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zoom RSS 妃宮さんの中の人 6-2

<<   作成日時 : 2011/09/25 08:29   >>

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 週一更新が当たり前になってしまった……。

 一気に涼しくなったけど、それで執筆がはかどるわけじゃなかった(笑)

**********




 戒告 皆瀬初音
 右の生徒は、生徒会長と云う立場を省みず、学院内に於いて高額な物品を他の者に贈与し、学院内の風紀の乱れを呼ぶ原因を作った。風紀を司る長たる者の行為としては不適切である。よって生徒会副会長の権限に於いて、同生徒の解任決議を行うよう、職員会に向けてこれを請求するものとする。



「なんじゃこりゃー!!」

 あたしは掲示板に貼り出されていた戒告書引っ掴むと、そのままの勢いで、重厚な作りをしている生徒会室の扉を開け放った。
 部屋の中、机で何かの作業をしていた沙世子さんが、ビクッと震えて顔を跳ね上げる。

「……七々原さん、貴女――」
「これはっ、どう云うことっ!」


 言葉を遮って、机の上に広がっていたノートやらファイルやらの上に戒告書を叩きつける。沙世子さんは片眉を上げながらあたしを見た。

「……七々原さん。かってに掲示物を剥がすのは――」
「んなこと聞いてんじゃないわよ!」


 あ、やばい。自分でもそう分かるくらいイラッときて、思わず沙世子さんの胸倉を掴み上げそうになった……その時。

「薫子さん! 落ち着いて下さい!」
「っ……! これが落ち着いていられる!?」
「廊下まで声が聞こえています。……大騒ぎになりますよ?」
「ぬぬぬ……っ」
「ほら、深呼吸して」


 全くもう、千早はどっちの味方なのさ!
 あたしが大きく深呼吸している間に、千早は生徒会室の扉を閉めてこちらへと歩いて来る。沙世子さんはあたしと千早に視線を向けた後、あからさまに大きな息を吐いて肩を竦めた。……我慢我慢……。

「遅かれ早かれ来るとは思っていたけれど、朝一番で来るとは思ってなかったわ。……取り合えず、先に貴女たちの話を聞きましょうか」
「……ちは……千歳、お願い」
「分かりました」


 頭に血が上ってる状態じゃさっきと同じになっちゃうので、あたしは一歩引いて千早に場所を譲る。
 ……とは云え、千早も冷静って訳じゃないみたいだね。口調が千歳じゃなくて千早本来のものに戻ってる。声が低くなってるので、聞いている方からすると怒りを押し殺しているように感じるかもしれない。
 千早は、あたしが叩き付けた戒告書――その生徒会副会長の部分――を指差しながら沙世子さんに尋ねた。

「……この戒告書は、どんな意図があるのですか? これではまるで……追い落としです」
「嫌な云い方をするわね。相手が初音なのだから、次席である私が署名をするのは当然でしょう?」


 嫌な云い方をしているのはどっちなのさ。

「私が初音さんから聞いているのは、理事長代理からの処分として、三日間の謹慎をするということだけです。いつ、初音さんが生徒会長を解任させられることになったのです?」

 千早は机の上に身を乗り出すと、声を落として沙世子さんに詰め寄った。沙世子さんは低く唸ると、椅子の背凭れに体を押し付けて圧力から逃れるようにする。

「……今は、それを云う必要は無いわ。貴女たち二人とも、頭に血が上っているようだし」
「……へえ?」


 ……怖っ。今の千早の声、底冷えがしたよ。見た目はコレでも、やっぱり千早は男なんだって分かるな。流石の沙世子さんもタジタジになって、椅子の上で身動ぎした。

「い、云っておくけれど……私は貴女たちよりも、生徒会則とその運用に就いて熟知しているわ。何か云いたいことがあるのなら、貴女たちも隅から隅まで目を通してからにしなさい」
「……」


 あれ? 千早が身を引いた。このまま押し込むんじゃないの?
 千早はあたしの方に振り向くと、微かに首を振って、扉の方に目線を向ける。……仕方が無いな。

「邪魔したわね」

 シスターが聞いてたら確実に怒られるような云い方になっちゃった。けど、自分でも気分がささくれてるのが分かるので、どうしようもない。
 あたしが扉を開けて廊下へと出ると、廊下の端の方でささっと人影が動くのが見えた。千早の云うとおりだね。あそこで騒がなくて良かった。
 千早はあたしに続いて廊下へと出ると、扉を閉める前に沙世子さんに声を掛けた。

「沙世子さん」
「……何?」
「私たちは、これから理事長代理にお話を伺いに参ります。……では、またお昼に」


 云うだけ云って、沙世子さんの言葉が返る前に丁寧に扉を閉める。……う〜ん、こういうやり方はあたしには無理だけど……千早は怒らせない方が良いなあ。自分にこれをやられたらと思うと心臓に悪い。
 まあ、今は少なくとも沙世子さんに同情する気はしないけれどね。
 さて、それじゃ理事長室へ行きますかね。

「ところで、あれで良かったの? あたしはもう少し問い詰めるのかと思ったけど」
「いえ、彼女の云っていることも間違いではないですから。これ、薫子さんも全部に目を通しているわけではないでしょう?」


 千早は懐から取り出した生徒手帳を指先で振ると、手帳の角に指を這わせ、パラパラ漫画のように捲ってみせる。

「そりゃまあ……そうだけどさ」

 あたしはそれを視界の端に収めながら、腕を組んで考える。生徒手帳には一応、生徒会則が全部載っているらしい――自分で確認したことは無い――けど、字は小さいしページは多いしで碌に目を通したことが無い。
 それこそ、保険会社の持ってくるような契約書みたいなもので、全部に目を通しているのは余程の暇人か生真面目な人間くらいだろう。

「相手の土俵で勝負をしても、勝ち目は薄いですからね」
「……だね。生徒の中で一番生徒会則を知っているのは、間違い無く沙世子さんだろうし」
「それに、なんと云うか……彼女のあの行動は、イメージに合わないですから……」
「ふむ……?」


 イメージか。
 生徒会の顔として、人当たりの良さで組織を回しているのが初音。それに対して、締めるところを締め、規律で以て組織を回すのが沙世子さん。
 そのイメージからすれば、たとえ生徒会長が相手でも確りと風紀を取り締まると云うのは、沙世子さんのイメージに合っていると思う。これは多分、学院の生徒なら誰でも思うところだろう。
 千早がさっき云った「追い落とす」と云うのは、ちょっと違うとは思うけれど……。

「……まあ、今はその話は置いて於いて、理事長代理に話を聞きにいきましょう」
「うん」
「……あ、そうだ、薫子さん」
「ん?」
「理事長代理は僕の事情を知っていますけれど、学院内では「千歳」で通していますので、話を合わせて下さいね」
「へえ、そうなんだ……分かった。色々と喋ると襤褸が出そうだし、黙っておくことにするよ」
「……僕に色々と押し付ける気ですね?」


 だって……あたしが話し合いなんてものに向いていないのは、千早でも分かっているでしょうに。め、面倒くさいとかじゃないんだからね?





 理事長室と云うものは、何度来ても緊張するものだと思う。幸いにして、ここに呼び出されるような悪いことをしたことは無いけれど、掃除の為に何度か訪れたことはある。
 金銭的に高そうなものはあまり無いけれど、歴史的価値のある物――古いトロフィーとか――は結構並んでいる。

「朝早くから申し訳ありません」
「いいえ……皆瀬さんの、処分に就いてのことでしたね?」


 あたしと千早が頷いてみせると、梶浦先生はちょっと苦笑しながら、でも嬉しそうに声を弾ませた。それだけで、この人も初音のことが好きなんだなって分かってしまう。

「皆瀬さんは、素敵な友人が多いわね」
「……はい。ですから、初音さんを助けるために、色々とお話をお伺いしたいのです」
「分かりました。……とは云っても、それほど難しい話でもないのですけどね」


 梶浦先生は、今度は申し訳なさそうな顔になって椅子から立ち上がる。

「単純に云ってしまえば、時期が悪かった、ということになってしまうわね」
「時期?」
「ええ。先月からの色々な問題……例えば泥棒の件とか、貴女たちが結構な時間まで外出していることとか、学院内で流行っているおメダイの贈り合いのこととか……そういったことがね」
「……良く、分かりませんが」
「……学院側としては、生徒の保護者からの「正当な要望」に対して、色々と考えなければいけないの」


 ちょっと目を伏せた梶浦先生を見て、千早が憮然とした表情になった。……多分あたしも、同じ様な顔になってる。
 梶浦先生が云いたいのは、要するに「大人の事情」ってことだからだ。

「品行方正な初音さんが、今回の件でいきなり厳しい処分が下されそうなのも、それが原因ですか」
「……そうね。ただ、教職員は皆瀬さんの味方だから、余程のことがない限りは生徒会長を解任されることは無いと思います」
「えっ? それじゃあ、初音が首になるって云うのは嘘?」


 いけない、思わず声に出しちゃった。あたしの率直な云い方に、梶浦先生はちょっとだけ笑って。

「嘘と云う訳ではないの。この辺りは、本当に大人たちの間の事情だから……」

 梶浦先生の話をざっくり纏めると、保護者の間から、最近の風紀の乱れや学院側の警備に就いて問題が有るのではないかと話題になったらしい。
 聖應女学院は裕福な家庭のお嬢様が通う学校だし、厳しい躾とか学院内の安全に就いて話が出るのは分かる。それが何で初音の話に繋がるのかと云えば、初音が甘いから風紀が乱れた、と云う話が出たらしいのだ。

「……それは、云い掛かりのようなものなのでは?」
「実際のところ、週番等で服装検査などのことをしているのは、皆瀬さんではなくて烏橘さんの方でしょう?」
「それは、確かにそうですが……」
「保護者の方も、生徒たちの話や自身の目で確認する限りでは、表立って動いているのは烏橘さんだと知っていますから。生徒会の内部事情まで知って判断するわけでは有りませんし」
「それじゃあ、初音を辞めさせて沙世子さんを生徒会長にすれば、学院内の風紀が確りして、保護者の人たちは安心して生徒を通わせることが出来ると……」


 千早の推理に、梶浦先生が頷いた。……何と云うか、頭の痛くなるような話だね。
 まあ、学院の外から見るだけじゃ、初音の性格とか方針とかそういうものまで見えないんだから、そういう判断になってしまうのかもしれないけどさ。

「部外者が口を出すなとは云えない状況なんですね」
「ええ。残念ながら、事実ですから」
「……私たちの知っている事実とは、違うんですけどね」


 やれやれ、と肩を竦めて首を振る千早。あたしだって同じ気持ちだ。知りたくなかったと云うか、呆れたと云うか。

「先程も云った通り、もし会議で皆瀬さんを解任するような話が出たとしても、教職員は皆瀬さんを支持する方に回ります。彼女が良く頑張ってくれているのは、私たちも分かっていますから。ただ……」
「ただ、PTAや理事会の人たちは、どう判断するか分からない。そういうことですね」
「ええ。申し訳ないのだけれど」
「これ、あたしたちがどうにかできる問題なのかなあ……」


 あ、また声に出ちゃった……。でも、偽らざる本音だしね。う〜ん……PTAの人たち相手にして、初音のイメージをアップさせる草の根運動でもするとか?

「取り合えず、事情は分かりました。私たちの方でも少し考えてみます」
「分かりました。また何かあったら、尋ねてきて下さい。それと、騒ぎ立てて話が大きくならないよう、皆さんに注意してくれると助かります」
「分かりました。……ああ、そうだ、一つ忘れていました」


 あたしを促して部屋を出ようとしていた千早は、足を止めて梶浦先生に向き直った。

「先程の話からすると教職員とは関係無いようですが……沙世子さんが、初音さんに戒告を出したのですが、ご存知ですか?」
「えっ? いえ、知らないわ」
「そうですか。……生徒会長の解任決議を行うよう教職員に請求する、と云う内容でしたが」


 千早の話を聞いた梶浦先生が、目を見開いた。この驚きようからすると、本当に初耳だったみたいだ。まあ、教職員が初音の味方だっていうのなら、これは沙世子さんの独断ってことになるんだろうし。
 梶浦先生は眉を寄せて難しい顔をしている……が、不意に、その表情がくるりと変わった。

「なるほど。烏橘さんは切れ者だって云う話は本当なのね。それにしても、思い切ったことをする」
「……もしかして、沙世子さんの考えが分かるのですか?」


 納得したように一人で頷いている梶浦先生に、恐る恐る千早が尋ねる。そんな千早を見た梶浦先生は、ちょっと悪戯っぽい笑いを浮かべた。

「そうね……聖應の生徒会は、教職員に働き掛けることが出来るくらい強い権限がある。それは分かるわよね?」
「ええ」
「教職員の方も、生徒のことは生徒で解決させるのが基本姿勢だから、生徒会の決定を無視して独断で動くことは無いわ。そして、生徒会と教職員の間で生徒の処分を巡って意見の食い違いが出た時は、生徒会の判断が優先される」
「……ですが今回は、沙世子さんの判断と、教職員側――いえ、保護者側での意見が同じです」
「ええ。……だけど、生徒会の決定を覆す方法がある。生徒会則第四項、附則第三項。……後は、自分で考えてごらんなさい」


 梶浦先生はそれだけ云って、パチッと綺麗なウィンクをしてみせた。





「さっきの言葉、どういう意味なんだろうね」
「ちょっと待って下さいね。生徒会則第四項、附則第三項……これか」


 あたしと千早は自分たちの教室へ向けて歩きながら、それぞれの生徒手帳を出して、件の会則が載っているところを読んでいた。

 附則・第三項。
 生徒会の裁量に関して不服、疑義を持つ者は提案者とその支持者二名以上を以て生徒会に不服申し入れを申請することが出来る。
 この議題は、十月の生徒総会・若しくは著しく条件に満たぬ場合には六・一月に召集し得る臨時総会によってこれを議論し、全校生徒の多数決によってこの是非を決することとする。
 但し、提案者及び支持者の内に懸案に際する渦中の人物が参加することは認められない。


「……? 良く分からないわね。生徒総会で、初音の処分を撤回することが出来るってこと?」
「……恐らくそう云うことでしょう。生徒総会の結果次第で、生徒会の決定を覆すことが出来る。そして……」


 千早は何事かを云い掛けて口を噤む。考えが纏まらなかったのか、徐々に増えてきた生徒たちに聞かれたくなかったからか。

「千早……考えるのも良いけど、口調は千歳のに直してよね。素が出てるよ」
「えっ? あ……うん」


 千早は一瞬驚いてから、首を振って深呼吸した。……もしかして気が付いてなかったのかな?

「みんな、おはよう」
「おはよ〜」
「あっ、おはようございます、薫子さん、千歳さん」


 軽く挨拶をして教室に入ると、半数ほどのクラスメイトが既に登校して来ていた。
 あたしたちが難しい顔をしているのに気が付いたのか、聖さんがクラスメイトの輪から抜け出して挨拶してくる。

「あのう……初音会長のこと、なんですが……」
「ああ、うん……もう噂になってるよね」


 あたしが教室をぐるりと見回しながら尋ねると、話をしていたみんながこっちを見て頷いた。そのままあたしたちを囲むようにして話を聞く体勢に入る辺り、みんな情報に飢えているみたい。
 あたしは千早の顔を伺うと、千早は軽く頷いて一歩下がった。あたしが説明しろってことだろう。

「ええと、だね。今の時点でハッキリしているのは、初音が三日間の謹慎になっているってこと。それ以外のことはまだ何も決まっていないから、心配しなくても大丈夫だよ」
「でも……掲示板には、初音会長の戒告が……」
「それは、また後で確認しに行くよ」
「あんまり話を大きくすると初音ちゃんが気に病むから、落ち着いてね」


 あたしの後に続いて千早が云うと、みんなはそれなりに納得したようで、三々五々と散って会話を続け始めた。まあ、話をするのまでは止めようがないから、これは仕方が無い。
 あたしは自分の机に鞄を置くと、既に登校していた文芸部の部長……沙也香さんに声を掛けた。

「や、おはよう、沙也香さん」
「う、うん。おはよう、薫子さん」
「……挙動不審だね〜?」
「うっ……」


 目を眇めて云うあたしにちょっと背を引く沙也香さん。まあ、これぐらいの意地悪は許してもらおう。初音は謹慎中なのに沙也香さんは部長の交替だけで済んだんだし。

「駄目だよ、薫子さん。沙也香さんだって朝から人に囲まれていたんだから」

 あたしの後ろに居た茉清さんが、そう云ってあたしの肩を叩いてくる。昨日は初音と一緒に呼び出されたんだから、注目が集まるのも当然か。
 茉清さんは放課後に図書室に居ることが多いので、沙也香さんや、その姉の幸子さん――図書委員長――とは本繋がりでそれなりに親しくしているらしい。
 あたしと千早、そして茉清さんが、教室の内外から集まる視線の壁になるようにして、沙也香さんの周りへと集まる。

「その、ごめんなさい。迷惑を掛けてしまって……」
「ま、良いよ。済んじゃったことだし、今更どうしようもない。反省してくれるならそれで十分」
「……ありがとう」


 ちょっと偉そうに云っちゃったけど、謝るのはあたしにじゃなくて初音にだろうし……多分、それは昨日の時点で済んでるだろうしね。

「初音や陽向ちゃんから大体のところは聞いてるけどさ、文芸部の方は大丈夫なの?」
「ええ。部長は妹に譲ったし、私と副部長が補佐役として面倒を見るから。本の方は、これからは生徒会に提出して、確認のうえで発行すると云うことで話も付いたし」
「ふうん……」
「むしろ、私はこの視線が気になるわ。……薫子さんたちは、いつもこの視線を感じてるのよね……本当、尊敬するわ」


 沙也香さんの言葉に、あたしたちは揃って苦笑する。
 エルダー二人とその候補だった人間、周囲からの視線は春からずっと感じてたからね。最初のうちはそりゃあもう気になったものだけど……今はすっかり慣れちゃった。

「まあ、あたしたちの苦労をちょっとでも理解してもらえたなら、本のネタにするのは自粛してよね」
「あ、ゴメンそれは無理。生徒みんなが望んでるのに、先生に注意されたくらいで止められないもの」
「懲りてないじゃん……茉清さん、何とかならない?」
「無理ね」


 即答ですか。

「それは、今回のことはちゃんと反省してますけどね、実話を基にしたフィクションなんてものはいくらでも有る話だし、今回のことが直接何かの事件の引き金になったというのならまだしも、実際はそうじゃないんだから……」
「あ〜、はいはい、分かったからそんなに熱くならないで」
「む〜……」


 鬱憤を晴らすように言い募る沙也香さんを宥めると、まだ云い足り無さそうにしながらも、一応は落ち着いてくれた。

「……大体、そんなことは梶浦先生だって良く分かってる筈なのに。こと創作物に関しては、先生はプロなんだし」
「ん? なんでそこで梶浦先生が出てくるの?」
「おや、薫子さんは知らなかったのかい? 梶浦先生は一度学校を辞める前は、文芸部の顧問だったんだよ。それに先生の本業は小説家だっていうのは、本好きの生徒の間では有名な噂だしね」
「えっ!?」


 茉清さんの言葉に驚いたあたしは、思わず千早の方を見た。千早が首を振っているところを見ると、どうやら知らなかったみたいだ。むう……何だか色々と混乱することばかりだよ。
 額に手をやって唸っていると、話題になったその当人が教室にやって来た。もう時間か……。

「はい、皆さん席に着いて下さい」
「起立……礼、着席」
「先ずは今日の連絡から――」


 梶浦先生の口から語られる事件の説明を聞きながら、あたしは今回の事件の面倒臭さを改めて感じていた……。





**********





 ベッドの上に腰掛けた初音は、何度目になるか分からない溜め息を吐いた。

「はあ……」

 先程聞こえてきたチャイムの音は、授業の開始を告げるものだろう。
 寮母も朝食の後始末を終えて帰ってしまったし、これで正真正銘の一人きり。
 怪我でもなければ病気でもない、そんな状態で学校を休むのは初めてのことで、何をしたら良いものかと判断に迷う。

「まるで、サボっているみたいです……」

 上体を倒してベッドに転がりながら、再度の溜め息。
 別に悪いことをしているわけではないのに、五体満足で学校を休むと妙な罪悪感を感じてしまう。
 否、悪いことをしてしまった結果としての休みなので、正当性はあるのだから、別に悪くはない筈なのだ。
 それとも、この罪悪感を感じさせる為に謹慎と云う措置があるのだろうか?
 そんなどうでも良いようなことをつらつらと考えながら、初音はベッドの上を転がった。

「……勉強でも、しようかな……」

 そうだ。別に勉強をするなと云われている訳ではないので、自習でもしていれば良い。他に遣らなくてはいけないことが有るような気もするが、複雑なことを考えたい気分ではない初音は、鞄から教科書とノートを取り出して机に広げた。

「……」

 教科書の文字を目で追うが、どうにも集中力が続かない。
 誰も居ない一人きりの寮。物音が全く聞こえない寮と云うのは、初音にとってはとても珍しい体験だ。
 深夜にふと目が覚めたときの、耳が痛くなるような静寂の音。真っ暗な中でのそれはそれで怖いものがあるが、昼間でもやっぱり怖かった。
 まるで世界に一人ぼっちのような……と考えたところで、学院の外を走る車の音が聞こえて、初音はびくりと肩を震わせる。

「(駄目ですね、全然集中できません)」

 また、溜め息。初音は教科書を閉じると、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
 何もやる気が起きないというのは、初音にとって初めてのことだった。昨日まで生徒総会の準備で大忙しだったのに、今はこうしてボケッとしている。

「こう云うの、なんて云うんでしたっけ……?」

 遣ることが全部終わった後の、虚脱した感じ。
 ああ、そうだ。燃え尽き症候群……と、思った初音は、あまりの馬鹿らしさに苦笑した。

「そうか、私……期待に応えられなくて、落ち込んでるんだ……」

 声に出したその答えが、初音の心にすとんと落ちた。
 無性にお姉さまの声が聞きたい。そう思って、携帯電話に手を伸ばす。ああ、でも、迷惑掛けちゃう……思考のループ。
 結局初音は携帯電話を握ったままでベッドの上に逆戻りすると、ああ、ううと唸りながらベッドの上を転がる作業に戻った。
 そんな初音を、窓の外から見守る影が一つ。

『……見ている分には楽しいけど……励ましてあげた方が良いのかなあ……』



**********

 初音は可愛い。結構したたかで策略家でもあるが、やはり可愛い。大事なことなので(ry

 PC版ではそんなに感じないけれど……実は7月の時点で千早が男だと確信していたということは、創造祭で「千早と薫子の甘〜い話」をリクエストするというのは結構大胆なんじゃ……。


 あ、緋紗子先生が元文芸部顧問という設定は(多分)オリジナルです。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんはです。

ふと夜中に目が覚めてしまい、見つけた更新。
いやぁ、凄い。
こう来るか!と、思わず声を上げてしまいました。

原作の生徒総会にあった消化不良感と違い、このからくりは爽快ですね。
全く想像できませんでした。
すっかり目がさえちゃった。
眠れない〜(苦笑)

いよいよ、続きに期待ですね。

そして、初音は可愛い。大事なことです(笑)
でも、確かに、7月に気づいていたとしたら…面白いですね。
まあ、その辺、PSP版で初音シナリオを作成した時に修正していないだけ、という落ちもあり得ますけど…。
可愛いからいいのです(どきっぱり)
えるうっど
2011/09/27 03:48
えるうっどさん、こんばんは。

秋の夜長と言いますが、夜中に目覚めた時にPCに向かうと、目が覚めるのでご注意を(笑)

さすがにここまで書いてしまうと、沙世子が何を狙っているのか分かってしまいますよね。しかし、答え合わせは次話に持ち越しです。

シナリオの整合性に付いては突っ込んじゃいけない……。
まあそれはそれとして、前作・今作通しても、普通のお嬢様は初音だけなので結構新鮮に見えます。まりやとか貴子とか紫苑とか、一筋縄ではいかないお嬢様ばかりですしね。
初音なでなで祭りを見ても分かるとおり、癒し系ですし(笑)

では、また次話にて。


A-O-TAKE
2011/09/27 21:20
お久しぶりです。
第六章二話読ませていただきました。
今回はコメントが遅れてしまい申し訳ありませんでした。
所用につきPCを起動する機会がなかったものでして更新に気付くことが出来ませんでした。
今話で少しずつではありますが今後の展開が分かり始めましたね。千歳が初音にどうかかわるつもりなのかもとても楽しみです。
たしかに7月の時点で把握していたということは、その後の初音との関係も改めてPC版をやっていくと初音の反応が普通に感じていても「でも、気が付いてるんだなぁ…」と思ってしまい意外と黒い(?)一面も感じられ面白かったです。
では、次話を期待しています。
失礼します。

2011/10/02 09:26
唯さん、こんばんは。

無理せず、思い出したときに来てもらえればそれで十分ですよ〜。

シリアス展開のなので千歳の出番が少ないですが、まだまだ話は中盤なんで、もう少しお待ちくださいませ。

初音は専用ルートに入ってからも、千早の言葉を先回りして、志望校の資料を取り寄せたりしてますからね。しかもその行動が天然っぽいから困る……。

さて、先程次話を上げましたので、そちらも是非お楽しみ下さい。では。
A-O-TAKE
2011/10/02 20:20
報告です


・皆瀬さんの、処分に付いて→皆瀬さんの、処分に就いて
・学院側の警備に付いて問題が→学院側の警備に就いて問題が
・学院内の安全に付いて→学院内の安全に就いて
・彼女が良く頑張ってれている→彼女が良く頑張ってくれている
・何度目になるか分からない溜息→何度目になるか分からない溜め息
・再度の溜息→再度の溜め息
・また、溜息→また、溜め息


生徒が教員の判断を覆す…ってのは面白いなって思いましたが、現実には起こらないですよね〜
カリスマのある生徒自体いないような気がしますし、そんな事件なんてほとんどない気がしますし…
そもそも自分の学校には生徒総会なんてなかった!
Leon
2011/11/12 19:13
追加報告です


・その運用に付いて熟知している→その運用に就いて熟知している
・皆さん席に付いて下さい→皆さん席に着いて下さい


そういえば自分の学校は生徒会はただ雑務をこなすだけ、というイメージしかありませんね
部活をしないから内申書を良くするために、という人もいましたし
やはり生徒の自治が確立されている聖應ならでは、でしょうか
生徒手帳にもどこにでもあるような校則が書いてあるだけでしたしね
生徒会則はなかったんじゃないかな…
いろいろ考えると、やはり現実とは違うな、と思わされますね
性別の違いから感じるものもあるとは思いますけど
Leon
2011/11/28 12:22
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