A-O-TAKEの隠し部屋

アクセスカウンタ

zoom RSS 妃宮さんの中の人 9-EX-2

<<   作成日時 : 2012/12/05 12:44   >>

トラックバック 0 / コメント 2

 雅楽乃と淡雪成分の補給。

 ちょっと物足りないな……後で加筆するかも……。


**********



「あ゛〜……仕事とは云え、荷物の受け取りだけの為に休日登校って云うのもかったるいね〜」
「御免なさい、雪ちゃん。付き合わせてしまって……」
「いや、うたちゃんが悪いんじゃなくて業者が悪いんだから、謝らなくてもいいって」


 年の瀬も押し詰まった12月21日の日曜日。
 殆ど人の居ない学院の廊下を歩く二人の生徒、哘雅楽乃と冷泉淡雪。彼女たちが手にしているのは、明日の華道部の活動で使われる花材である。本来ならば先週の末に届く予定であったものだが、業者の手違いで休日にずれ込んでしまったのだ。
 年末年始で花を飾るところは多いので、小規模な注文しかない教育機関の部活動が後回しにされてしまったのである。配達を月曜日に変更しようとすると、年末年始で多忙なので配達の都合が付かないと云われる始末だ。町の花屋などではなく専門の業者に注文しているのだから、そのぐらいどうにかしろと云うのが淡雪の云い分だった。

「聖應女学院と云う名前がある為に、大きな業者に頼まざるを得ないのが現状ですが……考えなければいけませんかね」
「先輩諸氏との付き合いやら伝統やら習慣やら、そういうしがらみが多いのは、やっぱりお嬢様学校だからなんだよね……」


 ああやだやだ、社会の縮図。ブツブツと呟く淡雪に雅楽乃は苦笑する。しがらみが多いのは雅楽乃や淡雪の家も同じだろう。雅楽乃は母によって業者との顔繋ぎも経験しているので、そう云ったことの猥雑さも良く知っていた。
 廊下を歩いて修身室に着くと、淡雪は自分の持っていた花材を雅楽乃に一度預けてから、戸襖の鍵を開けた。襖と障子を開け、靴を脱いで室内に上がってから雅楽乃の花材を受け取る。

「戸襖、大分滑りが悪くなったね。また歪んできたのかな?」
「扉そのものが古いですからね。また修理を頼まないと駄目でしょうか」


 全く、部長や副部長と云うのは、部員を纏めるだけでなくこんな雑役もしなければいけないのだから、面倒なものである。
 花材用の冷蔵庫に花材を収め、フッと一息吐いた淡雪が畳の上に腰を下ろす。雅楽乃は淡雪の分と二人、修身室使用履歴帳に名前を書いてから室内奥の流し台へと向かった。

「折角出てきたのですから、少しお茶でもしましょうか」
「そうだね。まあ、ちょっと寒いのが難点だけど」


 休日の為に暖房の入っていない室内は、部活動の時よりも冷え込んでいる。淡雪は脇に除けられていた座布団を行儀悪く引っ張ってきて、その上へと移動した。
 暫く待っていると、やがてお茶を淹れた雅楽乃がお盆に菓子を添えて戻ってくる。

「はい、どうぞ」
「ありがと……あつっ」


 茶碗に触れた唇が熱かったのか、淡雪は一口啜る前に声を上げて顔を顰めた。むっと唸った後、今度は慎重に唇を近付ける。雅楽乃はそんな淡雪の姿を見た後、口元を緩めながら自らもお茶を啜った。……確かに熱い。

「石田三成のようにすれば良かったでしょうか」
「……三杯のお茶ってやつ? そんなに飲んだらお腹がたぷたぷになっちゃうよ」
「まあ、雪ちゃんったら」


 わざとらしくお腹を擦ってみせる淡雪を見て、雅楽乃は小さな笑い声を上げた。暖房など無くても、温かいお茶と友人の笑顔が有れば体は温まる。雅楽乃は菓子を齧る淡雪を見ながら、そんなことを考えた。

「そう云えばさ、うたちゃんはダンスパーティーに出るの? 家の用事とか大丈夫?」
「今のところ、大丈夫のようです。特にこれと云った用事も有りませんから」
「そっか。それじゃ私と一緒に行こうよ。一人だって分かると下級生の子たちが群がってきちゃうから」
「もう、雪ちゃんたら。口が悪いですよ?」


 確かに様相としては群がると云う言葉がぴったりだが、彼女たちだって勇気を出してお願いに来るのだから、そういう云い方は悪いだろう。雅楽乃はちょっと口を尖らせると、仕返しのように淡雪に問い掛けた。

「雪ちゃんこそ、お姉さまのところにお願いには行かなかったのですか?」
「うっ……それは、まあ、私は当日のチャンスに賭けようかなって思って」
「あら」


 茶碗で顔を隠すようにしながら呟く淡雪。雅楽乃は一瞬だけ目を丸くした後、淡雪の可愛い姿を脳内に仕舞いながら微笑んだ。笑うこと無いじゃん、と拗ねる淡雪をお茶を飲んでやり過ごし、ふと気になったことを尋ねてみる。

「雪ちゃん、ダンスの方は大丈夫なのですか?」
「まあ、そっちは一応大丈夫かな。部活動が無いときに何度か講習に出たし。……うたちゃんの方は?」
「私はそれなりには踊れます。家でも学んだことが有りますし」
「えっ!? あの家で!? ……っと、ゴメン」


 失礼な云い方に気が付いた淡雪が咄嗟に頭を下げる。雅楽乃はそれに首を振りながら、疑問に答えるように口を開いた。

「社交の一環、だそうです。正直な話、私も大分戸惑いましたけれど」
「そ、そうなんだ……大変だね」
「そうでもありません。得難い経験でしたから」


 シンとなった室内に、雅楽乃が茶を飲むときに動く衣擦れの音が聞こえた。気拙い空気を払拭しようと口を開け閉めした淡雪は、上手い話題を思い出せずに頭を下げる。
 淡雪がそこまで意識すると思っていなかった雅楽乃は、俯いた淡雪を見て話題を楽しげなものに変えることにした。

「雪ちゃんは、クリスマスには何か予定は有るのですか?」
「へっ? え、あ〜……特には無いかなあ」
「そうですか。クラスのみなさんがプレゼントを買うだの貰うだのとお話をしていましたので、雪ちゃんはどうなのかと思ったのですが」


 雅楽乃自身は聖應に通っていても、実家は和に偏っているのでクリスマスを祝うことは無い。しかし、以前に淡雪の家に遊びに行ったときは普通の家庭と見えたので、クリスマスを祝うぐらいはすると考えたのだ。

「全く何もしないってことじゃ無いと思うよ? ケーキぐらいは食べると思うし。ただ、何だ……私は誕生日も12月だし、プレゼントとかはいつも纏められちゃうからさ」
「えっ、雪ちゃんは12月の生まれだったのですか?」
「……あれ、云って無かったっけ。12日が誕生日だよ。1212で覚えやすいでしょ?」


 淡雪は頭を掻きながら軽く笑ってみせる。すると、雅楽乃は淡雪の方へ少し詰め寄って、拗ねたように唇を尖らせた。

「教えて頂かなくては、覚えようが無いじゃないですか。ずるいです雪ちゃん、私の誕生日は知っているくせに……」
「え、いや、ずるいって云われてもなぁ」


 雅楽乃にじろりと睨まれて笑って誤魔化す淡雪は、雅楽乃の誕生日のことを思い出す。
 雅楽乃は茶道部は勿論のこと学院内でも人気がある。それこそ、年も明けぬ前から次期のエルダーだと云われている程の人気だった。
 そんな雅楽乃であるからして、茶道部の部員たちはいつの間にか誕生日を調べてしまっており、9月末の雅楽乃の誕生日の時にはささやかな祝いの席が作られたのだ。勿論、副部長である淡雪も祝いの席を用意するのに一役買っている。
 そう云えばあの席の後に白い目で睨まれたっけ、と淡雪は余計なことまで思い出して内心で冷や汗を掻いた。

「大体ですね、茶道部の為のお菓子と嘘を吐いて、修身室にホールケーキを持ち込むなんてどうかしています。顧問の光岡先生が苦笑一つで見逃して下さったから助かりましたが、本来なら反省文を――」
「わぁー! 分かったから、その話はもうちゃんと反省しましたから!」


 雅楽乃の雲行きが怪しくなってきた為に、淡雪は慌てて雅楽乃の口元を押さえにかかる。反省しているとは云いがたい態度だが、雅楽乃は不承不承ながらも後退した。
 実際のところ、この件で顧問が苦笑一つで済ませたのは訳がある。長年聖應に勤めているこの顧問は、かつて学院内に現れた六段重ねのケーキを知っているのだ。大胆にも学院内で作られたこのケーキに比べれば、外部から普通のホールケーキを持ち込むなど大したことではないのだった。……勿論、もしシスターに見付かっていたとしたら、反省文は免れないのであるが。

「私のお祝いの為に、みんなが反省文を書かされるようなことになるのは本末転倒ですからね」

 自分を祝ってくれたのだからと強く諌められない雅楽乃に申し訳なく思いながら、もし次が有るのならちゃんと許可を取ろうと強く思う淡雪だった。後に再現された伝説のケーキを見て二人が驚くのは、また別の話である。

「……それはそれとして、雪ちゃんの誕生日の件ですが」
「え、まだ続くの?」
「当然です。私だって雪ちゃんの誕生日をお祝いしたいのですから」
「当日なら兎も角、過ぎちゃってからのお祝いだと恥ずかしいかな……」


 淡雪は自分の想像よりも熱心に話をする雅楽乃に戸惑いながらも、当日ではないからと遠慮してみせる。すると雅楽乃は、先程よりも真剣な表情で淡雪の顔を見詰めた。

「雪ちゃん、誕生日のお祝いと云うのは、その人に『生まれてきてくれて有難う』とお礼を云う為のものなのです。雪ちゃんがこうして生まれてきてくれたからこそ、私は大事なお友だちを得ることが出来たのですから」
「う……そ、そうなんだ」


 ラブコールにも似たその言葉に、淡雪は思わず顔を赤くしてしまう。そんな淡雪を見た雅楽乃は破顔一笑、ころっと口調まで変えて楽しそうに告げた。

「では、そう云う訳なので、私にお祝いをさせて下さい。ねっ?」

 悔しいけれど、この笑顔には勝てない。一本取られた淡雪としては、苦笑して全面降伏するより無かったのだった。





「うぎゃー! さむーい!」
「本当ですね……」


 校舎を出た途端に寒風に晒されて、淡雪が大きな悲鳴を上げる。相槌を打つ雅楽乃の方は、手袋をした手の平に息を拭き掛けながらの言葉だった。淡雪はマフラーの間に首を埋めるようにしながら、雅楽乃の方へと言葉を向ける。

「取り敢えずは駅前の商店街に行って、お昼を食べてからってことで」
「ええ、そうですね。この時間からだともう混んでいるかもしれませんが……まずは移動しましょうか」
「賛成。動いてると温かくなるだろうし」


 校舎の前で佇んでいても仕方が無いと、二人はゆっくりと歩き出す。適当な雑談をしながら駅前の商店街に着く頃には、淡雪の期待通りに体が温まってきていた。
 しかし、アーケードの中に足を踏み入れて暫く歩くものの、左右の食事処はどこも人で一杯になっている。クリスマス前の休日と云うことも有ってか、子供連れが大分多いようだった。
 淡雪はすれ違う親子連れを羨ましそうに流し見しつつ、どこかに入れそうな店が無いかを確認する。今はコートを着ているとは云えその下は制服なので、客層的に自分たちが浮いてしまわないような場所が好ましいのだが。

「どこも開いてないねぇ」
「暫く待つのも止む無しでしょうか」


 思案しながら歩いていると、ふと以前にも立ち入ったことの有る路地が目に付いた。少し前に薫子たちに連れられていった店の有る通りだ。あの時よりも道がスッキリと見えるのは、寒さ故に自転車に乗る人間が少ないからだろうか。

「うたちゃん、駄目元で行ってみる?」
「そうですね。外から様子を伺うくらいはしてみましょうか」


 店の窓はガラス張りだったので、店内の様子を確認するくらいは出来る。人が多ければ戻ってくれば良いだけのことだと思い、二人は小路へと足を踏み入れたのだった。



 以前よりも少ない自転車の間を縫って店の前まで辿り着いた二人は、遠目からでは店内の様子が伺えないことに気が付いた。空が見事な冬晴れで、窓ガラスがマジックミラーのようになってしまっていたからだ。
 二人はどちらからともなく顔を見合わせ、やがて淡雪が覚悟を決めたように一歩を踏み出す。後ろでは雅楽乃が拳を胸の前で握りこんでいた。
 そろそろと窓に近付いた淡雪は素早く店内の様子を確認する。どうやら人は少なくて、カウンター席に二人が座っているだけだった。これなら自分たちも入店出来る……そう思った時、カウンター席に座る人がタイミング良くこちらに振り向いて、淡雪と目を合わせてしまった。
 長い黒髪の美女に無表情に見詰められた淡雪は、愛想笑いをしながら後退しつつ雅楽乃を手招きする。目が合ったのに店内に入らなかったら、この女性が気拙い思いをすると感じたからだ。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です」


 店に入った二人はウェイターに人数を告げた後、開いているテーブルへと移動する。件の女性から距離を取ったのは仕方の無いことかもしれない。
 二人はコートを脱いでからテーブルに着き、水を持ってきたウェイターに注文を返す。雅楽乃は前回も食べたクラブサンドを、淡雪はもう少し量の多い日替わりプレートランチだ。

「ねえうたちゃん、ポチギって何かな?」
「雪ちゃん、分からないのに注文したのですか?」
「いや、日替わりで知らない名前が出てると注文したくならない?」
「……私は、食事で冒険はしないですから……」


 淡雪は呆れた様子で呟く雅楽乃から視線を逸らす。すると、カウンター席に座る二人組の片方、栗色の髪をしたショートカットの女性と目が合った。さっきからよく目が合うなと思いながら愛想笑いを浮かべると、相手の女性もまた小さく笑みを浮かべた。

「お二人は、聖應女学院の生徒ですよね?」
「え? ええ、そうですけど」
「ふふっ……実は私たちも、聖應のOGなんですよ」
「あ、そうだったんですか。えーと……お姉さまと呼んでも?」


 名前も知らないので何となくそう呼びかけると、その女性は苦笑しながら手を顔の前で振った。卒業して大分経つのでその呼ばれ方は恥しいと云う。当たり前のことではあるが、聖應での常識は聖應の中でしか通用しないのだ。

「でも、そう呼ばれるとあの頃を思い出しますね」
「……まだ懐かしがるような歳じゃないわ」


 黒い長髪の美人が無表情に呟くと、ショートカットの女性は楽しそうに笑った。ぶっきらぼうな云い方に淡雪は驚いたのだが、どうやら無表情なのはいつものことらしく、特に不快には思っていないようだった。

「ところで、今年はエルダーが二人いると云う話を聞いたのだけれど、本当なの?」
「はい。お姉さま方はどちらも素敵な方で、私たちは縁有ってお姉さま方と懇意にさせていただいております」
「そうなんですか。それは毎日が楽しそうですね」


 滅多に会えない先輩たちの話を聞こうとした雅楽乃と淡雪だったが、会話をしている間に料理がやって来ると、食事をするようにと促された。食事を終えているカウンター席の二人は、どうやら既に帰り支度を始めているようだった。

「貴女たちは運が良い」

 コートに袖を通した無表情な女性が不意に呟く。何のことかと首を傾げる二人に対し、支払いを済ませたショートカットの女性が言葉を付け加えた。

「さっきまでお客さんが沢山居て、どの席も空いていなかったんです」
「そうでしたか。それは確かに幸運でした。こうしてお二方とも巡り合うことが出来ましたし」
「そこで、そんなラッキーな貴女たちに耳寄りな情報を」
「……はっ?」


 無表情にそんなことを云われても、と呆気に取られている二人に近付いた女性は、内緒話をするように小さな声で呟いた。

「プレゼントは駅前のデパートで買うのが吉」
「え、ええっ!? 何でそのことを……」
「それは、乙女の秘密」


 云いたいことだけを云って身を翻した女性は、そのままさっさと店を出て行ってしまった。カラカラとドアベルが鳴ったことで我に返ったショートカットの女性は、二人に手で謝ってから慌てて後を追っていった。

「……何か、変わった人だったね」
「……そうですね」


 暫くの間お互いの顔を見合わせていた二人は、どこか呆然とした気持ちのままで食事を再開したのだった。





 食事を終えた二人は、謎の女性の予言に従って駅前のデパートへと足を向けた。他に当てが有る訳でもないし、どうせなら耳寄り情報と云うのを信じても良いのではないかと云うことだ。

「うわ、ここも人が多いね」
「そうですね。クリスマスもそうですが、お正月の準備も有るのでしょう」


 デパートの中に入ってみると、商店街に負けず人が多い。大きな荷物を抱えて歩く者、小さな子供を連れて歩く者、様々だ。二人はそんな人の間を縫ってエスカレーターに乗り、目当ての三階を目指す。

「私のお祝いも良いけどさ、私としてはうたちゃんにクリスマスプレゼントを上げたいかなって思うんだよね。ほら、貰ってばっかりだと悪いし」
「まあ、そうなのですか? それならば、私も誕生日とは別に――」
「あー、いいのいいの、そう云うのは。私はうたちゃんとプレゼント交換がしたいの。OK?」


 口元を物理的に塞がれた雅楽乃はそのままで暫く考え込んでいたが、やがて諦めたように軽く頷いた。淡雪の手が退くのを待ってから、わざとらしく嘆いてみせる。

「雪ちゃんは頑固者です」
「うたちゃんに云われたくな〜い」


 大げさに肩を竦める淡雪。二人とも声には出さずに笑いながら、三階のフロアを雑貨店へ向けて歩き出した。
 フロア全体が浮かれたような雰囲気になっているのは、やはり子供向けの売り場が多いからなのだろう。二人は小さい子が意味も無く走り回っているのを器用に避けて、中高生の女の子向け雑貨が置いてある一角に辿り着いた。しかし……。

「ねえうたちゃん、あの人って薫子お姉さまかなあ?」
「どうなのでしょう。私、薫子お姉さまの私服など分かりませんから」


 どこかで見覚えのあるような女性が、売り場をウロウロと彷徨っていた。
 コートを脱いで片手に纏めているのは雅楽乃や淡雪と同じだが、スラリとした長い足をデニムのパンツで包み、Vネックのニットセーターををラフに着ている。顔を隠す意味なのか、ニット帽を深く被っていた。
 チラリと見えた横顔は正しく薫子のもので、二人はさてどうしたものかと足を止め、その姿を眺めていた。

「こうして見ると、お姉さまってモデルみたいだよね」
「そうですね。店員さんに見咎められないのは、格好良いからかもしれませんよ?」


 いつまでも物を買わずにウロウロすれば、店側としては万引きなどを警戒するだろう。ところがどう云う訳か、薫子を見ている店員は可笑しそうに微笑んでいた。

「取り敢えず、声を掛けてみようか」
「ええ。何か迷っているのでしたら、力になれるかもしれませんし」


 二人は軽く頷き合うと、薫子に声を掛ける為に店へと足を進めるのだった。







 薫子の買い物に付き合い、流れで淡雪と雅楽乃のプレゼントもその場で購入すると、三人は揃ってデパートを出た。駅へと向かう短い道の途中、薫子はばつが悪そうに頬を掻いて謝ってきた。

「悪いね二人とも。折角色々と考えてくれたのに、自分で決めちゃってさ」
「いえ、それは構わないんですけど。……でも、どうしてアルバムなのか聞いても良いですか?」
「私も、それは少し気になりますね。差支えが無いようでしたら、お教えいただきたいのですが」


 淡雪が提案したものだからと云う訳ではないが、写真立てが駄目でアルバムなら良いと云う判断が、二人には不思議で仕方が無かった。どちらも写真を見る為のものと云う点では同じだからだ。
 薫子は二人からの質問に困った顔をすると、両手を体の前で色々と動かしながら、不器用な説明を始めた。

「あ〜、それは何と云うかだね……お揃いのアルバムに同じ写真を挟んでいくって云うのは、こう、何か……思い出を共有していくって云うのが形になって分かるじゃない?」
「思い出の共有ですか……」
「そうそう。さっき淡雪さんも云ってたけどさ、デジタルデータで写真を残すよりさ、アルバムで残した方が……あ〜……何て云うか、『あったかい』じゃん」
「……そうですね。分かるような気がします」


 雅楽乃が静かに同意すると、薫子は「あたしの説明が通じた!」と妙なところで喜んでいた。二人にガッツポーズを見られて恥ずかしくなった薫子は、赤い顔を誤魔化しながら二人に問い掛ける。

「それよりも、あたしは二人のプレゼントの方が気になるかな。クリスマスや誕生日のプレゼントが金平糖って……自分も買ってる手前アレだけど、それで良かったの?」
「薫子お姉さまは知りませんか? これは女の子の大事な成分なんですよ」
「ええ。それに、とっても綺麗でしたから」


 二人は薫子に笑い返すと、持っている紙袋を楽しげに揺らした。

「女の子の成分って……」
「砂糖とスパイス、素敵な何か。そんなこんなで出来てます」


 マザーグースの一節を歌う淡雪。薫子もそのフレーズを聞いたことが有るので、それ以上は聞くかなくても良いと言葉を止めた。自分には分からない理由が有るのだろうと頷くに留める。
 薫子と別れて駅のホームで電車を待つ間、淡雪は一応と云った感じで雅楽乃に話し掛けた。

「さっきはああ云ったけどさ、私としてはもう少し高いものでも良かったんだよ?」
「いいえ、私はこれで十分です。……以前に云ったこと、覚えていてくれたのでしょう?」
「……うん、まあ」
「それに、お揃いと云うのも心躍るものが有りますからね」


 小さく舌を出して茶目っ気を見せる雅楽乃は、紙袋から金平糖の瓶を取り出すとそれを自分の鞄の中に仕舞い直す。
 雅楽乃の家では客が来たとき以外に菓子が出ることは無い。雅楽乃個人が持つなどと云うことも今までは無かったのだ。迂闊なところに置きっぱなしにすれば、母に没収された上で大目玉を喰らうだろう。だからこそ、雅楽乃はその瓶を鞄の中に仕舞ったのだ。

「でも、お菓子を学院に持ち込むのも、本当は校則違反なのですけどね」
「あはは、そのあたりは誰も守ってないじゃない。現にこの間ホールケーキを持ち込んだばかりなんだし?」
「ふふっ……そうでしたね。ですが私にしてみれば、やはり自分から校則を破るというのは少々刺激的では有りますよ」
「……あ〜、うたちゃん。一つ云っとくけどさ」
「何でしょう?」


 楽しそうに笑っている雅楽乃を見ながら、淡雪は若干の不安を混じらせて忠告する。

「そーゆー刺激に慣れちゃ駄目だからね?」
「……」


 返答せずににっこりと笑い返した雅楽乃を見て、淡雪は額に手を当てて嘆息した。私はもしかするとうたちゃんに悪い遊びを教えてしまったんじゃないか、と。

「ま、なるようになるか……」

 生真面目一辺倒じゃ肩肘張って疲れてしまう。雅楽乃の家は厳しいのだから、学院に居るときぐらいは遊び心を持っていても良いだろう。淡雪は自分を納得させると、雅楽乃が差し出してきた金平糖を口に銜えたのだった。





**********

 砂糖=金平糖、スパイス≒刺激=校則違反、素敵な何か=女同士の友情。

 ちょっと後半が急ぎ過ぎかな? もう少し書き込めれば良かったんですが。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
聖應OGはあの2人ですね。
元受付嬢と伝説の演劇部部長ですね。
ナカユウ
2012/12/05 23:00
ナカユウさん、こんばんは。

まあ、名前など出さなくても丸分かりな正体ですよね。
きっと千早に会ったら「ぐっじょぶ」と言ってくれるでしょう(笑)
出番はここだけですけど。
A-O-TAKE
2012/12/06 18:25
妃宮さんの中の人 9-EX-2 A-O-TAKEの隠し部屋/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる