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zoom RSS 妃宮さんの中の人 6-1

<<   作成日時 : 2011/09/18 23:32   >>

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 ちょっと遅れました〜。

 残暑が厳しくって、昼間に執筆する気になれない……もう少し頑張ろう。


**********



 私立聖應女学院には、教職者よりも権限のある美しき乙女たちがいる。
 聖應女学院極大権限保有最上級生徒会、略して……

「聖應生徒会!」
「「「「……」」」」
「……誰か突っ込んでくださいませんかネ」
「……こんな時、どんな顔をしていいか分からないの」
「わ、笑えば良いと思うよ?」
「……ふっ」
「んなっ……ややぴょん、鼻で笑ったね!?」
「……さくら、がんばれ」






 第六話 生徒会の長い一日





「生徒会長を首になったぁ!?」
「ま、まだそうと決まったわけじゃないんだよ……?」


 あたしの上げた悲鳴のような声に首を竦ませながら、初音は煮え切らない云い方で反論した。

「三日間の自宅謹慎とは云われたけれど、結果は職員会議が終わるまでは分からないんだから……」
「確か、職員会議は毎週金曜日……生徒総会の後と云うことよね」
「うん、十五日の金曜日が生徒総会だから……」
「今週末じゃないの」


 ――初音と沙也香さんが理事長室に呼ばれたその日。
 寮に帰ってきた初音が余りにも気落ちしていて、夕食も咽喉を通らないような状態だったので、食後のお茶の時間に問い詰めてみた。
 やけに口の重い初音がやっと喋ったと思ったら、文芸部の発行した本が原因で理事長にお叱りを受けたらしい。責任を取って謹慎、職員会議の結果次第で首になるって……。

「そもそもさ、何で文芸部の出した本が原因でそんなことになってる訳?」

 理由が良く分からない。初音に責任は無いように思うけど。

「……その辺りは、そっちで顔を青くしている子に聞いてみた方が良いわね」
「えっ?」


 香織理さんが陽向ちゃんの方に視線を向けると、陽向ちゃんの肩がビクッと震えた。何だろう、何か陽向ちゃんに関係があるの?

「……陽向、黙っていても何も変わらないわよ?」
「……っ! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ちょ、ちょっと陽向ちゃん!?」


 香織理さんに促された陽向ちゃんは、ボロボロと涙を零しながら何度も頭を下げ始めた。初音は理由が分かっているみたいで驚かないけど、あたしたちは別だ。何が何だかさっぱり分からない。

「あーもう! 何でもいいから説明してよ!」





 ……初音から聞いた話を纏めて考えてみたけれど。

「陽向ちゃんには悪いけれど、これって書いた方の責任であって、初音の責任じゃないと思うんだけど……」
「そうよね。私もそう思うわ」


 あたしの言葉に香織理さんが同意する。
 陽向ちゃんが書いた小説の中に先月の泥棒事件のことが書いてあった。そういう外部に悪い評判が流れるような文章を書かないように釘を刺しておくのも、生徒会長である初音の責任だ、ということになっているらしい。都合の悪いことを云いふらすなってことだろう。
 初音は生徒手帳を取り出して、私も知らなかったんですけれど、と前置きした上で一文を読み上げた。

「生徒会則第四項、附則第八項。生徒会は生徒の配布する文章、写真、及びこれに順ずる物を確認し、学院内の安寧秩序を妨害し又は風俗を壊乱するものと認める物は、生徒会長の判断によって之の配布を差し押さえるものとする。猶、配布の責任者は指導教員により然るべき罰則を適用するものとする」
「……へ? ええっと……?」


 いや、長くてよく分からなかったんだけれど。首を傾げながら隣に居る香織理さんを見ると、どういう訳か驚いていた。……あれ、陽向ちゃんも驚いてる?

「……ええっと、初音お姉さま。それってもしかして、検閲と云うやつですか……?」
「うん。聖應の生徒会則って戦後直ぐの頃に作られて、そのまま改定されずに残っているものが多いから、こういう時代に合わないものがそのままになってるんだよ」


 香織理さんが生徒手帳を開いて中を確認している。一緒になってそのページを覗き込むと、なるほど、小さな文字で書いてあった。

「何と云うのか……詐欺の人が使うような小っちゃい文字の契約書みたいだね」
「……身も蓋も無いわね。でも、自分の直接の関係が無い限り誰も見ない文章ということでなら、その通りだわ」
「初音ちゃん……その、検閲って何?」


 千歳が初音に尋ねた。……史ちゃんは分かっているようだけど、あたしと優雨ちゃんは分からない方に入る。どっかで聞いた気もするけど。

「検閲って云うのは、簡単に云っちゃうと……学院にとって都合の悪い本は、みんなに配る前に処分しちゃいますってことだね」
「え〜っ、それってズルイ!」


 千歳のあまりにも率直な云い方に初音が苦笑した。まあ、ズルイはズルイだろうけどさ。

「そう云えば、図書委員会が毎年文庫本を図書室に入れることを提案していると聞きましたが……」
「うん。あれもそう云う理由があって、学院側が入荷を認めないんだよね……最近の文庫本は、なんて云うか……過激なものが多いから」


 なんと、そういう理由があったのか。確かにライトノベルとかそういうものって、人が死んじゃったりとか、ちょっとエッチなのとかあるし……。
 厳しいかなと思うけれど、ここがお嬢様学校であることを考えると仕方が無いのかもしれない。

「ふうん……でもさ、前々から思ってたんだけど、何でもかんでも生徒会に仕事を押し付けすぎじゃないの?」
「……聖應の生徒会は、教職員の代理として生徒の自治を管理する目的で作られたものですから。役員を選挙で決めるのではなくて前期役員の指名推薦なのも、実務能力ではなくて人格や品行方正であるかどうかを重要視しているからですし」


 でなければ、私が生徒会長になんてなれませんでした……と初音は苦笑するけれど。

「品行方正や人格がどうこう云うんなら、初音以上に相応しい人なんて居ないじゃないのさ」
「そうよね……私もそう思うわ」
「あはは……そう云ってくれるのは嬉しいんですが……実は、そのう……ちょっとやらかしちゃいまして」


 あたしたちの言葉を聞いて笑った初音は、いきなりがっくりと落ち込んで机に突っ伏した。

「ど、どうしたの……いきなり」
「ええっとですね、理事長代理には、もう一つ別の理由で怒られたんですけどね……」


 伏した状態でもごもごと喋る初音の話を聞くと。
 学院で流行っている「おメダイを贈る」と云う行動も陽向ちゃんの書いた小説に載っているんだけど、それは生徒会長である初音の行動が原因になっている、軽率な行動はしないようにって叱られたんだそうな。

「……ただ、私としてもそこで大人しく頷いていれば良かったのかも知れませんけれど、つい反論しちゃいまして……」
「え? 初音が反論したの?」


 それは意外。初音は性格の所為か、何か揉め事が起きた時は自分から一歩引いてしまうところが有る。先生を相手に反論するなんて珍しいこともあるもんだ。

「優雨ちゃんからおメダイを返してもらって、学院で同じことをしている生徒たちに注意するようにって云われたんです。でも……私、優雨ちゃんにおメダイをプレゼントしたことが、悪いことだなんて認められなくて」

 あ……初音、スイッチが入ってる。
 あたしと香織理さんは思わず顔を見合わせた。普段は温厚な初音の、意地っ張りな部分が出ちゃったみたいだ。いや、それだけ初音の中では大事なことだったんだろうけど……。

「それで思わず、嫌です、相手を思い遣っての行動を、事情も知らない人にどうこう云われたくありませんって……」

 初音はそれだけ云うと、大きな溜め息を吐いて脱力してしまった。後悔はしてない、でも、ちょっと失敗しちゃった……って感じだね。

「……お姉さま、わたしのせいで……ごめんなさい……」
「えっ? 違うよ優雨ちゃん。優雨ちゃんの所為なんかじゃないよっ」


 慌てて跳ね起きた初音が、泣きそうな声で呟いた優雨ちゃんを抱きしめる。あやすように体を揺らしながら背中を撫でる様は、以前のギクシャクした仲なんてこれっぽっちも感じさせない。
 皮肉だよなあ……有る意味、仲が良くなったからこそ、今回の問題に繋がっているんだから。

「なるほど、それで理事長代理やシスターたちの印象を悪くしちゃったのね」
「うん……ごめんね……」
「大丈夫だよ。初音ちゃんは何も悪くないんだから!」


 千歳が握りこぶしで励ますけれど、事はそう簡単じゃないだろうね。自宅謹慎かぁ……。

「そういえば、文芸部の部長――沙也香さんも処分を受けたの?」
「うん、沙也香ちゃんの方は、部長職を退いて別の人間にすること、って決まったの」
「あら、意外と軽いわね」
「え、そう? 部長を首になったんだよ?」
「だって、どちらにしたって年内には部長を交代するんでしょう? 一ヶ月くらいそれが早まったって、特に問題は無いじゃない。……まあ、内申書は分からないけれど」
「……駄目じゃん」


 聖應って、一度部活動に入ってしまうと、途中で止めるのはもの凄く大変なんだよね。人目を気にして自主退部は出来ない、でも止めさせられるのも……って感じで。
 一度始めたことを最後まで遣り通せないのって、聖應ではマイナスイメージが強すぎるんだ。先生方からの減点の対象にもなりやすい。
 そう云った意味では、沙也香さんも十分に罰を受けてるってことだね……。



 話している間にいい時間になって、初音と優雨ちゃんはお風呂に行った。今日は一緒に寝るらしい。
 初音もそうだけど、優雨ちゃんが精神的にちょっと不安定な感じだったから、香織理さんが二人にそう勧めたんだ。一晩一緒に居れば少しは元気になってくれるだろう。
 それで、あたしたちはお風呂が空くまでの短い時間で、もう少し話をしようということになったけれど。

「何て云うか……話が強引と云うか、こじ付けと云うか……天災? あれ、人災だっけ?」
「……もしかして、冤罪?」
「そう、それ! 大体さ、初音ちゃんを辞めさせたって、何が変わるって訳でもないでしょ?」


 千歳が唇を尖らせる。まあ、確かにあたしもそうだと思うけどね。
 政治家じゃないんだし、不祥事を起こしました、責任を取って辞めますなんて云ったって、生徒会長は誰にでも務まる簡単な仕事って訳じゃないんだよ?

「薫子、貴女本気で云ってるの?」
「えっ? だって……何か違う?」
「初音が生徒会長を辞めたら大変なことになるわよ……」


 香織理さんの言葉に首を傾げると、これ見よがしに大きな溜め息を吐かれてしまった。その場に居る他のみんなに視線を向けると……分かっているのは史ちゃんか。
 あたしの視線に気が付いたのか、史ちゃんは少し考えてから、あたしや千歳に向かって説明を始めた。

「初音お姉さまが生徒会長を辞める理由は、風紀の乱れを招いたからということになります」
「う〜……それは、初音ちゃんの所為じゃないのに……」
「千歳お姉さま、今はそれは問題ではありません。風紀を取り締まる長でもある生徒会長がそれを乱したとなれば、責任を取らされるのは止むを得ないでしょう」
「理屈は分からなくもないけどさ。何も、辞めるなんて厳しい罰にならなくてもいいでしょ?」
「そうですね……まあ、普通は始末書程度のものだとは思うのですが……普段でさえ人手が足りていない生徒会で、会長が抜けてしまえば組織として成り立たなくなります。代理を立てるにしても、仕事を覚えるまでに時間がかかるでしょう。問題はそれだけではなく……」


 一度言葉を区切った史ちゃんは、自分の淹れた紅茶で口を湿らせてから、云い難そうに口を開いた。

「……泥棒事件で寮監督生としての指導力も疑われることになってしまった以上、こちらも辞めることになるかと思います。そしてそうなった場合、綱紀粛正の為に学院側から新たな人事が下されることになります」
「……具体的に云うと?」
「……厳しい寮監が新たに来ることになるかと」
「「「え〜っ!?」」」


 あたしと千歳、ついでに陽向ちゃんが声を上げる。……初音以外の、厳しい寮監!?
 思わず香織理さんに目を向けると、肩を竦めてから頷いてみせた。どうやら史ちゃんと同じ意見みたいだ。

「そうねえ……以前に陽向が云っていたみたいに、差し棒を持った厳しいシスターが来るんじゃないかしらね?」
「そそそそ、そんなぁ……そりゃあ以前はそういうのに憧れても居ましたが、今更そんなのはノーサンキューですよ!」
「……貴女が原因の一端であることを分かっているのかしら?」
「うひっ!?」


 一瞬だけ元気に盛り上がった陽向ちゃんは、香織理さんの冷たい一瞥でまたもや縮こまってしまった。傍で見てるあたしも怖い。

「実のところ、私はそれが目的なんじゃないかと思っているのだけれどね」
「えっ……? 寮監を変えることが?」
「ええ。聖應は、建前とは云え、子供の一人暮らしを認めていないでしょう? それと同じで、人数が多いとは云え、子供しか居ない学生寮を問題視する声が出たんじゃないかしら」
「そっか……寮母さんは、基本的には御飯を作りに来るだけだからね」


 それは、寮母というよりは料理人に近い。朝晩の食事の他に、一応は寮内の設備の点検(例えば、蛍光灯が切れていないかの確認)もしているけれど、常駐しているわけじゃないしね。

「むむむ……」
「……まあ、今はこれ以上考えても、どうにもならないわね」
「……そうだね」


 いまいちスッキリしないけれど、時間も遅いし仕方が無い。夕食の消化に悪そうな嫌な話題だよ、ほんと。
 こう云う時に役立ちそうな、口が堅い知恵袋的な人が居れば……って、そう云えば居たっけ、そんな奴が。





「まあそう云う訳で、こういうことに詳しそうな千早に話を聞きたいんだけど」

 寝る前のお茶の時間、千歳の部屋にお邪魔して千早に尋ねることにした。

「……いきなりそう云われても、困ってしまうんですが」
「薫子お姉さま、流石にそれは……」

『薫子ちゃんの横着者〜』

 千早は千歳の見聞きしたことを覚えていられるんでしょうが。あたしはこういうことを上手く説明出来るほど口が上手くないし、その辺りは察して欲しい。
 それに……本当なら、あんまり千早に相談したくないんだ。また千歳の為に無茶をするんだろうし……。

「……あたしは、美味しい紅茶を飲みながら考えを纏めてるよ」
「仕方が有りませんね……」


 千早もあたしと同じように紅茶を飲みながら、目を閉じて何かを考え始めた。
 いつも思うけれど、中身が違うと同じ顔でも印象が変わるよね。千歳だって真面目に考えることが無いわけじゃないけれど、やっぱり千早の方がスマートな感じだ。千早の時は頬の赤さが無くなるから、陳腐な例えだけれど生きた大理石みたいな感じで……はっ?
 いかん、なんであたしは千早の顔に見蕩れてるんだ!?
 ……ぶるぶると顔を振っていると、千早に変な目で見られてしまった。

「そ、それで……初音を助ける良いアイデアとか、何か無いかな?」
「初音さんを助けるというのは、つまり生徒会長と寮監を続けられるようにする、と云うことですよね?」
「うん」
「情報が少ないから、なんとも云えませんけれど……別に、確実に辞めるというわけではないのでしょう?」
「まあ、初音はそう云っていたけれど」
「学院側だって、初音さんを辞めさせる必要性は無いでしょうから、そこまで厳しい判断にはならないと思いますけれどね」


 それは、そうかもしれないけどさ。必要性か……。

「香織理さんが云っていた、大人の寮監を入れる為って可能性は?」
「それは、まあ、ゼロではないでしょうが……例の裏門の勝手口に電子鍵を導入するのでしょう? 一時にそんなに色々と変えるものか、ちょっと疑問ですね」


 予算というものが決まっている以上、いきなりあちらもこちらも変えるようなことは無いって千早は説明を続けたけれど。
 う〜ん、そういうものなのかなぁ。あたしにはよく分からないよ。情報が無いって云うなら、取り合えず明日学院に行って、色々聞いてみるしかないね。

「……僕の方でも、後でちょっと調べてみますよ。私立のお嬢様学校ですから、思わぬ落とし穴があるかもしれませんし。幸い、伝手も有りますしね」
「伝手?」
「ええ。御門の家は、学院のオーナー一族の親戚ですから」
「へっ!?」


 今なんと云いました? オーナー一族の親戚ってことは、経営側ってこと?

「あれ、云っていませんでしたっけ」
『あ〜……私も云ってなかったかも……』
「……そう云えば、史もその辺りの説明をした覚えがございません」
「半年一緒に暮らしてて、初めて知る驚愕の事実……ってことは、梶浦先生――理事長代理とかにも話を聞けるの?」
「ええ……そもそも、僕や千歳さんのような特殊なケース、学院側に協力者が居ないと編入なんて出来ませんよ。編入時の身分証明とか厳しいんですから」
「……それはそれで、なんか凄いな。幽霊とか良く信じたよね……」


 苗字を変えた上に、実際に学院に通うのは幽霊だもんね。いくら経営者の親戚とは云え、よくもまあ編入できたもんだ。……逆に考えれば、それだけ発言力があるってことか。
 ……ん? 何でか知らないけれど、千早と史ちゃんが変な顔をしてる。

「どしたの?」
「いえ……今のでちょっと春先のことを思い出しまして。あの時……理事長代理に、本当に編入しても良いんですかって聞いたんですよ」
「ほう……中々面白そうな話だね。それで?」
「理事長代理は、例え幽霊と云えど迷える子羊を導くのは当然です。それに、幽霊なら見たことがあるからと云って……」


 え〜っと……それはどう考えれば良いんだろう。と云うか、キリスト教系の学院で、幽霊の存在を認めるって云うのはどうなの? 梶浦先生、シスターの資格も持ってるはずだけど……。

「なんか突っ込みどころが満載なんだけど……まあいいや。深く考えないようにしよう。……それじゃあさ、明日になったらあたしに付き合ってくれるかな。梶浦先生のところに話を聞きに行くからさ」
「はい、分かりました。……僕が出ていた方が良いですかね?」
「ん〜……明日は体育とか着替える授業も無いし、千早が出ずっぱりでも大丈夫かなあ」

『そうだね〜。ここのところ、ゆっくり休んでいないし。難しいお話はちーちゃんに任せるよ』
「分かりました」

 さて……後は、明日の学院でどんな話が出ているかだね。きっと友だち同士の電話連絡とかで、初音のことは広まっているだろうし。変な風に拗れなきゃいいけどなあ……。

「色々と騒ぎが広まる前に、となると……朝早くの方が良いですかね」
『薫子ちゃん、ちゃんと起きられる?』
「……史ちゃん、お願いします」
「……はい」






 翌朝。
 史ちゃんに起こしてもらった後、あたしは千早と一緒に食堂へと向かった。早めに御飯を食べて登校する為だ。
 食堂に入ると、既に初音が朝のお茶の準備をしていた。今日から謹慎で休みの筈なのに、ご苦労なことだ。

「おはようございます」
「おはよう、初音。随分早いね?」
「あ、薫子ちゃん、千歳ちゃん、おはよう。……別に病気になっているわけでもないので、普通に目が覚めちゃって」
「……かおるこ、おはよう」
「や、優雨ちゃんもおはよう。何してるの?」
「はつねに、紅茶の淹れ方を教わってた」


 椅子に座ったあたしの前に、優雨ちゃんが紅茶を差し出した。いつもは史ちゃんが淹れてくれるのでちょっと新鮮だ。優雨ちゃんは千早の前にもお茶を置くと、じっとあたしたちを見詰めてきた。
 これは、感想を聞かせて欲しいってことなのかな? 朝の空気も涼しくなってきた今の時期、初音直伝のロイヤルミルクティーは嬉しい。

「……ん、美味しい」
「そうだね。……ありがとう、優雨ちゃん」


 千早と二人で礼を云うと、優雨ちゃんはちょっと照れてほっぺを赤くした。

「いつもは忙しくて、こういうことも中々一緒に出来ないですから。折角のお休みですし、三日掛けて色々と優雨ちゃんに教えちゃいます」
「お〜お〜、前向きなことで。疲れさせないようにね?」


 謹慎って云うと悪いイメージしかないけれど、ゆっくりと骨休みが出来るのなら、初音にとってはそれほど悪い話じゃ無かったってことだよね。

「ただ、みんなが学院に行っている間、何をしようか考えちゃいますね。お出かけできるわけじゃないですから、凄く暇になっちゃいそうで……」
「……それなら、薫子みたいにずっと寝ているのも有りかもしれないわよ? ……おはよう、初音」


 どうしましょうかと首を捻る初音に、あたしの背中から香織理さんが声を掛けた。振り向くと、香織理さんの後ろに陽向ちゃんも見える。

「お姉さま方、おはようございま〜す」
「香織理ちゃん、陽向ちゃん、おはよう」
「おはよ〜……で、香織理さん。あたしは別にいつも食っちゃ寝してるわけじゃないわよ」


 挨拶のついでに香織理さんに文句を云うけれど、肩を竦められただけで終わってしまった。……いつも通りの軽口は、きっと暗くなりそうな寮の雰囲気を考えてのことなんだろうな。
 陽向ちゃんもいつもよりテンションは低いけど、それでも普通に話そうとしてる。昨日の落ち込み方はちょっと心配だったけど、香織理さんが何かしたんだろうか。

「……何?」
「いや、陽向ちゃんに何か話したのかなって」
「ああ……別に大したことじゃないわ。いつまでも落ち込んでないで、貴女のやることをやりなさいって云っただけ。陽向は目的が決まっていれば自分で動ける子だもの」
「へえ……ちゃんとお姉さんしてるんだね。……香織理さんも、去年から随分と変わったよね」


 耳元に囁かれた内緒話に、笑いながら言葉を返す。香織理さんはちょっとだけ目を見開くと、次の瞬間にはニヤリと笑って。

「そうね、きっと初音や薫子のお人好しが感染したのね。良い迷惑だわ」
「……でも、別に嫌じゃないんでしょ?」
「……云うじゃないの、薫子の癖に」


 あたしだっていつも子ども扱いされてばかりじゃないんだから……と云い返してやったのに、香織理さんの手がスッと伸びると、あたしの頬をブニッと強く突き押した。

「も、もう、止めてよ……」

 突いてた手を払うと、香織理さんは不意に真面目な顔になって、みんなを流し見ながら囁いてきた。

「薫子がこんなに早く起きてきたってことは、何か考えているんでしょうけれど。……あんまり無茶はしないようにね?」

 ありゃ、色々と見抜かれちゃってるな。流石は香織理さんと云うべきか。

「まあ今回の場合は既に初音が一番の無茶をしているから、貴女は目立たないかもしれないけどね?」
「ははっ……まあ、これ以上初音が苦労しないように気を付けるよ」
「宜しい。……さて、それじゃ私たちも手伝って、早く朝食を頂いちゃいましょうか」


 腹が減っては戦が出来ぬ。さて、あたしも配膳の手伝いをしますかね。





 こんなに早い時間に登校するというのは、随分と久しぶりだ。……聖さんの事件の時以来かな?
 早朝の空気はちょっと冷たくて、秋が深まってきたことを感じさせる。でも、気分を引き締めるには良い感じだね。剣道の早朝練習を思い出すよ。
 ちらほらと見える朝練に向かう生徒たちに聞こえないように、隣を歩く千早に小声で尋ねた。

「……そう云えば、PTAや理事の人たちから話を聞くってのは、どうするの?」
「そうですね……昨日の時点では、時間が遅すぎて相手に失礼でしたから、電子メールで何人かに連絡しておきました。早ければ昼過ぎくらいには返信が来ると思いますよ」
「ほ〜……仕事が速いね」
「薫子さん、理事長室には直ぐに向かうのですか?」
「え? そうだね、教室に鞄を置いてから、直ぐに行こうか。あんまり遅いと生徒も増えるし」
「分かりました」


 そんなことを話しながら、落ち葉の積もり始めた桜並木を歩き、昇降口を上がる。靴を履き替えている時に、案の定と云うべきか、初音に関する話が微かに聞こえてきた。やっぱりみんな、耳が早いよね。

「皆瀬会長のお話、お聞きになりまして?」
「ええ……心配ですわ……」
「もう直ぐ生徒総会なのに……この時期に謹慎なんて、大丈夫なのでしょうか……」
「でも意外です。烏橘副会長が、皆瀬会長に戒告を出すなんて……」


 ……なんですと!?

「ちょ、ちょっと、そこの貴女!」
「はい……まあ、お姉さま方。おはようございます」
「あ、うん、おはよう。……それで、今の話だけれど」
「はい……? あ、お姉さま、皆瀬会長が会長をお辞めになるというのは本当ですか?」


 その子の言葉に、あたしと千早は顔を見合わせる。
 何で、そこまで話が進んでるの? その話は、週末の職員会議まで出ない筈。今は未だ謹慎処分だけなのに……。

「……その話、どこで聞いたのですか?」

 千早があたしよりも前に出て、落ち着いた声で尋ねた。浮き足立っていた子たちも、良く通る低めの声で大人しくなる。むむ……流石は千早と云うべきか。

「ええと、どこと云いますか……生徒会室脇の掲示板に、戒告が張り出されていますけれど……」
「そう……ありがとう」


 千早があたしに目配せをして、歩みを促す。あたしはその場に残っている子たちに会釈をしてから、千早の後を追った。

「薫子さん……どうやら、理事長室の前に向かうところが出来たみたいですね」
「そうだね」


 沙世子さん、一体どういう心算なのさ……!




**********

 文中の生徒会則は勿論捏造です。
 しかし、風紀委員を兼任する生徒会からの戒告で、生徒の処分を教職員に申請できるというのですから、このような権限が有ってもおかしくないはず。
 図書室に入れる本を学院側が規制しているのに、生徒の発行する文章を確認しないのもおかしな話かな、と思いますが……。

 そして一話の時点で説明しておくべきだった、御門家がオーナーの一族だというお話。勿論、伏線です(笑)



 最近、夜間のアクセスが非常に悪いです。コメントが書き込めないくらい酷い時も有ります。
 やはり、深夜帯はアクセスの集中が酷いんでしょうね。

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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
う〜ん…どきどきどきどき。
6-1だけあって、まだまだ不明点や妄想の余地ばかりなので、そわそわしちゃいますね(笑)
しかし、御門家と鏑木家との関係とか、すーっかり忘れてました。
「1」の事はほとんど憶えてないって、以前仰ってましたし、「お姉さまのお姉さまルート」は無いものと思ってましたから…。
しかし、こーなると、「2人のエルダー」では話題としてしか出て居ない人たちの出番がありそうな期待をしてしまいますね…。
「櫻の園のエトワール」みたいに、3人組(+2人?)での登場とかあるのでしょうか…。
…登場人物多すぎるので無しかな(汗)

まあ、妄想はともかく、不安いっぱい希望程々な滑り出しですね。
初音Loveの筈の沙世子が何やってんの、とか…。

動物園の熊よろしく、うろうろしながら6-2を待つ事にします。
えるうっど
2011/09/19 03:42
えるうっどさん、こんばんは。

どきどきして頂けましたか。今回は意識して起承転結の「起」だけしか書かなかったので、そう思っていただけて何よりです。
1はPS2版のを引っ張り出して、セーブデータから流し見してますが……駄目ですね、のんびり見ている時間が無いので。
一人だけ登場する予定の「1」の登場人物が誰なのか、楽しみにしていて下さい。

>動物園の熊
パンダみたいにどっしりと落ち着いてお待ち下さい(笑)
A-O-TAKE
2011/09/19 19:43
お久しぶりです。
第六章一話読ませていただきました。
今話で初音が生徒会を首になるという一件でとても驚いています。
おメダイ伝々はあくまで番外的なものかと思いきや此処で再び槍玉にあがるとは思いませんでした。
今話の終わりにも次話への期待を膨らませる件、犯人は副会長…?に期待してお待ちしております。
では、失礼します。

2011/09/21 14:36
唯さん、こんばんは。

一話の時点ではまだまだ状況整理の段階ですが、この状況からどうやって初音を助けるのか、次話からの展開をお楽しみ頂けたらと思います。
ちなみに、沙世子は初音の味方です。これはどんな状況にあっても変わりません。じゃあ何でこんなことになっているのか、というのは次話にて。

まあ、みんながみんな同じ方向を向いている訳じゃないですからね。初音を助ける方法も色々あるということで。

ではまた、次話にて。
A-O-TAKE
2011/09/21 23:55
報告です


・食後のお茶に時間に→食後のお茶の時間に
・見も蓋も無いわね→身も蓋も無いわね
・相手を思いやっての行動を→相手を思い遣っての行動を
・大きな溜息を吐いて脱力→大きな溜め息を吐いて脱力
・これ見よがしに大きな溜息を→これ見よがしに大きな溜め息を
・貴女が原因の一旦→貴女が原因の一端


何度読んでも陽向が謝る場面は涙腺が緩みます
陽向だから、だと思いますけどね
ただ明るいだけのキャラってイメージが強かったので余計に
Leon
2011/11/12 18:16
追加報告です


・必然性か……→必要性か……
・理事の人たちから話しを聞く→理事の人たちから話を聞く


そういえば…ライトノベルが入荷禁止で自分達で書く、みたいなことがあったと思うんですが、あれは大丈夫なんでしょうか
それともまだ実際に読んでもらえる程の作品が書けてないのか…
どちらにしても、あれも検閲でアウトになりますよね
Leon
2011/11/28 10:54
陽向は良い子です。ヒロインになれないというだけで……いや、それを書いてみるのも面白いか? 陽向ルートとか需要は有るのだろうか……
A-O-TAKE
2012/02/03 22:38
妃宮さんの中の人 6-1 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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