A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 7-4

<<   作成日時 : 2012/04/12 22:02   >>

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 創造祭の前夜まで。

 ちょっと少なめの分量です。

**********



 お風呂を終えて自分の部屋へ戻ろうと階段を上がると、テラスに陽向ちゃんが居るのが見えた。こんな時間にどうしたのかな? 口が動いて……ああ、携帯電話か。
 邪魔しちゃ悪いかなと通り過ぎようかと思ったら、こっちを向いた陽向ちゃんと目が合ってしまった。一言二言喋った陽向ちゃんは、通話を終えて廊下へと入ってくる。

「ゴメン、邪魔しちゃった?」
「いえいえ、用事は終わって雑談をしていただけですから」
「そっか。でも珍しいね、テラスで電話って」


 何気無しに尋ねると、陽向ちゃんは頭を掻きながら、香織理さんの部屋に居たところだったから抜け出てきたと教えてくれた。

「うちのお母さん、どこで話を聞いてきたのか、創造祭を見てみたいと云い出しまして。入場券を早く送れとせっつかれたんです」
「……ああ、それで。陽向ちゃんは優しいね」


 創造祭は基本的に生徒の家族だけが招待されることになっているので、生徒それぞれに入場券が家族の人数分だけ配られる。創造祭当日は、それを守衛さんに渡して構内に入るのだ。
 お嬢様学校だし、関係の無い人、特に男性は入れるわけにはいかないからね。
 香織理さんは入場券を送る家族が居ないから……それで、気を使ったんだね。

「いやあ、お姉さまにからかわれるのが嫌だっただけでして。ところで、薫子お姉さまは、家族をお招きするんですか?」
「え、あたし? あたしのところは男家族だから……なんて云うか、ここのお嬢様的には刺激が強すぎると云うか」
「はあ……刺激ですか? よく分かりませんが」
「まあ気にしないで。……ああ、そうそう。もうみんなお風呂から上がったから、陽向ちゃんと香織理さんも入ってくるといいよ」
「あ、はい。それじゃお姉さまに伝えてきますね」


 陽向ちゃんはひらひらと手を振ってから、香織理さんの部屋へと戻っていった。
 ……家族、かあ。今まで家族を呼ぶとか考えたことも無かったなあ。親爺は強面だし、百歩譲って順一さんでも……ちょっと。こんなこと考えてると知ったら怒鳴られそうだけど。
 そう云えば、千歳はどうするんだろう?



 一度思い付くと気になってしまうわけで、就寝前のお茶会で千歳に尋ねてみた。

「……と、云うわけなんだけど」
「私のところは、お母さんが来てくれることになってるよ」
「そうなんだ。……妙子さん、だっけ」


 妙にハイテンションな人だったのは覚えている。良くも悪くも千歳のお母さんだな、って感じの人。

「史ちゃんは?」
「史の家は、父も母も旦那さまのお世話を致しておりますので」
「旦那さまって、つまり千歳のお父さんだよね。海外だっけ」
「はい」


 そっか。……史ちゃんは寂しくないのかな。プロだからと割り切って考えてるのかもしれないけど。

「薫子お姉さま、実は、その……奥さまが創造祭にお出でになることについて、ご相談したいことがございまして」
「うん? 史ちゃんがあたしに?」
「はい」
「ふむ。まあ、あたしに出来ることなら手伝うけれど」


 あたしがそう答えると、史ちゃんはホッとした様子で頭を下げた。
 話を聞くと、妙子さんと一緒に、あのまりやさんのお母さんが創造祭に来るらしい。実際にはまりやさんと貴子さんが連れてきて、妙子さんに押し付けるらしいけれど。(史ちゃんの話を聞くとそうとしか思えない)

「まりやさんも貴子さんも、もう聖應の生徒じゃないから入場券なんて手に入らないんじゃないの?」
「御門の家は聖應の創立者の一族に名を連ねますので」
「清花おばさんは鏑木の家からお嫁さんに来た人だから、毎年入場券が一杯送られてくるんだよ」
「へえ、そうなんだ」


 普段はそんなこと全く感じないけれど、そもそも千歳と千早って、無理矢理聖應に編入してしまえるような家の人なんだよね。
 オーナーの一族で梶浦先生に協力を頼めるくらいなんだし、普通のお金持ちと一緒にしちゃ駄目か。

「話を戻しますが……奥さまは千歳さまが幽霊だと云うことを隠そうとしない方ですし、清花さまは、その…………マイペースな方なのです」
「……史ちゃん、今、大分言葉に迷ったよね」
「は……その……主家に当たる方にこのようなことを申し上げるのは非常に心苦しいのですが、まりやさま曰く『訪問販売に必ず引っかかる人』でして」


 無表情でありながら、どことなく困ってますって感じの史ちゃん。
 う〜ん、その人はどう判断すれば良いんだろう。マイペースと云うよりはお人好しと云うべきじゃないだろうか。でも、必ず引っかかるって……有る意味凄いね。

「史がなるべくお傍に居てフォローを致しますが、万が一、史がお二人から離れている時に何か有りました場合、物理的に口を塞いででも千歳さまと千早さまの秘密をお守り下さいますよう、お願い致します」
「……まあ、頑張ってみるよ」


 でもなあ……こういうのって、大抵は上手くいかないものだからなあ。ああ、あたしにも頼りになる味方が欲しい。





 創造祭が近付いてくると、否が応でも学院内は活気付いてくる。ましてや最後の一日ともなれば、その忙しさは大変なものだ。
 あちらこちらで掛け声が上がり、聖應には似合わないような釘を打つ音だとかも聞こえてくる。ここに通うようなお嬢様が玄翁片手に日曜大工をする光景ってのは、想像するだけで面白いものがあるけどね。
 あたしたち生徒会演劇チームでも、裏方さんが大道具を直したりしている。先生方へのプレビュー――演劇内容の確認――も済んで、舞台道具の細かい修正などをするだけだ。

「ほら、ちょっと貸して?」
「い、いえ、お姉さまにこんなことをしていただくわけには……」
「いいからいいから」


 箸より重たいものは持てません、みたいな感じの子が舞台のセットを修理しているのを見て、思わず手を貸してしまった。
 テスト勉強なんかと同じで、演技の仕方について煮詰まると、どうしても他のことに目がいってしまう。こんなことをしてる場合じゃないんだけどなあ。
 スカーンと思い切り釘を打ち付けて、幾分か気を晴らす。まあ気分転換にはなった。

「演技のことでお悩みですか? 薫子お姉さま」
「あ、玲香さん。……うん、まあね」


 ひょっこりとあたしの後ろから顔を出したのは、どことなくからかうような笑みを浮かべた玲香さん。大道具の進行状況を確認しているところだったみたいだ。

「お姉さまは完璧主義でいらっしゃる。その辺りは、流石に奏さまの妹と云うところですか」
「あはは……いや、どうせなら自分が納得出来る演技にしたいからさ」


 今回の通し稽古でも感じたけれど、何と云うか……どうもスッキリしないのだ。

「難しく考えることはないと思いますよ。男装しているとは云ってもアラミスは女です。常のお姉さまと同じようにしていれば、それで十分ですよ」
「無理に演技しようとするなってことでしょ? でもねえ、それはそれで複雑な気分なのですよ、あたしとしては」
「ふふ……男装の麗人と云うのは、お姉さまの表面だけを見た役ですものね。中身はとっても女らしくて、可愛いです」
「可愛いって……からかわないでよ」


 一応これでも先輩なんだけどな。あたしみたいなのが下級生に可愛いって云われるのも妙な気分だよ。
 アラミスは恋人の敵討ちの為に男装して銃士隊に入ってしまうくらい、情が深くて女らしい人だ。
 だから、台本を読めば読むほど分からなくなる。自分の性別を偽ってまで戦うアラミスの気持ちが……それなのにダルタニャンに恋をしてしまう感情も。
 あたしが自分の演技に納得出来ないのは、アラミスはあたしみたいに根っからガサツで男っぽく見えるキャラクターじゃないからなんだと思うんだ。

「最初から男っぽく見えるのと、演技して男っぽくなろうとするのは全然別のことだよね? だから今一納得できないんだよなぁ」
「それは……う〜ん……」


 あたしの呟きを聞いた玲香さんは、腕を組んで唸った後、ちょっと困った顔であたしに告げた。

「お姉さまは否定するかもしれませんが、お姉さまは男っぽい訳ではなくて、女から見て格好良い女性なんです」
「……は?」
「アラミスも、男装しているから男っぽい訳ではありません。女性から見て理想的な男性を演じているから、結果として男っぽくなっているんです」


 う〜ん……つまりそれは、格好から入るか中身から入るかってことなのかな?

「アラミスと云う役を、そういう観点で考えてみれば、お姉さまも少しは納得できるのではないでしょうか」
「はあ……まあ、考えてみるよ」


 理想的な男性ねぇ。そう云えば、演劇でのアラミスはプレイボーイの一面もあるんだよね。女の子から見て理想的な男性を演じているから、女の子に好かれるってことなのかな。
 ……そう云えば、そんな状況の人間があたしの直ぐ傍に居るじゃないか。





「――と云うわけで、あたしに男装の麗人の演技を教えて!」
「……え?」


 その日の夜、お茶会の為に千歳の部屋に行ったあたしは、史ちゃんがお茶の準備をしてくる間に千早に頼み込んだ。そう、千早こそあたしの考えた演技の先生なのだ。
 千早はエルダーとしての態度を崩さないように、理想の女の子として振舞っている。それって立場は違うけれど、自分の中の理想の異性を演じていると云うことではアラミスに似ているんだ。……まあ、『表面』が千歳だから、ちょっと子供っぽくなってるけれど。

『薫子ちゃん……いきなりちーちゃんに代わってなんて云うから、何かと思ったら……』
「もう、他に頼れそうな人は居ないんだよ。ねっ、この通り!」

 両手を合わせて千早を拝みながら、嫌味にならないように頭を下げる。あたしだって、ちょっと変な頼みだとは思っている。

「……そもそもの話が良く分からないんですが」
「千早ってさ、云うなれば日常的に女の子の演技をしているわけじゃない? こんなこと云うのはなんだけど、あたし以上に女らしかったりするし」


 千早があたしよりも女らしいのは、それが千早の考える理想の女性だからなんだろうと思う。それが今のあたしとは似ても似つかないってのは、ちょっと癪な事実なんだけども。

「アラミスは男装の麗人だしさ、男と女が逆転してはいるけれど、状況的には似たようなものでしょ。異性の中に一人で紛れ込んでいる時の感じとか、ここだけは譲れないみたいな注意点とか有るでしょ?」
「も、もういいですから、それ以上は……」


 千早は俯いてプルプルしながら手を伸ばして、あたしの言葉を遮ってきた。……ううむ、もしかして精神的なダメージを負わせてしまっただろうか。でも、ここは何としても千早に演技指導をしてほしい。

「だ、駄目……かな」
『……ちーちゃん?』

 様子を伺うようにそっと尋ねる。千歳が千早の顔を覗き込んだ。
 暫くの間俯いていた千早は、やがて何とも表現しがたい顔をしながら、あたしと千歳を見た。

「……ふう……女装している僕が男装している女性の役を演技指導するって……訳が分からないですよ」
「えっ……」
「……でも、まあ……ここで断って、演劇が駄目になるのも問題です。僕で良ければお教えしますよ」
「ホント? 助かる!」

『流石はちーちゃん、男前だね!』
「はは……ひらひらのネグリジェを着ているときに云われたくない台詞ですけどね……」

 まあ、それは千早に同意するよ。これでダルタニャンの衣装でも着ていれば、様になったかもしれないけどね。

「但し、前もって云っておきます。時間が有りませんから、厳しくしますよ?」
「うん、いつでも来い!」
「では、早速――」






「違います。薫子さんは切れ長のキリッとした瞳を持っているのですから、男役の時はもっと瞳を細めて、流し目を意識して。こんな感じです」
「こ、こう?」

『おおっ……薫子ちゃん、格好良い……』
「頬のラインをスッキリとさせると男性的になります。気持ち程度に顎を下げて顔を縦長に、頬の肉を引き締めて。……口を窄めないで」
「こ、こう?」

『良い感じ、良い感じ〜』
「茶々入れないでよ、千歳」
「ほら、よそ見しない! 顔付きを男性的にしたら、そこからが本番ですよ。その状態で、恋する乙女を意識して」
「だ、だからその具体的な方法が一番知りたいんだってば……」
「薫子さんの好きな漫画などであるでしょう? 典型的なポーズとか。理想の女性を意識して」


 典型的なポーズか。そうだなぁ……手を胸の前で組んで、上目遣いで相手の顔を見る……どうだ、あたしの眼力は!

『……薫子ちゃん、それは……』
「睨まれているようにしか見えないのですが」
「……不器用で悪かったね」
「目に力が入り過ぎていますね。表情は男性的なままでも、手や体の動きで女性らしく見せることは出来ますよ」


 その瞬間、あたしは自分のどこかがぷちっと切れたのが聞こえた。

「だ〜か〜ら〜! それが出来ないって云ってんじゃん! 見本を見せてよ見本を!」
「み、見本ですか?」


 体の動きだけで女性らしく見せることが出来るって云うなら、実際に遣ってもらった方が分かりやすい。人に云うくらいなんだから千早だって出来るでしょ!

「……では、薫子さんがダルタニャン役と云うことで。途中で止めないで下さいね?」
「うん、ドンと来なさい」

『……ゴクリ……』

 あたしが言葉通りに胸を叩いてみせると、千早は軽く溜め息を吐いてから表情を改めた。万が一のことを考えて女性的な顔を作っていた千早が、表情を改めて男の子の顔に戻る。
 千早が千歳の代理をしている時は化粧をして女の子っぽく見せているから、男の子としての千早を見るのは久しぶりだ。

「薫子さん」

 細めた目であたしを見る千早が、名前を呼びながら一歩近付く。顎を引いているので、あたしよりも背の低い千早は自然と上目遣いになっている。……やっぱり女の子の背が低い方が絵になるよね。

「……」

 目を合わせたままの状態で、千早の手があたしの方へと伸びてくるのが見える。
 伸びて、躊躇うように自分の方へ戻った後、再びあたしの方へと伸びてきて……ぴたり、とあたしの胸に添えられた。その瞬間、あたしは自然に身体を震わせた。

「あ……」

 我知らず声が出た。……掴まれた……そう、感じた。
 千早は手をあたしの胸に置いたまま、まるで引き寄せられるようにゆっくりと歩み寄って……。

「……一体何事ですか、この状況は」
『ああっ、駄目だよ史、良いところなのに!』

 はっ!? 雰囲気に飲まれてた!
 史ちゃんの声を聞いて我に返った瞬間、あたしはどんな体勢なのかを思い出して、思わず千早を突き飛ばしてた。

「わっ……! か、薫子さん?」
「ち、ちは、千早……あんた、さり気なく人の胸を触ったりなんかして!」
「えっ!? い、いえ、今のは演技ですから!」


 演技でも何でも、こっちはお風呂上りの部屋着姿なんだぞ。胸に思いっきり手を乗せおってからに。

「もしかして、史はお邪魔虫だったのでしょうか」
「い、いや、そんなこと無いから。史ちゃんの気のせいだから!」

『え〜、結構良い雰囲気だったのに〜』

 千歳は黙ってなさい。……って云うか、千歳の存在も頭から抜けてた。恐るべし、千早の演技力……!
 って云うか、史ちゃんは何時戻ってきたんだ? ノックの音とか聞こえなかったぞ。まあ史ちゃんはお茶の用意をしに行っていただけなんだから、直ぐに戻ってくるに決まってるけど。
 史ちゃんが戻ってきて、お茶を飲んで一息吐いてから練習する心算だったのに……ついつい流れのままに演技の練習をしてたよ。
 あたしはテーブルの上にお盆を置いてお茶の用意を始める史ちゃんに、云い訳がましく話を振った。

「ふ、史ちゃん、結構時間が掛かってたね。どうしたの?」
「申し訳有りません。丁度、陽向さんのお茶の用意と鉢合わせてしまいまして。ついついお茶の淹れ方について話をしておりました」
「そ、そう。いや、別に責めてるわけじゃないからさ」


 あっはっは、なんて誤魔化し笑いをしながら息を整える。
 それにしても、千早のあの視線。引き込まれると云うか、真正面から見詰め合うだけであんなことになるとは思わなかった。

『それにしても、ちーちゃんは女の子の演技が上手だよね』
「え? ええ、まあ、練習しましたから。千歳さんも見ていたでしょう?」
「……そう云えば、千早さまは鏡を見ながら表情の練習などをなさっていましたね」
「へえ、やっぱりそういうこともしてるんだね」
「まあ女らしさは兎も角として、鏡を見ながら表情の練習をするというのは大事なんです」
「どんなことをするわけ?」
「自分がどのような表情をしているか。常に他人から見られていることを意識して、見られても良い表情を研究する。母さんに色々と指導されました」
「ふ〜ん……」


 千早、鏡を見ながらそんなことを考えているんだ。表情を作る練習か……でもなあ、それって女の子の振りをする練習なわけで、よく考えると変だよね。
 夜、鏡の前で自分の顔を見ながら『キラッ』とかしてる……男である千早がそんな自分を客観的に見たとしたら、立ち直れないんじゃないだろうか。

「……って云うか、千早……キモッ」
「な……なんてこと云うんですか!?」
「だって、女装の為の練習でしょ?」
「違いますよ! 今云ったでしょう、女らしさは兎も角って。外交官になる上で必須な、表情の作り方と相手の表情の読み方です」
「え……あ〜……なるほど」


 そう云えば、千早ってアメリカだかに留学するんだったよね。そっか、そっちの練習だったのか。そんなことすっかり忘れてたよ。

「悪かったよ。そうだよね、女の子になるための練習じゃないよね」
「……薫子お姉さま、その云い方ですと、千早さまが性転換をするように聞こえてしまいます」

『う〜ん……でも、大体合ってるような気がするなあ……』
「千歳さんまで……勘弁して下さいよ。僕は女装しているだけであって、男の娘とかそういうのじゃないですから!」

 あはは……まあ、千早なら女の子でも十分遣っていけるような気はするよ。





 そして、その日の夜。

「……」

 創造祭の前日に目が冴えて眠れないなんて、あたしは小学生かっつーの。ごろごろと寝返りを打ちながら、自分で自分に突っ込みを入れる。
 確かに明日のことを考えると気が高ぶるけれど、それが原因じゃないってことは自分でも分かっていた。
 あたしは仰向けになると、さっきの千早のように腕を真っ直ぐに伸ばして天井へと向けた。

「……掴まれた、か」

 何がって云われると困る。自分でも良く分からないうちに自然とそう思ったのだ。陳腐な云い方をすれば、心が掴まれたと云うことになるのかもしれない。
 恋や愛の表現の中に、心を掴まれるとか、心を奪われるとか云うのがある。じゃああたしが千早に恋をしたのかって聞かれると、首を捻るしかないのだけれど。だってお姉さまと一緒に想像した恋のドキドキとか無いんだもの。

「ともあれ、演劇の手本にはなったかな」

 玲香さんはリアリティがどうこうってよく云っているから、あの感じを表現出来れば自分なりに納得は出来るかもしれない。
 舞台の上で、千歳を相手にあの演技が出来るだろうか……。と、そこまで考えてあたしはあることに気が付いた。
 妃宮千歳。
 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の三拍子が揃ったパーフェクトなお嬢様。
 その能力とは裏腹に、ちょっと天然の入った性格と、ほんわかとした無邪気な笑顔で周囲を圧倒する可愛い人。
 今ではその実態を知っていると云っても、あたしがあの時の千歳に理想の女性像を見たのは確かなんだ。
 ……要するにあたしは。

「あの時の千歳に、とっくに心を掴まれてたんだよね……」

 変な夢を見たことも有ったっけ。ああ、何と云うか……あれは確かに恋だったなあ。自分で勝手に作り上げた理想上の千歳に恋をしてた。
 最初っから心を掴まれてたのなら、そりゃあ恋のドキドキとかはとっくに通り過ぎてるよね……ん? それってもしかして倦怠期ってやつ?

「……あはは……何云ってんだか」

 妙な結論に辿り着いたあたしは、苦笑しながら瞼を閉じた。





**********

 演劇部分が冗長だったのでばっさりカット。そしたら文章量が三分の二くらいになったので修正してました。
 それでもいつもよりちょっと少ないですが。

 プロットでは、薫子が千早に男装の演技を習うという話だったんですが……微妙に違ってますね。

 さて、次回はいよいよ創造祭当日です。




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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
ちょっと忙しくてコメントが滞っておりました。
一応、話は最新まで読んでますよ!
更新頑張ってください。

それでは、報告します。

・招待することになってるんで→…ちょっと違和感があっただけです。どこをどう直す…とは分からなくて…。

今回はこれだけだと思います!(タブン)


最後に感想を。

すっごい今更ですが、薫子視点なので他のヒロイン達との会話も多くて面白いです。
薫子視点のおかげかと言われると断言は出来ませんが…。

あと、この話では千歳に理想像を見たのですね。
原作の千早とは違うけど…と思いましたが、原作でも千歳も人気ありましたね…。

久しぶりすぎていろいろ忘れてます!
地雷と分かっておきながらアニメを見たので、早く原作がしたいです…。
この話もまた一から読み返したいですね。
何度読んでも面白いです。

しかし…時間がない…。
Leon
2012/11/26 06:40
Leonさん、こんばんは。
お久しぶりです。私も最近時間が無くてバタバタしております。疲れを溜めないようにして下さいね。

この話の中では、千早は千歳の「社交的で楽天的」なところを好いています。
原作ではそんな素振りがほとんど無いのですが、千早は考え方も態度も冷徹なところがあると自己分析していますので、もっと優しい人間になりたいと思っています。

>アニメ
……そんなものは無かったw

では、これにて。
A-O-TAKE
2012/11/27 21:34
妃宮さんの中の人 7-4 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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