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zoom RSS 妃宮さんの中の人 6-5

<<   作成日時 : 2011/11/01 23:21   >>

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 グダグダ日常モード。

 思いついたまま書いてたら、なんか中途半端な長さになってしまった……



**********



「みなさん、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう。また明日」
「ご機嫌よう。薫子さん、明日は頑張って下さいね」
「うん、ありがとう」


 生徒総会を明日に控えた放課後。クラスメイトたちの声に手を上げて応えながら、あたしと千歳もまた廊下へと向かう。
 帰り支度を少し遅くして、明日のことに対する質問などが無いかを確認していたのだけど……どうやら初音の戒告処分はヤラセだと云う噂は確りと広まっているようで、みんなは微笑み混じりに応援してくれるだけだった。
 一方の沙世子さんはと云えば、合同授業で沙世子さんと一緒になった千歳の話を聞くに、生暖かい目で見られるのはもううんざり……とのこと。お互いの目的がはっきりしてるんで、危機感が無いと云っちゃあそれまでなんだけど。
 理事会にヤラセだってことがばれても云いのかって沙世子さんに聞いたんだけど、

「それならそれで、私たちがそうまでしても初音の免職を阻止したがっている、と云う意思を示せるでしょ」

 ――とのこと。要は生徒の大多数が初音の生徒会長を支持していると云うことを分からせれば良い、と云い切った。なんかもう色々と開き直った感じだったけど。

「あ、史だ〜」
「千歳お姉さま、薫子お姉さま」
「史ちゃんも今帰り?」
「はい」


 階段を下りる途中で史ちゃんと合流し、二年生の様子も聞く。どうやら生徒会のさくらちゃんが頑張っているようで、特に問題は無いらしい。この分なら一年の方も大丈夫だろう。
 そんな話をしながら一階に着いて、昇降口へと向かう。すると、進行方向から大きな荷物を持った沙世子さんが現れた。

「あら、貴女たちも帰り?」
「うん。沙世子さんは……何それ?」


 片手に大きなスポーツバッグ、もう片手には車輪付きの背負子みたいなの(キャリーカートと云うらしい)に段ボール箱を三箱も積み上げている。

「今日、寮に泊まるって話だったけど……もしかしてそれ、全部荷物?」
「あのねえ……そんな訳無いでしょう? こっちのダンボールは明日の資料よ。印刷が終わって、これから製本するところ」


 うへえ、そうなのか……。あたしは去年、講堂に椅子を並べるのを手伝っていたから、資料の製本作業なんて知らないんだよね。まあ製本と云っても10ページ程度なんだけど。

「ん……? でもなんで、そんなの引っ張ってるの?」
「今年は手伝いの人間が少ないから、間に合わなかったのよ……」


 沙世子さんはそう云って肩を竦めた。
 初音への戒告が出た当日は、当然のことながら生徒の誰も詳しい事情を知らなかった。だからその当日だけ、不審がって誰も生徒会の手伝いに来なかったらしい。自業自得と云えばそれまでだけどさ。

「そんな訳で、コレ、貴女たちにも手伝って欲しいの」
「うわ〜、楽しそうだね〜」


 紙を折ってホチキスで止める作業のどこが楽しいんだ。……まあ、あたしたちにも関係することだし、仕方が無いか。
 靴を履き替え、本来は敵であるはずの沙世子さんと並んで、一緒に桜並木を歩く。

「……なんか変な感じ」
「……そうだね、あたしもそう思った」


 去年はそんなこと無かったのにな……とあたしは思う。
 三年生になってから生徒会の手伝いに行かなくなったのは、別に誰に云われたからでもない。下級生に仕事を覚えてもらう為に三年生は手伝いを遠慮する――そんな暗黙の了解があるからだ。
 別に沙世子さんに隔意が有った訳じゃなく、それは沙世子さんも同じだと思う。やっぱりエルダー選が原因なのかなあ。沙世子さんが初音をエルダーにしたがっていたのは確かだし……。
 あたしとしては、今回の件を機にもう少し歩み寄りたいところだ。あたしと沙世子さんが仲悪いと、初音が気にするしね。
 とは云え、いきなり和やかに話が出来る筈も無く。結局あたしたちは言葉少なに寮まで歩き、あたしが先頭に立って扉を開けた。

「おっ……と」
「ただいま〜……あれ、お客さん……?」


 扉の内側に居た人が、ノブに手を伸ばそうとした体勢のままであたしを見ていた。
 あれ……誰だっけ、どこかで見たような……?

「や、薫子ちゃん、だっけ」

 あたしを知ってる? ……あ、そう云えば――

「ああーっ!? まりやお姉ちゃん!?」
「ぶふっ!?」
「うわ汚っ!?」


 あたしの後ろに居た千歳の声に、目の前の人が噴出す。あたしは思わず飛び退りながらその人の顔をもう一度良く見た。そう、そうだよ、思い出した! 御門まりやさん、由佳里さんの姉だった人だ!
 ……と、あたしがその人を見ている前で、扉が音を立てて閉まる。あたしが手を離したのだから当然だけど。

「……ねえ、今、内側で『ふぎっ』とか聞こえなかった?」
「……さ、さあ……?」
「……今の人、扉に顔をぶつけたんじゃない?」
「……」


 沙世子さん、それは多分突っ込んじゃいけないところだ。




「失礼します。お茶をお持ちしました」
「は〜い。ちょっと待ってね」


 静かなノックと共に聞こえてきた声に応えて、あたしは椅子から立って扉を開ける。両手でお茶のセットを持った史ちゃんが、軽く会釈をしながら部屋に入ってきた。

 ――あの後。鼻を押さえて蹲っていたまりやさんを千歳と二人で両側から抱え上げて、その場を笑って誤魔化しながら問答無用で千歳の部屋に連れ込んだ。勿論、口止め&話を合わせる為だ。
 史ちゃんには玄関に残ってもらって初音たちを上手く誤魔化すのをお願いして、あたしたちはまりやさんへの説明を手早く済ませた。

「ありがとうね、史ちゃん。……貴子はどうしてた?」
「貴子さまは、食堂でお話をしていらっしゃいます。私たちの用事が終わるまで待つと仰って下さいました」
「そっか」

『ごめんね、お姉ちゃん。帰るところだったんでしょう?』
「いや、気にしないで良いよ。流石のあたしも、事情を聞かずにそのまま帰るってのは無理だし……」

 まりやさんは千歳や千早のいとこだって話だけど、ここ何年かは海外に留学していて、千歳――千早――が聖應に編入しているのは知らなかったらしい。
 まりやさんはそう云って苦笑すると、千早の頭の上に乗っかっている千歳を見てから、そのまま視線を下へと向ける。

「なんちゅーか、色々と大変だねえ、ちーちゃんも」
「……あの……その呼び方は止めて欲しいんですが……」
「ん? ちーくんの方が良いかね?」
「……」


 制服姿の千早を見てニヤニヤ笑っているまりやさん。あの顔は「良い話のネタを手に入れたぜ!」って顔だ。
 あたしには良く分からないけれど、まりやさんは本来の千歳の髪色(栗色)を知っている為、女装しようが何をしようが銀髪と云うだけで千早――男だという認識になってしまうらしい。

「それにしても、まりやさんは全然驚かないんですね。千早はコレでも男だし、女学院に居たらもっとこう……わ〜ってなりません?」
「にっはっは……女よりも美人な男には慣れてるんでね」


 え、それって慣れたからってどうこうなるものなの?
 いや、まあ……千早は素のままでも女に間違えられるくらいだし、コレがデフォルトになってれば確かに慣れるかもしれないけれど……。

「大体、なんでまりや姉さんはこっちに戻ってきているんです?」
「ん〜? ほら、あたし盆も正月も帰ってこなかったもんだからさ、父さんに帰ってこないならこっちから遊びに行くぞって云われちゃってさあ」
「……公造伯父さん、そんなこと云ったんですか」
「社長のくせに何云ってんだって文句云ったら、泣き声になるんだよ……」


 うわあ……まりやさん、肩を落としながら愚痴を云い始めたよ。
 人様の親に云うことじゃないだろうけれど、うざったい親だなあ。うちの親爺がそんなんだったら嫌だ。今の方が良いのかって云われたら首を傾げるが。

「あの〜、そろそろ話を戻したいんですが……」

 何か放っておくと何時までも喋ってそうだったので、切りの良いところで話を止める。下で貴子さんも待ってるのに、あんまりのんびりしても居られないだろうし。

「え? ああ、ごめんごめん。それで何だっけ。寮監?」
『うん。私のことが有るから、大人の寮監が入ってくるのは嫌なんだけど……』
「あたしたちじゃ良い考えが浮かばなくて」
「ま、それはさっき、初音ちゃんとも話したんだけどね……逆に云うとさ、どんな人なら良いわけ?」


 眉を寄せたまりやさんが問い掛けた。どんな人なら良いかって云われてもな。

「そうだなあ……あまり厳しくなくて」
『……一緒に居ても安心できて』
「……千歳さんのことで協力できそうな人で」
「みなさま、流石にそれは虫が良すぎるのではないでしょうか」


 うっ……史ちゃんの冷たい視線が刺さる……。でも、大体こんな感じだよね。

「ふ〜む……更に付け加えるなら、独身女性。……いや〜、ちょっと無理じゃない?」
「あはは、やっぱり駄目ですか」
「ただの寮監なら、それこそ学院に居るシスターを一人引っ張ってくれば良いんだし、学院側もそこまで手間をかけないでしょ」


 それもそうか。このままだと、それこそ陽向ちゃんが云ってたような「差し棒を持った厳しい寮監」が遣って来ることになっちゃうかも。

『それは嫌だなあ。私たちは卒業するから良いとしても、優雨ちゃんたちは来年も居るんだし……』
「優雨ちゃんって、さっき居た小っちゃい子だよね」
「そうです。色々と難しい子で……通り一遍の対応しか出来ない大人じゃ、あの子の面倒は見れないと思いますし」
「ああ、そういうこと、有りそうだよねえ」


 優雨ちゃんは、今でこそみんなと打ち解けてくれたけど……厳しいだけの大人が相手じゃ優雨ちゃんだって参っちゃうだろう。

「……シスター、か。……ふむ」
「ん? まりや姉さん、何か良いアイデアでも?」
「ああ、いや……取り合えず心当たりは有るんで、聞いてみるよ。今ここでどうこう云っても分からないし、それにそろそろ時間だしね」


 何か閃いたらしいまりやさんが、残っていた紅茶を一気に煽ってから立ち上がる。
 心当たりって誰だろう……事情を知っている以上、そんなに変な人じゃないとは思うけど。

「ごちそうさま……っと。そうそう、あたしはもう少し日本に居るから、何か有ったら電話して頂戴」
『そうなの? どれくらい?』
「ん〜、そうだねえ。折角だし、一ヶ月ぐらいこっちに居ようかしら。ここで直ぐに帰っちゃうと親が煩くなるし、向こうでの勉強が終わるまで、これ以上邪魔されたくないしね」





 再度千歳が憑依してからまりやさんと一緒に食堂へと向かうと、あちらも丁度廊下に出てきたところだった。香織理さんと陽向ちゃんが帰ってきて、そろそろ食事の時間になるということで、あたしたちの様子を伺うところだったみたい。
 そのまま寮の住人&沙世子さんで、帰るまりやさんと貴子さんを見送ることになった。

「それじゃ、またね」
「初音さん、頑張って下さいね」
「はい。色々と有難うございました!」


 二人は、既に暗くなった桜並木をじゃれあいながら歩いていった。以前に聞いた話じゃ、あの二人は天敵同士だったらしいけど……普通に仲が良さそうだよね。
 あたしは貴子さんとあんまり話せなかったけど、初音には良い影響が有ったみたいだ。あと、どういう訳か沙世子さんが顔を赤くしている。
 寮の中に戻りながら、それとなく話を振ってみた。

「七々原さんには分からないでしょうけれど……貴子さまは伝説の生徒会長なのよ」
「はあ? 伝説?」
「そうよ。自他に厳しく、一度決めたことは迷わない。あれこそ私の理想の生徒会長像だわ」
「はうっ……!」
「えっ……あっ! は、初音、別に貴女を責めている訳じゃないのよ!?」
「……本当?」
「ほ、本当だって!」


 沙世子さんが赤くなってたのは、憧れの人に会ったからか……なんて思ってると、話が変な方に飛び火してた。初音と貴子さんは正反対って云ってもいいくらい違うもんね。
 食事の時間まであと少しなので、それぞれの部屋に戻らずに食堂で待とうということになり、よろよろしてる初音を優雨ちゃんが支えながら、みんな揃って食堂へ向かう。

「それにしても、まりやお姉さまと千歳ちゃんが親戚だったなんて。教えてくれても良かったのに」
「え、いやあ……私、まりやお姉ちゃんが留学してるの知ってたから、会えないなら説明しなくても良いかなあって」


 食卓に着きながら問い掛けた初音に、普段は見せない苦笑で千歳が応えた。
 実際のところ、千歳や千早の正体が分かるような情報は出せないから、説明する心算もなかったんだろう。妃宮なんて珍しい苗字だけに、調べようと思えば簡単に探せるだろうし。

「それで、初音は何か良い話でも聞けたの?」
「うん。落ち込んでても仕方が無いし、取り合えず頑張ってみるよ」
「そう」


 へにゃっとした笑い方をする初音を見て、あたしは内心で息を吐いた。他のみんなも多分同じだろう。空気が弛緩した頃合を見計らったように、寮母さんが調理の終わった料理の配膳を始めた……。



「……これが、寮の食事」
「そうだよ」


 どこか呆然とした感じの沙世子さんの呟きに、初音が自慢げに応えた。まあ、目の前に琺瑯バットに山盛りになった焼き野菜が有れば、驚くのも仕方が無いよね。ローストチキンだって鶏が丸ごと二つだ。
 以前は住人が少なかったから四人掛けの食卓一つで足りてたんだけど、この春から七人になったからね……食卓に並ぶ料理の量も半端じゃない。
 四人掛けのテーブルを二つ並べているからスペースは有るけれど、見た目のインパクトは絶大だ。
 ……ふふ。しかし、驚くのはこれからなのだよ、沙世子さん。

「さて、それじゃお祈りしますね……主よ、今から我々がこの糧をいただくことに感謝させ給え。アーメン」
「アーメン」


 初音の声に合わせてみんなでお祈りをする。勿論沙世子さんもそれに合わせたけれど、ちょっと不思議そうな顔をしている。何しろ、誰も料理に手を伸ばさない。

「……では、失礼致します」

 史ちゃんがスッと音も無く立ち上がると、大皿に乗っているローストチキンを鮮やかな手付きで解体し始めた。
 チキンや野菜が取り分けられてみんなの皿に並んでいく様を、あたしたちはお行儀良く待っている。……最近、この時間が餌を待つ雛鳥みたいな心境にさせられるんだけど……まあ、それは兎も角。
 呆気に取られている沙世子さんの目の前の皿にも綺麗に料理が盛り付けられ、最後に史ちゃんは自身の分を取り分けてから席へと戻った。

「有難う、史ちゃん。それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」


 改めて初音が声を上げて、みんながそれに応えたところで……漸く沙世子さんが動いた。
 目の前にある皿の、まるでレシピ本に載るような見事な盛り付けを見ながら、呆然と呟く。

「え、何? この寮って、専用の給仕役も任命するわけ?」
「史は私の侍女だけど、みんなの給仕をするのが趣味なんだよ」
「……千歳さま。その説明では、史が変人だと思われてしまいます」
「あはは……史ちゃんはプロだもんね?」
「はい」


 キラッ、と史ちゃんの目が自慢げに輝いたように見えた。実際、望んで遣っているだけあって、見事なものだしね。史ちゃん自身がコレを仕事と考えているのか、それとも普通に生活の一環として遣っているのかは分からないけれど。

「……何と云うか……確かに見事だけど」
「ん? どうしたの、沙世ちゃん?」
「……いえ、メイドの居る生活って、人間を堕落させないかなって」


 どこか腑に落ちない表情でそんなことを云う沙世子さん。その気持は分からなくもないなあ。だって、痒いところに手が届くんだもん、史ちゃん。
 ……はっ!? 去年はお姉さまにお世話をされて、今年は史ちゃんにお世話をされてる……いかん、あたしも駄目人間まっしぐらな気がしてきたぞ!?

「……大丈夫よ、薫子」
「えっ?」
「今でも十分駄目人間だから♪」


 ぬがっ! 香織理さんの意地悪!

「……初音、この寮っていつもこんなに賑やかな食事なの?」
「そうだよ」
「ふうん……」






 食事が終わり一息吐いた頃、一度席を外した沙世子さんがそれを持って――いや、キャリーで転がしながら現れた。

「あれ、沙世ちゃん、それは?」
「生徒総会の資料よ」


 ドンドンドン、とダンボール三箱を食堂の床に並べて中の紙束を取り出していく沙世子さん。

「折って、纏めて、ホチキスで留めるだけの簡単な内職だから、大丈夫よ」
「……何が大丈夫なのか良く分からないのですが……もしかして、私たちも手伝うのでしょうか〜?」


 陽向ちゃんが、何故か楽しそうな表情をして沙世子さんに尋ねる。

「無理強いはしないけれど……手伝ってくれると助かるわ」
「まあ、良いんじゃないかしら。全員で手伝えば、一人当たりで百人分ぐらいでしょう?」
「どちらにしても片付けなきゃいけないことなら、さっさと済ませちゃった方が良いですよね」
「よ〜し、がんばろ〜!」


 千歳が拳を突き上げる。その姿を見た沙世子さんはちょっとだけ苦笑して、あたしに見られているのに気が付いて慌てて咳払いし、腰を屈めて段ボール箱の中に手を突っ込んだ。

「それじゃ、先にこれを配っておくわね」

 そう云いながら段ボール箱から取り出したのは、布製の白い手袋。印刷面を触るとインクが手に付くから、これを着けて作業するらしい。
 手渡された手袋を着ける……むむ、ちょっと小さいな。あたしの手は大きい方だから、Mサイズじゃちょっと厳しい。

「さよこ……これ、少し大きい……」
「あら。じゃ、優雨さんはこっちを使って」
「あれ、別のサイズが有るの? ならあたしにもLサイズを……」
「え? ごめん、そっちは用意してないわ」


 ……くそう。どうせあたしは規格外ですよ〜だ。さっとみんなを見ると、あたし以外はMサイズで大丈夫のようだ。千歳も勿論Mサイズで、それはつまり千早もMサイズなんだろう。……え、あたしって男よりも手が大きいのか?

「薫子ちゃん、何で項垂れてるの?」
「……気にしないで」


 別に良いじゃないか、物を抑えたりするのに便利だし。ほら、これからする作業でも、紙を折ったりするのに便利じゃん? ……なんて、机の上に積み上げられる紙の束を見て自分を慰めた。



 折って、纏めて、ホチキスで留める。
 折って、纏めて、ホチキスで留める。
 折って、纏めて、ホチキスで留める。
 これってアレだね。『目標をセンターに入れてスイッチ』みたいな感じだよね。
 折って、纏めて、ホチキスで留める。
 折って、纏めて、ホチキスで留める。
 折って、纏めて、ホチキスで留める。

「……飽きた」
「薫子ちゃん、飽きるの早いよ〜」


 自分で云うのもなんだけど、あたしはこういう作業に向いてない。取り合えず半分は終わったので、周りの様子を見てみる。
 一番進んでいるのは沙世子さんと香織理さんだ。沙世子さんは慣れているからだろうし、香織理さんは手先が器用だからだろう。次に早いのは陽向ちゃん。「イベント前日のコピー誌作りで鍛えた腕を見よ!」とか云ってた。
 意外だったのが、一番遅いのが史ちゃんだということ。何故かって云うと、几帳面なのだ。紙の角をしっかり合わせてから折って、纏めてホチキスで留める時も丁寧に合わせている。
 これは多分に性格的なものなんだろうね。……他のみんなは気が付いて無いけど、紙を折って角がキッチリ合わない時に、ちょっとだけムッとした顔をしているのだ。
 その史ちゃんが、ふう、と大きめに息を吐いてから席を立った。

「史?」
「……お茶の用意と、お風呂を沸かしてまいります」
「……あ、もうこんな時間なんだね」


 史ちゃんの背中を見送った初音が、壁掛け時計に視線を向ける。同じように時計を見た陽向ちゃんが、ああっ! と云いながら立ち上がった。

「ドラマが始まっちゃいます! 初音お姉さま、テレビを付けても良いですか?」
「良いけど……何を見るの?」


 テレビのリモコンを陽向ちゃんに渡しながら、初音が何気ない口調で尋ねる。それに応えたのは陽向ちゃんじゃなくて沙世子さんだった。

「この時間のドラマだと『おみゃーさん』ね? 名古屋出身の刑事が活躍するドラマ……って、何?」
「沙世子お姉さま、同好の士だったのですか!」
「え、ええ、まあ……名古屋弁が楽しくて……」
「意外だなぁ。沙世ちゃん、こういうドラマを見てたんだ……」


 うん、それは多分、みんなも同じ意見だろうね。香織理さんが妙なツボに嵌って、口元を隠しながら笑っていたりする。

「い、良いじゃない、別に……TVを見るのは良いけれど、手も動かしてね?」
「はいはい、それは勿論ですよ。CMの時間に一気に片付けちゃいますから」
「沙世子さん、無理しないで一緒に見れば?」


 TVに背を向ける形で座っている沙世子さんが、窓ガラスに反射して映りこんでいるTVをチラチラと伺っているのを見て、思わず云っちゃったんだ。
 悪戯を見付かった子供みたいな顔をした沙世子さんが、あたしのことをジロッと見る。そして僅かな逡巡の後、

「……まあ、最悪でも明日の朝に終わってれば良いんだしね……」

 あっさりとTVの方に振り向いた。勿論、今度はみんな遠慮無しに笑ったけどね。



 みゃーみゃー云ってる刑事ドラマの感想を話した後、そのまま猫の雑談に変化して、ふと気が付くと初音が舟を漕いでいた。

「あ、もうこんな時間じゃない。……初音、初音、寝る前にお風呂に入らないと」
「ん……うん……そうだね……」


 あたしの声に頷いたのか、それとも半ば寝言なのか。こくこくと首を縦に動かす初音を見て、あたしは云うのを諦めた。

「薫子、沙世子さんや優雨ちゃんと一緒に、初音をお風呂に入れて上げなさいな。こっちは私たちが片付けておくから」
「ちょ、ちょっと待って。私も一緒に入るの?」


 沙世子さんが慌てた様子で香織理さんに詰め寄る。だけど香織理さんは、手で払うようにして沙世子さんの身体をかわすと。

「お客様には先にお風呂に入ってもらいたいけれど、このままだと初音は本格的に寝ちゃいそうだもの」
「……いや、お風呂に入らないって選択肢は無いの?」
「あら。駄目よ沙世子さん、初音だって女の子なんだから。それに、明日は大事な日なのだし、やっぱり身を清めないとね?」
「む……う……」


 パチッと綺麗なウィンクを決めて云う香織理さんに、沙世子さんは二の句が継げなくなってしまった。ううむ、沙世子さんでも香織理さんの口には勝てないのか。

「沙世子さん、今日は初音のところに泊まるんでしょう? なら、やっぱり一緒の方が面倒が無くて良いよ」
「……そうね。そうするわ」
「よし、決まり。……ほら初音、着替えを取りに行くよ〜?」
「ん……うん……」
「……ねぼけてるはつね、かわいい……」


 ぶっ。……優雨ちゃんに云われるようじゃお仕舞いだぞ、初音。これでまた、明日になったらちょっと落ち込んだりするんだろうなあ……。



**********

 次回はお風呂シーンから(笑)
 いや、本当は今回で生徒総会前夜を終わらせる心算だったんですけどね。


 ところで、これは偏見ですが。薫子は掌とか大きそうな気がしませんか?



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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
うわ〜。また夜中に見つけちゃった〜。眠れないコース確定〜。
と言う訳でこんばんはです。

まりやも、さすがに瑞穂の事は言えませんよねぇ…自爆にも限度があるし。
そして、シスターと言うと…一人居ますねぇ。適任者が(笑)
まあ、いろんな意味で諸悪の根源でもあるのだし、役職が1つぐらい増えたって
いいでしょうから。

「今でも十分駄目人間だから♪」
これ、いいですねぇ…。
原作でもなんでも、起きられない、家事できない、勉強できない…薫子の駄目っぷりは楽しいです。
そして、第6話では沙世子も可愛くていいですね。

「……ねぼけてるはつね、かわいい……」
ついに、優雨にまで愛玩され始めた(?)初音。
…ああ、元々、優雨には撫で撫でされてたっけ。

冒頭でだらだらなんて仰っていますが、私はこういう風景、好きです。
寮の生活感とか、それぞれの人間関係とか、読んでいて楽しいです。

「2人のエルダー」って、前作に及ばないとかの評価もありますけど…登場人物やその描写は、前作を上回ってると思うんですよ。
私も最初、前作の方が良かったと思う時期がありましたが…今では、前作を忘れ始めています。「2人のエルダー」の空気の方が、楽しいです。
今日はそれを、再確認しました。

ちなみに、性差があっても、元々薫子の方が背が高いんだし、手が大きくてもおかしくないですよね。
でも、体重はどうなんでしょう…?
えるうっど
2011/11/02 03:43
えるうっどさん、こんにちは。

基本、夜間の更新ですから発見するのも夜になると思いますが……睡眠不足には気を付けて(笑)

>適任者
ばれてーらww
まあ、ご想像の通りの人です。コレは夏休みの話を書いてる辺りから決まってたことなんですよね。

>身長と体重
千早は香織理が認めるほどのウエストの細さなので、体重でも薫子の方が勝っている……と思います、多分。脚が細くて綺麗だとか千早は色々と言われてますけど、果たしてそれは遺伝から来るものなのか、それとも努力して美人になっているのか。
何もしてないのに綺麗だったら、ホント女の敵ですな。

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2011/11/03 15:41
続けてのこんばんはでごめんなさい。

3度目くらいに読み返して思い出したんですが…。
原作通りなら、千早(千歳)って、瑞穂が聖應に居た事を知ってますよね。
「女よりも美人な男」ってまりやのセリフを聞いた時の千早の顔は、見ものですよねぇ…。すっごく嫌そうな顔をしてたんじゃないかと…。
えるうっど
2011/11/04 21:40
お久しぶりです。
第六章五話読ませていただきました。今話でまりやに千歳の委細について理解しましたね。次話以降で以前の"伏線"の適任者が登場するのか、楽しみにして待っています。
今月は少々忙しくなる予定ですので、満足に感想を送れぬ可能性がありますが、私のことは気に留めず、どうか更新をお続け下さい。
では、しつれいします。

2011/11/05 23:53
えるうっどさん、こんばんは。

>まりやのセリフを聞いた時の千早
この話の中では、千早は「瑞穂と言う前例が有ったから編入を認められた」と言う事を知っています。
勿論、こんな前例を作ってくれた瑞穂に対しては、とても恨んでいたりします(笑)

ただ、はっきりと話の中に書いていませんけど、千早はそれほど親戚付き合いをしていません。
これは、千歳がしょっちゅう千早の身体を借りていて、しかも母親の妙子がそれを容認していたから、父親の邦秀が世間体を考えて親戚付き合いを止めていたからです。
(対外的には死んでしまっている千歳の存在を隠したかった)

そのため、この話の中での千早が瑞穂を嫌いな理由は、常に瑞穂と比べられていたという理由ではなく、「瑞穂が女装などしていなければ、妙子がそれに張り合うように自分を女装させなかったのに」というしょうもない理由だったりします。
妙子は千早を女装させていたと言う認識は無く、千歳を着飾るのに夢中だっただけなんですが……。

瑞穂は子供の頃、正月には晴れ着姿で参拝したりしてますからね。きっと、妙子も張り合ったんじゃないかと思ったり(笑)
A-O-TAKE
2011/11/06 23:22
唯さん、こんばんは。

>"伏線"の適任者が登場する
まあ、ある意味ずっと前から登場していますが(笑)
しかし、この人の私生活とかどうなってるんだろうと、ちょっと困ってます。
やっぱり小説とか書いてるんでしょうか……?


忙しくなるとのことですが、季節の変わり目なので、疲れで体調など崩しませんよう。

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2011/11/06 23:28
報告です


・一階に付いて、昇降口へと→一階に着いて、昇降口へと
・初音は何か良い話しでも→初音は何か良い話でも
・これを付けて作業する→これを着けて作業する


いや〜、千早は今度からまりやに会うのがさらに嫌になるんですね
瑞穂の代わりのおもちゃを手に入れた!な〜んて思ってるんでしょうか
体重に関してはやはりここは「薫子の方が負けている」でしょう(笑)
それにしても千早の体はほぼ女性ですね
身長差があると言っても4cm?ですし性別の違いもあるのに…
ポジティブに考えれば「体重の差はバストの差だ!!」
そんなこと言ったら香織理に笑われそうですが

大変でしょうが身体に気をつけて頑張ってください
Leon
2011/11/13 15:55
三度おじゃまします。
ちょっとショックな事があったので…。

週末と言う事で、「おとボク2」のノベライズ(パラダイム系)を読んでいたわけですよ。
そこで、千早の出てくるシーンで、「千早」という文字を読んだ瞬間、思ったのが
「あ、今日は千歳じゃないんだな」と言う事。
数秒後に、頭の中に例のピアノの和音が鳴り響きました。
千早と千歳がしょっちゅう入れ替わるのは、「中の人」だけだからっ!
失意体前屈する千早の心境が少し解りました…。

ちょっと、染まりすぎですよねぇ…(涙目)
えるうっど
2011/11/13 19:39
妃宮さんの中の人 6-5 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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