A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 妃宮さんの中の人 9-7

<<   作成日時 : 2012/12/18 22:52   >>

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 遅れて済みません。

 切ったり繋げたり、中々文章が纏まりませんで。もっと文才が欲しい!

**********


「ふふっ……好きですよ、薫子さん」

 そう、これは夢。

「薫子さんは綺麗ですね」

 上半身が裸の千早が云い寄ってくるなんて有り得ないこと。いや、何度か想像したことは有るけどさ!

「今日から僕のお嫁さんになって下さい」

 ふえあっ!? 幾ら夢だからってこんな展開は有りなの? 何か色々な経過をすっ飛ばしてない?

「さあ、誓いのキスを……」

 いやいやいやいやちょっと待ってよ。男のくせにそんな色っぽい唇で迫ってきて、いやちょっとどこにキスする心算なの。





「うはああああ〜っ!?」
「ひゃん! もう、薫子ちゃん、いきなり起きないでよ〜


 え……あれ、千歳? 何だこの状況? そ、そうだよね、夢だよね。……って。

「千歳、何時帰ってきたの?」
「ついさっきだよ。朝御飯の時間になっても薫子ちゃんが起きて来ないって云われて、私が起こしに来たのだ」


 えっへんと胸を張る千歳を見た後、枕元に置いてある目覚まし時計に視線を移す。カチリと小さな音が聞こえた。

「おわっととと! 久しぶりだねこの展開は!」

 時間差で鳴り始めた目覚まし時計の頭を叩きながらも、あたしは一抹の寂しさを感じていた。千歳に起こしてもらうのは、これが最後なんだって気が付いたから。

「薫子ちゃんは相変わらずだねぇ。私が居なくても大丈夫か心配になっちゃうよ」

 目覚まし時計を止めている間にあたしの制服を用意していた千歳は、けらけらと笑いながらそんな冗談を云う。

「ちょ、変なこと云わないでよね。こんなのが千歳の未練になったりしたら、あたしは泣くに泣けないじゃないの」
「うん、だからちゃんと史にお願いしておくね」
「それはそれでどうなんだ……」
「あっ……ちーちゃんの方が良い?」


 ……っ!! いかん、夢を思い出してしまった! 煩悩退散、煩悩退散……。
 薫子ちゃんが赤くなった、と云う千歳の呟きは聞こえない振りをした。ここで突っかかったら更に墓穴を掘りそうな気がする。

「千歳お姉さま、薫子お姉さまはお起きになられましたか?」
「あっ史ちゃん。おはよう」
「おはようございます、薫子お姉さま」
「着替えたら直ぐに行くから、もうちょっと待っててね」


 頭を下げて廊下を戻っていく史ちゃんを見送ってから、大急ぎで身嗜みを整える。今日は確り食べておかないと、色々と大変なことになりそうだからね。ホームルームの後は終業式、暖房が有るとは云えそれでも寒い体育館の中でずっと立ちっぱなしになるんだもの。



 朝食を終えて一息吐いて、いつものようにみんな揃って登校する。

「あ〜、結構曇ってますね〜」
「これはもしかすると、本当にホワイトクリスマスかもしれないわね」


 千歳と一緒に寮から出ると、先に出ていた陽向ちゃんと沙世子さんが空を見上げて呟いていた。もやもやとした雲が出ているけれど暗いと云うほどじゃない、中途半端な空模様。でも三年も聖應で暮らしていると、何となく雪になりそうだって分かってしまう。

「千歳」
「何〜?」


 あたしは靴の爪先をトントンやっていた千歳に声を掛けて近寄ると、昨夜思っていたこと……マフラーを二人で巻く為に千歳の首にマフラーを掛けた。千歳は踵を指で直す為に俯いたので、これ幸いとクルッと一巻き。逃げられないうちにあたしの首にも巻く。千歳はちょっと驚いていたけど、直ぐに笑ってあたしにぴったりくっついてきた。
 おおう、実際にやってみると恥しいぞコレ。何よりもまず体を寄せておかないといけない訳だし、歩いてる時に邪魔にならないように自然と手を繋ぐことになる。

「えっへへ〜」
「あら……二人とも仲良しさんですね。私も優雨ちゃんとしようかな」
「いやいや、身長差が有ると無理ですよ。私と香織理お姉さまでもちょっと無理ですね」
「あら陽向、私とマフラーを巻きたいの? 首が絞まっちゃうわよ?」


 こう、きゅっと。手の動きを加えながら呟く香織理さんに怯えて陽向ちゃんが逃げていく。何をやっているんだか……。さて、あたしたちも行きますかね。

「お姉さま方、おはようございます!」
「ご機嫌よう、お姉さま方」
「みんな、おはよ〜」
「おはよう。あんまり走らないようにね?」
「はい、失礼します!」


 下級生の子に手を振りながら答えてあげると、きゃーと歓声を上げながら走っていく。おいおい、今走るなって云ったばかりでしょうに。こっちには怖〜い副会長さまが居るのだよ?

「……何?」
「いや、注意しなくて良いのかなって」
「誰だってこんな日に怒られたくないでしょう? それに、怒る方だって嫌な気分になるんだから」


 ま、それもそうか。誰だって怒りたくて怒ってる訳じゃないんだし。
 昇降口に入って靴を変える為にマフラーを外そうとしたら千歳が膨れたので、仕方無しにそのままで教室へと向かう。みんなに冷やかされるだろうけれど、偶には開き直ってみるのも悪くないだろうから。

「みんな、おはよう」
「おはよ〜」
「おはようございます、薫子さん、千歳さん」
「おはよう、二人とも。今日は随分と珍しい格好だね?」


 教室に入って挨拶をすると、直ぐ其処の席――聖さんの席だ――で喋っていた茉清さんと聖さんが振り向いた。やっぱり挨拶だけじゃ済まなくて、茉清さんがチクリと刺してくる。

「んふふ〜、私と薫子ちゃんは切っても切れない仲なんだよ〜」
「はいはい、暖房も効いてるんだからもう外すわよ」


 マフラーを外してコートを脱ぎ、取り敢えず机の上に置いておく。小さく固まってそれぞれ喋っていたクラスのみんなが自然とあたしたちの所に集まって来る。

「いよいよ今日ですね」
「今日は私たちもお二人に声を掛けますから、宜しくお願いしますね?」
「あはは、お手柔らかに


 こよりさんや彩子さんが声を掛けてくるけれど、暗黙の了解として下級生の子優先ってことは分かってるだろうから、踊る機会は訪れないかもしれない。今年は千歳と二人で踊る分、去年の倍はみんなのリクエストに応えられる訳だけど……さてさて、どうなるか。

「う〜、今から緊張してくるよ」
「薫子さんは、成績表の方が気になるんじゃなくて?」
「そっちはもう気にしないことにしたの。人事は尽くしました!」
「後は天命を待つのみ、か。潔いと云うよりも投げ遣りな感じだね」


 良いんだ、あたしの二学期の勉強は期末考査の時点で終わってるんだから。

「千歳さんの方は大丈夫ですか?」
「バッチリ! 後は悔いを残さないようにするだけだね!」
「それはそれは。薫子さんも見習わないと」
「そうだね。あたしが自信無さ気だと、誘う方も気後れしちゃうもんね」


 不安や寂しさを面に出さないように頑張らないと、ね。楽しい思い出になるようにさ。



 終業式とロングHRが終わった後は、降誕祭のミサが始まるまで自由時間になる。ミサが始まるのは16時半、ダンスパーティーが始まるのは18時半だ。お昼をゆっくり食べたとしても、時間はたっぷりと余っている。
 家の近い子は一度帰って色々と準備を整えたり、そうでない子は部室や教室等の場所で時間を潰したりする。あたしたち寮生は一度帰って荷物を置いてくるのがお決まりの行動だ。
 勿論、あたしも寮に戻って荷物を置き、時間が来るまで身体を休めていようと思っていたのだけれど。

「あれ? ねえ史ちゃん、千歳はどこに行ったのかな」

 お昼を学院の食堂で食べ終わった後、鞄を置きに寮に戻ってきたのだけれど、居ると思っていた千歳が居ないのだ。食堂に居た史ちゃんに尋ねてみても――

「申し訳ございません。お昼を過ぎてからは、史もお姿をお見かけしておりません」

 ――と、手がかり無しだった。史ちゃんの入れたお茶を飲んでいた香織理さんと陽向ちゃんも千歳を見ていないらしい。

「一人になりたいのではないのかしら?」
「最後に、学院を見て回っているのかもしれませんねぇ」
「……そうだね。でも、独りで居させるの、あたしは嫌だな」
「……そう。なら、頑張って見付けてあげなさい。でも、ちゃんと体力は残しておくのよ?」
「うん。それじゃ、ちょっと出てくる」


 寮の玄関を開けて再び外に出る。……さて、どこを探そうか。
 学院の外で時間を潰そうと桜並木を歩いている生徒たちに挨拶を返しながら、ふと空を見上げる。朝よりも雲が厚くなって、本当に雪が降ってきそうだな……。

「……あっ!」

 思わず声を上げて指を差した。指の先、校舎の屋上に千歳の姿が有る。あたしの声が聞こえたのか、千歳もあたしの方を見て手を振ってきた。なんだよもう、あんなところに居て。風だって吹いてるのに体調を悪くしたらどうするのさ。
 直ぐに校舎に入って靴を履き替え、屋上を目指して階段を上る。一段飛ばしでギリギリ走ってない程度の早さで――むう、一気に屋上まで上るとちょっと疲れるぞ。

「千歳、こんな所で何してるの。寒いでしょ?」
「薫子ちゃん。でむかえごくろ〜」
「何云ってんの」


 扉を開けて屋上に出ると、下で見た位置と変わらない場所に立っている千歳があたしの方に振り向いた。飛ばす軽口に口を尖らせながら直ぐ傍まで近寄ると、千歳の柔らかそうなほっぺが赤くなってるのが分かった。

「ああ、もう……冷たくなってるじゃん」
「うひゃっ……薫子ちゃんの手も冷たいよ」
「心が温かい証拠っ!」


 あたしは巻いていたマフラーを半分解き、背中に回って朝のように千歳へと巻き付ける。そのまま千歳の肩に顔を乗せるようにして、後ろから抱き付いた。

「朝より寒くなってるんだから……何を、見てたの?」
「ん〜? みんなを見てたの」
「うん?」


 みんなって、下を歩いてる子たちのこと? 視線を戻した千歳に合わせて、あたしも千歳の肩越しに桜並木へと視線を向けた。
 歩いて行く子たちはあたしたちに気が付くことも無く、楽しげに真っ直ぐ校門へと向かっていく。きっと喫茶店とかで時間を潰すんだろう。学食でもお茶は飲めるけれど、今日の賑やかさだと少人数で静かに時間を過ごすのには向いていないからね。

「本当なら、私はこうやってみんなを見ていることしか出来なかったんだよね」

 ……幽霊の、視線か。誰にも気付かれること無く、空からじっと見るだけの存在。

「……ほら、千歳。ここは寒いからもう帰ろう? ダンスパーティーが始まるまでに風邪とか引いたら大変だよ」

 あたしは何か声を掛けようとして……結局、全然別の言葉で誤魔化した。慰めるのは違うと思うし、だからって気の利いたことを云える訳でもないから。

「……そうだね。もう校舎は見回ったし……食堂でみんなとお話しようっと」
「そうそう。史ちゃんが温かいお茶を用意してくれるからさ」
「あ〜、そう云えばクッキーの生地がまだ余ってたっけ」
「おっ、それは良い。焼いてよ千歳」
「……薫子ちゃんは食いしん坊だねぇ」


 千歳に抱き付いたままでクルリと方向転換、背中を押すようにして出入り口まで一緒に歩く。傍から見ればラブラブなんだろうけれど……今は、誤解されてもいいから一緒に居たいな。







 一週間続いた降誕祭礼拝も今日で最終日と云うことで、あたしの他にも多くの人が礼拝堂に集まっていた。日没と共に始まるミサは、シスターの説話を聞く人や熱心に祈る人など様々だ。
 あたしはどちらかと云うと祈りを捧げる方なので、隅の方にある席にこっそりと座る。まさかここでファンが騒ぎ立てることも無いだろうけれど、中央付近に行けばどうしたって目立っちゃうからね。
 あたしはシスターの説話を聞きながら目を閉じて、これまでのこと、これからのこと、千歳のこと……色々なことを祈った。支離滅裂で神さまも呆れちゃうかもしれないけれど、まあこれがあたしなのだから仕方が無い。……神さま、開き直ってごめんなさい。

「随分と熱心に祈っているんだね」
「……っ!? な、何だケイリか……驚かせないで」


 あっぶないなあ……この場で大声を出してたら顰蹙どころの話じゃないよ。抗議の意味を籠めて唇を尖らせると、ケイリはいつもの笑みを浮かべて謝ってきた。

「ゴメン。お祈りが済んだところを見計らった心算なんだけどね」

 いつから隣に居たのか知らないけれど、お祈りをしている姿を見られたかと思うと妙に気恥ずかしい。ケイリがお祈りしている姿は良く見るけれど、あたしが祈ってるところなんてもの凄いレア物だろうし。
 どうやらあたしは結構な時間を祈っていたようで、それから然程時間が経たないうちにミサが終わった。後ろの隅に座っていたのでみんなより一足早く礼拝堂の外に出る。

「あ……降ってきたか……」
「雪ですか。どうりで静かだと思った」


 隣に立ったケイリと二人、雪が降ってくる空を見上げる。結構大きめの粒だな……長く降ると積もりそうだ。どうやら無風に近いらしく、真っ直ぐに降ってくる。

「何かさあ、こうして大きめの雪が真っ直ぐ降ってくるのを見るとさ……綿埃が降ってくるみたいじゃない?」
「……薫子、もう少しマシな例えようが有るでしょう?」
「綿みたいだから綿雪って云うんでしょうよ」
「それは、そうなんだけどね」


 苦笑するケイリに手を振って別れた後は、ダンスパーティーの会場である体育館へ向かう。エルダーはみんなの出迎えと云う役が有るので、色々と準備が必要なのだ。
 髪や服に雪を積もらせるのも嫌なので、暗くなった道を早足で体育館へと向かう。すると、何故か傘立てを持って同じように体育館へと向かう生徒を見付けた。……あれ、さくらちゃんじゃないか。

「さくらちゃん、その傘立てどうしたの?」
「ありゃ、薫子お姉さま。丁度良いところに!」


 あたしに気が付いたさくらちゃんが嬉しそうに笑う。傘立てを抱えたままあたしに近付くと、それをあたしの足元に置いた。

「いえね、雪が降ってきた所為で体育館に有る傘立てだけじゃ足りなくなるだろうってことで、副会長の命令で集めているところなんですよ」
「……そりゃまた大変だね」
「と、云う訳で有りまして、宜しくお願いしますです」
「えっ」


 ……う〜む……エルダーに荷物もちをさせる生徒なんてさくらちゃんだけかもしれない。苦笑しながら傘立てを抱えると、さくらちゃんは再び校舎の方へ走っていった。
 歩き難くなるような大きさでもないので、普通に抱えて体育館へと向かう。やがて、現場指揮をする沙世子さんの声が聞こえてきた。

「足拭き用のマット、足りないわよ。……そこ、傘立てはもっと端に寄せて」
「沙世子さんお疲れ〜。この傘立てはどこ?」
「ああ、その大きさならそっちの……何してるの、薫子さん」
「いや、さくらちゃんに頼まれてさ」
「……」


 あっ……沙世子さんの額に青筋が! あ〜あ、でもあたしの所為じゃないからね。あたしはただ頼まれただけだから。さくらちゃん、ご愁傷さま。

「ダンスパーティーは貴女たちが主役なんだから、こんなところで無駄な体力は使わないで。全くもう……」
「これくらいなら平気だって。それより、大変そうだね?」
「まあね……ここ何年かはずっと晴れだったから、雨や雪の時の経験者って居なくて」


 傘立てや足拭きマットなど、指折り数えながら指示をする沙世子さん。設営の責任者ってのも色々と大変だよね。

「あれ、薫子ちゃんもう来てたんだ」

 聞き慣れた声に振り向くと、体育館の軒先で傘を畳んでいる千歳の姿が有った。靴がちょっと汚れているところを見ると、この雪の下であちこち歩き回っていたのかもしれない。

「傘はこっちで良いの?」
「三年生はそっちの端の方にお願い。人数が多いから、ちゃんと分けておかないと大変なのよ」
「は〜い」


 千歳が沙世子さんに示された傘立てに近付くのを見てから、視線を空へと戻す。どうも、直ぐには止みそうにない。

「正面入り口じゃなくて、渡り廊下の方の入り口を使えれば楽なのにね」

 校舎の方から渡り廊下で入場させれば、こんな傘立てとか足拭きマットとか必要無いのになあ。沙世子さんにそう云ってみると、そもそも校舎の方は下校時間になれば扉を閉めるので使えないらしい。それに、結構な人数が集まるから渡り廊下側の狭い入り口じゃ色々と大変なんだそうな。

「付け加えて云うなら、この広い扉でエルダーが生徒を迎えるのが伝統だから」
「伝統か……」
「エルダーが二人だから、あっちとこっちで分けても良いわよ?」
「え〜、私は薫子ちゃんと一緒が良いなあ」
「っと、後ろからいきなり抱き付かないでよ、千歳」


 不意打ちは危ないっての。背中に圧し掛かってきた千歳を押し返して顔を上げると、苦笑している沙世子さんが手を振って追い払うような仕草をした。準備の邪魔をしちゃ悪いし、さっさと中に入って初音にも声を掛けておかなきゃね。



「沙世ちゃん、準備は良い?」
「こっちはOK」
「薫子ちゃん、千歳ちゃん」


 初音の問い掛けに無言で頷く。生徒会とダンスパーティー実行委員会の面々を見回した初音は、胸の前で拳を握ると軽く咳払いし、開場の言葉を告げる。

「それでは、これから開場します。生憎の天気で色々と不都合も有ると思いますけれど、気を付けて怪我や事故などの無いようにお願いします」

 はい、と綺麗に揃った返答を聞いて、初音はもう一度軽く頷いた。沙世子さんたちが扉を開けてみんなを迎え入れる準備をする中、あたしと千歳も扉の脇に控えて深呼吸なんかをしていたりする。

「うう、緊張するねぇ」
「さっきまで笑ってたくせに」
「む〜、薫子ちゃんこそさっきまで緊張してたじゃん」
「ふっ、あたしは舞台度胸が有るのさっ」


 まあ格好付けて云ってみたところで、その場の勢いに任せているのは変わらないんだけど。……おっと、こんな話をしている場合じゃない。開場前から入り口で待っていた気の早い子たちを迎え入れる為に、スマイルスマイル。

「こんばんは。今日は楽しんでいってね」
「ありがとうございます、お姉さま」
「外は寒かったでしょ? ちゃんと温まってね。……手、冷たくなってるよ?」
「あっ……!」


 女性用のステップを覚えた証である白い夏服を着た子が、ちょっと体を震わせながら入って来る。その子の手をさり気無く取ってフッと息を吹き掛けた。一々こんなことをしてたら大変だけど、開場前からずっと待ってた子へのサービスみたいなものだ。
 真っ赤になって足早に体育館の奥へと向かうその子を見送っていると、背後から強烈な視線を感じた。

「……はっ!?」

視線を戻すと、期待に満ちた目で手を差しだしている子たちと、その後ろで冷めた目をしている千歳が目に映る。結局、息を吹き掛けることはしないけど、一人一人の手を取って軽く握手してから体育館に迎え入れると云う簡単な握手会になってしまった。
 千歳だって楽しそうだから別に良いじゃない。ねえ?

「あら、どうしたのこれ?」
「盛況ですねぇ」
「香織理さん、陽向ちゃんも。いらっしゃい」


 時間の経過が分からなくなってきたところで、入場者の中に見知った顔を見付けた。案の定と云うか何と云うか、呆れた顔をしている香織理さんの手を取って軽く握手する。

「体育館で千歳お姉さまと握手!」
「お〜、陽向ちゃんの手は温かいねぇ」


 戦隊ヒーローの握手会みたいなノリで喋る陽向ちゃん。確かにエネルギーが溢れてそうな陽向ちゃんの手は温かそうだ。香織理さんは……。

「何を云いたいのか何となく顔で分かるけれど」
「あはは、二人とも楽しんでいってね」


 二人を見送ってから暫くすると、ケイリと史ちゃんと云う珍しい組み合わせが現れた。二人とも白い制服を着ている。ケイリは冬服で来ると思ってたけど違ったみたいだ。

「千歳お姉さま、薫子お姉さま、ご苦労さまです」
「やあ二人とも。大変そうだね」
「ケイリちゃん、史、いらっしゃい」
「二人が一緒なんて珍しい組み合わせだね? 別にパートナーって訳じゃないでしょう?」


 もしそうだったら、片方が黒い冬服を着ている筈だ。手を取りながら問い掛けると、ケイリは軽く笑って冬服から夏服に着替える為に寮を借りたと説明してくれた。

「でも意外。ケイリは冬服で来ると思ったのに」
「ふふっ……それだと、薫子や千歳と躍るときに様にならないじゃないですか。それに冬服を着ていると人が多く集まりそうですし」
「ああ、そう云うこと。……まあ、楽しんでいってね」


 冬服を着てたら男性ステップを覚えたってことになるから、夏服を着た女の子に囲まれちゃったりするんだよね。ケイリは水泳部の後輩たちから人気が有るって陽向ちゃんから聞いたことが有る。要するに、多くの人と踊るのを避けるためなんだろうな。

「あら……あれはケイリさんですね。夏服での入場ですか」

 二人が体育館の奥へと歩いていくのを見送ると、今度は雅楽乃さんと淡雪さんが現れた。こちらは冬服で参加らしい。

「お姉さま方、ご機嫌よう」
「こんばんは、お姉さま方」
「いらっしゃい、二人とも」


 あたしは雅楽乃さんの手を、千歳は淡雪さんの手を取って軽く握手する。二人ともちょっと驚いていたけれど、素直に受け入れてくれた。

「二人は冬服で大丈夫なの? 特に雅楽乃さんなんて結構な人気者なんだし」
「あはは……御前は夏服を着てても人が集まりますから。それなら寒さ対策の為に冬服の方が良いかなって相談して」
「あら、雪ちゃんだって下級生の子から迫られていたじゃありませんか」
「わわっ……ばらさないでよ。……ええっと」


 雅楽乃さんの言葉を遮った淡雪さんは、上目遣いで千歳を見た後に思い切って手を差し出した。

「千歳お姉さま、今日は宜しくお願いします!」
「うん、また後で、ちゃんと迎えに来てね」
「はいっ」


 告白だけで疲れたのか、慌てた感じで体育館の奥へ向かう淡雪さん。あたしたちはそれを見送ってから、雅楽乃さんがあたしたちと一緒に苦笑しているのに気が付いた。

「ふふっ……置いていかれちゃいました」
「ははっ……それじゃ雅楽乃さんも楽しんでいってね」


 入場する人の流れが落ち着いて来た頃になると、一人一人の様子を伺いながらの出迎えが出来るようになる。それを見越したかのように比較的遅めに会場入りする子も何人か居て、その中には茉清さんと聖さんとか、桂花さんとフェンシング部の次期部長とかの組み合わせも居た。

「人気者だからあんまり注目を浴びたくないってところかな?」
「ははっ、私も自分がこんなに人気者だなんて知らなかったからさ」
「ま、桂花さんも冬服を着てるんだ。集まられる覚悟はしておくんだね」
「分かってるって。……いこ、香月」
「はい。それじゃお姉さま方、また後で」


 ああそうそう、西宮香月――にしみやかつき――ちゃんだったね。直ぐに名前が出てこなかった。影が薄いと思ってたけど、競争率の高い桂花さんをゲットするなんて中々やるじゃない。



「それでは、今年最後のイベント、降誕祭ダンスパーティーを開催します。今日のこの夜が素敵な思い出となりますように、心ゆくまで楽しんで下さい!」

 緋紗子先生と初音の挨拶が終わると、いよいよダンスパーティーの始まりだ。千歳と一緒に居ると人が多く集まる為、少し距離を置いてみんなが来るのを待ち受ける。

「お姉さま、私と踊って下さい!」
「私とお願いします、お姉さま!」
「うわっ……と」


 怖っ。人がどっと押し寄せてくるのはやっぱり慣れないもんだなぁ。目を輝かせながら詰め寄ってくる子たちの、さて誰から踊ろうかと考えていると、不意にあたしの前に手が伸びてきた。
 みんなの動きが一瞬止まる中で、あたしはその手の持ち主を見る。口下手なのか、必死な表情でぎゅっと口を閉じているその子を見て、あたしはその手を一番最初に取ることに決めた。

「あっ……」
「ふふっ……貴女、中々分かってるじゃない。口より先に手を出すっての、気に入ったよ」
「あ、ありがとうございます!」


 そうして最初の曲が流れ始める中、あたしは名前も知らないその子と一緒にフロアへと進み出たのだった。



 どうやら余計な一言だったみたいで、次の相手を選ぶ時には無数の腕が伸びてきたんだけどね。詰め寄られるより怖かったよ……。




**********

 軽く見直しただけなので、誤字脱字が多いかも……。
 桂花さんは名前こそ出てこないものの、原作ゲームでもダンスを誘おうとしていた生徒が居ましたよね。西宮香月は名前だけのチョイ役。どこかで聞いた名前だけど気にしないように。

 次話も纏めて書いていましたので、明日か明後日には上げられると思います。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
薫子さん、
綿雪を見て綿埃と言う例えがすぐに浮かぶということは綿埃を見慣れているというわけで、
つまり薫子さんの部屋は綿ぼこ…ケホン、まっしろしろすけ(まっくろく○すけの白Ver)が群生していて、
ゆくゆくは小トト○(白い方)が現れるのですね、埃で(笑)
ナカユウ
2012/12/19 11:04
ナカユウさん、こんばんは。

薫子の部屋は品物が少ないし、去年までは奏が、今年は史が勝手に掃除をしているんじゃないかと思います(笑)
もっとも、部屋は綺麗でも寮の掃除とかで見慣れていると思いますけどね。薫子は背が高いので、必然的に高い所をハタキとかで埃を落とす役目を振られそうなので。

次は頑張って今日中に上げる予定ですが、無理だったら許して下さい(笑)
では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2012/12/19 19:17
こんばんは。

次を急がなくてもいいと思います。
終わりはいつか来るとしても、それを急ぐ必要はないのです。
別れを急ぐ事はないのです。

…まあ、途中で途切れてしまうのも、困ったりするんですが…^^
えるうっど
2012/12/19 21:04
えるうっどさん、こんばんは。

……悲しいけど、決定事項なのよね。と言うか、一話で纏めきれないくらい長くなったので、無理矢理二話に分けたものですから……。
先程アップしましたので、そちらの方もよろしくお願いいたします。
では、またお越し下さい。
A-O-TAKE
2012/12/20 20:14
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