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zoom RSS 妃宮さんの中の人 7-6

<<   作成日時 : 2012/05/31 22:03   >>

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 エピローグの心算だったんだけど……

 思ったより長くなりそうだったので分割です。


**********


 幾つかの小さいミスは有ったけれど、お客さんの歓声に後押しされてだんだんと調子を上げてきたあたしたちの演劇は、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。

「沙世子さん、着替えは!?」
「もう少し掛かるわ!」
「玲香さん、セットの準備終わりました!」
「直ぐ確認する! お姉さま方、指定の位置に!」
「了解!」


 悲鳴のような声があちらこちらから聞こえる。イヤホンマイクを使っての指示なのでそれほど大声ではないし、舞台換えの最中でも聖さんのナレーションと効果音が鳴っているので客席の方は殆ど聞こえないだろうけれど。

「薫子さん、ラブシーン、期待してますよ」
「ちょ、今になってそんなプレッシャー止めてよ」


 セットの位置を細かく修正する玲香さんが、舞台上でスタンバイしているあたしに笑いかけてきた。

「一番盛り上がるところなんですから、期待するのは当然でしょう? 練習以上のものを魅せて下さいね」

 云いたいことだけ云ってさっさと舞台袖に戻っていく玲香さん。入れ替わるようにして千歳が舞台に上がってくると、若干緊張した様子で指定の位置に付いた。

「どしたの千歳、遅かったじゃない」
「あ、あはは……」
「薫子ちゃん、幕が上がるよっ」


 おっと……初音が小声で注意してきたので、慌てて姿勢を正す。苦笑してる千歳はちょっと気になったけど、どうせ舞台袖で台詞の確認でもしてたんだろう。
 この場面は台詞が多いし、肝心のキスシーンもある。余計なことは考えないで演技に集中しなきゃ。



――――――――――



『ネックレスを奪ったミレディーを追ってラ・ロシェルの町へと向かうダルタニャンと三銃士。しかしダルタニャンたちの予想を裏切り、ミレディーはリシュリュー枢機卿に助けを求めずに町へと逃げ込んでしまったのです……』

 スルスルと紗幕が上がる。
 舞台は星空の背景とラ・ロシェルの城壁と町を包囲するフランス軍の書き割り。ダルタニャンたちは包囲軍の一角で町を眺めながら、善後策を考えているところだった。
 焚き火の近くで思い思いに座りながら、これからのことを話し始める。

「しかし、まさかミレディーが町の中に逃げ込むとはな……」
「枢機卿に見捨てられたのか、あるいは始めからその心算だったのか」
「今はそれを考えても仕方が有るまい。少し状況を整理しよう」
「うむ、そうだな」


 アトスはダルタニャンたちの顔を見回してから、確認するようにゆっくりと口を開く。

「枢機卿は、王妃とイギリスのバッキンガム公が通じている理由とする為に、ミレディーにネックレスを奪わせた。イギリスとの戦争が始まっている以上、ネックレスを取り戻せなければ王妃の立場は非常に拙いことになる。下手をすれば裏切り者扱いだ」
「ハプスブルク家のフランス介入を防ぐ為と云うのは分からんでもないが、我ら貴族まで頭ごなしに押さえつける枢機卿こそがフランスの敵だと思うのだがなあ……」


 ポルトスの言葉に頷くダルタニャン。枢機卿は貴族の決闘を禁止したり、カトリック信者の多いフランスでプロテスタントを支援したりと、多くの貴族に嫌われていた。
 その挙句に、今度はプロテスタントの一大拠点であるラ・ロシェルを(イギリス側に付いたとは云え)攻めているのだから、枢機卿への反発は更に大きなものになっている。

「兎も角、王妃の味方をして枢機卿を何とかしなくては、我らの未来は――」
「おいポルトス、君、少し飲みすぎじゃないのか?」


 言葉に熱の籠もっていくポルトスを半目で見るアラミス。見ると、ポルトスの手には空になったワインのビンが握られていた。夕食の時にもそれなりに飲んでいたのだが、どうやらこっそりと持ってきていたらしい。

「おいおい、明日は決死の敵情視察をするんだぞ? それぐらいにしておけよ」
「何だと少年。私はこのくらいで酔ったりはしないんだ。大体お前がミレディーを――」
「ああ、分かった分かった」


 胡乱な目をするポルトスを押さえたアトスが、口を塞ぐようにしながらポルトスの身体を抱え起こした。

「私はポルトスを寝かしてくる。二人とも、明日は早いんだ。早めに寝るんだぞ」
「ああ、分かった」
「お休み、アトス、ポルトス」


 アトスは何か云いたげなポルトスに肩を貸しながら、引き摺るように歩いて行く。二人を見送ったダルタニャンとアラミスは、どちらからともなく立ち上がると焚き火を足で蹴り散らして火を消した。

「……ポルトスじゃないが、私も少し心配だな。ダルタニャン、君はミレディーを捕まえられるのか?」
「勿論だとも。もう失敗はしない」
「だと良いのだが」


 腕を組んで不満げなアラミス。中途半端なその言葉に険を感じたダルタニャンは、口を尖らせてアラミスに詰め寄った。

「何か問題でも有るのか?」
「何、田舎者の君は女性に弱いようだからな。また同じことにならないかと思っているのさ」
「しつこいな。何を怒っているんだ」
「……なぜ私が怒っているか分からないから、心配になるんじゃないか。女心くらい理解したまえよ」


 鼻を鳴らしてそっぽを向くアラミス。売り言葉に買い言葉だが、アラミスのそんな態度を見たダルタニャンもまた、アラミスの視線の先に回りこんで言葉を続ける。

「女心が分からなくて悪かったな。僕は誰彼構わず声を掛けて回るような軟派な人間ではないんだ。君とは違う」
「ふん、女の口説き方も知らないからミレディーにあっさりと騙されるんじゃないか」
「もう騙されないと云ってるだろう」
「どうだか」


 歯を剥き出しにし、肩を怒らせて睨み合う二人。仲裁役のアトスが居ればここで納まっただろうが、つい先程居なくなったばかりである。
 暫く睨み合っていた二人だが、不意にアラミスが身を引いた。不審に思って眉を寄せるダルタニャン。

「では、騙されないかどうか試してみようじゃないか」
「試す? どうやって?」
「こうやってさ」


 首を傾げるダルタニャンを見ながら、アラミスは髪を纏めていた紐を解いた。



――――――――――



 あたしは髪を纏めていた紐を解き、手で髪の毛を梳いて流す。意識して女らしさを出し、嫉妬心からダルタニャンに悪戯を仕掛けるアラミスを演じるのだ。
 長い髪を散らしたあたしは千歳を真っ直ぐに見詰めて、あの夜の練習のように腕を伸ばした。千歳の胸に手を当ててゆっくりと身体を寄せながら、愛の言葉を囁く。

「君が、好きだ」

 舞台の台詞である以上、実際は囁きじゃないんだけど……兎も角、視線を逸らさないようにしながら歩みを進める。
 ……う〜む、何か千歳の様子が変だなあ。ボーっとしていると云うか、集中出来ていないような気がする。場面転換する前もちょっと変だったし。
 動かない千歳に向かってあたしが進むに従い、観客席が盛り上がり始める。キスシーンの定番通りにあたしが目を瞑る――実際は目測を誤らないように薄目だけど――と、どういうシーンかを理解した客席から、凄い叫び声が上がり始めた。

「キャー! お姉さまー!」
「羨ましい! お姉さま、私にもー!」
「もっと激しく迫ってー!」


 あまりの声援に耳が麻痺しそうになりながら、千歳の傍に立つ。おかしいな、ここで千歳がちょっとうろたえなきゃいけないんだけど。
 あたしは客席から見えない側の目をそっと開けて、千歳の顔を窺った……あれ? 千歳、目の焦点が合っていない?
 あっ……しまった!
 最近は緊張や疲れでいきなり千早と入れ替わることは無かったけど、演劇なんて普段と違う精神状態なんだから、限界になってたっておかしくないんだ! ど、どうしよう!?
 相変わらずの歓声が続く中、取り合えずキスしちゃった後で舞台袖に引っ張っていくしかない……あたしが覚悟を決めて一気に顔を寄せた瞬間。

「きゃー! 千歳ちゃーん!」

 至近距離で聞こえたその声。視界の端に、来賓席の縄張りを掴みながら身を乗り出している(他の客から見れば非常に傍迷惑な)妙子さんが見えて……同時に、ハッとしたように顔を動かした千歳が見えた。



 さて、唐突ですがここで問題です。キスの最中に顔を動かすとどうなるでしょうか?
 答え、高確率で事故ります。



 ガチッ!!

「――ッ!?」
「……っ!!」


 勢い良く顔を寄せたあたしの唇と、顔を動かして妙子さんの方を向こうとした千歳の唇が、真正面から正面衝突した。滅茶苦茶痛い……目の前が一瞬真っ白になった。壮絶な歯と歯のぶつかり合いだったよ!
 ううっ、涙が出そう……い、いや、お芝居を続けなきゃ。幸い千歳は目を覚ましたみたいだし。
 あたしは派手なキスに沸く観客の声を聞きながら、そっと身を離して千歳の様子を伺う。――どういう心算かとダルタニャンが問い掛けてくるから――と、台本を思い浮かべながら千歳の顔を見て。

『きゅう〜〜〜……』

 キスの痛みと衝撃で目を回した千歳が千早の体から抜け出て、舞台袖の方に漂っていくのが見えた。
 あたしは頭が真っ白になった……てか、さっきの目の前が真っ白になったのって、千歳が「抜けた」時の光じゃん!





 何とか場面を終えて舞台袖に戻る。いやホント、千早が台詞を覚えていてくれて良かったよ。あたし一人だったらどうしようもなかった。
 次の場面の準備をする子たちの間を縫って空いているスペースに行くと、心配そうな顔をした初音たちがやって来た。

「二人とも、大丈夫? 何か凄い感じだったけど……」
「……まあ、何とか」
「まだ歯茎が痺れてるけどね……」


 子供の頃に歯医者で麻酔を打たれたことを思い出したよ。……歯がグラグラしてるんじゃないかとちょっと心配だ。

「あっ、千歳ちゃん、唇から血が出てる」
「えっ……?」
「本当だわ。千歳さん、こっちに来て。直ぐに手当てするから。……あ、薫子さんもついでに」


 あたしはついでなのか、沙世子さん。思わず自分の唇を指でなぞるけど、指先に血が付いたりはしなかったので、切れたりはしていないみたいだ。
 あ〜、でも腫れてくるかもしれないから、あたしも一応冷やすくらいはするかな。
 二人の後を追って壁際に移動すると、沙世子さんが用意してあった救急箱を覗いて道具を探していた。

「まだ舞台は続くから、絆創膏を使うわけにはいかないわよね……」
「沙世子さん、ワセリン有る? あれで血止めしちゃおう」
「そんなこと出来るの?」


 沙世子さんは運動系の部活の経験は無いのかな? 軽い切り傷とかに良く使うんだけど。綺麗に塗れば色も目立たないし。
 おっと、傷口の消毒も必要だよね。あたしは救急箱から出ていた消毒用のアルコールを見つけると、ティッシュと一緒に千早に渡した。

「あ、有ったわ」
「貸して。あたしの方が慣れてるから」
「お願いね。……ところで千早さん、千歳さんは大丈夫なの?」


 ワセリンをあたしに渡した沙世子さんは、声を潜めて問い掛けながら視線を上に向けた。さっきのキスの衝撃で吹き飛ばされた千歳が、舞台袖まで漂ってきているのだ。

「ええと……衝撃と痛みで気を失っちゃってるだけだと思うので、大丈夫だと思いますが……」
「……そうなの?」


 見える。あたしには千歳の頭上でフォークダンスを踊っている小鳥さんたちの姿が!
 ……実際のところ、心配したって何が出来るって訳でもないし、今はそのままにしておくしかない。次の幕が上がるまでもう直ぐだし。

「ほら千早、動かないで。直ぐ塗っちゃうから」
「あ、はい」
「私は次のシーンの最初から出なくちゃいけないから、もう行くわね」
「あ、うん。ありがとうね、沙世子さん」


 軽く手を振って駆けて行く沙世子さんを見送ってから、綿棒で掬ったワセリンを千早の唇に塗っていく。ちょっと沁みるのか、ピクピクと眉が動いた。大きく切れているわけじゃないけれど、これは絶対に腫れるだろうな。
 ……柔らかそうな唇だな。
 ……良く考えたら、あたしはこの唇にキスを……いやいや、違う! あれは歯と歯のぶつかり合い!

「あの……薫子さん?」
「はっ!? あ、うん、もう良いよ。血も止まったみたいだし」
「そうですか」


 一気に回りの音が戻ってくるような感覚……あたしってば、何を夢中になってるんだ……そうだ、氷だ氷、冷やさないと。
 きょろきょろと辺りを見回していると、唐突に洋菓子の箱に入っているような保冷剤が差し出された。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがと……って、ケイリ!?」
「はい、千歳お姉さまも
「あ、はい」


 何というタイミングの良さ、そして必要なものを用意する周到さ。どこかで出待ちでもしてたのか?
 あたしと千早が首を傾げるのが面白かったのか、ケイリが含み笑いをしながら種明かしをした。

「あれだけ勢いよくぶつかったらどういう状態になるか分かりますから、喫茶店をやっているクラスから譲り受けてきたんですよ。舞台袖は本来、関係者以外立ち入り禁止なんですが……まあ、その辺りは大目に見てもらうということで」
「うむぅ……まあ、ケイリのすることに驚くのはいつものことだけどさ」


 そう云えば今日はケイリに会ったの、これが初めてだ。これもいつもの星の導きってやつかな?
 あ〜、ひんやりちべたい。さっきの妙な熱も一気に冷えていく。うん大丈夫だ、あれはお芝居での出来事、気にしちゃいけない。

「それにしても、さっきのキスシーンは凄かったですね。衝撃で二人の頭が弾かれるぐらいなんて……いや、情熱的です」
「「ぶっ!!」」


 ケイリ〜! あんた絶対わざとでしょう!
 あたしと千早が同じタイミングで吹き出したのが面白かったのか、ケイリはクスクスと笑いながら出口へと歩いていく。

「ああ、そうそう」
「……まだ何か有るの?」
「さっきの光ですが、あれはキスシーンを隠す為の演出……みたいに思われているみたいですよ」
「えっ……?」


 ケイリは云いたいことだけ云うと、そのまま出ていってしまった。あたしと千早は思わず顔を見合わせて、そのまま視線を上へと向ける。まだ気を失ったままの千歳は、風も無いのにふらふらと揺れ動いていた。





「終わったぁ!!」
「みんな、お疲れ様〜!」


 あたしの声に合わせるように初音が大きく手を上げて、演劇スタッフが一斉に万歳をした。客観的に見れば大きなトラブルも無く舞台は無事に終わり、万歳をしたみんなは三々五々と散って後始末に取り掛かる。大道具などは舞台袖に寄せるだけで、本格的な後片付けは後日だけど。

「初音、私たちは先に着替えてきても良いかしら?」
「うん。沙世ちゃんはドレスで大変だもんね」
「ありがと。早めに戻ってきて交代するから」


 衣装のままで撤収の指示を出している初音に頭を下げて、あたしと千早、そして沙世子さんは更衣室に向かう。
 ぷかぷか浮いていた千歳は今は千早の腕の中。千歳に触れるのは千早だけなので当然だけど、千歳が見えない人からすると、腕を中途半端に組んで歩いているように見えるだろう。
 更衣室に入って鍵を閉めると、あたしたちは誰ともなく大きな溜め息を吐いた。

「……何とか、なったわね」
「一時はどうなることかと思ったわ」
「……疲れました」


 千歳を抱えたままの千早が、開きっぱなしのパイプ椅子に腰を下ろした。いきなりの代役だ、疲れるのも当然だよね。

「千早さんが台詞を確り覚えていてくれて助かったわ。……ちょっと恥ずかしかったけど」
「あれは、そのう……すいません」


 沙世子さんが云ってるのは、最後の大立ち回りの後でダルタニャンがミレディーの髪を切るところ。倒れたミレディーを正面から抱きかかえるようにして、首の後ろに手を回して髪を切る(ウィッグを取る)ので、ぶっちゃけて云うともの凄く密着するのだ。
 あたしは舞台袖で見ていたけど、千早が張り倒されるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。あたし自身も最後のシーンでダルタニャンと抱き合うシーンがあるので、色々とパニックになりそうだったけど……。

「千歳、まだ起きないのかな?」
「どうでしょう。色々と疲れが出たのかもしれません」
「まあそうでしょうね。エルダーのお姉さまとして、彼方此方回っていたみたいだし」
「あたしがフェンシング部に出ずっぱりだった所為で、そっちは任せちゃったからなあ」


 絶対と云うわけじゃないけれど、エルダーは各クラスの出し物を一通り目を通さなきゃいけないからね。どのクラスでも、エルダーが来てくれるのを楽しみにしてるから。

「取り合えず一番の山場は越えたんだし、後はあたしたちに任せて、千早は千歳を連れて先に寮に戻っていなよ。これ以上妙なトラブルがあっても困るしさ」
「……そうですね。お言葉に甘えます」


 うんうん、素直に頷いておくが良いさ。こんなこと云っちゃなんだけど、これ以上の心労はあたしも遠慮したいのだ。それに、なんか千早の唇がどんどん腫れていってるし。

「千早、唇は大丈夫? さっきより腫れてるよ」
「……薫子さんもですよ」


 あ、そうなのか。確かにちょっと熱っぽさを感じてたからな。あれっぽちのアイシングじゃそれほど効果もないだろうし、当たり前と云えば当たり前だけど。
 自分の唇を指で撫でる……うお、痛い。これは御飯を食べる時とか大変そうだなぁ。ふう、憂鬱だ……。
 ……ん? 何で二人ともあたしを見てるの? こそこそと何かを呟いてるけど。

「どうかしたの?」
「……薫子さんが気が付いてないならいいのよ」


 ……? よく分からん。沙世子さんは軽く咳払いをすると、わざとらしく話題を変えた。

「そう云えば、千早さんのお母さまたちも来ていたのよね? 凄い歓声だったけど」
「あ……ええ、まあ。母さんたちを探して引き取ってから、寮に行きますね」
「引き取るって……まあ、史ちゃんが心配していた理由は良く分かったけどさ」


 妙子さんは千歳と同じトラブルメイカーな匂いがするのだ。
 ここは一つ、創造祭を平穏に終わらせる為にも、千早には妙子さんたちをお任せするとしよう。

「さて、それじゃお互い忙しいんだし、ちゃっちゃと着替えて行動しようか」





 着替え終わったあたしたちは、初音の手伝いをする沙世子さんと分かれてから講堂を出た。
 あたしたちが出てくるのを待っていた女の子たちのプレゼント攻勢を捌きつつ、何とか千早を先導して人込みを抜ける。すると、少し離れた所に史ちゃんが立っているのが見えた。こちらに手を振っているところを見ると、あたしたちを待っていたんだろう。
 あたしたちが近付くと、史ちゃんは勢いよく頭を下げてきた。

「申し訳ございませんでした」
「い、いきなりどうしたの、史?」


 千早が戸惑いながら史ちゃんに尋ねる。どうも、演劇の間の妙子さんの行動に責任を感じているらしい。
 清花さんが隣に居れば無茶なことはしないと思っていたのに、結果的にはあたしたちの舞台だけじゃなく、他のお客さんたちに迷惑を掛けてしまった。自分が付いていればあんな事をさせなかったのに、と云うわけだ。

「いや、でも史ちゃんは来賓席に座れなかったんだから、仕方が無いじゃない?」
「いえ、奥様と清花さまを一般席の中央辺りに御案内して、撮影の間も目を離さないようにしておけば……」
「ああ、史、もう良いから。過ぎたことだよ。……それより、母さんたちは今何処に居るの?」


 謝罪を途中で止められた史ちゃんはちょっとだけ眉を寄せて不満を表したけれど、結局は言葉を続けずに千早の質問に答えた。

「……は。奥様と清花さまは、まりやさまが寮へと御連れになりました。恐らく、今頃は御説教をしているのではないかと」
「そ、そう……」


 怒るぐらいなら最初から目を離さなければ良いのにな……。まあ、云っても仕方が無い。まりやさんたちの気持ちだって分かるからね。あたしだって、もし親爺が創造祭に来たら同じように別行動をさせただろう。

「千早さま、こちらを。冷却剤です」
「史、用意してくれたんだ。ありがとう」


 考えに気を取られていると、史ちゃんが万能鞄の中から医療用のアイシングパッドと、口の中に含む為の氷を取り出した。用意の早さに驚いていると、史ちゃんはあたしにも氷を差し出してくる。

「口の中も冷やすと効果的です」
「あたしは千早ほど目立ってないから大丈夫じゃない?」
「薫子お姉さま、油断は禁物です。手を抜くと治りが遅くなります」
「う、うん」


 ズイズイっと氷を差し出してくる史ちゃん。さっきのプレゼント攻勢で両手が塞がっているあたしは、史ちゃんの勢いに負けて結構な大きさの氷を口に含んだ。

「ふひょ……お母さんたちが寮に居るのなら、探しにいく手間が省けたじゃない」

 むぅ、喋り難い……。冷たくて口の中が痺れそうだ。

「そうでふね……僕はこのまま寮に戻ります」
「薫子お姉さま、荷物はお預かりします」
「あ、そう? お願い」


 これからエルダーの務めを果たしに行かないといけないから、史ちゃんの言葉に甘えることにした。これで、色々と渡そうとしてくる子たちをがっかりさせないで済む。
 寮に戻っていく千早たちを見送ってから、あたしは再び校舎へと足を進めた。
 ……演劇の後でお腹が空いてるから、色々と食べる心算だったんだけど……この氷、簡単に溶けそうにないなあ。みんなの前でお腹が鳴ったりしなきゃいいけど……。




**********

 お母さん’sとまりや&貴子が目立たないのは仕様です。
 まあ、あまり表に出てきては薫子たちの出番が減るのも有りますが、今回の話でのお母さん’sはトラブルを起こす為の舞台装置なのです。
 史が居ない&清花は天然さんで妙子を止めない、その為に妙子が突拍子も無い事をして演劇にトラブルが起こる……と云う流れです。

 あ、あと「三銃士」をラブロマンスにするのって無理が有るんじゃ? と思ってる人は鋭い。
 二次創作の僅かな部分の為に、脚本を書き起こすとか無理です。なのでかなり適当です。

 次回はホントにエピローグ。

**********

「唇に指を当ててアンニュイな溜め息とか……薫子さん、意外とああいうのも様になるのね……」
「……それはまあ、ヒロインですし」
「(……? 千早さん、貴方まさか……そういうこと?)」

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
まずは報告から。

・どうやらこっそりと持ってきたらしい→どうやらこっそりと持ってきていたらしい(今持ってきた…みたいに感じたので)
・「はい、千歳お姉さまも」→「はい、千歳も」(ケイリからは敬称略だったと思うので…略すとちょっと違和感がないでもないですが)
・結局は言葉を続けすに千早の質問に答えた→結局は言葉を続けずに千早の質問に答えた
・「ふひょ……お母さんたちが寮に居るのなら、探しにいく手間が省けたじゃない」→台詞の色が黒のまま
・「そうでふね……僕はこのまま寮に戻ります」
「薫子お姉さま、荷物はお預かりします」
「あ、そう? お願い」→台詞の色が黒のまま


今まで触れてませんでしたが…声援(やじ?w)が過激ですね(笑)
でも興奮したらそれくらい言うんでしょうかね…恋は盲目と言いますし!(ちょっと違うか)

唇が腫れて気にするのが食事のことなんて…薫子らしくてニヤリとさせられました。
時間が経ってるので改めて思いましたが、やはり薫子視点は良いですね。

それではまた次のコメントします。
Leon
2013/01/20 12:35
Leonさん、こんばんは。
誤字修正致しました。いつもありがとうございます。
>ケイリの台詞
これはこっちの手違いと言うか……ここでのケイリは千歳が千早に入れ替わっていることを理解していて「お姉さま」とわざと言っていると思ってください。台詞を強調表示しておきます。

一記事辺りの文字数がかなりギリギリなので、本編内の台詞を色付けすると同時に最後の文章の色を消しました。HTMLタグの文字数が結構多いのです……。

>過激
ゲーム内の演劇練習時もアレでしたからね(笑)きっと内心ではみんな「これよ、これが見たかったのよ!」だと思います。
>薫子の食欲
このお話の中では前回でお昼を食べてますが、ゲームでは昼食の描写が無いんですよね。演劇はいったい何時ごろに行われたのか……ともかく、薫子ならこういう状況でもお腹が空くだろうということで(笑)

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2013/01/22 22:29
妃宮さんの中の人 7-6 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
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