参加することによって事無きを得たのだが、その理由が素人同然だった薫子を練習相手としてボロボロにして、部員たちに和枝の強さを再確認させることだったのだから、薫子としては良い迷惑だっただろう。
 もっとも、結果的に和枝との試合をこなしたお陰で強くなれたのだから、何が幸いするか分からないのであるが。
 閑話休題。

 運動部では実力の有無こそがステータスなので、縁の下の力持ち的な存在は軽視されやすい。それは星河も同じことなのだろう。
 これが実戦要員ではなくマネージャーとしてならば話も変わってくるのだが、バレーの実力そのものも捨てがたいものがある星河は、準レギュラーとしても必要不可欠であるとこよりは云った。

「難しいねえ。いっそ実力が無ければ、監督として割り切って参加できるのに……」
「薫子さん、云い過ぎよ」
「あっ……と、ゴメン」


 星河が目に見えて落ち込んだのを見て、慌てて謝る薫子。
 こよりは落ち込んだ星河を手で慰めながら、自分の胸元を指差して話を続ける。

「それで……星河は最近のおメダイブームに肖って、私のこれを欲しいと云ってきたの」
「え……それでどうしておメダイなの?」
「あら? 薫子さんは知らないの?」
「……こよりさん、薫子さんは当事者ですから、あれを見ていなくても仕方が無いんじゃないでしょうか?」
「ああ、そうですね……」


 自分を置いてけぼりにして話を進めるこよりと聖に、薫子は首を傾げた。とうやら自分の知らないところで、自分に関係の有る何がしかのことが有ったらしいと考える。もっとも、考えても分かることではないので、素直にそれを尋ねるのだが。

「一体どういうことか説明してよ」
「ええと……どうしましょう?」


 薫子に尋ねられた聖は、どういうわけか人垣を作っているクラスメイトの一角に目を向けた。薫子が視線を追うと、何故かうろたえている一人のクラスメイトを見つける。見城沙也香という、薫子の斜め後ろに座るクラスメイトだ。

「……沙也香さん、何、変な踊りをしてるの?」
「え、いや、これはその……」
「……な〜んか、怪しい……」
「うっ……」


 何故か、クラスメイトたちが口篭る沙也香と薫子の間に割り込んでくる。まるで沙也香を守るようなその行動に、薫子の目がスッと細まった。

「……何、みんなして、あたしに何か隠し事? ……聖さん?」
「は、はわっ……ええとその……」
「ああ、聖さん! 私を売らないで!」
「……ほう。聖さ〜ん、ちょっとお話しましょうね〜……」
「はややっ……!」


 踵を返そうとした聖の頭を、身長差を利用して鷲掴みにする薫子。べそを掻きながら茉清を見上げる聖。
 一体何を遣っているのだか……と溜め息を吐いた茉清が聖を助けようとした時、スピーカーのスイッチが入って放送が流れた。

『お知らせします。三年の皆瀬初音さん。三年の皆瀬初音さん。同じく三年の見城沙也香さん。三年の見城沙也香さん。理事長室までお越し下さい』

 一斉に集まる視線の中、沙也香は呆気に取られた顔をしていた。





 その日の放課後、理事長室は重苦しい雰囲気の包まれていた。

「困ったことになりましたね」

 学院に勤めるシスターたちの取り纏め役であるシスター・ハンナは、PTAの役員から送られてきた手紙を読んで、大きな溜め息を吐いた。
 その場に居る人間は後二人……その片方である理事長代理の梶浦緋紗子は、机の上に置かれている手紙を取って折り畳むと、机の中に仕舞う。

「私としても、ここまで大事になるとは思ってもいませんでしたけれど……しっかりと釘をさしておかなかった私たちの責任も有りますしね」
「……しかし、これを予測できた人間は居ないでしょう」


 最後の一人、三年の学年主任である立川イサコは、手に持っていた薄い冊子――文芸部の発行した『エルダーの事件簿』――を机の上に置いた。
 問題となっているのは陽向の書いた小説、『エルダーの事件簿』の内容である。
 おメダイを買う小遣いを親に無心した生徒がその理由を尋ねられて、仕方無くこの冊子を見せた。それは良い。少々高い金額では有るものの、聖應に通う生徒ならば買うことの出来るものだ。
 問題はその後。この小説を読んだ親が、先月の不審者侵入事件の犯人の動機を知ってしまったことである。

「文芸部の方でも気を使ったことは分かりますけれど――」

 緋紗子は机に置かれた冊子を捲り、小説の表題が書かれたページの中央に在る、赤いインクで書かれた文字を指で叩く。この物語はフィクションです……お約束の一文が、見落としようも無い場所に書かれていた。

「――でも、この文句はそれを信じる人にしか通用しませんから」

 フィクションとは云っても、事実を元にして書かれることは良くある話だ。そして、この場合も正しく事実であったことが話をややこしくした。
 学院側は事件のあった翌日にPTAに事情を説明し、再発防止策も連絡していたが、犯人の動機までは説明していなかった。
 小説を読んで不審に思った親が親類の警察関係者に尋ねたことで、寮の住人が夜遅くにコンビニに行ったこと――つまりは寮生の管理不行き届き――が犯人を招き寄せた原因だと知ったのである。
 一つ疑われれば全てがそうなるのは仕方の無いことではあるが、寮監督生が生徒会長であり、その生徒会長が件のおメダイを下級生に渡している人物であり……と、とんとん拍子に話が進み、生徒の代表たる生徒会長に相応しくないのではないか、という話にまでなってしまったのだ。

「聖應の生徒会が……簡単に云ってしまえば、血統による世襲制であることが問題になりましたね。選挙であれば、有能でない人間を選んでも有権者の責任ということになりますけれど」
「しかし、話の進め方が些か強引でしょう。何とかならないのでしょうか?」


 生徒に厳しいと評判の立川だが、意味も無く生徒を責めるようなことはしない。
 そもそも、犯人が侵入したのは学院の警備が不十分だったのが原因だ。初音が責められるのは寮生の管理不十分に関してだが、これも学院側が寮則を確認して了承していることなので、本来であれば強く出られないのである。

「……難しいですね。理事会の方でも話が出ている以上、何らかの処分は免れません」
「そうですか……しかし、皆瀬さんは良い子ですから、なんとか庇ってあげたいものですが」


 暗い表情で首を振る緋紗子に、シスター・ハンナが肩を落とす。
 人望は歴代一、生徒は勿論のこと教職員にも受けの良い初音であるが、流石に直接面識の無いPTAや理事会相手では分が悪い。

「取り敢えずは謹慎……後は、理事会とPTAの判断しだいですね……」

 緋紗子としても、この話を初音に伝えるのは心苦しい。しかし、それをしなければいけないのが今の緋紗子の立場なのだ。

『お知らせします。三年の皆瀬初音さん。三年の皆瀬初音さん。同じく三年の見城沙也香さん。三年の見城沙也香さん。理事長室までお越し下さい』

 先程放送部に依頼した呼び出しが、スピーカーから流れる。
 緋紗子は、初音にどう伝えるべきか、頭の中で考えを纏め始めた。
 かつて生徒として、そして後輩の教師として緋紗子の面倒を見てきた立川やシスター・ハンナは、目を瞑って沈思する緋紗子を慮って口を噤んだ……。



**********

 そんな訳で、大事件(?)の始まりです。
 聖應の生徒会は世襲制……言い換えると、民主制ではないということ。
 少なくとも、おとボクのオマージュ元であるマリみてのように、選挙を行っている様子は有りませんしね。
 では、そうやって代々受け継がれてきた生徒会で問題が起こったとき、どうやって解決されるのか……?
 

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コメント(13件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
いやぁ、更新ペース早いですね。私のような、読むのは早くても書くのは苦手な者からすると、驚くしかないです。
読むのは早いんですけどね〜。速読の代わりに、面白い本は、買ってから何度も読み返します。最高記録では、買ってから7回連続で(他の本は一切読まずに)読み返しました。

これは、なんとも新しい路線に舵を切りましたね。原作には欠片ほどもない(規制対象が占いからおメダイに?)エピソードなので、興味深々です。
ええと…おメダイ紛失の原因となったのはカラスの方で、薫子の外出が関連するのは下着泥棒ですよね。事情を知っている学院内で、混同されるのでしょうか?
選挙をしないのが問題なら、それは、生徒会長である初音の問題ではなく、そういう制度を定めた学院の問題だと思うんですけどね…。
生徒の自由意思を学校側が抑えつける話は、実話・架空を問わずに限りなくありますが、学校側が定めていた(自主性を重んじて居ても、あくまでもそれは学校側の監督下においての筈。未成年である生徒には、責任を取る資格も権利もないので)ルールに起きた問題の責任を生徒の責任に押し付けるのは、あまりに情けない話だと思うんですよね…。
と、初音ファンとして全力擁護してみる(笑)
いや実際、なかなかハラハラでして…。

正直な話として…おメダイを贈るのが流行って、PTAに睨まれる話になるんでしょうか?
筋金入りのお嬢様学校ですよねぇ。
ご両親はお金持ちばかりなので、そんなに目くじら立てないで居てほしいなぁ。
泥棒の被害を受けたのは寮生(というか初音)だけなんだし…。

ちょっと初音ピンチなので、気になって仕方が無いです。
おとボクらしく、温かく柔らかに、みんなの微笑みで終われるような話である事を祈っています。
えるうっど
2011/09/11 18:32
えるうっどさん、こんばんは。

今回の話は、折角の二次創作なら、たまには全く別の話を書いてみたいと言うところからきています。
ネタばらしじゃないレベルでの説明をすると……
伝統を格式を重んじるPTAの人が、事件の時に発覚した自由の有りすぎる寮則を何とかしようとしている、初音はその為に槍玉に上げられたと言う話。
保護者側としては、学院内に侵入者が出る遠因となった寮則をなんとかしたい、そのためには寮監の責任を追及するのが早いということ。
おメダイは責任追及の為に追加された言いがかりのようなものです。
緋紗子先生が言ってるように、本来は学院側の問題で初音の責任じゃありません。

……が、これは実はミスリード(笑)
目次の方にもヒントが有りますが、これ以上はネタバレなんで、次をお待ちくださいませ。なるべく早く書きますので……

初音はとってもピンチですが、意外なところからの助けをご期待下さい。


A-O-TAKE
2011/09/11 20:18
お久しぶりです。
第六章第一話…番外話?読ませていただきました。
今話では原作と大きく乖離した展開となっていて、今後に期待しています。初音の責任問題になったというのには驚きを覚えましたが、確かに原作でも生徒会の権限がとても強かったというのを思い出し纏めてみましたが、確かに世襲制で、生徒へのけ強い権限を持っている生徒会の会長が不祥事(といえずとも目に留まるなにか)を起こしたとなれば外部が黙っていない…のですかね?
とにかく、次話、心待ちにしておりますので、頑張って下さい。
では、失礼します。

2011/09/14 08:03
唯さん、こんばんは。

生徒会の権限に付いては原作内でも何度か語られてますけれど、権限に対する責任の重さは出てこないんですよね。千早が「権力の集中は〜」と原作内で語ってますが、その程度ですし。
沙世子が香織理に出した処分なんて、生徒一人の進路を左右するものなのに……などと思っていたもので、じゃあ逆に生徒会側が不祥事を出したら? という展開になったわけです。
まあ、現実のPTAとかはあんまり理解してないんで、ちょっとちぐはぐになってしまうかもしれませんが。聖應にはモンスターペアレントとか無さそうだし(笑)

実は、最初はそういう親が生徒会一極支配の聖應に文句を云って、自分の娘を生徒会長に据えるために……というプロットでしたが、ちょっと重くなり過ぎそうなので没になりました。

取り合えず、今週末には更新しますので、どのような展開になるかは見てのお楽しみということで。
A-O-TAKE
2011/09/14 22:50
最近、夜間での接続状況が非常に悪く、更新が不可能な状態が続いています。

拙作をお待ちの方、もう少しだけお待ち下さい。
早朝であればブログの更新が可能になると思います。
A-O-TAKE
2011/09/18 23:24
報告です


・溜息を吐いてファイルを閉じた→溜め息を吐いてファイルを閉じた
・溜息を吐いた茉清が→溜め息を吐いた茉清が
・大きな溜息を吐いた→大きな溜め息を吐いた


今回は「ためいき」に関するものだけでしたが、PC版での確認はしてませんが、小説では「溜息」と「溜め息」の両方があったので別にそんなに気にしなくても良いのかな…なんて思ったりしてます
A型だからでしょうか…ちなみに血液型だけじゃなく誕生日も身長もケイリと同じなんですよね
さすがに性別は違いますが(笑)
自分にもアルカイックスマイルは出来るのか…!?
Leon
2011/11/12 17:40
追加報告です


・自分に関係の有る何某かのこと→自分に関係の有る何がしかのこと


スマイルよりも占星術の方が魅力的でしょうか…
しかしあれには女の勘も多分に含まれていると思われるのでやはり不可能なのか
Leon
2011/11/27 14:45
アルカイックスマイルは……人によっては胡散臭い笑みになってしまうこともw
占星術は本当に学問と同じで、膨大な過去データを計算して引っ張ってきているだけ、と言われていますけれどね。
タロットにしても何にしても、占いと名の付くものは直感によるところが大きいですから、きっと私には出来ないでしょう。
そういや、アリスマの特典に付いてたタロットはどこに行ったか……
A-O-TAKE
2012/02/03 22:33
度々すみません


・初音は首を傾げ、胸元のメダイを見る→初音は首を傾げ、胸元のおメダイを見る
Leon
2012/02/05 07:15
ゲームしてたらふと…


・目安箱って……意見書箱だろう→目安箱って……意見箱だろう
・意見書箱は、生徒が匿名で生徒会→意見箱は、生徒が匿名で生徒会


ゲームでは意見箱となっていたので一応報告させていただきました
Leon
2012/02/12 22:15
こんばんは。
ええと、A-O-TAKEさん、別PNでPixivに小説かいたりしてらっしゃいます?
この6話とほぼ同内容の小説が、違うタイトルでアップされているんですけど…。
たまたま見つけたんですが、「これ、絶対読んだ事があるっ」って読み進めて…確認してみたら、この6話でした。
ただし、「中の人」の基本設定である千歳憑依の設定は吹っ飛んでますけど。

ただ、正直、疑問なんですよね…。
と言うのは、他の作品は、あんまり面白くなかったり、書いてる自分だけ楽しんでる雰囲気がむんむんしてたり…。他人に読ませるレベルの文章じゃないのもあります。
作品ごとで、グレードが合わないんです。
それも、たまたま調子の良し悪しとかではなく、作者が違うレベルの。
正直、盗作を疑ってます。
えるうっど
2012/11/19 23:16
えるうっどさん、こんばんは。

私は別名義で文章を書いたことはありませんし、このブログとキャラメルBOXの公式HP、そしてTINAMI以外の場所に出したことも有りません。ですから、えるうっどさんが見かけた作品は私のものでは無い筈です。

正直な話、設定が被るようなことは多々有ることでしょうから、偶然の一致だと思いますよ。
もし仮に盗作だとしても、私からアクションを起こすことは有りません。私がブログに作品を上げているのも、そういった煩わしさを敬遠しているからですし……。
これでも一応、「おとボク2 SS]でググッた時に一番最初に表示されるくらいには知名度(?)は有ります。ですから、後はその作品を読んだ方がどう思うかに判断を委ねます。

以上

追記
9-5もアップが終わりました。後3話ぐらいで本編は終わります。今後ともよろしくお願いします。
A-O-TAKE
2012/11/19 23:54
そう云えば、この辺りの誤字修正は確認がまだでしたね……。
Leonさん、大分遅れましたが誤字報告ありがとうございました。
A-O-TAKE
2012/11/20 08:15
妃宮さんの中の人 6-EX-1 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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