A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 7-2

<<   作成日時 : 2012/02/15 20:49   >>

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 色々忙しかったけど、ようやく「黄金の檻 荊の鳥籠」を読み終わった。


 近所の本屋を探しても売ってないので、amazonで買いました。
 そうだよね〜、イベント前倒しにしておけば、二年生コンビも寮に入れられたのにね〜。


**********



 『三銃士』を生徒会主催の演劇と仮決めした後のこと。



 本日の夜のお茶会は、あたしの部屋が開催場所だ。

「ふんふんふ〜ん、今日は何を読もうかな〜……あっ、新刊発見!」
「こら、それはまだあたしも読んでないんだから、持ってっちゃ駄目だよ」
「ぶ〜」
「……貴女たち、ちゃんと勉強はしているの?」


 千歳の手から漫画を取り上げていると、沙世子さんの呆れた声が耳に入る。そう、定例のお茶会には沙世子さんも参加しているのだ。
 寮内の下級生の数が足りないので、指導するべき妹が居ないのは仕方が無い。だけど一人で過ごさせるのもちょっと……と云うことで、沙世子さんは三組の姉妹たちの間を順番に持ち回りしているのだ。
 ちなみに、緋紗子先生が寮に帰って来ている場合は、同じようにお茶会に誘われて参加していたりする。今日は初音のところだったかな?

「本棚が全部漫画で埋まっているって……それこそ、漫画の中の話だわ」
「あはは……さ、沙世子さんも、興味が有ったら好きなの持っていって良いからね?」
「気が向いたらね」


 まあ、受験勉強を理由に入寮したわけだから、あまり遊び呆けるわけにもいかないだろうけどさ。
 ぱらぱらと適当に漫画を読みながら待っていると、史ちゃんがお茶の準備を終えて戻ってくる。四人分のお茶の道具とお菓子まで揃えているのに、重たそうな素振りも見せないあたりは流石だよね。

「お待たせしました。……どうぞ」
「ありがとう、史ちゃん」
「いえ」


 軽く会釈した史ちゃんは、お茶を淹れ終わると、千歳の隣へと移動して椅子に腰を下ろす。史ちゃんの腰が落ち着くのを待ってから、あたしは紅茶を一口含んだ。

「ん、今日も美味しいね」
「本当。史さん、いつもありがとう」


 同じように紅茶を飲んだ沙世子さんが、穏やかな声を上げる。美味しいものを口にすれば優しい気持ちになれるからね。人前ではいつも肩肘張ってるような沙世子さんだけど、お茶会の時くらいは気を抜かないと。

「でも、アレよね。メイドさんの居る生活って、人間を堕落させるわよね。特に薫子さんなんか」
「うっ……そりゃ、何時もお世話になってるけどね」
「構いません。それが仕事ですので。……あと沙世子お姉さま、メイドではなく侍女です」
「あら、ごめんなさい」


 沙世子さんが苦笑する。ついつい云ってしまうらしい。沙世子さんこそ漫画の読み過ぎじゃなかろうか。

「何か云った?」
「いえ、何にも。……ああ、そうそう、沙世子さん。結局のところ、演劇は『三銃士』で決まりなのかな?」
「……そうね。明日、さくらと耶也子に話をして、それから演劇部と文芸部に話をしてからってことになるわね」


 あたしが露骨に話を逸らすとむっとした表情をした沙世子さんだけど、聞いたことには確りと答えてくれる。

「沙世子ちゃん、演劇部は分かるけど、文芸部で何をするの?」
「アニメの雑誌だけじゃ、演劇に仕立てるのは無理でしょう? 演劇部と文芸部で相談してもらって、話の筋を脚本向けに直してもらうのよ」
「ああ、成程……そりゃそうか」


 アニメの話をそのまま遣ろうと思ったら、一時間二時間じゃ足りないもんね。配役とかだって考えなきゃいけない。
 人員そのものは、エルダーが選出されたクラスの義務――と云うよりは特権――としてみんなも手伝ってくれるから、まあ何とかなるだろうけれど。

「やっぱり、エルダーが主役になるんだよね……あたし、ロシナンテとかで良いんだけどな」
「もう、まだそんなこと云ってるの? 薫子ちゃんは諦めが悪いなあ」
「いや、だってさあ……主役だと台詞も多いしさ」
「エルダーのお姉さまが馬役だと、流石にみなさん納得しないと思うのですが……」
「個人的には、薫子さんに似合うと思うけどね」


 なんだとぅ、このミレディーめ!

「誰がミレディーよ、自分で馬が良いって云ったくせに。……私が悪役を遣って良いって云うなら、喜んで苛めさせてもらうわよ?」
「うひ、それは勘弁……」


 フン、と鼻を鳴らしてからお茶菓子を摘む沙世子さん。まあ、この程度のオフザケに付き合ってくれるくらいには、仲が良くなったってことだろう。

「まあ、そんなことより……私が気になってるのは、千歳さんのことなんだけれど」
「え? 私?」
「貴女、その、緊張すると「抜けてしまう」んでしょう? 舞台の主役が出来るのかなって……」


 名前を呼ばれてきょとんとする千歳に、どことなく申し訳なさそうな口調で尋ねる沙世子さん。そうか。そもそも沙世子さんにバレたのだって、それを誤魔化す為に千早になっていたのが原因だもんね。心配するのも当然か。

「ん〜、こればっかりは、実際に遣ってみないと分からないなあ」
「史が思うに……体育祭の時は平気でしたので、大丈夫ではないかと思うのですが……」
「……取り合えず、リハーサルとかで試してみてから考えようよ」
「そうね……」


 舞台を取り仕切る側としては不確定要素は無くしておきたいんだろうけれど、千歳のことを考えると、やっぱり色々と楽しんで欲しいと思う。
 千歳にとっては、きっと……最初で最後の文化祭になるのだろうし。





 さて、そんなこんなが有った日から三日後。午前中の授業が終わり、お昼休みになったときのこと。

「済みません、3−Aの皆瀬ですが、七々原さんと妃宮さん、真行寺さんはいらっしゃいますか?」
「あ、会長さん、いらっしゃいませ。薫子さんたちなら未だ居ますよ」


 あれ、初音? これから千歳たちと食堂に行く心算だったけど、何だろう。
 聖さんに軽く手を上げてから席を立ち、初音の元へと向かう。千歳と茉清さんもあたしの後に付いてきた。

「お昼休みにごめんなさい、薫子ちゃん」
「初音、どうかしたの?」
「うん、ついさっき、演劇の脚本が出来上がったから、薫子ちゃんたちにだけでも渡しておこうと思って」


 初音がそう云って持っていた脚本をあたしに差し出した瞬間、教室に残っていたみんなが一斉にあたしたちの方を注目した。そりゃ、みんな興味深々だもんね。

「ひゃっ? あ、え〜と……まだ細かい修正とか入るかもしれないので、人数分は用意出来ていないんだけれど、お手伝いしてくれるみなさんの分もちゃんと用意しますので……」

 視線に押された初音がオドオドしながらみんなに説明する。生徒会長なんだから視線が集中したくらいで驚かなくても、とは思うけど。それだけみんなの視線に迫力が有ったのかもしれない。

「薫子ちゃんたちは中に眼を通して、疑問点なんかを出しておいて下さい。急な話で申し訳有りませんが、今日の放課後、主な出演者を集めてミーティングをしますので」
「ん、了解」
「初音さん、何か注意することは?」
「えっと……今の段階では、無いですね」


 茉清さんの問いに答えた初音は、それじゃお願いしますと頭を下げた後で直ぐに廊下の奥へ消えて行った。お昼休みなのに大変だね。
 あたしは初音の背中を見送ってから、千歳と茉清さんに声を掛ける。

「どうしよっか。これ持って食堂に行くと、人目が集まりそうだよね」
「そうだね。……まあ、私たちはお弁当だから、教室で食べることにするよ。それも預かっておくから、千歳さんと二人で食べてくると良い」
「ん〜……放課後までってことは読む時間もあまり無いし、適当にパンでも買って戻ってくるよ。千歳もそれで良い?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうかい? ……まあ、それなら薫子さんが戻ってくるまでの間、みんなで脚本を見ておくよ」


 あたしは茉清さんに脚本を渡すと、千歳を連れて食堂へと向かう。あたしたちが教室を出た直後、みんなの歓声が聞こえた。
 ……きっと、配役を見て盛り上がっているんだろうなあ……。



 みんなの様子が(色んな意味で)心配だったので、千歳と一緒に菓子パンと飲み物を買って慌ててとんぼ返りしてみると、みんなは三つの大きな塊に分かれて脚本を覗き込んでいた。
 お弁当を片手に立ち食いしながらなんて行儀の悪い人は居ないけど、パンを銜えながら脚本を覗き込んでいる人は居る。全くもう……。

「あ〜ほらほら、みんなもうちょっと落ち着きなよ。立ったまま食べるなんて、シスターに見られたら怒られるよ?」
「あ……薫子さん、お帰りなさい」
「では、こちらはお返ししますね」
「あら、いけない。もうこんな時間ですわ。早く食べてしまいましょう」


 あたしと千歳に脚本を返してから三々五々と散っていくみんなを見送り、茉清さんたちの元へと向かう。
 茉清さんと聖さん、こよりさん、そして先月の騒ぎから何かと輪に入ってくることの多くなった沙也香さんが、机を合わせてお弁当を食べながら、脚本を覗き込んでいた。

「お待たせ〜」
「お帰りなさい、千歳さん。薫子さんも」
「うん。どう、どんな感じ?」


 あたしは空いている席を借りて輪の中に加わり、パンの袋を開けながら脚本を覗き込む。

「おや、事前情報くらいは有るんじゃないのかい?」
「あたしも千歳も、演目ぐらいしか知らないよ。脚本を書いてるのは演劇部と文芸部だし」
「うんうん、その通り! ……あ、じゃあ沙也香ちゃんは知ってるよね」
「脚本は知っているけれど、配役までは知らないわ。それは演劇部に任せたし……」


 へえ、そうなのか。まあ、あたしたちの役は決まっているだろうから、問題なのはそのほかの人たちだけれどね。

「私は薫子さんがダルタニャンだと思っていましたけど……千歳さんでした」
「薫子さんがアラミス、私がアトス、初音さんがポルトス。沙世子さんがミレディーで、さくらさんはリシュリュー枢機卿か。千歳さんと薫子さんは兎も角、他は思い切った配役だね」
「そうですか? 茉清さんのアトス、素敵だと思いますけれど……」
「そ、そうかな?」


 思わずニヤニヤしたくなるような遣り取りをする茉清さんと聖さんを眺めつつ、パンを片手に脚本を捲る。
 それにしても、結局沙世子さんはミレディーになったのか。……いかん、もしかしてあたし、苛められるのか?

「どうしたの薫子ちゃん、震えちゃって」
「あはは、いやあ、何でもないよ?」
「?」


 お芝居だお芝居。深く考えないようにしよう。
 ……どうやら話的には、ダルタニャンが近衛銃士として認められるところで終わるみたいだね。
 ふ〜ん、アクションシーンが結構有るなあ。あたしは特に問題無いけれど、戦いばっかりで大丈夫なんだろうか。

「沙也香さん、脚本を作ったのは文芸部なんだよね? この脚本、台詞が少なめだけど大丈夫なの?」
「アニメの三銃士を基にって話だったけれど、ちょっと尺が長すぎるから、人気の有った映画の方をベースにして、アニメの話を混ぜ込むような感じで話を作ったのよ。台詞の面白さで観客を沸かせるのも有りだけど、見た目の楽しさも大事でしょう?」
「う〜ん、それは分からなくもないけれど」
「なんと云っても一番の見所は決闘シーンだし、それを目立たせる為には台詞を少なめにしないとね。それに、あまり長い台詞だと、覚えるのも大変だし」


 したり顔で笑う沙也香さんに、あたしも苦笑で返す。あたしだけじゃなく、色々と忙しい生徒会のみんなの為にも、複雑な台詞とかは遠慮したいところだ。
 あたしと沙也香さんがそんな話をしていると、自分の分の脚本を見ていた千歳があたしの袖を引いた。

「ん、なに?」
「ここ、私と薫子ちゃんのラブシーンが有るよ」
「はい?」


 千歳の指差す先を見ると、確かにダルタニャンとアラミスのラブシーン(?)が書いてある。ダルタニャンの相手ってコンスタンスとかミレディーじゃなかった?
 あたしは視線を沙也香さんに戻して無言で訴えると。

「だって、エルダー同士のラブロマンスじゃないと面白くないでしょう?」
「いや、そりゃそうかもしれないけどさ。そこまで話の筋を変えちゃって大丈夫なの?」
「いいのよ、どうせ高校生レベルの「なんちゃって三銃士」なんだから」


 平然と答える沙也香さん。確かにそれはそうかもしれないけどさ、正直にぶっちゃけ過ぎでしょ。

「ん〜? 薫子ちゃん、私が相手だと嫌なの?」
「へ? いや、別にそういう問題ではなくてだね……」


 と云うか、何故そこで怒るのだ、千歳は。ぷっと頬を膨らませた千歳は、その場所に押し込むようにしてパンを食べている。
 あ〜あ〜、そんなに一気に入れると咽喉が詰まるぞ〜……あ、ほら、やっぱり。

「なるほど、コンスタンスの代わりにアラミスがダルタニャンの恋人役になるのね。そして、その対抗馬がミレディーと云うわけですか」
「あれ、でもミレディーって、最後は処刑されちゃうんですよね?」
「うん。原作では処刑されているね。でもこの脚本ではダルタニャンが近衛銃士になるまでの話だから、問題無いんじゃないかな」
「ん……本を読んだのは昔ですから、ちゃんと覚えてません」
「良かったら、今度貸してあげるよ」
「わ、有難うございます、茉清さん」


 ……あの、そこのお二人さん。さっきからずっと二人きりの世界を展開してますけれど、ちょっとは気を使ってくれませんかね。こっちは今、千歳が大変なことになってるんですけど……。
 ラブラブしてる二人を見るこよりさんがちょっと羨ましそうにしてたのが、やけに印象的だった。





 その日の放課後。
 あたしを含めた演劇の関係者は、家政科室に集合していた。3−Cの有志と演劇部及び文芸部の一部の人たち。演劇部や文芸部はそれぞれ自分たちの部の仕事も有るので、それほど人は多くない。

「みなさん、忙しい中にお時間を頂き、有難うございます。今日のところは脚本を確認しての質疑応答だけですので、少しの間だけお付き合い下さい。……えっと、それじゃ先ず初めに、今回の演劇の演技指導をしていただく水沢玲香さんを紹介しますね」

 黒板の前に立ってみんなに挨拶をした初音は、一人の子に場所を空ける。

「今回の演劇で監督兼演技指導を務めさせていただきます、演劇部副部長の水沢です」

 初音の言葉を受けて頭を下げたのは、水沢玲香さん。奏お姉さまの伝手であたしとも縁が有る演劇部の副部長だ。
 まあ、彼女との縁はそれだけじゃない。実は彼女は香織理さんのカノジョで、去年、あたしと香織理さんが喧嘩した原因でもある。
 くるりと全体を見回していた玲香さんとあたしの目が合い、どちらからともなく苦笑する。
 まあ、あたしがエルダーなのは周知の事実だし、それでも演技指導を引き受けてくれたんだから、もう蟠りは無いんだろう……と思っておこう。

「次に文芸部から、脚本と演出を担当して下さる見城沙也香さんを紹介します」
「演出を担当します、文芸部元部長の見城です。脚本を書いたのは私ではありませんが、内容は熟知していますので、何か疑問点が有りましたらいつでも聞いて下さい」


 演出の担当は沙也香さんか。……ん? 脚本を書いたのって沙也香さんじゃないの?



――――――――――

「あ〜ん、私もお姉さまたちの演劇の手伝いをしたいですぅ……」
「陽向さん、手が止まってるわよ。今年の文芸部のウリは「エルダーの事件簿総集編」なんだから、オトしたら……解るわよね?」
「は、はいぃ! 勿論承知しております〜!」


――――――――――



 今、陽向ちゃんの声が聞こえたような……? ま、いっか。

「さて、それでは脚本の確認に参ります。みなさん、さっと目を通されているかと思いますが、何か疑問点は有りますか?」

 再び黒板の前に立った初音が、あたしたちを見ながら声を上げる。こうやって仕切っているところを見ると、流石に生徒会長だなって感心するね。

 さて、ここで今回の演劇、「聖應女学院版三銃士」の粗筋を説明しておこうか。

 近衛銃士になることを夢見る青年ダルタニャンは、フランスの片田舎からパリへとやって来る。銃士隊の隊舎に着いてトレヴィル隊長に挨拶をしようとしたところ、故郷の領主に貰っていた紹介状を無くしてしまったことに気が付いた。
 途方に暮れたところにアトス・ポルトス・アラミスの三銃士が現れ、売り言葉に買い言葉、男の意地も絡まって決闘することになってしまう。

 ところが翌日ダルタニャンが決闘の場所を訪れると、そこでは三銃士とリシュリュー枢機卿の護衛隊五人が決闘を始めようとしているところだった。
 三対五と云うのは正々堂々とした決闘に反すると、ダルタニャンは昨日の諍いを忘れて三銃士に味方をし、四人は見事に護衛隊五人を打ち倒す。
 この一件で三銃士と仲良くなったダルタニャンは、トレヴィル隊長に見習い銃士と云うことで認められるようになった。

 リシュリュー枢機卿は悪人ではないけれど、フランスの国力強化と国王ルイ13世の権力強化の為に、フランスの宿敵ハプスブルグ家から嫁いで来たアンヌ王妃を罠に掛けて追い落とそうとしていた。
 枢機卿は協力者のミレディーを使って、王妃の昔の恋人であるイギリスのバッキンガム公をお忍びでフランスに招き、王妃が国王から贈られたダイヤのネックレスを渡すように仕向ける。

 バッキンガム公がイギリスへの帰途に付いた後、枢機卿は国王に対して「王妃にダイヤのネックレスを着けてパーティーに出るように」と唆した。王妃の浮気を疑っていた国王は枢機卿の云うままにパーティーを計画する。
 困った王妃は、国王に内緒でトレヴィル隊長にネックレスを取り戻してくるように依頼。かくしてダルタニャンと三銃士は、お目付け役である王妃の侍女と共にイギリスへと旅立つ。実は枢機卿のスパイとして侍女に化けているミレディーを伴って……。

 と、まあ、こんな感じの話なのだ。
 王妃の侍女だったコンスタンスが居なくなって、ミレディーがスパイとして王妃の侍女になっていると云うのが原作との大きな違いだろうか。
 決闘の場所は三回。ダルタニャン+三銃士とリシュリュー枢機卿の護衛隊との戦い、イギリスでネックレスを取り戻した後にそれを奪い返そうとしたバッキンガム公の手下との戦い、そしてパリに戻る直前でネックレスを奪って逃げたミレディーたちとの決戦。
 更に、一緒に旅をするうちにダルタニャンに女性だとばれてしまったアラミスと、同じく一緒に旅をするうちに監視対象であるダルタニャンを好きになってしまったミレディーとの、三角関係の恋の行方まで混ぜ込んでいる。

 ……ちょ〜っと盛り込み過ぎな気がしなくもない。ホントに大丈夫なんだろうか。

「……大体意見は出尽くしたでしょうか?」

 おっと、粗筋を確認している間に随分と時間が経っちゃったな。あたしも一つ質問が有るのだ。それも、割と深刻な。

「はい初音、質問」
「薫子ちゃん、どうぞ」
「え〜っとですね。あたしの演じるアラミスが、女性だと云うことをダルタニャンに知られてしまうシーンなんですが」


 初音に指名されて立ち上がったあたしは、沙也香さんと玲香さんに視線を向ける。正直な話として、どうしてこんなシーンなのか疑問なのだ。

「……タライに張ったお湯で身体を洗っている時って云うのは、何かの間違いだよね?」
「大丈夫よ、薫子さん」
「あ、そう?」
「ええ……裸になるのは上半身だけだから」
「全然大丈夫じゃないよ!?」


 さらっと凄いことを云う沙也香さん。あたしに舞台の上で裸になれと云うのか。もしそうだとしたら全力で逃げ出すぞ。

「薫子ちゃんのセミヌード……」
「舞台の上でお姉さまの裸が見れるなんて……ごくり」
「……あ、鼻血が」
「ちょっと、いくらなんでも舞台の上で服を脱ぐのは駄目でしょう?」


 欲望駄々漏れなみんなの中で、唯一沙世子さんだけが沙也香さんに反論した。
 ああ、流石は沙世子さん。昨日の敵は今日の友、これほど頼りになる人は居ないよ!

「沙世子さん、もっと云ってやって!」
「……もっと、も何も……こんなの当たり前のことでしょ?」


 ところが、沙世子さんの言葉に溜め息を吐いた玲香さんと沙也香さんは、沙世子さんの両側に回ってから肩に手を置くと、ステレオで沙世子さんを説得に掛かったのだ。

「ねえ、沙世子さん。演劇に於いて大事なものは幾つか有るけれど、その中でも大事なものは何だと思います?」
「え? さあ……」
「それは、リアリズムです」
「リアリズム……現実的ってこと?」
「そう。良く考えてみて下さい。アラミスの着替え中にダルタニャンが偶然やって来て、アラミスが女だと知ってしまうこのシーン。例えば肝心のアラミスが、胸をさらしでがっちりと巻いていてぺったんこだったとしましょう」
「ぺったんこ……ねえ」


 おい、ぺったんこのところで一斉にあたしの胸を見るんじゃない。失礼だろう。

「そんなぺったんこな胸を見て、ダルタニャンはアラミスが女だと思いますか?」
「……ちょっと、無理かしらね」
「そうでしょう。女性特有の丸みを帯びた身体。慌てて隠す腕の間や、脇の下と二の腕の間から見える胸。そういうものが有ってこそ、アラミスが女だと知ってしまうことにリアリティを出せるんです」
「良いですか沙世子さん。これは決して嫌らしいものでは有りません。良い舞台を作る為。台詞に真実味を持たせ、観客を納得させる為には必要なんです」
「……そ、そう。……良い舞台のためなら仕方が無いわね」
「あっさり丸め込まれた!? 確りしてよ沙世子さん!」
「え、だって……」


 だってじゃないよ! ほら、困惑してる沙世子さんの横で、「計画通り」って顔してる悪い人が二人も居るよ!

「と、も、か、く! 上半身だけだろうが何だろうが、裸になる必要が有るって云うならあたしはこの役を降りるからね!」
「もう、薫子さん、我侭云わないで……玲香さん、どうする?」
「そうねえ……」


 沙也香さんに尋ねられた玲香さんは、あたしや他のみんなを一通り見回してから大きな息を吐く。

「仕方無いわね。……裸じゃなければ良いのね?」
「うん。裸じゃなければ我慢する」


 あたしだって、それぐらいの譲歩はする。

「じゃあ、ヌーブラで」
「……オーノー……」


 ガックリと肩を落とすあたしの周りでは、イイ笑顔をしたみんなが親指を立てていたとか。





 後日、緋紗子先生が「いくらなんでも素肌は拙い」と注意したので、ベージュ色の水着を着ることになった。
 ホンッッット、良かった。


**********

 次回はEX。

 香織理が入寮してから奏と由佳里が卒業するまでの期間の話、書いてみたいと思うんだけど時間が無い……。


 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
やっぱり、お色気シーンは無いんですね…(違)
という訳でおはようございます。
更新された翌朝に読んでは居たのですが、なかなかコメントが書けませんでした。

3月に予想される休眠前のダッシュでしょうか。
早いですね。

薫子は、少しは積極性が出てきたのでしょうか?
原作の「木」ではなく、ロシナンテ希望なら…。
まあ、どっちにしろ、当然のように強制ヒロインなんですけどね。

しかし、なんか、千歳の扱いがひどいですね(笑)
ほとんど聖さん以下。
印象に残ってるのがパンで喉を詰まらせてるのと、「私が相手だと嫌なの?」だけですからね。
もうちょっと目立たせてあげてください。

ところで、今回の脚本は陽向じゃないんでしょうか?
事件簿で忙殺されてるようですしねぇ…。
そこも謎ですね。
意外な人が書いているのか…。

ともあれ、次回も、慌てずに楽しみにしています。
でも、無理はしないでくださいね。
えるうっど
2012/02/19 06:59
えるうっどさん、こんばんは。

>薫子
ロシナンテを遣ることが積極的なのかどうなのかは兎も角としてw
千歳の保護者的な立ち位置なので、少しは「エルダーのお姉さま」な自覚が有る……用に見えるよう、文章的に書きたいんですけどね。
>千歳
今書いているEXで、出番の少ない二年生トリオと共に出てきますので、それで勘弁してくださいw

ちなみに、脚本は原作のように文芸部内でのコンペではなく、文芸部全員での共作です。その為、多分に趣味的な脚本内容になっていますが……まあ、その辺りは徐々に書いていきますので。もう少しお待ちを。

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2012/02/19 21:16
読んではいるのですが、なかなかコメントが出来ず…遅れましたが報告と感想です


・ダルタニャンの相手ってコンスタンスとかミレディ→ダルタニャンの相手ってコンスタンスとかミレディー
・えっと、それじゃ先ず始めに→えっと、それじゃ先ず初めに(ちょっと自信ないですが)
・文芸部部長の見城です→えっと、沙也香さんは先月?の処分で部長職を妹に譲ったので、「文芸部副部長」とするのが正しいのでは?と思いました


沙世子さんの妹の問題はそうなりましたか。親睦を深める意味でも良さそうですね。香織理・陽向姉妹の所に行く時は少し心配ですが…。

香織理の入寮の話はGA文庫で触れられるのか分からないので(期待はしているのですが)、ここで書いて貰えると嬉しいです。時間も無いでしょうし完結予定が延びてしまうのですが…。

五月辺りまでは忙しい日が続くとは思いますが、頑張って下さい。のんびりとお待ちしております。
Leon
2012/03/19 17:07
Leonさん、こんばんは。
誤字修正です。ミレディは後の話でもこう書いているんで、後で修正します。
沙也香さんは、部長ではなくて元部長……元を付けるの忘れてました。

GA文庫の方は、恐らく次の四巻が香織理の話になると思うんですが……話の内容の関係上、もしかするとPSPのシナリオになっちゃうかもしれないと思うと不安ですね。
何しろ文庫版では千歳も居ないですし。……千歳も居ないですし。大事なことなので(ry

香織理の入寮……というか、「エトワール」の終わり、つまり奏のエルダー就任から卒業までの話は書く心算ではいるんですが、今のところネタをちょろちょろ書き溜めているだけなので、恐らくこの話が完結してからになるかと思います。

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2012/03/19 22:56
妃宮さんの中の人 7-2 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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