A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 9-5

<<   作成日時 : 2012/11/19 23:43   >>

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 パーティー前の色々な話。

 ほのぼの(?)日常系。

**********



 あたしたちはのんびりと星空を眺めながら、賑やかになり過ぎない程度で楽しい時を過ごした。まあ、途中でお茶のお代わりとかトイレとか――寮まで一々戻らなくちゃいけない――色々と問題は有ったけれど、概ね満足出来る流星鑑賞だったと思う。
 途中で初音と優雨ちゃんが眠気でフラフラになり、徹夜で過ごすと体調を崩すだろうということで、未明の内に寮へと戻って一眠りすることになった。
 ケイリは夜明かしする気満々だったけれど、結局は寮に戻って、いつも通りあたしの部屋で寝ることになった。

「ふあ……こんな時間まで起きてたのは久しぶりだよ……」

 気になってる漫画を一気に読んじゃったりとか、最近はそういうことも全然しなくなったからなぁ。以前はお姉さまに起こして貰っていたので、安心して(?)夜更かしできていたんだけど、史ちゃんは千歳の世話も有るので面倒を掛け過ぎるのも良くないしね。
 ……誰だ、そんなの当たり前だろうとか云ってるのは?

「薫子? どうかしたのかい?」
「え? いやいや何でも無いよ。さ、早くベッドに入ろう。目を開けてるのが辛くなってきた」
「……私は慣れている心算だったけど……ふぁ……ベッドに入ると流石に……」


 ありゃ、ケイリが欠伸しているのなんて始めて見たよ。いつも飄々としているケイリだけど、そういう隙を見せることって無かったのに。

「ケイリは……楽しかった?」
「ええ、想像以上に。薫子はどうでしたか?」
「勿論、楽しかったよ」


 あたしにとっても想像以上の楽しさだったし、じっと星空を見ているだけでも退屈しなかったのは、きっとみんなが傍に居たからだろう。
 何で今の時期に星を見たいなんて云ってきたのか、ケイリの考えを聞いてみたいところだけど。まあ、ケイリのことだから『全部知ってました』なんて云ったとしても今更驚いたりしないしなぁ。

「……もう寝るよ……お休み……」

 寮母さんに無理云って、朝御飯を遅らせてもらったんだし……寝過ごさなきゃ良いけどなあ……。

「お休み、薫子」

 枕の位置を直して頭を沈めると、あっという間に意識が遠くなっていく……。
 ……
 ……
 ……







 翌日。朝はみんなが眠そうにしていたけれど、ケイリが帰る頃にはすっかり元気を取り戻していた。来年は私も寮に入ろうかな、なんて冗談を云うケイリを見送った後、あたしたちは食堂に戻って一息吐いていた。

「みんなは、今日は何か用事は有りますか?」
「は〜い、私はクリスマスのプレゼントを買いに行きま〜す」


 初音が何気無く振った話題に飛び付いたのは千歳だった。そう云えば、そろそろプレゼントを買いに行かないと時間が無くなっちゃうな。

「千歳は何時頃に買いものに行くの? あたしも行きたいんだけど、時間が被っちゃうと……」

 千歳の家でパーティーをすることになった後、どうせならば定番のプレゼント交換でもしようかってことになったので、他のみんなに見付からないようにこっそりと買いに行かなきゃいけなくなったのだ。プレゼントの中身が分かっちゃうと、やっぱり楽しさは半減してしまうからね。

「あ、大丈夫だよ。私はお家の近くでお母さんと一緒に色々と買いものするから」
「そっか。それじゃ、あたしはお昼を食べてから行くよ」




 さて、そう云う訳でプレゼントを買いに駅前まで出てきたんだけど。
 いつも思うことだけれど、あたしってばこう云うのを考えるのに向いて無いのよね。どんなものなら喜んでくれるのか、どんなものだと駄目なのか……そもそも、プレゼントを買うってこと自体が殆ど無いんだもの。
 お姉さまの合格祝いには無難にペンを贈ったけれど、初音や香織理さんと相談してみんなで文房具を贈ろうってことになったから決められたんだもんなぁ。プレゼント交換をするんだから他の人に相談すると面白みが無くなっちゃうし、どうしたものか。
 まあ、今はクリスマスシーズンと云う事でデパートでも専用の売り場が有るんだし、とりあえずはそこに行ってみますかね。

「うわ、やっぱり人が多いなぁ」

 商店街を抜けて駅前にドンと建っているデパートに入ると、ジングルベルのテーマソングが聞こえてくる。あちらこちらにキラキラとした星やクリスマスモールが飾られていて、いかにもそれっぽい感じだ。目当ての雑貨は三階で売られているので、エスカレーターで上へと向かう。

「右良し、左良し。今の内にっ……と」

 女の子向けの可愛い雑貨屋さんをちらりと見て、中に見知った顔が無いのを確認してから売り場へと入った。
 以前に聖應の生徒と会った時は、あたしの買ったボールペンとお揃いにしようとした子たちによって、商品が品切れになるということが有ったんだよね。ああいうことにならないように気を付けないといけない。まあ、あたしが知らなくても相手が知っていることはあるので、気休め程度ではあるのだけれど。
 さて、どうするかな? バランスを考えると高いものは買えないし、あんまり大きなものも持ち運びが不便なので駄目だ。食べもの関係もちょっとなあ……。
 長く使えるものとかはどうだろう。でも、それが千歳に当たったりするとちょっと可哀そうかもしれない。予算は少ないけど千歳用に買うのも有りか。でもそうなると、千早にも何か買ってあげたくなるしな。な、何と云っても告白されちゃった訳だしね……ふへへ。

「……おっ? これは中々」

 ふと目に留まったのは、透明なプラスチックの中に入っている、小さな花瓶に挿された綺麗な百合の模型だった。何でこんなものがと思ったら、どうやらこれは花瓶も含めて全部が飴細工になっているみたいだ。
 正直、舐めるのがもったいないような気もしてしまうけど……賞味期限は三カ月か。飾っておいても十分楽しめるけど、やっぱり最後は美味しく頂けるのが良いよね。

「どうかなさいましたか〜?」

 手に持ってひっくり返したりしながら眺めていると、女の店員さんが声を掛けてきた。

「ああ、えっと……これって、賞味期限が切れても食べられます?」

 妙な質問だったのか、一瞬きょとんとしたその店員さん(ちょっと可愛かった)は、やがてくすくすと笑いながら教えてくれた。どうも、コストの関係でプラスチックの箱に入っているから長持ちしないだけで、乾燥材を入れて密閉しておけば二年くらいは持つらしい。ただし湿気が入ると黴が生えるから気を付けて、だそうな。
 密閉して見えなくなるのは面白くないけど、透明なガラス瓶に入れておけば楽しめるかもしれない。ちょっと変則的だけど、こう云うもので自作するのも悪くないかも。ビンの中身が百合一輪だと寂しいから、こっちの綺麗な金平糖を混ぜて……うむ、いけるな。
 買いもの籠に商品を入れて、次は千歳と千早の為のプレゼントだ。

「千早とペアで揃えるべきか……それとも別々にするべきか……」

 あたしと千早でペアのものを買ったりすると、千歳が仲間外れだ〜って文句を云うかも知れないし、だからと云って三人で揃えたとしても、千歳が使えるのは実質一日しかない訳だし。
 ……あぅ、千歳のことを考えると落ち込んできた。情緒不安定だなあ、あたしってば……。



 そうやって売り場をウロウロすること暫し。これといったものを見付けられないでいると、不意に後ろから声が掛けられた。

「……あの、薫子お姉さまではございませんか?」

 ヤバイ、この云い方は聖應の生徒だ……とは思ったものの、流石に此処で逃げ出すことは出来ないので恐る恐る振り向いてみると、見知った二人の姿が有った。

「雅楽乃さん、淡雪さんも……こんな所で珍しいね」
「お久しぶりです、薫子お姉さま」


 軽く会釈してくる二人に手を上げて答える。休日なのに制服を着ているところを見ると、どうやら学院に行った帰りのようだ。この二人なら騒動になることもないだろうと思って少しだけホッとする。

「二人とも、買いもの?」
「はい。実はこの12日が雪ちゃんの誕生日だったのですが、教えてくれなかったものでして。それで今から心ばかりのお祝いをと」
「えっ、そうなの? 何だ、云ってくれればあたしもお祝いしたのに」
「え、や、そんな……特に云う程のことじゃ有りませんし、なんかおねだりするみたいですから……」


 照れながら、ばつが悪そうに頭を掻いて苦笑する淡雪さん。そんな水臭いことを云わなくても良いのに。淡雪さんはケイリと一緒で、なんだかんだで色々と係わってるしね。

「クリスマスから誕生日の話題になって、そこからつい口を滑らせちゃって……御前に怒られて、ここまで引っ張られて来ちゃいました」
「まあ、それでは私が悪いみたいではないですか。……薫子お姉さまもお買いものですか?」
「うん。クリスマスのパーティー用」


 この二人も相変わらずだなんて思いながら見ていると、雅楽乃さんの目があたしの持っている買いもの籠に注がれた。別に隠すことでもないので、あたしは籠の中身を二人にも見せる。

「あれ、買うものが決まらずに悩んでいるんじゃなかったんですか?」
「うっ……見てたの?」


 籠の中身を見た淡雪さんが首を傾げた。うわ、つまり二人ともあたしがウロウロしてるのを見てたのか……まいったなあ。あたしは照れ隠しをするように、千歳の家でクリスマスパーティーをすることやプレゼント交換をすることを話した。

「そうだったのですか。私の家ではクリスマスのお祝いなどは有りませんので、少しばかり羨ましく思います」
「えっ!? 雅楽乃さんの家は、クリスマスとか無いの?」
「はい。私の家は『古い』ものでして」


 古い、に少しのアクセントを付ける雅楽乃さん。淡雪さんが苦い顔をしていたところを見ると、何か簡単じゃない事情が有るんだろう。あたしはそれを見ないふりをして、二人にアドバイスを求めることにした。

「交換用のプレゼントは決めたんだけどさ。個人に贈る用はどうしたものかと悩んでてね。……二人は何かこれと云ったものは無いかな? 知恵を貸してくれると助かるんだけど」
「えっ、私たちがですか?」
「まあ、これは責任重大ですよ、雪ちゃん」


 ぐっと胸の前で拳を握る雅楽乃さん。そこまで気合を入れなくても良いんだけど……お二人さんだって淡雪さんのお祝いを何か買いに来たんでしょうに。

「それで、薫子お姉さまはどのようなものをお探しでしょうか?」
「あ〜、え〜と……実用性の有るもので、思い出に残りそうなもの、かな」
「思い出ですか。難しいですね〜」


 抽象的な云い方になっちゃうけれど、やっぱりそういうものが一番だと思うんだ。千歳が持っていけなくても、覚えておけるようなもの。千歳が持っていけるものは……思い出だけなんだから。

「……お姉さま?」
「えっ? あ、いや、何でもないよ」


 やばっ、ちょっとしんみりして涙が出ちゃった。淡雪さんは品物を見繕いに行ったけれど、残っていた雅楽乃さんにはばっちり見られちゃったよ。慌てて目を擦ったけれど、却って変に思われちゃったみたいで、雅楽乃さんがじっと見詰めてくる。

「え、え〜っと……」
「……想われているのですね」


 適当な誤魔化しを口にしようとした矢先、雅楽乃さんに思いがけない一言を云われた。思われて……想われて? えっ、それって……。

「千歳お姉さまのこと、とてもお慕いしているのですね」
「えっ? ……ふえっ!?」


 あ……ううっ……! やばっ、きっと顔が赤くなってる!
 雅楽乃さんってこんなこと云う人だったっけ? 淡雪さんほど付き合いが有るわけじゃないけれど、みんなの相談役でとっても良い子だってのは知ってる。
 それが……不意打ちでこんなのは卑怯だよ!

「申し訳有りません。つい、羨ましくなってしまいまして」
「あ、謝られてもなあ……何、そんなにあたしって分かりやすい?」
「いいえ……ただ、私のところに相談しに来た、恋する乙女と同じお顔でしたので」


 何じゃそりゃ、雅楽乃さんってば恋の相談もしてるの!? ……いやいやそうじゃない、あたしが恋する乙女の顔って……嘘でしょ。ち、千早と千歳、二人への感情がごっちゃになってるから変に見えるだけだよね。そりゃ確かに二人とも好きだけどさ!
 あたしが落ち着こうと深呼吸をしている姿を見て、雅楽乃さんがそっと笑っている。まるであたしの方が年下みたいじゃないか。恥ずかしいなあ……。

「薫子お姉さま、これなんてどうですか? ……どうしました?」
「な、何でもないよっ」


 赤くなっているであろう顔を振って冷ましながら、戻って来た淡雪さんの方へと振り返る。
 淡雪さんがあたしに差し出したのは、可愛い感じの写真立てだった。ピンク色のフレームはいかにも女の子らしい感じで、アクセント用なのか小さなシールが付属している。写真を挟む透明なプラスチック板に貼り付けて、普通の写真をプリクラみたいに飾れるらしい。

「パーティーをすると云うのなら、そこで撮った写真を入れておけるじゃないですか。最近はデジタルデータで残すのが殆どですけど、こういうのも捨て難いですよね」

 なるほど。最近は携帯電話を使って写真を撮るだけだし、昔ながらの写真立てとかは見なくなったもんな。確かにこれなら実用的で思い出にもなる……けど。う〜ん……。

「あれ、ちょっと物足りませんでした?」
「いや、そんなことは無いんだけど……その、ゴメン。云い忘れてたけど、相手は男の子と女の子の二人なんだ」
「え……あ〜、それじゃピンクはちょっと拙いかもしれませんね」


 千早にピンクのフレームは……似合うかもしれないけど、やっぱりもう少し男の子っぽい方が良いだろう。それに二人には云えないけれど、千歳が直ぐに使えないことには変わりない――

「――いや、そうでもないか」
「えっ? 何か云いましたか?」


 淡雪さんの問い掛けに手を振りながら、あたしは周囲を見回して……有った。とりあえずこれを三つ、買うことにしよう。







 終業式前日の24日は、午前中を授業、午後から学院の大掃除になっている。
 冬休み直前なのに昨日は祝日でお休みという飛び石連休だったうえ、おとといの月曜日には期末試験の結果も返ってきたので、みんなすっかり休み気分になっているのも仕方の無いことだろう。
 斯く云うあたしも、教室でお弁当を食べた後は腕を枕にして眠気と戦っていた。昨夜は陽向ちゃんが実家から持ち込んだゲーム機でパーティーゲームをしていて、それで夜遅くまで盛り上がっていたのだ。寮内では滅多に見ないTVゲームだったし、陽向ちゃんが『簡単に終わったら面白くない』と云うので99年プレイを始めてしまったものだから、結局はみんな途中で脱落することになったけど……。
 うつらうつらとしながら時間を過ごしていると、チャイムの音と共にスピーカーから初音の声が聞こえてきた。

「みなさん、大掃除の時間になりました。事前の指示に従い、掃除を始めて下さい。なお、時間は――」

 大掃除も有る意味では学院行事なんだけど、わざわざ初音がアナウンスする必要は無いんじゃないかなあと思いつつ。

「ふわぁ……さて、それじゃ掃除してきますかね」
「薫子ちゃん、まだ眠いんじゃない?」
「平気平気、さ、行くよ」


 グッと伸びをしてから、千歳を伴って教室を出る。あたしたちが担当する場所は科学実験室だ。教室に残ってると他の人たちの邪魔になるし、廊下だって直ぐに掃除が始まるからさっさと移動しないといけない。場所を移動する何人かと共に廊下に出ると、気の早い人が窓を開けて換気を始めていた。

「うおお……寒い……」

 当然のことながら、大掃除の最中は暖房は切られている。元々廊下は暖房の恩恵が少ないので、あっという間に空気が冷えてしまっていた。

「薫子さんはまだマシよ? 私は屋外の掃除なんですから……」
「こよりちゃん、風邪引かないでね〜」


 ぶつくさ云いながら階段を下りていくのは、校舎周りの屋外を担当するこよりさん。でも、屋外を担当する人は防寒着を着ることが出来るから、暖房が入ってない教室よりも暖かいんじゃないかって気もするんだけどね。
 ちなみに科学実験室をはじめとする特別教室は、使われていない時は暖房が切られている。たった今暖房を切られた教室とは違い、既に空気は冷え切っているだろう。

「う〜……情操教育の弊害だ〜……」
「人の教室の前で、何を馬鹿なことを云っているの?」
「あ、沙世子ちゃん」


 寒さを誤魔化す為に腕を擦りながら歩いていると、廊下に出てきた沙世子さんに睨まれてしまった。
 聖應は私立校だけど生徒に掃除を任せている。専門の業者も雇っているけれど、頻度は月に一回くらいだ。予算が無いとかそういうことじゃなくて、自分が使うものは自分で綺麗にしましょうと云うことらしい。

「どうせ、この間TVで見た『学校掃除不要論』とかの影響でしょう? どんな理由を付けたって、めんどくさいからって結論になるんだから。さっさと掃除して、嫌なことは早く済ませなさいよ」
「むう……」
「あはは、薫子ちゃん、ひょっとこみたいだよ」
「うっさい」
「むにゅっ……」


 口を尖らせたら千歳が笑ったので、お返しに千歳の顔を両手で挟み、物理的にひょっとこ顔にしてやった。

「ほら、じゃれあってないの。邪魔だからさっさと移動する!」
「は〜い」
「沙世子ちゃんも頑張ってね」
「パーティーに支障がないように、お互いに手早く終わらせましょ」


 去り際に耳元で囁いた沙世子さんは、生徒会室の方へと歩いて行った。



 聖應の特別教室は、全クラスの持ち回りで、一クラスの四人が適当に選ばれて掃除をすることになっている。特別教室は貴重品などが多いので、掃除と云っても埃を叩いて床を掃くくらいしかすることが無いのだ。
 それは大掃除の場合でも特に変わることは無い。ちょっと違うのは、いつもなら一クラス分の四人で掃除をするところを、三学年分の十二人で掃除をするってことぐらいだ。
 あたしたちが化学実験室に着いたときには、みんなは既に掃除を始めていた。

「ごめ〜ん、ちょっと遅くなっ――」
「あっ! 本当にお姉さま方がいらっしゃったわ!」
「きゃーっ!!」


 うわっ!? 何々!?
 扉を開けた状態で固まっていると、歓声を上げた下級生の子たちの間から、クラスメイトの二人が苦笑しながら現れた。クラスではあたしの両隣で、科学実験室担当の残り二人……国見彩子さんと藤城真理さんだ。

「ゴメンなさい、二人とも。掃除に対するモチベーションを上げる為に、二人がここの掃除担当だって話したら……」

 ああ、そう云うことか。何事かと思ったよ。やる気が有るのは良いことだけど、変な方向に頑張るのは止めてもらいたいんだけどな。

「お姉さま方と一緒に掃除が出来るなんて……今年の最後に良い思い出が出来ましたわ」
「あはは……思い出作りも構わないけれど、早く掃除しちゃいましょ。窓開けっ放しじゃ寒いでしょ?」
「あっ、はい。分かりました」


 やれやれ。……とは云え、あまり遣ることは無い訳だが。

「さて、あたしは何を遣りましょうかね」
「薫子さん、こちらを」
「ん?」


 真理さんが差し出してきたのは毛はたきだった。これで高いところの埃を落とせと云うのだろう。

「……ま、分かってたけどね」
「薫子さんの背を生かすなら、やはり高いところを担当して頂かないと。千歳さんはこちらを」
「は〜い」


 彩子さんは千歳にガラス拭きを差し出した。これは別に窓ガラスを拭くのではなく、様々な道具が収められた棚のガラス戸を拭くと云うことだろう。ちなみに窓ガラスは、以前に窓枠から落ちかけた生徒が居ると云うことで、完全に業者任せになっている。

「薫子さん、マスクも忘れないで下さいね」
「あ、サンキュ」


 落とした埃を吸い込むのも嫌なので、素直にマスクを受け取って装着する。お〜、口元だけでも温かいぞ。あたしはちょっとだけ得した気分になりながら、棚の前に移動させた椅子に足を掛けた……。



 埃を落として床掃除も終わり。埃が舞い上がらなくなってから窓を閉めて。そして最後に実験室特有の黒いテーブルを磨き上げて、掃除は全て完了した。

「ふう、こんなもんかな」

 キラッと光る机にはあたしの顔が映りこんでいる。黒いテーブルだけあって埃が落ちていると結構目立つけど、見た限りでは大丈夫そうだ。

「どれどれ〜……むむっ、これは!?」
「だから落ちてないっつーの。漫画の読み過ぎでしょ」


 人差し指を立てた千歳がテーブルの上をツーッと滑らせていたので、あたしは千歳の後ろに回って頭を抱えてやった。キャーと嬉しそうに笑う千歳を見て、みんなが苦笑しているのが分かる。

「ちょっと時間は余ってますけれど、そろそろ終わりにしましょうか」
「そうだね。みんな、ご苦労様」
「お姉さま方こそ、お疲れ様でした」


 お互いに軽く頭を下げ合って労をねぎらう。初音なんかが逆に使うことも有るけれど、ここは普通にご苦労様で良いだろう。

「あ、あの……お姉さま」
「ん?」


 掃除用具を片付けて科学実験室を出ようとすると、下級生の子が一人、モジモジしながら近付いてきた。正直な話、そういう態度をする子が云うことは大体分かるんだけど、こっちから切り出すと可哀想なので、云い出すまで待つことにする。

「あ、あのっ……明日のダンスパーティー、私と踊って下さいませんか!」

 あ〜……やっぱりか。TVドラマで見るの告白のように、頭を下げながら手を差し出してくる女の子。真理さんや彩子さんがニヤニヤしてるのを感じながら、あたしはどうしたものかとちょっと考えて……その女の子の手を取った。
 嬉しそうに顔を上げてくる女の子に申し訳ないなと思いながら、一人だけを贔屓出来ない立場として、そっと諭すように返事をする。

「勇気を出して誘ってくれて有難う。でも、申し訳無いんだけれど、ここで約束は出来ないんだ」
「えっ……」
「でも、ここで勇気を出せたのなら、明日もきっと大丈夫だから。明日、改めて誘ってくれるかな? ちゃんと顔を覚えたから、その時はもう一度この手を取ってあげる」
「……っ! は、はい! お願いします!」


 この世の終わりみたいな顔が一転して、嬉しそうな顔に変わる。持ち上げて落としたり、更にまた持ち上げたりと色々忙しいけれど、あたしが云っているのは結局のところ『明日にしなさい』なんだけどね。
 みんなと一緒に教室に戻ろうと廊下に踏み出した後、あたしはふと良い忘れたことを思い出して教室の中に顔を戻した。

「ああ、そうそう。云い忘れてた」
「は、はい、何でしょう?」
「誘うのなら、あたしの靴が擦り切れるまでに来るようにね。迷ってちゃ駄目だよ?」


 サービスにウインクを付けてから化学実験室の扉を閉める。直後、扉の向こうから歓声が上がった。……サービスし過ぎたかな?
 ふと気が付くと、千歳があたしの隣でぶーたれていた。

「も〜、薫子ちゃんは気障なんだから……」
「あらあら? 薫子さん、どうしますか。千歳さんが拗ねていらっしゃるわよ?」
「駄目よ薫子さん、浮気をしては」
「ちょっ……勘弁してよ二人とも」


 茶化してくる真理さんと彩子さんに両手を上げて降参しながら、ぷりぷり怒って歩いていった千歳の背中を追う。や〜れやれ、パーティーが始まる前に宥めないとな〜。







 おまけ







 四人揃って教室に戻ると、どうやら教室の掃除も終わっているようだった。綺麗に机が並べられ、道具も片付いている。……けど、何故かみんなが教室の前の壁近くに集まっていた。首を傾げたあたしたちは、とりあえずみんなの所へと移動する。

「何してるの?」
「あ、薫子さん。壁の染み抜きです」
「……はい?」


 壁の染み抜き? どうもみんなの中心に居るのは聖さんのようだ。しゃがみ込んでいるので見えなかったけれど、茉清さんと一緒に壁の掃除をしていたらしい。

「――ですから、こういう壁の場合はメラミンスポンジで擦れば綺麗になるんですよ。水で落とせるのでお勧めですけれど、消しゴムみたいに滓が出るので注意です」
「へえ……便利だね」


 水を沁みこませたスポンジで壁を擦る聖さん。誰かの足がぶつかったのか、壁に残っていた擦り傷のような跡が綺麗に白くなっていく。

「はい、綺麗になりました」

 おお〜、とみんなが声を上げて、中心に居た聖さんは照れながら腰を上げた。

「流石は聖さん。家事を任されているだけのことは有るね」
「へ〜、おさんどん少女は掃除も得意なんだ。聖ちゃんは凄いね!」
「はうっ……千歳さん、その呼び名は止めて下さい……」


 あっ、聖さんがショックを受けてる。千歳ってば、おさんどん少女は可哀想だろうに。そりゃ確かに、家事一切を引き受けて弟たちの面倒も見ているとか云ってたけど、それじゃ所帯染みてるとか云ってるようなものだ。

「う〜ん、それじゃお母さん代理とか?」
「そ、それも微妙です……」


 初音もお母さんっぽいとか云われるのは微妙に嫌がってるし、お母さんが好きなのとお母さんっぽいと云われるのは別のことなんだぞ?
 暫く考えていた千歳は、ポンと手を打ってから自信満々に云った。

「良し! それじゃこう云うのはどうかな。聖☆お姉さん!



「……千歳さん、それは色々な意味で駄目だと思います……」










**********

 読み方は、「せいんと☆おねえさん」ですw


 次回はクリスマスパーティーの話。
 薫子が何を買ったのか……まあ、既にバレバレかもしれませんが。




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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
薫子さん、大変です。
薫子さんの「男の子と女の子にプレゼントをあげたい」と言う台詞を他の聖應の生徒に聞かれていたみたいで薫子さんに男の子と女の子の子供がいると言う噂が・・・

と言うのは嘘ですが、「実用性のある物を男の子にプレゼントしたい」と言うことから、うたちゃんとゆきちゃんには「少なくともプレゼントをあげたいと想う男性がいる」または「彼氏がいる」と思われたかもしれませんよ。(笑)

それと言い間違い(誤字)ですよ。
「良い忘れてた」ではなく「云い忘れてた」ではないでしょうか。
ナカユウ
2012/11/23 15:05
ナカユウさん、こんばんは。
誤字、修正致しました。

>彼氏がいる
その辺りの顛末は、EXにて。
最終話は二年生組の影がどうしても薄くなるので、最後に補完致します。
千歳(実際は千早)を慕っている淡雪さんは? と云う話。
……ピンポイントでここを指摘されてちょっとビックリですがw

では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2012/11/23 21:33
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