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zoom RSS 妃宮さんの中の人 9-6

<<   作成日時 : 2012/11/27 21:41   >>

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 プレゼントを選ぶのって難しいよね?

 沙世子が何をプレゼントするかなんて分からないってーの。 

**********



 ガタンゴトンと電車に揺られ、やって来ました千歳の地元。前に来たときは昼間だったけれど、やっぱり夜になると雰囲気が変わるよね。まあ、それは今日がクリスマスイブだからってのも関係するんだろうけれど。
 改札を出て駅前を歩いていると、どこからともなく視線を感じる……あ、あそこの男共、こっちを見てなんか話してるよ。ナンパかな? いくらこっちが女だけだからと云って、三人で八人に声を掛けようとするかね?

「千歳さん、家まではどれくらいなの?」
「歩けば三十分くらいだけど、今日は迎えが来てるから大丈夫だよ。みんな、こっちこっち」


 沙世子さんの質問に笑って答えた千歳が歩いて行くのは、駅前ロータリーの端に停車している黒いBOXタイプの車だった。近付いてみると、あたしでも知ってるような有名なエンブレムの付いた高級そうな車で、10人は楽に乗れそうな大きさだ。
 驚いているあたしたちを余所に、千歳は運転席の方に近付いていって手を上げる。それに答えるように出てきたのは、真っ白の髪を後ろに流した初老の男性だった。

「みなさまの送迎を仰せつかりました、西岡と申します。本日は宜しくお願いします」
「あっ、は、はい。こちらこそお願いしますっ」


 運転手さんの丁寧な挨拶に、みんなの取り纏め役になっている初音が慌てて頭を下げる。……西岡? どこかで聞いたような……。
 あたしが首を捻っている間に、西岡さんは後部座席の扉を開けてみんなを車内へと促した。丁寧な対応に戸惑いながらも車に乗って、おっかなびっくりシートに座る。

「千歳……大丈夫なの?」
「心配無いよ。お母さんが清花伯母さんに頼んで車を出してもらったんだって」


 いや、あたしが心配しているのは車の出処では無くて、こんな高そうな車に乗って良いのかってところなんですが?

「お嬢様方、御心配なさらずに。見た目は小奇麗ですが、実際は随分と古い車ですから」

 運転席に戻った西岡さんが笑いながら云う。取り合えず、あんまり緊張しないでも大丈夫そうだ。ほっと息を吐いてシートに体重を掛ける。ふかふかだ……あたしの知ってる車のシートと違うぞ……。

「旅行に行ったときに乗った大型タクシーみたいです。どうせなら寮まで迎えに来て欲しかったですね〜」
「陽向……貴女、少しは遠慮なさい」
「こんな車が学院の前に来たら目立つでしょうね」


 聖應はお嬢様学校だけど、車で送り迎えしてもらっている人は案外少ない。あたしが知っている限りだとケイリぐらいのものだ。それだって普通の車で、漫画に出てくる「リムジーーーン!」な感じの長い車じゃない。この車みたいに黒くてごつくて大きな車は目立つだろう。だって特定の業種の人が乗る車みたいなんだもん。
 ……そう云えば、うちの親爺が乗っている車もこんな感じだった。だから色々と勘違いされるんだよなあ、親爺は顔も強面だしさあ……。

「帰りは乗せていってくれるんですか?」
「ええ、お帰りの際には学院までお送りいたしますよ。夜も遅い時間にお嬢様方だけで出歩くのはよろしくないので」


 あ、それは助かるかも。遠慮するのもどうかと思うし、お言葉に甘えようか。
 みんながシートベルトを締めたのを確認してから、西岡さんはゆっくりと車を発進させる。思ったよりも静かで揺れない。車酔いとかは大丈夫そうだ。

「あの……西岡さま、鏑木のお屋敷の方は大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、旦那さまと奥さまは海外に、瑞穂さまと貴子さまもスキー旅行にお出かけしておりますので。お屋敷の方も、今日は妻と何人かが残っているだけですよ」


 みんなが雑談したり窓の外を眺めたりしていると、助手席に座っていた史ちゃんが小さい声で西岡さんに尋ねるのが聞こえた。あたしは助手席のすぐ後ろに座っていたので辛うじて聞こえたけれど、西岡さんの答えにビックリしてしまった。瑞穂さんと貴子さんって……あの二人でしょ? ……あっ!

「思い出した、西岡さんって年越し蕎麦の人だ」
「おや、私のことをご存知で?」
「あたしはお姉さま……ええと、周防院奏の後輩でして」
「ああ、なるほど。あの可愛らしいお嬢さんの……」


 意外なことに、西岡さんもお姉さまのことは覚えいてたみたいだ。瑞穂さんが家に友だちを招くのは珍しいことだったから、記憶に残っていたんだそうな。
 意外な人の繋がりに話を咲かせながら、あたしたちは千歳の家まで送ってもらったのだった。



 車から降りて最初に思ったことは、やっぱり大きな家だなあってことだった。この家は元々妃宮家のもので、千歳の両親が結婚した時にお父さんの方が実家を出る形になったんだっけ? 苗字を変えただけで入り婿と殆ど同じだとか何とか……。
 あたしに続いて車から降りたみんなは、家を見て驚くのと驚かないので半々ぐらいだ。その反応でそれぞれの家に対する常識が分かって、結構面白かったりする。

「では、お帰りのときに参りますので」
「ご苦労様でした〜」


 千歳が手を振って西岡さんを見送る。どこまで帰るのか分からないけれど、クリスマスなのに有り難いことです。

「ねえ、どうせならパーティーに誘えばよかったんじゃないの?」
「女性だけの集まりに私が入るのは心苦しいから遠慮しますって、予め云われてたの。だからプレゼントだけ上げておいた」


 あ〜……そうなると、千早一人だけが男ってことになるのかな? いや、寮の中でだって同じ状況なんだし、今更な話か。
 そう云えば今まで聞いたことが無かったけれど、千早はやっぱり肩身が狭いとか思ってるんだろうか。……惚れたあたしが云うのもなんだけれど、千早がケダモノだったら大変だよね。

「……」
「薫子ちゃ〜ん? 何してるの、中に入るよ〜?」
「あ、うん!」


 イカンイカン、変な想像をしている場合じゃない。千歳に促されて、みんなの後から家の中へと入った。

「お母さん、ただいま〜」
「お帰りなさい千歳ちゃん!」
「わぷっ……」


 千歳が家の中に声を掛けると、その声を聞いて駆けて来た妙子さんがガバッと抱き付いた。何と云うか、やっぱりテンションの高い人だなあ。

「本日はお招き頂き有難うございます――」
「あらあら、今日は折角のパーティーなんですから、そんなに硬くならないで頂戴。ね?」
「は、はあ……それじゃあ、お邪魔します」


 みんなの代表として挨拶した初音だったけれど、妙子さんにあっさりと流されてしまった。その態度だけでもう、どれだけ楽しみにしてたか分かるってものだ。……あたしは「お母さん」とは縁が遠いけれど、妙子さんはきっと平均的なお母さんよりも過激だよね。
 そのまま妙子さんに連れられて応接間(?)に入ると、クリスマスツリーを始めとして部屋中か綺麗に飾りつけられていた。

「わぁ〜凄い! これ、お母さんがやったの!?」
「そうよ、お母さん頑張っちゃった!」


 笑いながら飾り付けの説明を始める妙子さん。ツリーが重かっただの、紙の鎖を作るのがどうだっただのと、云い方は悪いけれど子供みたいだ。
 飾り付けを眺めていた千歳がテーブルの方に視線を向ける。そこには既においしそうなオードブルが並んでいた。

「こっちの料理もお母さんが?」
「……ごめんねぇ、お母さんそっちは頑張れなかったの……」


 あ、落ち込んだ。いや、これだけの量のオードブルを個人で作るとか普通に無理だと思うんだけど……。って云うか、確か妙子さんは料理が駄目な人だって以前に聞いたような気がするんだけどな。

「奥さま、千歳さま、みなさまがお待ちですから……」
「あ、あら、ごめんなさい。さ、みなさん好きな席に座って下さいな」


 服を着替えに行っていたのか、いつの間にか格好が変わっている史ちゃんが妙子さんに声を掛ける。我に返った妙子さんが呆気に取られていたあたしたちを見て、照れながらテーブルの方へ手招きした。



「みなさんは、シャンパンは大丈夫かしら?」

 寮の食事では縁遠いアルコールだけど、シャンパンはみんな飲んだことが有るみたいで、妙子さんの問い掛けに対して首を振る人は居なかった。優雨ちゃんは大丈夫なんだろうかと思わなくも無いけれど、まあ帰りは車なので大丈夫だろう。
 史ちゃんが奥からワゴンを押して来て、乗っていたシャンパンを妙子さんに渡した。妙子さんはそのラベルを確認してから史ちゃんに返し、あたしたちに注いで回るように指示する。
 う〜ん……こう云うのを見ると、やっぱり史ちゃんはプロなんだなあって思ってしまうな。妙子さんも史ちゃんを使い慣れている感じがするし、文字通り住む世界が違うって感じだ。
 細長いグラス――フルート型だと後で聞いた――に注がれたシャンパンは、グラスの底から細長い糸のような泡が出ている。綺麗なシャンパンを眺めているうちに、史ちゃんは全員に注ぎ終えたようだった。

「それじゃ、挨拶は千歳ちゃんにお任せするわね」
「うん。え〜、それじゃみんな、グラスを持って……え〜と……あ〜……」


 何かを云おうとして口を開け閉めする千歳。さては、何を云うか考えて無かったな?

「え〜……それじゃ、乾杯!」
「……乾杯!」


 結局、言葉が決まらないままにグラスを掲げる千歳。あたしたちは苦笑しながらも、それに合わせてグラスを掲げてみせたのだった。
 あたしはアルコールを飲むことなんて殆ど無いので、取り合えず一口舐めてみる。……やっぱり舌にピリッとくるけれど、割とあっさりしていて飲み易く感じた。

「どうしたの、薫子?」

 咽喉を通り抜けた後でキュッと体が熱を持つ感覚に耐えていると、隣に座っている香織理さんがあたしの顔を見て苦笑いしていた。

「え? あ〜、あたしはお酒の味なんか分からないな〜と」
「その顔は、これのどこが美味しいんだろうって顔ね」


 飲み慣れてないんだからしょうがないじゃん、と口を尖らせてみると、香織理さんはあたしの耳元にそっと囁いてきた。

「美味しいか美味しくないかは兎も角、良いシャンパンであることは確かよ。だってこれ、キュヴェ・ドンペリニヨンだもの」
「え゛っ」


 そ、それはもしかして、あの有名なドンペリでしょうか?
 あたしの顔色が変ったのを見た香織理さんが、今度は悪戯っぽい笑い方をしながら言葉を続ける。

「大丈夫よ。値段のことを云うのは無粋だけれど、これはそんなに高いものじゃないから」
「……そうなんだ。しかし、よくそんなのが分かるね」
「史ちゃんが注いでくれたときに、ラベルを見えるようにしてくれていたでしょう?」


 え、そうなの? そんなの全然気が付かなかったよ。周りの反応を見るに、そもそもラベルに気が付いたのは香織理さんだけのような気もするけれど。って云うか、何で値段まで分かるのさ。

「まあ、何だ。あたしは取り合えずシャンパンよりも食べ物だね、うん」
「ふふっ、そうね。難しいことを考えていると味を楽しめないものね」


 その通りです。と云うわけで、あたしはフォークとナイフを手に取って史ちゃんが取り分けてくれた料理に集中するのだった。……あれ? 何時の間に料理を取り分けたの?

「……今更な話なんだけど、史ちゃんは仕事が速いよね。流石はプロのメイド」
「侍女です、薫子さま」


 左様ですか。



「それじゃあ本日のお楽しみ、プレゼント交換にまいりま〜す!」

 宴も酣、みんなも妙子さんと打ち解けてきたと云うところで千歳が声を上げた。どうやってプレゼントを決めるのか事前に聞かされていないので、みんな揃って千歳の方へと視線を向ける。
 千歳は部屋の隅に置いてあった段ボール箱を開けて、中から籤引きの抽選機をを取り出してきた。これは籤引きじゃなくてビンゴゲームのやつかな?

「みんなでビンゴをして、一番の人から順番にプレゼントを選んで貰います!」
「定番と云えば定番ね。ところで、最後の人が自分のプレゼントしか残っていなかったらどうするの?」
「それは大丈夫。最後の人のプレゼントは、お母さんが用意したものだから」


 千歳はあたしたちの用意したプレゼントとは別のテーブルに置かれた、やたらと大きなプレゼントの箱を指差した。あれってプレゼントだったのか……? 優雨ちゃんぐらいなら入れそうな大きさの箱なんだけど。

「これは……余り物に福が有る、と云うべきなのかしら?」
「うふふ、どうかしら。『大きなつづら』かもしれないわよ?」


 沙世子さんの漏らした呟きに、口元を手で隠しながら妙子さんが答える。……あたしは籤運が良い方じゃないんだよな。ここはもう開き直って、千歳の差し出すビンゴカードを適当に選んでみようか。

「むっふっふ〜」
「……コラ、さり気無く一枚だけ抜き易くしたりするな」


 両手で広げられたカードの中から一枚、ニュッと突き出しているカードの隣にあるものを抜き出す。千歳は唇を尖らせながら、隣の香織理さんにカードを差し出した。

「こう云うのは素直にこれを選んでおけば良いのよ」
「さっすが香織理ちゃん、薫子ちゃんとは違うね!」
「千歳、後でお仕置き」
「え〜? おうぼうだ〜!」


 テーブルを時計回りにぐるっと回った千歳は、最後に妙子さんと史ちゃんにカードを渡してから抽選機をテーブルの上に置いた。

「んで、これはやっぱり千歳が回すの?」
「ううん。プレゼンテーターは別に居るよ」
「えっ?」


 まだ誰かお屋敷に居るの? パーティーに出ていないのにこんな時にだけ呼ぶとかって大丈夫なのか……と思っている間に、千歳は部屋の外に出て行ってしまった。戸惑いながら千歳を見送ったあたしたちは、やがてやって来た人物に納得する。

「ビックリした……千早のことだったんだね」
「ええ、まあ。僕も参加しろと云うことでしたので」

『私はもうお腹一杯だし、後は見ているだけでも十分だからね〜』

 みんなから注目されてちょっと照れている千早は、頭を掻きながら抽選機の傍にやって来た。目が合ったときに笑ってくれるのが少し嬉しい。いかんなあ、あたしってばだんだんバカップル化してないか……?

「それじゃあ回します。え〜、不正が無いように確り見ていて下さい」

 抽選機に不正も何も無いと思うんだけど、出てくる玉に注目を集めようってことだろうな。千早がゆっくりとハンドルを回し始め、やがて一つ目の玉が転がり出た。



「次は……75ですね」
「あ、リーチです! やっとですよ〜」


 千早の読んだ玉の番号に、陽向ちゃんが嬉しそうに声を上げた。
 しかし、リーチになってからが長いのがこの手のお約束なのだ。あたしだって6回前にリーチになっているけれど、まだ上がることが出来ていない。まあ、それはあたしに限った話じゃなくてみんな同じなんだけど。

「中々揃わないですね〜」
『ちーちゃんは焦らすのが上手だね!』

 揃わないことさえも楽しんでいるような初音の声に、調子に乗った千歳がニヤニヤ笑いながら千早をからかった。口をへの字にした千早は、しかし何も云わないままハンドルを回し始める。コロンと転がり出た玉はラッキーセブンだ。

「7です」
「……あら」


 香織理さんが意外そうな声を上げた。……あっ、当たってる!

『お〜! おめでとう香織理ちゃん!』
「千歳に選んで貰って正解だったかしら?」

 嬉しそうに笑った香織理さんは、千歳に促されるままにプレゼントの乗ったテーブルへ近付くと、ピッと立てた人差し指を振り振りしながら一つの箱を指し示した。あれは確か陽向ちゃんの用意した物だ。

「ありゃ、私ので良いんですか?」
「姉としては、陽向のセンスがどなんなものか気になるから……ね」
「へ、返品は不許可ですよ……?」


 そんなことしないわよ、と陽向ちゃんのおでこを指で弾いた香織理さんは、結構嬉しそうな顔をして席に戻って来た。
 一人が当たれば後はどんどん続くもので、優雨ちゃん、千歳(妙子さんが代わりにやっていた)、沙世子さんと続く。
 ちなみにあたしのプレゼントは優雨ちゃんが持っていったけれど、その理由は小さくて可愛い箱だったから……それはただの外装なんだけどなあ。千歳は優雨ちゃんの持ってきた平たい包みを、沙世子さんは初音のを選んでいった。

「うぬぅ……当たらん……」
「そうですね……あれ、私と薫子お姉さまの待ち、同じですね」
「ありゃ、ホントだ」
「見て見て優雨ちゃん、こんなに空いたよ」
「……すごい」
「いや、これはそういうゲームじゃないから」


 リーチが三つも四つも掛かっているのに何故当たらないのか。史ちゃんの持っているカードもあたしたちと同様に沢山の穴が開いている。これはもしかして……と思っていると。

「……41です」
「よっしゃ、当たり!」
「私もです!」
「……申し訳ありません、史もです」
「あれ、私が最後ですか?」


 全員同時とはならず、初音が一人だけ残ってしまった。まあ、初音なら妙子さんの大きなプレゼントでも受け止められるだろう。あたしはちょっとあの大きさの箱の中身を受け取る勇気は無い。
 さて、残っているプレゼントの分配だけど……史ちゃんは一歩下がってあたしと陽向ちゃんが取るのを待っているけれど、残っているプレゼントには史ちゃんの分も有る。そして香織理さんの分も残っている訳で……。

「あたしは千歳のを貰うよ」
「私はお姉さまのを……と云いたいところですが、中身が予想出来るので史お姉さまのを頂きます」


 ああ、匂い関係ってことだろうな。香織理さんの趣味なんだし。

「あら、そんなこと云って良いのかしらね?」
「……では、私は沙世子さまのプレゼントを頂きます」


 含み笑いをする香織理さんの声を聞きながら、史ちゃんが最後に沙世子さんのプレゼントを受け取った。自動的に、最後に残った香織理さんのは妙子さんが受け取ると云うことになる訳だね。

「ねえねえ、開けてみてくれないかしら?」
「えっ、良いんですか?」
「勿論よ!」


 ラストだった初音はと云うと、妙子さんは自分の選んだプレゼントを見て驚いて欲しいのか、頻りに初音にお願いをしていた。その気持ちは何となく分かる。後で驚いてもらうのも良いけれど、やっぱり直に驚く顔が見たいからね。
 勢いに押された初音は、大きな箱に掛かっているリボンを解いて、おっかなびっくり蓋を開ける。いくらなんでもビックリ箱じゃないんだから、そんなに怖がらなくても良いと思うんだけど。

「あっ……!」

 顔を遠ざけながら目線だけで箱の中身を覗いた初音は、嬉しそうな声を上げて直ぐに箱の中を覗き込んだ。両手を箱の中に入れて茶色い毛玉のような物を持ち上げる。
 箱からのっそりと現れたのはテディベアだった。それも特大サイズのもので、あの大きさだと120cmは有るだろう。

「凄い、私こんなに大きなの始めて見ました! 有難うございます!」
「喜んでもらえて良かったわ。可愛がってあげてね?」
「はい!」


 う〜む凄い。椅子に座らせるとあたしたちと同じ目線になるぞ、あれ。

『薫子ちゃん、私のも開けてみてよ』

 む? 千歳ったら妙な対抗心を出しているな? 目の前をふわふわ飛び回ってせがんでくるので、千歳のプレゼントが入っている包みを開けてみることにした。どうせこの流れだと、みんなでプレゼントを見せ合いっこするんだろうしね。
 テーブルの上の開いているスペースに包みを置いてリボンを解く。どれどれ、何が出るかなっと……?

「おお、これは……手編みかな?」
『うんっ』

 出てきたのは、二人でも巻けそうな長いマフラーと、温かそうな手袋だった。特にマフラーの長さ、良く分かっているじゃないか。二人並んで首に巻くなんて夢が有るよね!

「……すごく、きれい。これは何?」
「ん? ああ、それは飴細工と金平糖だよ」


 あたしがプレゼントに気を取られている間に、みんなもそれぞれ自分のものを開けていた。優雨ちゃんはあたしの持ってきたプレゼント、飴細工の入ったガラス容器をを両手で抱えながら、天井のライトで透かし見ている。

「あら、食べ物なの?」
「ふふふ……そう馬鹿にしたもんじゃないよ、沙世子さん。乾燥剤を入れて密閉して有るから、そのままなら二年ぐらい持つんだから」


 大きなガラス容器に気を取られたのか、みんなが集まってきて飴細工を眺め始めた。

「食べるときは、こうやって金具を外してビンを開ければ取れるからね」

 優雨ちゃんから瓶を預かって蓋の開け方を実演してみせる。瓶の口にゴムパッキンを付けてある密封容器は、ちゃんと消毒した食品用のものだ。

「……たべるの、もったいない」
「あはは、大丈夫だよ。飴を売っているところ、後で教えてあげるから」
「うん」


 みんながそれぞれにプレゼントを開けていく。
 初音は時間が無くて編めなかったといって、どこかのブランド物のマフラー。
 沙世子さんは手作りのコサージュ。材料をどこから調達したのか分からないけれど、宝石らしきものも使っているみたいだ。こういうのを作るとは意外だけれど、中々に本格的で驚いた。
 香織理さんはアロマオイル。香水かと思ったけれど、あたしたちが普段でも使えるようにと遠慮したらしい。香織理さんみたいな特例を除いて、聖應でも香水を使うのは禁止になっているしね。
 陽向ちゃんはロケットペンダント。写真を中に入れられるようになっているタイプのものだ。
 史ちゃんのは、なんと手作りの時計だった。クリスタルガラスとコンピューターの基盤を組み合わせて、暗闇でも文字盤が光るようになっている。こんなの知識が有ったって簡単に作れないだろうに……史ちゃんってやっぱり凄い。
 そして、優雨ちゃんが持ってきた物は。

「それじゃ開けますよ」
『うわぁ〜……』

 千歳の代わりに千早が包みを開けると、額に入った一枚の絵が現れた。集合写真のようにみんなが揃って描かれている。これは沙世子さんが入寮したとき、食堂で撮った写真を模したものかな?
 題材としては別に珍しいものじゃない。目を引くのはその絵の巧みさだ。写実的って云うのか、時間を掛けて丁寧に描き込まれたのが分かる。

『貰っちゃっていいの、優雨ちゃん?』
「うん。記念だから」

 言葉が少ないのでいまいち分からないけれど、時間的にみてクリスマス用に描かれたものじゃないことは分かる。一週間で描けるような絵じゃないからね。じっと見詰める優雨ちゃんに何を思ったのか分からないけれど、千歳は大きく頷いてその絵を受け取った。



 食べ物も飲み物も粗方無くなった頃、あたしは千歳と千早に声を掛けた。本命……と云うのはちょっと変かもしれないけれど、あたしなりに考えた、千歳へのプレゼントを渡す為に。初音と優雨ちゃんの歌うクリスマスソングを背後に聴きながら、あたしは二人を前にして背筋を伸ばす。

『……薫子ちゃん、真面目なお話?』
「うん。……実は、交換用のプレゼントとは別に、二人にはプレゼントを用意してあるんだ」

 そう云って、手荷物を入れてある鞄の中から簡素な紙袋を取り出す。リボンも何も無い素っ気無い紙袋で、あたしはその袋に入れておいたプレゼントを二人に見せた。直ぐに使えるようにと剥き出しになっているそれを見て、二人が驚いたような声を上げる。

「……これは……」
『……アルバム?』
「うん」

 手帳ほどの小さなアルバムは、あたしの分も含めて三人で三色の色違い。ライトブルーのアルバムを千早に渡し、ワインレッドのアルバムは自分の鞄に戻す。千歳の分はパールホワイトのアルバムで、取り合えずあたしが持っておく。

「……何故、アルバムなんですか?」

 千早がちょっと硬い声で問い掛けてくる。確かに、普通は疑問に思うだろう。だって千歳には『先が無い』。仮にアルバムに挟むべき思い出が有ったとしても、一日で意味を無くしてしまうのだから。
 でも……これはあたしの決意表明なのだ。あたしは千歳を真っ直ぐ見ると、アルバムに手を乗せながら口を開く。

「あたしはこのアルバムに、今までの思い出もこれからの思い出も……沢山挟んで千歳に届けてあげるから。三人で、思い出を共有出来るように」
「……」
『……』

 ……あれ、結構真面目に云った心算なんだけどな。何で二人とも黙ったままなの?
 ……ちょっと、何も返事が無いと恥ずかしくなってくるんですけど。千歳と千早はあたしの顔をまじまじと見た後で、お互いの顔を見合わせて眉を寄せている。

「……せめて、反応が欲しいんですが」
『……ちーちゃん、薫子ちゃんはどこまで本気なのかな』
「……僕に聞かないで下さいよ」

 何故か顔を赤くした千早がそっぽを向いて、千歳が苦笑しながらあたしの方を向いた。

『ええっと……うん、その、ありがとうね、薫子ちゃん』
「なんか投げ遣りに聞こえるんだけど」

 あたしは大真面目に云ってるんだぞ。何でこんな空気になってるのさ。

『そんなこと無いよっ。だって、薫子ちゃんがちーちゃんの傍に居てくれるって約束してくれたんだから』
「……? 何だか良く分からないけれど。取り敢えずは受け取ってくれるってことで良いんだよね?」
『うんっ! あ、そうだ。それじゃ早速一枚撮ろうよ。史にお願いすれば、綺麗な写真を撮ってくれるよ!』

 千歳が千早の頭を押すようにしてみんなの方へと向ける。千早は何だか不満そうな表情をしながらも、あたしを促してからみんなの方へと歩いて行った。……何なの? ちょっと肩透かしなんだけど……。










 パーティーが終わった後、あたしたちは西岡さんの車に送ってもらって学院へと帰ってきた。
 移動中の車の中は心地良い沈黙で満たされていて、特に会話が無くても気拙くはならなかった。祭りの後に特有の寂しさを感じつつも、千歳のことを思って色々と考えていたんだろうと思う。
 千歳は――史ちゃんと千早もだけど――妙子さんと過ごす為に家に残った。明日は一度寮に寄ってから登校するそうだ。今夜はどんなことを話すのか、どんな風に過ごすのか……満足出来れば良いなって思う。
 学院の裏門で車を降りたあたしたちは、西岡さんにお礼を云って見送った後、電子キーで裏門を開けて学院の敷地に入った。

「それにしても、寒いですねぇ」
「……そうね。天気が良い分、気温が下がっているんでしょうね」


 並木道を歩いていると、陽向ちゃんが両手を擦り合わせながら身体を震わせてみせた。ちょっとわざとらしい感じだけど、寒いのは本当のことだ。香織理さんが空を見上げて、白い息を吐き出しながら首を竦めた。
 あたしは折角貰ったんだからと、千歳の編んだマフラーを取り出して首に巻く。長すぎて首どころか顔の下半分が毛糸に埋まっちゃったけれど。

「あっ……薫子ちゃん、温かそうだね」
「あはは、何しろ二人で巻いても余裕が有りそうな長さだからね」


 もっこもこで温かい。自分の吐いた息が毛糸の内側に留まる感じで、直ぐに首元が温かくなった。

「……ホワイトクリスマスにはならない感じですね」
「いいんじゃないかしら? 雪が積もったらそれはそれで大変だし」


 ちょっと残念そうな陽向ちゃんに対して、沙世子さんは現実的だ。確かに、雪が降っているときは良いけれど、溶け始めると地面が凍って滑ったりするから大変だしね。

「……雪、見たいな」
「そうですねえ。確かに、積もらないのなら降ってくれても良いかなあ」


 優雨ちゃんの呟きに答えるように、初音もまた空を見上げる。

「雪って……儚いわよね。降っているときは綺麗でも、地に落ちれば溶けて……土に塗れて。幻想と現実の両方を見せてくれるわ」
「哲学的ですねぇ、香織理お姉さまは」
「……そうね。らしくないわ。……でも、きっと今日だからこそ、こんなことを思うんでしょうね」


 苦笑して、みんなより一歩前に出る香織理さん。でも、思うところが有るのはみんな同じだろう。みんなが黙ったことで、霜柱を踏む音がやけに大きく聞こえた。
 ……このマフラー、やっぱり一人で巻くのは重たいな。千歳が居ないとこんなに余っちゃうよ……。





**********

 西岡さんはチョイ役。鏑木の家はみんな出払っている為、手が空いていそうだからと清花さんに駆り出されました。
 まあ、本当は誰でも良かったんですが……おとボク世界での運転手ってこの人しか出ていないので(笑)

 千早が不満気なのは、薫子が深く考えないで言っているから。
 「思い出を共有出来るように」って言うのは、裏を返せばいつも一緒に居ると言うことで。

 

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
薫子さん、酔っ払っているのですか?
ろれつが回っていませんよ。
「あたしは籤運が良い方じゃないんだよなね」これは「だよな」と「だよね」が混ざっているのでは?

てっきり千早から薫子さんだけにプレゼントがあるのではと思っていたのですが・・・
予想が外れました。

ナカユウ
2012/11/27 22:40
ナカユウさん、こんばんは。
すいません、早速修正しました。

>酔っ払ってる
薫子「シャンパンは炭酸ガスが入ってるから酔いやすいんだよ!」
……と言うことで一つ(笑)

千早のプレゼントは最終回で。人に見られればからかわれる事必至のプレゼントですから……と言えば、何かは分かりますよね?

A-O-TAKE
2012/11/27 23:05
年内終結に向けてペースアップしましたね。

ところで、薫子は「鏑木瑞穂」を知ってるんでしょうか。
まあ、奏から聞いている可能性はありますけど…。
もしそうなら、真相を聞いて驚くくだりも、面白そうですよね。
なにせリアクション女王だから…薫子。

…それにしても…
いいですね。
思い出を、千歳に届けてあげるって。
やっぱり、この辺、さすが正ヒロインです。

…我が身を振り返ると本気で泣きそうになるので、この辺にしておきます(;;)
えるうっど
2012/11/28 00:08
えるうっどさん、こんばんは。

急ぐ急ぐと言いつつも、結局は月に4回なんですけどね……。

>鏑木瑞穂
もしかすると以前の話の中で『知っている』としているかもしれませんが、鏑木瑞穂であることは知っていても男だと言うことは知りません。
……プロット段階ではそうなっています。過去の話を読み返さないと私も分からない(爆)

>プレゼント
私なんてプレゼントは現金だぜー!(笑)
A-O-TAKE
2012/11/28 22:50
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