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zoom RSS 妃宮さんの中の人 6-EX-3

<<   作成日時 : 2012/01/31 18:58   >>

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 緋紗子先生はオチ担当?

 ハロウィンの一幕。


**********




「さて、新しく寮の住人となった沙世ちゃんに、この寮での伝統をお話します」
「伝統?」
「はい。寮に住む人間は家族と同じ。家族を相手に苗字で呼ぶのはおかしい……と云うことで、この寮ではお互いを名前で呼ぶことになっています」
「名前、ねえ。まあ、問題無いと思うわよ」
「では、どうぞ!」


 初音が掌で指し示す先には、寮の住人が一列に並んで居る。

「優雨さん、陽向さん、史さん、千歳さん、……香織理さん……薫子さん」
「ちょっと間が気になるなあ」
「そうね。やっぱり私たち、嫌われているのかしら?」
「元気出そう香織理さん。これから打ち解ければ良いよ」
「そうね。頑張るわ」


 肩を抱き合って慰めあう振りをする薫子と香織理。わざとらしい演技に陽向たちが笑う。

「あ〜、もう。ちょっと慣れないから言葉が詰まっただけよ」
「ふふっ……沙世ちゃん、ムキになるとからかわれちゃうよ」
「初音。私、貴女を尊敬するわ。良くこんな人たちを纏めてきたわね」
「みんな良い人たちだよ?」


 実のところ、初音は本気で怒らせると怖いから、薫子や香織理が加減をしているだけである。
 わいわいと騒ぐ生徒たちを見ながら、一人だけ食卓に残ってお茶を飲んでいた緋紗子が声を上げた。

「ところで、私はどうしましょうか。やっぱり皆さんを名前で呼んだ方が良い?」
「えっ……どうしましょう。校舎内での呼び方と分ければ、名前でも良いと思いますけど」


 先生と生徒と云う立場を考えると、公私混同は良くないのでは? そう云って首を捻る初音に、緋紗子も頷く。

「それじゃあ、寮に居る間だけ、私も皆さんを名前で呼ぶと云うことで」
「そうですね。先生のことはどうしましょうか。寮監? それとも梶浦先生?」
「う〜ん……どっちも硬いねえ」
「緋紗子先生、って呼んでくれると嬉しいわね」


 緋紗子は「えっ?」と云う顔をしてこちらを見る寮生たちに、苦笑で返しながら言葉を続ける。

「一度退職する前までは、そう呼んでくれる生徒も結構居たんだけど。ここ最近はそう呼ぶ人も居なくて」
「それは……理事長代理ですから、呼び難いですよ」
「それに、ジェネレーションギャップが……あ」
「……! そ……そんな」


 思わず云ってしまってから口元を押さえる薫子だったが、既に遅し。緋紗子は大仰によろめくと食卓に突っ伏した。

「そうよね。もうそろそろ、みんなと一回り歳が違ってくるものね。グスッ……」
「……緋紗子せんせ〜、嘘泣きしないで下さ〜い」
「シスターは嘘を吐きません。間違えるだけなのです」


 絶対に嘘泣きだろうと分かる速さで身を起こし、指先で涙を掬いながら笑う緋紗子。シスターとしてそれはどうなの、と全員が心の中で突っ込んだ。





 そんなこんなで寮に二人の住人が増え、暫く経った十月の末のこと。





「うむむ……今回の話もいいところで終わったなあ。続きが気になる……おや?」

 ベッドの上に転がって漫画を読んでいた薫子は、扉を叩く音に気が付いて身を起こした。

「は〜い、開いてるよ〜」

 床に足を下ろしながら声を掛けるも、扉の開く様子は無い。薫子は、「聞こえなかったのかな」と首を傾げながら、廊下に居るであろう人を招く為に扉を開けた。
 次の瞬間。

「とりっく・おあ・とりーと!」
「……トリート」
「わっ!? ちょ、ちょっと!」


 闖入者が二人、部屋の中に飛び込んできた。
 千歳は日本の伝統的な幽霊の姿、所謂白装束を纏って三角巾を被っている。そしてもう一人、優雨はフリルの沢山付いた黒いドレスに、小さいシルクハットを頭に乗せていた。

「二人とも、何て格好をしてるのよ。……幽霊に……優雨ちゃんのは何?」
「……吸血鬼」


 薫子の問いに答えた優雨は、口元をイッと横に広げる。成程、確かに付け牙(?)が犬歯にくっついているようだ。

「……ただの可愛い女の子だよね。それに、千歳のその格好は洒落になってないんじゃ……」

 薫子は幽霊が幽霊の格好をしてどうするのかと口走りそうになるが、優雨が居るので何とか飲み込んだ。代わりに出てきたのは呆れたような溜め息である。
 そんな薫子の前に、千歳の両手が掌を上にして突き出された。

「そんなことより、とりーとだよ、薫子ちゃん」
「……部屋にお菓子なんか置いてないよ。お茶会の時はいつも史ちゃんが用意してくれるし」
「え〜……」


 そもそも薫子は、部屋に戻ってから間食をするような習慣は無い。夕食は確りと食べる主義なので、寝る前に腹が空くことは殆ど無かった。尤も、夜食が出された時は有難く頂くのだが。

「お菓子が無いなら悪戯だよ?」
「……ほう。あたしに悪戯とな? いい度胸じゃのう」


 薫子は千歳の言葉に対してニヤリと笑ってみせる。
 手をワキワキと動かしながら千歳に迫ると、千歳はあっさりと身を翻して廊下へ出た。

「あ、こら、逃げるな」
「史〜、出番だよ〜」
「はい、お待たせしました」
「えっ?」


 千歳の後に続いて廊下に出ようとした薫子は、割り込むようにして現れた史に機先を制される。

「ふ、史ちゃんも協力者?」
「はい」


 大きな袋を持って現れた史の格好は、いつもと同じお仕着せ姿。しかし、ヘッドドレスと背中側に余計なものが付いていた。

「(……触覚にコウモリの羽、先の尖った尻尾って……)」

 伝統的な小悪魔(?)の姿である。どんな仕掛けがしてあるのか、風も無いのにピコピコと尻尾が揺れた。
 思わず身を引く薫子の前に、史は袋から出した何かを両手に持って差し出してくる。

「何これ?」
「薫子お姉さまに似合いそうな、変身セットで御座います」
「……これを着けろって?」


 ニヤニヤと笑う千歳が頷いた。つまりはこれを着けることが悪戯なのだろう。史の掌の上に乗っている犬耳の付いたカチューシャを摘み上げながら、薫子は大きな溜め息を吐いた。

「(ま、千歳も優雨ちゃんも楽しそうだから、大目に見るか)」



 犬耳と犬の鼻、更に尻尾を装着した薫子は、初音の部屋へと向かう一行の最後尾を歩く。
 薫子の部屋から遠い初音の部屋を選んだのは、どうやら仮装した状態で歩くのを楽しむ為らしい。初音の部屋の前に立った千歳は、先程と同じように扉をノックした。

「は〜い」

 扉の奥から初音の声が聞こえ、ややあって扉が開かれる。すかさず部屋の中へと入り込んだ千歳と優雨は、先程と同じように声を上げた。

「とりっく・おあ・とりーと!」
「……トリート」
「(……優雨ちゃん、それじゃ、お菓子をおねだりしてるみたいだよ)」


 薫子は苦笑しながら、史と一緒に初音の部屋へと入る。目を丸くして驚いていた初音は

「うわぁ、可愛いねぇ〜」
「んむっ……!」


 当たり前のように優雨を抱き締めた。胸の中にすっぽりと優雨を収めている初音に、薫子が遠慮がちに声を掛ける。

「え〜っと……初音、悪戯かお菓子か、どっちかを選ぶんだって」
「薫子ちゃん、その格好は?」
「お菓子が無い場合は、強制的に怪物にされちゃうんだってさ」
「あはっ、そうなんだ。楽しそうだね」


 喋る度に犬の髭がフルフルと震える薫子を見て、初音は苦笑交じりの答えを返す。

「初音ちゃん、お菓子は有るかな〜?」
「ん〜……」


 優雨を腕の中から解放した初音は、人差し指を頬に当てて首を傾げながら、どうしたものかと考える。実は、部屋の中に夜食用のお菓子を隠し持っているのだ。
 素直にお菓子を出したいと思う反面、どう考えても怪物の仲間入りをした方が楽しそうである。

「(うん、怪物に仮装した後、お菓子を差し出せば良いよねっ)」

 我ながら名案と手を打った初音だが、直ぐにそれを後悔することになった。



「ううう……恥ずかしいよ〜……」
「往生際が悪いなぁ、初音は」
「だって〜……」


 次の部屋へと向かう途中、初音は薫子の隣で身体を縮めながら涙目になっていた。
 初音としては、ジャックランタンの被り物とか可愛い魔女を想像していたのだが、史が差し出してきたのはアラジンに出てくるアラビア風の魔神の装飾だった。
 普通は男がする格好だろうとか、秋も深まるこの時期にこんな露出の多い格好はとか、色々と突っ込みどころがあるのだが、期待に満ちた優雨の視線を裏切れない初音だった。
 そんな後ろの様子を気にすることなく、千歳は次の目的地である香織理の部屋をノックする。

「あら、可愛い悪戯っ子さんたちね」

 扉を開けた香織理は、その瞬間だけ目を開いたものの、いつも通りの落ち着いた様子で一行を部屋の中へと招き入れた。

「とりっく・おあ・とりーとだよ。香織理ちゃん」
「……トリート」
「トリートです」
「お菓子ちょうだい」
「こらこら、貴女たちは……特に最後、直接過ぎるでしょう」


 香織理は、犬の鼻を動かしながら手を差し出す薫子に苦笑しながら、壁際に有る戸棚からクッキーの入った缶を取り出してきた。

「おお、流石は香織理ちゃん。有難く頂きます!」
「だ〜め」
「え〜?」


 香織理は両手を出して受け取る体勢の千歳の前で、わざとらしく缶を頭上に持ち上げる。口を尖らせる千歳の顔を眺めながら、一行の後ろに居る史に声を掛けた。

「史ちゃん、私に似合う衣装はあるかしら? ああ、勿論初音みたいな方向の衣装は駄目よ」
「ううっ……私だって、好きで着ているわけじゃないのに〜」
「良いじゃない、似合ってるわよ?」
「香織理さん、説得力無いよ」


 香織理の目と口元が、実に楽しそうだ。薫子は、どっちが悪戯をする側だか分かりゃしないと内心で愚痴を漏らした。

「……では、こちらなど如何でしょうか」

 袋の中を探っていた史が、黒くて大きなトンガリ帽子と黒いドレスを取り出した。俗に云う、大釜の魔女の衣装だ。露出の多い初音が、羨ましそうな顔をしてその衣装を見る。

「史ちゃぁん、何で私はそっちの衣装じゃないの?」
「……申し訳有りません、初音お姉さま。サイズ上の都合で御座います」
「ぐはっ……」


 ショックを受けた初音が、女の子らしからぬ悲鳴を上げた。どこに余裕が有ってどこが入らないのか、それを云わないのは武士の情けである。

「それじゃ、ちょっと着替えちゃいましょうか。……ああ、千歳さん。そのクッキーは後でみんなで食べるから、摘み食いは駄目よ?」
「むむっ、分かったよ……」


 缶の蓋を開けようとしていた千歳が、香織理の声に負けて手を引っ込めた。



「沙世子さんは、こう云う遊びに付き合ってくれるかしら?」
「さあ、どうかな? でも、沙世子さんってそんなに堅物じゃないよ」
「そうなの?」
「そうですよ。沙世ちゃんは、ちゃんとした理由があれば、大目に見てくれますから」


 疑わしげな目を薫子と初音に向ける香織理だが、生徒会で苦楽を共にしている初音は沙世子の力の抜き加減と云うものを良く知っている。
 薫子に至っては現金なもので、千歳と千早の件を知ってもそれなりに協力してくれると云うことで、三年生になってからの人当たりの悪さをすっかり水に流してしまった。
 そんなことを話している間に一行は沙世子の部屋の前に辿り着いた。千歳が軽くノックをする。

「はーい、何か用――」
「とりっく・おあ・とりーと!」
「……トリート」
「トリートです」
「お菓子をお願いします」
「じゃあ、私は悪戯で」


 言葉を遮って次々と要求してくる一行を見た沙世子は、半眼になってから踵を返し、そっと扉を閉めた。

「さ、沙世ちゃ〜ん! そう云うのが一番傷付くの〜!」

 初音が扉に縋り付いて泣き言を云うと、恐る恐ると云った様子で扉が開かれる。

「みんな揃って何やってるのよ……それに初音、ちょっとその格好はやり過ぎでしょう?」
「こ、これは自分で選んだんじゃないもん」
「はいはい。それで? お菓子なんか用意してないわよ。引っ越したばかりでその手の物は全く無いから」


 中々に容赦の無い態度で初音の云い訳を流した沙世子は、両手を上げてお菓子が無いことをアピールする。

「それじゃあ仕方が無いね。……と云う訳で、史」
「はい。……沙世子お姉さま、こちらをどうぞ」
「え? 何これ?」
「お菓子を出さない人は、強制的に怪物にされちゃうんだって」
「強制的って……」


 薫子の言葉に呆れながら、沙世子は史の手の上から仮装の為の道具を取り上げ、それを目の前に広げて見せた。

「……これは、何かしら」
「……マントと、目出し帽?」


 それは、ジャックランタンに見立てたオレンジ色の目出し帽と、同じ色のマントだった。
 目出し帽は、頭頂部がかぼちゃのへたに見立てて緑の毛糸で編まれ、口の部分をギザギザに切ってある芸の細かさである。

「史ちゃ〜ん、ああ云うのが有るなら私にも出して〜」
「……その場合、沙世子お姉さまが、初音お姉さまの着ている衣装を着ることになりますが」


 その言葉を聞いた初音が、凄い勢いでグルンと沙世子の方を向いた。

「……沙世ちゃん」
「だ、駄目よ! 私はそんなの着ないんだから!」
「……沙世ちゃん」
「初音の頼みでも駄目!」




 哀れに思った沙世子が差し出したマントを受け取った初音は、首より下をそれですっぽりと覆ってから千歳たちと共に階段を下りていく。
 その後姿を見ながら、沙世子は大きな溜め息を吐いた。目出し帽を被った上に無理矢理眼鏡を掛けているので、非常にコミカルな絵面である。

「嫌なら参加しなくても良いのに〜」
「……あのねえ、貴女、分かってて云ってるでしょう」
「くくっ……」


 薫子が顔を逸らして口元を隠すと、沙世子は面白く無さそうに鼻を鳴らした。
 沙世子から逃げるように足を速める薫子の後ろから、最後尾を歩いていた香織理が初音たちに聞こえないように小声で尋ねる。

「息抜きみたいなものよ。受験勉強の為に入寮したって云っても、貴女の成績なら余裕は有るのでしょう?」
「まあ確かに、そこまで切羽詰ってはいないけれどね」
「……前から思っていたけれど、沙世子さんはもう少し人の輪に入った方が良いわよね」
「……それは、貴女にも云えることなんじゃないの?」
「だって私の主義は、去る者は追わず来る者は拒まず、だもの」


 香織理が有名な孟子の言葉を云う。元々は、教育者が生徒を受け入れるときの姿勢について云った言葉だ。
 沙世子はふと、香織理は自分に寄って来る人間に何を教えているのだろうと考え、校内で噂されている話を思い出す。

「……」
「……あら、どうしたの?」
「何でもないわ」


 沙世子は赤くなっている顔を隠す目出し帽に、ちょっとだけ感謝をした。からかわれるネタは少ない方が良いのだから。
 階段を下りた一行は、陽向の部屋の前で足を止める。その場で振り向いた千歳は、自分を見ているみんなが軽く頷いたのを確認してから、部屋の扉をノックした。
 コンコンと軽い音が響く。しかし、中からの返事は聞こえなかった。

「あれえ? おトイレにでも行ってるのかな?」

 首を傾げた千歳がノブを握り、そっと扉を押し開けた次の瞬間。

「トリック・オア・トリート!」
「ひゃ!?」


 ノブを握ったままの千歳ごと扉が勢い良く引っ張られ、顔にゾンビのメイクを施した陽向が飛び出してきた!
 ごろんと部屋の中へ転がり込む千歳を余所に、陽向は部屋の入り口で仁王立ちすると、呆気に取られている一行に不敵な笑みを見せる。……メイクの為に良く分からないが。

「ふふふ、みなさんの行動は既にお見通しです! この宮藤陽向が大人しくお菓子を渡すと思ったら大間違いですよ!」
「はいはいご苦労様。それで、お菓子はどこかしら?」


 肩を掴んで陽向の身体を回転させた香織理は、そのまま部屋の中に踏み込むと、転んでいる千歳に手を伸ばしながら部屋の中を見回し始めた。

「ぬあっ!? お、お姉さま、全面スルーはさすがに傷付きますのですよ!」
「ほら、薫子たちも手伝って。陽向のダイエットの障害となるものは排除しないとね」
「……まあ、そう云う理由なら構わないかな」
「……そうですねえ。陽向ちゃん、ついこの間も太ったって云ってましたし」
「……初音、貴女はあんまり人のことを云えないんじゃない?」
「……わたしもさがす」
「ああっ、駄目です駄目です! 私の部屋には素人お断りのものが沢山あるんですから〜!」


 ぞろぞろと部屋に入っていく一行に押し退けられた陽向は、お宝を隠してある棚へ向かう香織理を止めようと慌てて部屋の中へと戻って行く。
 最後までその場に残っていた史は、軽く溜め息を吐いた後、そっと陽向の部屋の扉を閉めた。



「さて、それなりに戦利品は集まったわけだけど。……最後はどうしようか」


 グスグスと泣き真似をする陽向に苦笑しながら、薫子は一行の顔を見る。寮に帰ってきても色々と忙しい寮監――緋紗子の元に行くべきか否か。

「緋紗子先生も寮の家族なんだから、仲間外れは可哀想だよ」
「そうですね。丁寧にお邪魔しましょうか」


 企画者の千歳と、寮の纏め役である初音が良しとするのなら、反対する理由は無い。一行は緋紗子の部屋へと向かうと、千歳が丁寧にノックをした。

「は〜い」
「とりっく・おあ・とりーとです、緋紗子せんせ〜」


 千歳がそう答えると、扉が開いて緋紗子が顔を出した。訪問の理由は分かっても全員が仮装をしているとは思わなかったのか、多種多彩な一行の姿を見て目を丸くする。

「みんな、随分と本格的なのね」
「あはは……忙しいところをお邪魔して申し訳有りません、緋紗子先生。その……息抜きなど、どうでしょう? この後、戦利品でお茶会をする心算なんですが」


 頭を掻きながら申し訳無さそうに云う薫子を見て、緋紗子が軽く微笑んだ。

「あら、先生が居ると堅苦しくなったりしない?」
「だ、大丈夫です。別に大騒ぎするわけじゃありませんから」
「そう。それじゃあ折角だし、お邪魔しようかしら。……ああ、そうそう」


 部屋を出ようとした緋紗子は再び部屋の中へと戻り、水色のセロファンに包まれた飴玉を取ってくると、一人ずつに飴玉を手渡した。

「これが私からのお菓子……お茶会の最後にどうぞ」

 薫子はそれが以前にも貰ったことのある薄荷の飴玉だと気が付いたが、どうやら初音たちはそれを知らないようだ。
 お茶会の最後に薄荷の飴。自分に向けて軽くウィンクしてくる緋紗子を見て、これが緋紗子先生からの悪戯か、と共犯者の笑みを返した薫子だった。



――――――――――



「それにしても……こんな時間にお菓子を摘んでしまうと、ちょっと後が怖くなってしまうわね」
「分かります、緋紗子先生。私なんて間食しなくても体重計が……」
「え〜? 一日くらいどうってこと無いでしょ?」
「薫子は燃費が悪そうだものね。食べても直ぐにカロリー消費している感じがするし」
「燃費って……車じゃないんだからさ」
「初音はパン食が多いから太りやすいのよ。炭水化物と脂質を一緒に摂っちゃ駄目なのよ? 例えば、カツサンドみたいなものとか」
「えええええっ!? 沙世ちゃん、どうしてもっと早く教えてくれなかったの!?」
「いや、そんなこと云われても……」

「パンや御飯、うどんなんかよりも、蕎麦を食べた方が太らないとも云うわね。あと、スパゲティも」
「へ〜、あたしがあんまり太らないのは、スパゲティが好物だからかな? 食堂を利用する時はスパゲティが多いし」
「まあ、あくまでも比較の話であって、食べる量が多ければ関係無いんだけどね」
「……沙世子さん、オチをつけるのは止めてよ」
「ねえ史、デザートや間食はどうなのかな?」
「間食が必ずしも駄目と云うわけではありません。今のように食事から暫く経った後でなら、それほど影響は有りませんし」
「そうなの?」
「はい。逆に最も駄目な行動は、食事の後に甘いデザートを食べることです。血糖値が上がっている時に炭水化物や脂質、糖類などを摂ると一気にキますので」
「お〜、史は物知りだね〜」
「有難うございます」

「……(私、食後のデザートとか結構食べてる。はうう〜、どうしよう〜)」
「……(千歳に頼むデザートは、ケーキ以外のものにしよう)」
「……(私も気を付けないと。家までの往復が寮に変わった分、運動量が少なくなるんだし)」
「……(……歳を取るとね、そう云うのとは関係無く、カロリー消費が少なくなっていくものなのよ。執筆作業をしてると動かないし……スポーツジムにでも行こうかしら……)」



「……みんな、変な顔をしてる」
「体重計は女の子の永遠の敵なのですよ。優雨ちゃんは……まだ心配する必要は無いと思いますけどね」
「……ひなたは大丈夫?」
「ぬっはっは。そのために水泳部に入ったんですから」




**********

 聖應のハロウィンは宗教的なものじゃなく、イベント的なものだと思います。
 次回からは聖應の学園祭である「創造祭」。

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
予想外の早い更新ですね。
無理しないでくださいよ〜?

でも、和みますねぇ…。
なんていうか、可愛い…。
こういう、日常の一幕みたいなの、好きです。

しかし、次回から創造祭ですか…。
それぞれのクラス・部活の企画も気になりますが、やっぱり、何と言ってもお芝居ですね。
演目が変わるという話ですし、のんびりじっくりと、楽しみにしている事にします。

ところで、最近出たおとボク2小説の帯に、「アニメ化計画進行中」とか書いてありましたけど、まだ立ち消えてないんでしょうか?
私は95%終わりだと思ってました…。
えるうっど
2012/01/31 20:17
えるうっどさん、こんばんは。

誤字修正している間にコメがあってビックリ。早速の書き込み有難うございます。
更新速度が早いのは、PSPがぶっ壊れてゲームが出来ないからです(笑)
某理想郷や虹扇風でSSを読まず、ゲームもしなければ一話書くのに7日も要らなかった……

>アニメ化
キャラ箱のHPから行ける公式ポータルサイトでは何も書かれていないので、もう話が止まってると思ってたんですが……そうでもないのでしょうか。
良く考えたら、スタッフさんが会社を辞めたといっても「外注」として仕事を出せば話が動いてもおかしくないですからね。
ファンディスクは……駄目なのかなあ……
A-O-TAKE
2012/01/31 22:51
理事長(院長代理?)に生徒会副会長まで・・・
もう誰もさくら館には近づかないんじゃないのでは?

アニメ化ですが、コミック3巻の帯には製作進行中!!の文字が躍っていましたよ。

本当かどうかはわかりませんけどね。
みっちゃん
2012/02/05 21:18
みっちゃんさん、こんばんは。

初音の望みどおりに賑やかにはなりましたが、どう見ても逆効果という結果です。
初音は気が付いてないけれど、どう考えても一般生徒が気軽に立ち寄れない魔境になってしまってますw

アニメは……PSPのゲームが出た頃なら良かったかもしれないけれど、どう考えても時機を逸してますからね。まあ、時期外れの放送の後で、リバイバルする可能性も有るっちゃ有りますけれど。
A-O-TAKE
2012/02/06 23:06
報告です


・とりっく・おあ・とりーどだよ。香織理ちゃん→とりっく・おあ・とりーとだよ。香織理ちゃん


ゲームでは戒告を機にいかがわしい行為をやめた香織理ですが、こちらではどうなのでしょうか。沙世子とのやりとりでふと思いまして…。

アニメは期待もしていないですが多分見ないでしょうね。1も見てませんし。どうやらのり太絵じゃないと受け付けないようで…漫画も見ませんでした。挿絵が少しあるだけの小説は楽しんで読めるのですけどね…。

そういえばまた「姉」が増えたわけですが、やはり初音が世話をする感じですかね。「姉」「妹」の問題を考えると2年生トリオが入寮したらすごいことになりそうですね。
Leon
2012/02/11 16:47
Leonさん、こんにちは。

香織理と沙世子に関しては、次話辺りでちょろちょろっと書く予定です。
二年生組は残念ながら追加されないので、沙世子に「妹」は居ません……いや、小説の三巻をもっと早く読んでいれば、そういった可能性も有ったかもしれませんけどね。

アニメに関しては……ゲームのOPでもちょっと違和感を感じますからね〜。のり太さんの絵をアニメ化するのはかなり難しいと思います。

では、またお越しください。
A-O-TAKE
2012/02/13 11:02
「薫子」と「菓子」という漢字はパッと見ると似ていませんか?
え、似てない?
そ、そうですよね。似てないですよね〜
べ、別に「薫子」をカシと読み間違えていませんよ。
ええ、読み間違えていませんとも。


ほ、本当なんだからね。
読み間違えてなんかいないんだからね。
ナカユウ
2012/12/20 23:39
ナカユウさん、こんばんは。

えっ……「お薫子」が有りますかっ!? て探しちゃいましたよ(笑)
私は目が悪いんで、普段の執筆状況だと文字サイズは二ミリくらい。校正するときはわざわざ文字サイズを大きくしてます。

べ、別に誤字が多いことの言い訳をしているわけじゃないんだからねっ(爆)
A-O-TAKE
2012/12/21 21:50
妃宮さんの中の人 6-EX-3 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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