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zoom RSS 妃宮さんの中の人 6-3

<<   作成日時 : 2011/10/02 20:10   >>

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 ううむ……生徒総会に入る前に、既に三話目か……

 またタイトル詐欺だ。生徒総会当日って、話数的には一話で済みそう(笑)

**********


「ふう……やっとお昼になったかぁ」

 お昼のチャイムが鳴って先生が教室から出て行ったのを確認してから、あたしは大きく伸びをする。

「薫子ちゃん、随分と気が散っていたね。やっぱり初音ちゃんのこと?」
「……まあね」


 千歳の振りをしている千早があたしに尋ねるので、口を尖らせながら返事をした。
 千早は沙世子さんのことで何か考えていたけれど、あたしに相談しないで、一人で納得して纏めてしまったみたいなのだ。
 そりゃ、あたしは考えごとに向いてないけど、千早が答えが出る前の中途半端な考えは教えられないって云うんだもの。だからあたしは、口を尖らせて抗議の代わりにしているのだ。

「……そんなに拗ねないで。お昼はどうするの?」
「拗ねてないよっ。……今日はお弁当を用意してないから、食堂で」
「じゃあ、そこでちゃんと説明するね」
「分かった。食べ終わったら生徒会室に行くんでしょ? なら急がないと」


 あたしは席を立って千早を促す。時間は有限、初音を助けるためには一分一秒でも大事なのだ。千早の背中を押すようにして廊下に出ようとすると、千早が本来の口調に戻って、耳元で囁いてきた。

「……焦っても、良い結果にはなりませんよ?」
「うっ……分かってるよ、もう……」


 くそう、千早め。苦笑してるな? あたしはそんなに分かりやすい表情なのかっ……そうなんだろうなぁ。
 駄目だな……なんであたし、こんなに熱くなってるんだろう。もう少し落ち着かなきゃ。
 意識して呼吸を深くしながら、千早に続いて教室を出る。すると、先に教室を出ていた茉清さんと聖さんが話し掛けてきた。

「あ、薫子さんたちも食堂なんですか? 良かったら一緒にどうですか?」
「私たちも、薫子さんたちとちょっと話したいこともあるしね」
「……多分、今の私たちは注目の的だから、のんびり食べられないよ?」


 千早が様子を伺うようにして尋ねると、二人はそれでも良いと頷いてきた。話したいことってのは初音のことなんだろうな。
 まあ、事情が分かった上で付き合ってくれるのなら、それはとっても助かるね。人数が多い方が多角的に考えられるかもしれないし。
 あたしは千早に目配せした後、茉清さんたちに頷いて、一緒に食堂に向かうことにした。





「……結構、噂になってるよね」
「……そうだね。まあ、スキャンダルな話ではあるから」


 食堂に着くまでの間も、そして食券を買って食事を受け取るまでの間も、周囲から集まる視線と初音の噂は絶えることがなかった。初音に最も近いところに居るのがあたしと千歳――千早だから、何か情報が無いかと伺ってしまうんだろう。
 一度テーブルに着いてしまえば、エルダーの威光(?)の成せる業か、視線こそ集まれど周囲の席に人が座ることは無いけれど。

「それだけ、皆さんが注目しているってことですよね。初音会長は慕われていますから」
「うん。それに情報が少ないから、私たちの話を聞こうって頑張ってる」


 ちょっと皮肉が入った千早の言葉に、遠巻きにしてあたしたちの話を聞いていた人たちがそっぽを向いた。……確信犯だな、千早。

「それにしても、薫子さんはそれだけで足りるのかな?」
「あ〜……なんて云うかさ、精神的な消化不良と云うか……」


 あたしの持ってきたホットサンドを見た茉清さんが尋ねてくるけれど、胃に凭れる感じがすると云うかだね……胃薬が欲しくなるって云うのはこういう気分の時のことなんだろうか?

「ふむ……重症だね」
「元気を出して下さい、薫子さん。みんな心配しちゃいますよ」
「えっ?」


 あ……そうか。周りのことまで気が付かなかった。みんなに気を使わせちゃってたのか。だから茉清さんと聖さんが食事に誘ってくれたんだ……。

「薫子ちゃんには、後でおやつを食べさせておくよ。授業中にお腹が鳴ったりすると恥ずかしいもんね」

 千早の云った言葉に笑いが起きる。場を和ますのは良いけどさ、それって結構失礼な言い方だぞ?

「さて、それじゃ食べちゃいましょ」
「そうですね。じゃあ私が……主よ、今から我々がこの糧をいただくことに感謝させ給え。アーメン」
「アーメン」


 手早くお祈りを済ませると、みんなそれぞれの料理に手を付ける。あたしは出来立てのホットサンドを口に銜えた。
 寮母さんのレシピほどじゃないけれど、学食のサンドイッチ系も色々と種類がある。溶けたチーズと新鮮な野菜の味が口に広がった。

「ところで、聞こえてくる噂の話なんですけど……何か変じゃ有りませんか?」
「ん? そうかな?」
「……薫子さんは気が付かなかったかな。噂が随分と一方的だったんだけれど」


 一方的? はて、良く分からないけれど……。
 みんなが話してるのは、沙世子さんが初音を追い出したとか、沙世子さんが初音を教職員に売ったとか……普段の二人を見ていれば嘘だって分かる程度のものだったけれど。

「正しく、それだよ。三年生なら初音さんと沙世子さんの仲の良さを知っているから、そんなことは信じないと思うけれど」
「そうですよね。良く分からないですけれど、どうしてか、沙世子さんが悪いと云うことになっているような……」
「……そう云えば、そうだね」


 人の悪口を云うような噂って、聖應では広まらないようになってるんだよね。人を貶めるような話を嫌う傾向にある、お嬢様が多い学校だし。
 普段の沙世子さんなら真っ先に否定するような話だけど、生徒会で取り締まってるような感じもしない。まあ、当事者がその噂を取り締まったりすると、余計な憶測を呼びそうだけどさ。

「……そう云えば、処分を受けた初音ちゃんや、沙也香ちゃんの話は出てないね」
「千歳さんの云う通りだね。……意図的、なのかな?」
「……なんで?」


 初音のファンが沙世子さんを悪く云っている?
 あるいは逆に、初音や沙也香さんが噂にならないように、沙世子さんの噂を流している?

「……これはやっぱり、そう云うことだね」

 千早が素の口調で呟いた。そう云えば、何か考えてたのを話してくれるって云ってたよね。

「千歳、何か分かったのなら教えてよ。それとも、何か云い難いこと?」
「ん……突拍子も無い話ではあるかな……」


 千早は眉を寄せて口篭ると、あたしたちに手招きをしてテーブルに顔を出す。周りに聞かれたくないことなんだろう。あたしたちは千早に倣って顔を寄せ、千早の言葉を待った。

「多分、なんだけど……沙世子ちゃんは、初音ちゃんの為に悪役を演じる心算なんじゃないかな」





「それじゃ、茉清さんに聖さん、宜しくお願いね」
「はい、任せて下さい」
「まあ、こういう時ぐらいは、私の「人気」とやらも役に立つだろうしね」
「二人とも頑張って」


 食事を終えたあたしたちは、茉清さんたちと別れて生徒会室を目指す。
 茉清さんたちに頼んだのは、信憑性の無い噂を広めるのを止めてちゃんとした情報を待つように、とみんなに伝えてもらうことだ。
 沙世子さんの狙いがどうであれ、今の状況のように悪い噂が広まるのは良くない。いくら謹慎していると云ったって、学院と寮は目と鼻の先なのだ。初音が聞いたら気に病むだろうから。

「……ところでさ。千早のその考えは、どのくらいの確率なの?」
「そうですね……恐らく、十中八九はそうじゃないかな」
「そっか」


 確かに突拍子も無い話だったけど、ちゃんと説明を聞けば、ありえない話ではないと云える。少なくとも、あたしの知っている――去年までの――沙世子さんなら、合理的だからと云う理由でそうしただろう。

「千早、あたしが話しても良いよね?」
「……ええ。でも、熱くならないで下さいね?」
「あ〜……フォローは頼むわ……」


 勿論、ちゃんと気を付けるけれど……それも、沙世子さん次第だから。
 生徒会室の大きな扉の前に立ち、深呼吸して息を整える。さあ、答え合わせの時間だ。あたしは思い切り扉を開いた。

「頼もうっ!」
「わひゃっ!? ……び、吃驚するじゃありませんか、薫子お姉さま。道場破りですか?」


 あ、ノックするの忘れた……まあ良いや。確かに、気分的には道場破りと似たようなものだしね。
 あたしの声に飛び上がったのはさくらちゃんで、生徒会室には他に誰も居なかった。

「あれ、一人だけ? 沙世子さんは?」
「今日はまだ来てませんが」
「むむ……逃げたか?」
「……逃げないわよ」
「うわっ!?」


 背後からの声に慌てて振り向くと、沙世子さんの呆れた顔が目の前にあった。その後ろにはクールな目であたしを見る耶也子ちゃんと、額に手を当てて呆れている千早。
 千早め、後ろから来てるんだったら教えてくれてもいいじゃないか。

「朝に来たと思ったら、昼もなんて……エルダーは随分と暇なのね?」
「むっ……」


 沙世子さんはサラッと皮肉を云うと、定位置である副会長の机に座った。
 ……ふん、あたしがいつも云い負かされると思うなよ? 今のあたしには強力なブレーンが付いているんだからね。

「沙世子さん、今は初音の代理なんでしょ? こっちの机で仕事しないの?」

 あたしは、生徒会長用の重厚な机……長年使い込まれて飴色になった天板に手を乗せる。文字通り、歴代の生徒会長の汗が染み込んだ机。
 沙世子さんはあたしの声に眉を寄せると、やれやれと首を振って受け流した。

「本来の持ち主が居ないからって、勝手に使って良いわけないでしょう? そこは初音の席なの」
「ふうん……それじゃあ噂になっているみたいに、初音が辞めてからなら座るんだ?」
「……」
「沙世子さんにとっては良いチャンスだったよね〜。自分で何もしなくても、生徒会長になれるんだから」


 あたしをからかう時の香織理さんの真似をするように、ちょっと戯けながら沙世子さんを眇め見る。ところが、反応したのは沙世子さんではなくて耶也子ちゃんだった。

「なっ……エルダーだからと云って、云って良いことと悪いことがあるぞ!」
「止めなさい、耶也子」
「でも、副会長!」
「良いから止めなさい」
「ぐっ……」


 耶也子ちゃんは音が聞こえてきそうなくらい歯を食いしばり、あたしを睨んでくる。それに対して沙世子さんは、そう……まるで、狙い通りだって顔をしてる。なるほど、やっぱり千早の云う通りなんだね。
 あたしは千早に目配せをすると、千早は軽く頷いた。よし、それじゃ計画通りに進めようか。

「随分と余裕があるじゃない。このまま初音が辞めちゃってもいいの? 沙世子さんは、初音と一緒に頑張るために、今までやってきたと思うんだけどな」
「……? そうね。それで?」


 ふふふ……沙世子さん、あれっ? て顔をしてる。あたしが怒って喧嘩腰になってると思ってたのに、態度が違うからだろう。

「沙世子さんは、初音を助けたいと思わないのかな?」
「……役職に向いてないのに、無理して頑張って、自分を蔑にするようじゃ本末転倒だもの。出来ないのなら辞めてもいいでしょう?」
「へ〜、ほ〜、ふ〜〜〜ん?」
「……何よ」
「ねえ、沙世子さん。生徒会則って何の為に有ると思う?」


 あたしが真面目な顔で問い掛けると、沙世子さんはきょとんとした顔をした。こいつ何云ってるんだって顔だ。
 なんだい、あたしがこんな話をするのがそんなにおかしいか。どうせ千早の入れ知恵だよ。さあさあ、早く答えろ。こっちの遣り方も決まるんだから。
 沙世子さんは首を捻りつつも、あたしを見上げながら口を開いた。

「私は……生徒会則と云うものは、生徒を守る為に有ると思うわ」
「……そう。それじゃあたしたちは、異議申立書を出させてもらうよ」


 あたしは懐から今回の切り札を取り出して、沙世子さんの前に突き出した。
 さっき食堂で千早がこれを取り出したとき、一体いつの間にって思ったものだけど……多分、沙世子さんも同じことを考えてるだろう。たった半日でこれを用意する千早は凄い。
 最終的には食堂で話を纏めて、茉清さんの署名を貰ったんだけど……準備が良すぎるでしょ。
 あたしが、中を見ろと云わんばかりに異議申立書の入った封筒を振ってみせると、沙世子さんはそれを受け取って中身を改め始めた。

「内容は、今回の初音の処分に関する異議申し立て。初音の処分の撤回と、時代に合わない生徒会則の見直し。あたしが代表者で、千歳と茉清さんが賛同者ね」
「……何で?」


 あたしの言葉に、沙世子さんが小さな声で呟くのが聞こえた。
 沙世子さんは、初音の処分を撤回させればそれで良かったんだろうけれど、そうは問屋が卸さないってね。あたしたちは、沙世子さんの考え通りに動いてあげるほど、優しくはないんだから。

「……で? 受理してくれる?」
「え……ええ。確かに、受理するわ。生徒総会の案件として議題に上げます」


 戸惑いながらも、あたしの言葉に頷く沙世子さん。これを受理しなければお話にならないんだから、あたしたちの考えが分からなくても受理するしかないからね。

「それじゃ、あたしたちは色々と準備があるから、これで失礼するわね」
「……ええ」


 腑に落ちない顔をしている沙世子さんと、凄い目であたしたちを睨んでいる耶也子ちゃん。そして……どこか面白そうな顔をしているさくらちゃん。もしかして、あたしたちの考えていることが分かるのかな?
 もしそうだとしたら……さくらちゃんは出来る子だって初音が云ってたのは嘘じゃないみたいだね。
 あたしたちが扉を開けて廊下に出る直前、今までずっと黙っていた千早が、沙世子さんへと振り向いた。

「沙世子ちゃん」
「……何?」
「生徒を守るためだって云うのなら、勿論、自分も守らなきゃ駄目だからね?」
「……」


 うわあ……朝の時と合わせるような去り際の一言。千早、それ凄いプレッシャーになるんだけど、無意識でやってるわけ?
 音を立てて閉まる扉から離れた後、あたしは大きく息を吐いた。初音の為に頑張ったけど、こう云うのはあたしに向いてないよ。
 さて……それじゃ、生徒総会まで残る時間は短いけれど、頑張りますか。





 沙世子さんの仕事は早かったようで、放課後になる頃には、あたしたちの出した異議申立書が掲示板に貼り出されていた。その仕事の早さこそが、沙世子さんの狙いを表している。
 掲示板を見た人たちが、あちらこちらで「初音の処分撤回は当然」と云う話をしている。午前中までの沙世子さんを悪く云う噂は鳴りを潜め、今はこの異議申し立てが話の中心だ。

「さて、それじゃあたしたちは帰りますか。初音に色々説明しなきゃいけないし」
「そうだね。みんな、お先に〜」
「御機嫌よう、また明日」


 クラスメイトのみんなに手を振って教室を出る。
 最初は、異議申し立ての賛同者を募る為の活動をしようと思っていたけれど、噂の広まり具合を考えると余計なことはしない方が良さそうだしね。
 むしろ、茉清さんや聖さんに頼んだのと同じように、騒ぎすぎて初音に心配を掛けないようにって釘を刺して回った方がいいかもしれないぐらいだし。
 昇降口へ向かって階段を下りていると、優雨ちゃんが上ってくるのが見えた。

「や、優雨ちゃん」
「……ちとせ、かおるこ。ちょうど良かった」
「ん? 私たちに何か用?」
「うん。わたし、今日は帰るのが遅くなるから、はつねに伝えて」
「えっ、どうして?」
「はつねの分まで、生徒会のお仕事をがんばる」


 優雨ちゃんは細い腕で力こぶを作る真似をすると、あたしたちに手を振ってから階段を上っていった。
 初音の力になることを、自分なりに考えた結果なんだろう。優雨ちゃんも大分積極的になったよね。
 あ〜……でもそうなると、初音が寮で寂しくなっちゃうな。

「早く帰ろうか。初音の話し相手にくらいなってあげなきゃ」
「そうだね」




 帰宅部も多い聖應女学院だけど、終業直ぐの時間だと、桜並木を歩く人影も疎らだ。あたしもこんなに早く寮に帰るのは久しぶりで、なんとなく新鮮な気分になる。

「今帰ったよ〜」
「薫子さん、親爺っぽいですよ……」


 寮の玄関を開けて声を上げる。すると、食堂の方からぱたぱたと足音が聞こえてきた。そちらの方に目を向けると、何故か涙目になった初音が駆けて来るじゃないか。

「薫子ちゃん、千歳ちゃん……良かったよ〜……」
「わ、ちょっと、どうしたの初音。何か有ったの?」
「はうう……怖かった〜……」
「ちょっと、落ち着きなって。どうしたの?」


 靴を脱いでる途中で抱き付いてくるなんて、危ないじゃないか。あたしがやんわりと初音を押し返すと、今度は千早の方に抱き付いている。……おいこら千早、何顔を赤くしてるのよっ。

「一体どうしたの?」

 あたしは千早に一睨みくれてから、初音を千早から引き剥がして尋ねてみた。

「あ、あのね……私、寮で一人の筈なのに……誰かの視線を感じるの……」
「へっ……?」
「千歳ちゃんの部屋の方から物音がするし、なんだか小さな声が聞こえるし……幽霊みたいで怖くなって……」


 初音の説明を聞いて、あたしと千早は思わず顔を見合わせた。……幽霊みたい、じゃなくて幽霊そのものだと思います。千歳ってば何やってんのよ……。

「ま、まあまあ。古い寮だし、温度変化とかで軋んだりするのは良くあることでしょ? 気のせい気のせい」
「そ、そうだよ初音、千歳の云う通り。一人で居たから変なこと考えちゃったんだよ。大丈夫だって」
「優雨ちゃんは、優雨ちゃんはどこ? ぎゅっとさせて〜」


 やれやれ、生徒会のことを説明する前に、初音を落ち着かせることから始めなきゃな。階段の踊り場から申し訳無さそうにこちらを見ている千歳を視界に納めて、あたしは思わず溜め息を吐いた……。



 なんだかんだしている間に香織理さんや陽向ちゃんも帰ってきたので、あたしたちは初音への戒告が出されたことや、異議申立書を出した目的、生徒会での遣り取りを二人に説明することにした。

「――それで、なんで異議申立書を出したかって云えば、沙世子さんがそれを望んでたから。沙世子さんは、初音の為に悪役になる心算なんだ」

 あたしは、お昼の食堂で千早が説明したことを思い出して、自分の中で考えながらゆっくりと喋る。案の定と云うべきか、初音は随分と驚いた。

「悪役って……どうして」
「生徒による自治の気風が強い聖應では、生徒の処分は、教職員の判断よりも生徒会の判断が優先される……だったよね、初音ちゃん?」
「だけど、それだって完全と云うわけじゃない。初音は生徒会長で、その身内に当たる生徒会の人間が反対しても、教職員は納得しない」
「うん、それは……そうだよね」


 初音は何度も頷きながら、あたしと千早の説明を噛み砕いている。
 全く、こんなことを考えた沙世子さんもどうかと思うけれど、それを読み取って色々と計画した千早も、頭の中身があたしたちとは違うよね。

「だから、生徒会の判断で処分を撤回すると云うことではなく、生徒たちの総意で処分を撤回することにしたのよ」
「……ちょっと待って、薫子。それって……」
「あ、もしかして……」


 初音たちの顔に理解の色が広がっていく。沙世子さんの考えた発想の逆転、それはつまり。

「……敢えて生徒会が初音を処分する戒告を出すことで、生徒たちがそれに反対するようにする。生徒総会で初音の戒告処分が撤回されれば、それを生徒の総意として教職員に提出できる」
「元々教職員は初音の処分に積極的じゃないから、生徒の総意で反対されたと云うことになれば、処分を撤回する、か。……凄いことを考えるのね」
「でもお姉さま。それって確実性の有ることなんでしょうか? さっきの薫子お姉さまの話からすると、初音お姉さまの処分を必要としているのは、PTAや理事会なんですよね?」


 陽向ちゃんの疑問も尤もだ。学院に於いて一番の権力があるのは理事会で、理事長代理があたしたちの味方だとは云っても、ごり押しされれば初音が辞めさせられるのを止められないだろう。

「で、でも……だってそれじゃ、沙世ちゃんは……」
「……まあ、悪役としてとばっちりを受けた挙句、望みも叶わず、生徒会長に押し上げられてしまうわけだ。学院内の綱紀粛正の為にね」


 あたしの投げ遣りな云い方に、初音の顔から血の気が引いた。
 正直な話として、あたしは誰にも相談しないで悪役になることを決めた沙世子さんを怒っているので、それでも良いんじゃないかって思ってるのだ。まして、初音にこんな顔をさせる決断をした沙世子さんなんて……とも思ったりする。
 だけど、沙世子さんの思い通りにさせた挙句に、あたしたちの誰もが納得できない結果になるなんて御免被る。

「だから、もう一つ手を打つの」
「え?」
「さて、ここで一つ問題です。初音が生徒会長と風紀委員長を兼任していますが、それを分けることは可能でしょうか?」
「……あっ!」


 初音たちが驚いた顔をしたのを見て、あたしと千早はニヤリと笑う。まあ、あたしや茉清さんたちだって、昼間は千早に驚かされたんだけどね。
 そう、初音を辞めさせない方法は、実はとても簡単なこと。単純に、風紀委員会を別の組織としてしまえば良いのだ。

「そもそも、余所の学校じゃそれが普通なんだもの。そうしない理由なんてないでしょ?」
「なるほど、確かにそうよね。外部から入ってきたのに気が付かない辺り、私も大分、聖應の色に染められてきたのかしら」
「お、お姉さまがそんなことを云ったら、入学して半年の私なんかどうすれば良いんですか……」
「陽向はもうちょっと染まった方が、今回みたいにお馬鹿なことをしなくて済むでしょ」
「ぬあっ……い、云い返せません……」


 ははっ……陽向ちゃんと香織理さんも、少しは元気になったかな? 今朝はお通夜みたいな雰囲気だったからなあ。

「沙世子さんが風紀委員長になるのか、それとも別の人がその椅子に座るかは分からないけれど。初音とは違う厳しい人がそこに納まれば、PTAや理事会は納得すると思うよ」
「その上で、沙世子ちゃんを悪役にしないように、ちょっとした悪戯をしようと思うんだよね〜」


 にっはっは、と悪戯っ子の笑みで千早が笑う。……何と云うか、そういうところだけ見ると、千歳と姉弟なんだなって実感するな。……千早は自分がどんな顔で笑ってるかなんて、気が付いてないだろうけど。

「ちょ、ちょっと聞くのが怖いんだけど……千歳ちゃん、それって何をする心算なのかな?」
「んふふ、噂には噂で対抗だよ。な〜に、本当のことを話すだけだから大丈夫だよ?」
「……何故に疑問系か。って云うか、その笑い方で安心出来る方がおかしいよ」






**********





「みなさん、御機嫌よう」
「御機嫌よう、沙世子さん。……ふふ」
「……?」


 異議申立書が貼り出された翌日、沙世子が登校して教室に入ってみると、予想とは違う光景が広がっていた。
 昨日の様子からすれば、自分は悪役として生徒から嫌われるだろうと思っていたのだが、蓋を開けてみれば、挨拶をしても普通に返事が返ってくる。
 家で覚悟を決めて、平静を保って登校して来たと云うのに、これでは肩透かしと云うものだ。

「私は生徒総会の準備が有りますので、少し席を外しますね」
「はい、承知しました。頑張って下さいね。……ふふ」


 何故か微笑ましいものを見るような目で自分を見るクラスメイト。別の意味で居心地が悪くなった沙世子は、早々に生徒会室へと逃げることにした。

「一体、何だって云うのかしら……?」

 首を傾げながら生徒会室へと向かい、大きな扉を開ける。部屋の中には既にさくらが居て、机に座って仕事をしていた。

「おはよう、さくら。早いのね」
「あ、おはようございます、副会長。……んふ」
「……貴女もなの? 何なの一体」


 ぎゅっと沙世子の眉が寄る。機嫌の悪さを察したさくらは、慌てて手を顔の前で振った。

「あ、済みません。実はですネェ……」
「つっちー、居るか!」


 口を開いて説明しようとしたその時、生徒会室の扉が大きく開け放たれて、耶也子が慌しく飛び込んできた。

「耶也子、煩いわよ。どうしたの?」
「あ、副会長! も、申し訳有りません。えと、おはようございます」
「はい、おはよう。それで?」
「あ……う〜……」


 何故か云い篭る耶也子を見て、沙世子の眉の端が急上昇した。そのまま二人を一瞥すると、氷点下の視線を感じた二人は思わず身を寄せ合った。

「ひうっ!? あ、あのですね」
「実は、副会長の計画がですね、面白い――いや違った、不謹慎な感じで広まってしまいまして」
「……どう云うこと?」
「会長を助けるために、敢えて副会長が悪役になったことと……」


 それは良い。どうせ薫子と千歳のことだから、それを云うかもしれないとは思っていた。
 そもそも、沙世子は初音を助けられればそれで良いので、既に異議申立書の提出と云う段取りが済んだ以上、本当のことがばれても問題は無いのだ。
 ……だが。

「その、副会長は会長のことが心配だけど、素直にそれを云えない……その、つ、つんでれ、だから、みんなで協力しようと……」
「……は?」
「ですから、副会長の行動を温かく見守って――ひいっ!?」


 言葉を最後まで云うことなく、耶也子はさくらとヒシと抱き合う。視線の先に居る沙世子は、まるで瘧に罹ったかのようにガタガタと震えていた。
 つまり、朝から感じたあの視線と微笑みは、生暖かい目で見守られていたと云うことで。

「ふ、ふふふ……遣ってくれたわね……お・ぼ・え・て・な・さ・い・よ……!!」



**********

 沙世子一人をスケープゴートにすることは、そりゃあ初音だって許さないだろうということで。

 

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんはです。
生徒総会の方は前回で多少見えましたが…一ひねりしましたね。
いやぁ、面白いです。
第六話は、今までで一番面白い気がします。

私の大好きな小説に「影武者徳川家康」というのがあります。
関ヶ原の合戦から大坂の陣まで、年表通りの表の動きの陰で、全く違う動き・戦いが続いていたというお話です。
その辻褄合わせと、裏の世界に向けられたエネルギーに感動しました。

第六話を見ていて、それを思い出しました。
「生徒総会」というイベントがゴールにあるのは判っていて、そこまでの紆余曲折をいかに演出するか。
楽しくて仕方が無いです。

そして、沙世子がはめられている所もいいですね。
どうしても、原作では、千早視点で見てしまうせいか、初音大好きっ娘と知っていても、沙世子があんまり好きになれませんでした。
でも、その冷たい仮面が粉砕さえる様は楽しいです。
つんでれ沙世ちゃん、これは面白いです(笑)

次にも期待ですね。
えるうっど
2011/10/02 22:25
えるうっどさん、こんばんは。

>一ひねり
正直、色々と悩みましたけど、こういう形になりました。
当初はガチで沙世子とぶつかるプロットもあったんですが、シリアスになり過ぎない話を目指してますので……

>影武者徳川家康
私、漫画のやつしか読んだことが有りません……あれはあれで面白かったと思いますが。最近は硬派な小説を読んでないので、色々と物色中。


次話はもう一つ残っている問題の方の話です。
では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2011/10/03 21:33
理事会の方は、現エルダーが元エルダーに(嫌々)電話すれば一発でけりがつくような…(言い逃げっ!)
えるうっど
2011/10/09 20:47
お久しぶりです。
前回のコメントの直ぐ後に更新されたとは露知らず、コメントが遅れてしまい申し訳ありませんでした。
今話で沙世子との軋轢が多少は改善(笑)されたようだったので個人的には良かったです。
次回には早めに拝見させて戴けるようにしますので、よろしくお願いします。
短いですが、失礼しました。

2011/10/09 21:58
唯さん、こんばんは。

沙世子との関係は、正しく改善(笑)でしかないですけどね。普通に友だち付き合いするよりも、微妙なライバル関係の方がしっくりくると思うので。

第6話は今までで一番長くなりそうな感じなので、あまり慌てずに、じっくり読んでいただければと思います。

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2011/10/10 23:29
報告です


・一度テーブルに付いて→一度テーブルに着いて
・突拍子も無い話し→突拍子も無い話
・茉清さに聖さん→茉清さんに聖さん
・どのくらいの確立→→どのくらいの確率
・あたしは思わず溜息を→あたしは思わず溜め息を


千早の頭の回転が速いのは分かってましたが、沙世子もかなりのものですね
まぁ実際に生徒会を仕切っているとも言えるので当然かもしれませんが、原作ではあまり活躍の場面はなかったですからね
それにしてもさくらちゃん…ふざけてるようでしっかりしてるのが良い!!
Leon
2011/11/13 10:19
追加報告です


・口を尖らせて抗議の変わりに→口を尖らせて抗議の代わりに
・それも、沙世子さんしだいだから→それも、沙世子さん次第だから
・意義申立書→異議申立書(6箇所)


聖應って先生がOGなこともあって理不尽な事を云いそうにないですよね
閉鎖的だからマイナスな影響もあるとは思いますが、めちゃくちゃな先生が居ないだろうことは素直に羨ましいですね
そういえば…三倉理事長の病気はどうなったんでしょうね
年齢のこともありますが、1年以上は入院しているのでは…
もしかするとかなり深刻な病気かもしれない、と思うと辛くなりますね
Leon
2011/11/28 13:18
沙世子は冷静になれば優秀だと思います。ただ、原作見てても思いますが、千早や薫子が絡むと沸点が低くなりますからね。
美倉理事長は……確か瑞穂の祖父と同年代だったような記憶が有ります。そうなると、やはりお年と言うことになりますからね。あるいは引退の心算でノンビリ療養しているのかも。
A-O-TAKE
2012/02/03 23:21
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