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zoom RSS 妃宮さんの中の人 エピローグ

<<   作成日時 : 2013/04/18 22:01   >>

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 一応の区切りとして、今回が最終回となります。

 物語の締め方って難しいですよね。こういうのも何度も経験しないと駄目なんだろうな。

**********



 とある日曜日の朝早く、あたしは千早と史ちゃんに連れられて、御門邸へと足を運んでいた。

「いらっしゃい、薫子ちゃん。待ってたわよ〜」
「は、はあ……えと、お邪魔します」
「あらあら、そんなに畏まらないでちょうだい。今日から此処は薫子ちゃんのお家でもあるんですから」
「あ、あはは……そ、そうですね」
「私のことも、お義母さんって呼んでいいのよ?」


 それはまだ早いと思います、と云う言葉をあたしは何とか飲み込んだ。すっかりその気になっている妙子さんにそんなことを云っても意味が無いだろう。
 あ、云っておくけども、千早と結婚したわけじゃないし、そもそもエッチなことだってしてないからね。……世間的に見れば、まあ、許婚ってことになるんだろうけどさ。
 本当、どうしてこうなった?





 あの慌しいバレンタインデーの後、あたしは意気揚々と寮へと帰ってきて、みんなに報告をした。みんなは自分のことみたいに喜んでくれて、これで何の心配も無く卒業出来る……なんてことにはならなかった。何故かって云うと、住む家は兎も角として、同居してくれる人間が見付からなかったのだ。
 あたし的には大本命だった香織理さんは、

「嫌よ。薫子と一緒に住むと、可愛い女の子を家に呼べなくなるじゃない」

 ――と、本気なのか冗談なのか分からない言葉であっさりと断られてしまい、それじゃ仕方が無いと初音を見ると、

「ゴメンね、薫子ちゃん。私はもう大学の傍にマンションを借りて、沙世ちゃんと一緒に住むことが決まってるの」

 ――なんて、とんでもないことを仰った。あたしは勿論のこと、香織理さんたちも初耳だったみたいで、思わず沙世子さんの方に視線を向ける。

「は、初音のご両親から頼まれたのよ。初音の一人暮らしは不安だから、面倒を見て下さいって。云っておくけど、私の方から頼んだんじゃないわよ? 家賃だって初音と私で折半だし……」
「あ〜、うん、もう分かったから」


 上手くやったなあ、て感想しか出なかった。聖應に通っている以上は沙世子さんの家だってそれなりのお金持ちだろうけれど、出費を減らせるのなら、それに越したことはないからね。沙世子さんにしても初音と一緒に生活出来るなら万々歳だろうし。

「駄目元で、みんなに聞いてみるかな」

 まあ、この時のあたしはまだまだ余裕が有った。
 しかし週が明けてから友だちに聞いて回ってみると、聖應の大学部に進学する殆どの人は、家から直接通うことになっているらしいのだ。
 良く良く考えれば聖應に通う人はお嬢様が多いわけで、そんな人たちが親元を離れて一人暮らしをするかと云われれば、答えは否なのである。
 聖應は大学部からは一人暮らしもOKなんだけど、高等部は一人暮らしを認めていない。高校卒業と同時にぽ〜んと家から放り出されて一人暮らしが出来るような、そんな生活能力の有るお嬢様は少ないのだ。
 ……実は、生徒の中にはこっそり一人暮らしをしている人も居るのだが。

「悪いね、薫子さん。私は結構ずぼらだし、家では誰にも拘束されずにのんびり過ごしたいから」

 茉清さんにはそんなふうに断られてしまった。
 実は一度だけ茉清さんの家に云ったことがあるんだけど……茉清さんは「片付けられない人」だったのだ。家が汚いと云う意味ではなく、本棚から溢れて床に直接積まれた雑誌やら、見なくなったのだろう古いビデオやらが沢山有った。
 きっと捨てられないんだろうな〜などと当時のことを思っていたら、あたしの表情を見た茉清さんが苦笑しながら、最近は聖さんが遊びに来るついでに部屋を片付けてくれるんだとか何とか云っていた。これって惚気なんだろうか?



 まあ、そんなこんなで友だち関係も全滅だった。厳密に云えば「薫子さんと暮らせるなら家出します」なんて過激なことを云う友だちが居たけれど……本人の名誉の為にそれが誰かは伏せておく。
 結局のところ、卒業式を間近に控えた三月になっても同居人を見付けることは出来ず、あたしはある日の夜のお茶会で千早に泣き付いたのだった。

「助けてちはえも〜ん!」
「誰ですか、それ」
「……史えもんの方が良かったかな?」


 真顔で返されてしまったので、取り敢えず史ちゃんの方へと振ってみる。紅茶を淹れていた史ちゃんは一度その手を止めた後で、史でお役に立てるのならば、と生真面目な返事をしてくれた。
 ちなみにお茶菓子はバレンタインの時のチョコだ。少しずつでも食べないと減っていかないからね。生チョコやら手作りチョコなんかの日持ちのしないものはとっくに食べ終えて、今は値段と内容量が半比例する高級チョコを食べている。
 あたしが作ったのなんかよりもずっと美味しいチョコを口に放り込み、史ちゃんの淹れた紅茶で口の中を洗い流す。それから千早の方へと向き直り、きゅっと顔を引き締めた。

「千早、お願いがあるんだ」
「……はい」


 あたしの顔を見て大事な話だと思ったのか、千早が居住まいを正してあたしの顔を見た。……そんなに見詰められると恥かしいけれど、ここはハッキリと云わなきゃいけない。史ちゃんも自分の紅茶をテーブルに置いて、あたしの方を向いた。

「あ、あたしと……その、だね……」
「私と?」
「あたしと、一緒に暮らしませんか!」


 ぐあ〜! やっぱりめちゃくちゃ恥かしい! ど、ど、同棲して下さいなんて……今直ぐそこのベッドに飛び込んでゴロゴロしたい! あれ千早のベッドだけど!
 顔が赤くなってるのを自覚しつつ、ぎゅっと目を瞑りながら千早の返事を待つ。……遅いな。何か云ってくれても良いじゃないか。

「……えっと、薫子さん」
「は、はい!」
「僕、留学するって……知ってますよね?」


 その言葉が呆れを含んだものだったので、あたしは思わず目を見開いて千早に詰めよってしまった。

「知ってるよ! あたしは千早にずっと居てもらいたいけど! そうじゃなくて、時間稼ぎだと思って、留学するまでの間で良いから! ねっ!」
「いや、ねって云われても」


 ちょっと赤くなった千早が、それでもあたしから目を逸らしながら、ブツブツと煮え切らない態度で文句を云う。あたしは何だか急に悲しくなって、千早の肩を掴んでいた手を離すと、ゆっくりと椅子に座りなおした。

「何よ、あたしと生活するのは嫌?」
「い、嫌じゃありませんよ。その、僕も男ですから」


 あ、何だ。ちゃんとそう云う対象としてくれているんだね。キスだって数えるほどしかしてくれないから、千早も所謂「草食系男子」かと思ってたんだけど。
 あ、あたしは千早がどうしてもっておねだりするなら、そういうことをするのも吝かではないですよ?

「薫子お姉さま、話がずれています」
「あ、ああそうね。うん。まあ……だからその……駄目?」
「うっ……上目遣いはずるいですよ」


 ちっ、女の武器も駄目か。

「家に戻るのが嫌だと云うのは良く分かりましたけど、それでも同居人が見付かるぐらいまでは、家に戻っても良いんじゃないですか?」
「駄目! あたしの性格的に、そのままズルズルと家に居続ける感じがするもん!」
「いや、それは胸を張って云うことじゃないでしょう」


 だって、本当にそう思うんだもん。自分でも口が上手い方じゃないってのは分かってるし、親爺も見合いの話を取り止めにしてくれたから、家に居るだけならば問題は無いのだ。まあ、友だちを家に呼べないと云う大きな欠点は有るのだが。
 肩を落として紅茶を啜る。気分が下向いてても、史ちゃんの淹れた紅茶は実に美味しい。

「薫子お姉さま。一つ、宜しいでしょうか」
「ん? 何、史ちゃん」
「先程から同居人を探すと云うお話をしておりますが、薫子お姉さまがホームステイをする、と云うのは駄目なのでしょうか」
「ホームステイ……居候のこと?」
「厳密には、その二つは違うものではありますが」


 ふむ……それは考えなかったなあ。聖應の大学部が有る場所は、此処――浦和区桜台――と同じで周りが高級住宅街になっている。まあ、それだけ家と学校が近いから、寮に入る生徒が少ないんだけど。
 嘘か本当かは知らないが、大学部に寮が無いのも利用者が居ないからってことらしいし。この高等部の寮を見れば、その理由にも納得がいくけどね。

「ちょっと、史。まさか……」
「はい。御門のお屋敷に、薫子お姉さまをお招きすればいかがかと思いまして」
「えっ? あたしが、御門の家に住む?」
「史、自分が何を云っているのか分かっているのかい?」
「はい。ですが、千歳さまも旦那さまも居らず、千早さまも海外に行くとあっては、奥さまが――」
「史」


 千早が史ちゃんをじろりと見て、いつもの温厚な感じとは比べ物にならないくらい低い声で嗜めた。何て云うか、誰が聞いても怒ってると分かるような声だ。

「……申し訳有りません。出すぎた真似を致しました」

 史ちゃんは直ぐに椅子から立って、深く頭を下げると、そのまま千早の視界の外に回ってしまった。

「ちょっと千早、そんなに怒らなくても良いじゃない。史ちゃんはあたしや妙子さんのことを考えて云ってくれたんでしょ?」
「ええ、それは分かっています。ですが、薫子さんに迷惑が掛かるようなことをお願いする訳には」
「ん? あたしに迷惑が掛かることなの?」


 特にそうは思えないけどな。あたしとしても住む場所が有って助かるし、妙子さんの話相手をするくらいなら喜んで付き合うけど。
 あたしが首を傾げると、千早はやけに大きな溜め息を吐いて、頭痛を堪えるように額の辺りを指で擦りながら口を開いた。

「僕としては実に馬鹿らしいことだと思っているんですが、御門の家も、母さんの実家だった妃宮の家も、由緒有る古い家系でしてね。色々と柵があるんですよ」
「柵ねえ。例えば、結婚を前提としたお付き合いじゃないと駄目とか?」


 あっはっは、まさかねぇ。今更そんなこと云わないでしょ。

「当たらずとも遠からず、ですかね」
「えっ」






 はい、回想終了。

 一日に亘って妙子さんの熱烈な歓迎を受けたあたしは、疲れた身体を引き摺って、千歳の使っていた部屋へと辿り着いた。
 千歳がいつか元気になったときにと用意されていた部屋は、千歳が千早に憑依するようになった後も、結局は数えるほどしか使われなかったらしい。千早の体調を考慮して、千歳がずっと憑依しているということは無かったらしいから……。
 そのままにしていても仕方が無いから、千歳の友だちだったあたしに使って欲しいと云うことだった。

「ふみゅう〜」
「大丈夫ですか、薫子さん」


 千早が見ていると分かってはいるが、脱力してベッドの上に転がるのを止められない。

「歓迎はとっても嬉しいけどさ。妙子さんって本当にパワフルだよね」
「ちょっと反省しています。やっぱり、寂しかったみたいで」


 そりゃそうさ。あたしだって千早と遠距離恋愛になるのは寂しいもん。それはそれとして、まさかお風呂まで一緒に入ることになるとは思わなかったけど。
 余談だけど、とても二児の母とは思えませんでした。あたしには母親の思い出が無いからよく分からないけれど、世間一般のお母さんとは全く違うと云うことだけは分かった。今からでも兄弟を作れそう……ってのは流石に下品だけど。

「それにしても……縁もゆかりも無い人物を下宿させる訳にはいかないとは云え、形だけでも許婚になる、なんてことになるとは思わなかったよ」
「本当は、許婚になるにもちゃんとした席を設けて親族に発表するんですよ?」
「うへえ……」
「他にも、お見合いと云う形で両家の親を揃えて――」
「ゴメン、もう許して」


 今はそう云う話をしたくないです。嬉しいか嬉しくないかで云ったら勿論嬉しい。でも、あたしは親爺に好きな人が居るとしか云ってない訳で、それが一月も経たないうちに許婚になりましたとか……どう説明しろと云うのだ。

「やっぱり、後悔してますか」
「とんでもない!」


 千早が寂しそうな声を漏らしたので、思わず飛び起きて真正面からその顔を覗き込んだ。

「あたしは千早が大好きだもん。後悔なんかしない」
「……ありがとうございます」


 うっ、ほにゃっとした顔で笑うと千歳そっくり。照れるなあ、もう。

「ふん。どっちかって云うと心配なのはあたしの方だよ。アメリカに行って浮気とかしない?」
「しませんよ」
「……男の人にお尻を狙われたりしない?」
「ちょっ、なんてこと云うんですか!?」
「だって千早のお尻って何かエロいし……」


 具体的に云うと、え……うそ……今、千早の体からものすごいエロオーラが! って感じ。そんなヒップラインしてるから女の子だって思われちゃうんだよ。

「……怒りますよ?」
「あ、あはは……冗談よ冗談」


 ま、戯けるのはこれくらいにしよう。もし千歳が見てたら呆れてるだろうから。いや、案外笑ってるかな?
 机の上に乗っている写真立て……その中に入っているクリスマスの時に撮った写真。馬鹿みたいに口を開けて笑っている千歳を見ながら、あたしはそんなことを思っていた。









 それから、ほんの少しの時間が過ぎて。

「お〜い、まだ準備できないの〜? 置いてっちゃうよ〜」
「駄目〜! もうちょっと待って〜!」


 寮の玄関から廊下に向かって声を掛けると、二階から初音の声が聞こえてきた。初音が忘れ物をするなんてらしくないけど、卒業式となると仕方が無いのかもしれない。元生徒会長として色々とやることが有るのだから。
 そう、卒業式。高校生活も今日で最後だ。

「いつもは自分が待って貰ってるくせに、調子の良いこと云うんだから」
「……香織理さんは最後まで皮肉だよね」
「勿論。そうそう変わりはしないわよ」


 オホホ、なんてわざとらしい笑いをする香織理さん。まあ、三つ子の魂百までってことだろうね。……皮肉を云う三歳児ってかなり嫌な感じだな……。
 早咲きの桜は満開に近く、寮の前の並木道はピンク色に染まっている。校舎へと歩いて行く女の子たちが、寮の前に集まっているあたしたちを見て歓声を上げていた。

「お待たせ〜」
「お、やっと来た。もう大丈夫?」
「うん、戸締りも済ませたよ」


 玄関の鍵を締めてこちらに振り向いた初音の額が、ちょっと汗を掻いていた。今日は暖かいもんね。初音が息を整えるのを待ってから、みんな揃って歩き始める。

「それにしても、答辞の紙を忘れるなんて」
「あは……ちゃんと覚えようと頑張ってて、そのまま寝ちゃったから……」
「決められた内容をそっくり云わなくても、初音ならアドリブで大丈夫でしょう?」


 沙世子さんは初音を信頼してそんなことを云うんだろうけれど、初音は苦笑するだけで出来るとは云わなかった。
 答辞はあたしと千歳――千早が読むと云うアイデアも有ったんだけど、生真面目な千早はみんなを騙しているようで気が引けるから、と云って遠慮してしまったので、あたしも一緒に遠慮することにした。
 二人居るエルダーの片方だけだとバランスが悪いからって云ったんだけど、寮のみんなが「本当は面倒くさいだけだろう」って考えてるのは分かる……初音が涙目で恨めしそうな表情をしてたしね。

「おはようございます、お姉さま」
「今日でお別れなんですね、お姉さま……」
「おはよう。ほらほら、今から泣いてじゃ駄目だよ」


 今にも泣きそうな表情をした女の子たちに手を振りながら、みんなと分かれて3−Cへと向かう。最後の一日だと思うと、廊下の壁に有る傷にまで名残惜しさを感じてしまうな。あたしが階段を上らずに壁に手を当てているのを見て、千早が小声で尋ねてきた。

「やっぱり、寂しい?」
「そりゃあね。ここは良い思い出の方が多いからさ」


 中学時代はさっさと卒業したいとしか思わなかったもんな。懐かしいと思うことは有っても、あの頃に戻りたいとは思わない。聖應は……そりゃあ嫌なことも有ったけど、優しい場所だったもんね。

「みんな、おはよ〜」
「おはよう。今日はみんな早いね」


 千早に続いて教室に入ると、クラスメイトの大半が教室の中に居た。みんなの挨拶に答えながら机に向かい、座り慣れた椅子に座る。精神的なものだろうけど、ちょっと疲れたと感じたあたしは机に上体を投げ出した。

「おはよう、千歳さん、薫子さん……名残惜しいからって机に頬擦りする必要は無いと思うけどね」
「おはようございます、薫子さん。千歳さん。……お眠なんですか?」


 聖さんが千早に耳打ちすると、千早が苦笑して頷いている。まあ確かに、昨夜は寝るのが遅かった。別に何をしてたって訳じゃないんだけど、何となく寝るのが惜しくって……。

「おはよ〜二人とも」
「ふふっ……泣きながら縋り付く下級生の相手をするので疲れたかい?」
「そんな子は居なかったっての」


 香織理さんなら、そんな相手も居そうだけどね。顔を上げずに横目で茉清さんを見上げると、肩を竦めて首を振っているのが見えた。……この体勢も、なんか懐かしいな。

「もう、この生活も終わりなのか……『頼むから、誰か嘘だって云ってくれ……』」

 横目でチラチラと見上げながら呟くと、僅かに首を傾げた茉清さんが、不意にニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「『……嘘よ』」
「……ぷっ」
「ふふっ……そうそう、こんな感じだったわね」


 笑いながらあたしの頭を撫でてくる茉清さん。こんなふうに茉清さんから触ってくるのは珍しいけれど、それもまた名残惜しくって……目元が熱くなったあたしは、先生が来るまで机に寝転がっていた。





「お〜わった〜!」
「か、薫子さんてば……」


 卒業式が終わって会場となっている講堂を出たところで、空に向かって大きく伸びをした。千早が隣で呆れてるけど、こう云うのもお約束みたいなものだ。
 ちょっと赤くなっている目元を誤魔化す為とか、しんみりした空気を吹き飛ばす為とか、色々と理由は有るけれど。こう云うときはあたしが先頭を切った方が、みんなも気兼ねなく声を出しやすいからね。泣き笑いのような声が聞こえる中を、先に会場を出ていた初音の方へと向かう。

「お疲れさまです」
「ご苦労さまでした」


 真面目くさった挨拶をし合って、どちらからともなく笑う。優雨ちゃんと分かれるのが辛い、なんてことを云っていた初音だけど、それでも最後まで大泣きしないで済んだみたいだ。

「格好良かったぞ、初音」
「薫子ちゃんには敵わないよ」
「またそう云うことをさらっと云う……あたしは、今日は見せ場も何も無かったぞ」
「そうでもないわよ? 騎士の目にも涙って感じだったもの」


 声の方を振り向くと、香織理さんが証書筒をクルクル回しながらこっちへ歩いてくるのが見えた。香織理さんに見られてたのか……香織理さんはD組で、座ってる場所があたしよりも後ろだったからだろう。

「まあまあ、薫子さんも女の子なんですから」

 それはどう云う意味だい千早さんや。思わず唇を尖らせて横目で睨み付けると、千早はあたしの傍に近寄って、

「僕は、可愛いと思いましたよ」

 そう云って誤魔化そうとしてきた。おのれ卑怯者め、あたしがいつまでもそんな言葉に惑わされると思うなよ?

「ほらほら、二人とも目元を拭いて。そろそろ下級生たちが出てくるわよ。格好良いところを見せたいんでしょう?」
「沙世子さんはクールだよね」
「そんなこと無いよ。沙世ちゃんだって――」
「ちょ、初音! ほら、行くわよ」


 沙世子さんに口を塞がれた初音が、そのままズルズルと引き摺られていく。照れ隠しにしてもちょっと酷いんじゃないかね? まあ、あたしたちが一箇所に固まっていると、みんなも大変だろうけどさ。

「さて、それじゃ私も向こうの方に行ってるわね。私のところに来る子は少ないだろうけど、その分熱烈に歓迎してあげなきゃ」
「お〜い、卒業したからってシスターに捕まるようなことしちゃ駄目だぞ〜」


 分かってるわよとだけ云って、手を振りながら校舎の方へと戻っていく香織理さん。一体どこで何をする気なのやら。本当に大丈夫なんだろうな?

「あ、薫子さん。こっちにも来ましたよ」
「うん」


 握手をねだったり、携帯でツーショットを撮ろうとしたりと、そう云う子が沢山居るんだろう。去年、奏お姉さまが揉みくちゃにされてたのを思い出して、ちょっとだけ怖くなる。……まあ二人居るんだから、一人当たりの負担は減ると思いたい。

「さて、『千歳さん』や。最後のお仕事だよ?」
「ええ。これで『千歳さん』も最後ですからね。恥かしくないように、確りとやりますよ」
「よし。んじゃ行くか」




「お姉さま、握手して下さい!」
「お姉さま、こちらを向いて!」
「一緒に写真を撮って下さい!」
「ブラウスのボタンを……!」
「あ、ちょっと、それは駄目だってば!」















「ふふっ……好きですよ、薫子さん」

 そう、コレは夢。

「薫子さんは可愛いですよね」

 気障で皮肉屋の千早がこんな真っ直ぐな口説き方をするなんてありえないこと。

「薫子さんは、今日から僕のお嫁さんですよ」

 いやいや、夢だからって何でこんな展開なのさ。お、押し倒されるのはそりゃ嬉しくは有るけれど、結婚は千早が帰ってきてからだって決まったじゃん。

「さあ、誓いのキスを……」

 そんなことを考えている間に、千早の唇が迫ってくる。男の癖にやけに色っぽい唇が、あたしの唇へと――



「薫子さん、いい加減に起きて下さい」
「……ふあっ? ……何だ、やっぱり夢かぁ……」
「何の話ですか?」
「い、いや、何でもない」


 あ〜びっくりした。
 千早が部屋のカーテンを開けている間に、枕元の時計を取って時間を確かめる。ん、朝御飯までにはまだ時間は有るね。ベッドに座ったままでボーっとしているあたしを見た千早が、苦笑しながら近寄ってきた。

「まだ、寝惚けてますか?」
「……キスしてくれたら起きる」
「はいはい」


 ん〜……。

「……薫子さんは甘えん坊ですよね。僕、このままアメリカに行っても良いのか心配になってきますよ」
「あははっ。あたし的には、その方が嬉しいけどね〜」


 大きく伸びをしながらそう答えると、千早は肩を竦めて部屋を出て行ってしまった。む〜、ちょっと冷たいぞ。
 あたしはパジャマを脱いで部屋着に着替え、史ちゃんの作った朝御飯を食べる為に部屋を後にする――おっと、忘れてた。あたしは机まで戻ると、小さなアルバムに手を乗せた。

「んじゃ、千歳。今日も一日頑張ってくるよ」

 聖書に手を置いて誓うように。アルバムに小さく一声掛けてから、あたしは部屋を後にした。




**********

 千早のケツはエロい(爆)

 永い間お付き合い頂いてありがとうございました。妃宮さんの中の人は、今回で一応の終了となります。後はちょろっと後書きを書くくらいですね。
 ぽつぽつと全く関係の無い話を書いたりするかもしれませんが、それは当分先になるかと思います。

 ぶっちゃけた話、私は今日が誕生日なんですが……疲れました。もう本当に暫く休みたいです。
 具体的には、シュタゲの新作を遊び終わるまでは(笑)
 積みゲーが多すぎるんじゃー!


 それにしても、自分で読み返してみると……なんで打ち切りエンドっぽい話になっちゃうんだろうなあ……。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
長い間ご苦労様でした。その間本当にたっぷり楽しませてもらいました。ありがとうございます。
本編(と言っていいと思いますが)に負けない、それ以上のストーリーに一喜一憂させてもらいました。終わってしまうのが寂しいです。できたら、また続編をお願いします。
ツッチー
2013/04/18 22:46
ツッチーさん、いらっしゃいませ。

完結まで時間が掛かりましたが、楽しんで頂けたのなら幸いです。
続編の方は特に予定は有りませんが、納得のいかない部分を書き直したりはするかもしれません。
文章に修正が入った時は、その都度、分かりやすいように記事を上げるかと思います。そのときはまたお付き合い下さると嬉しいです。
A-O-TAKE
2013/04/19 21:35
長い間ご苦労様でした。
コメントを書くのは久しぶりですが、
実は毎日サイトが更新されていないか確認していました。
読書感想文は昔から苦手で、何と書いたらよいのか思いつかなかったのです。
短編や別シリーズが掲載されるのを楽しみに待っていますね。

追伸
薫子さん、『史えもん』はダメです。
「良い感じに地球を破壊しちゃう爆弾」が出てきちゃいますよ。(笑)
ナカユウ
2013/04/21 21:09
ナカユウさん、こんばんは。

こちらこそ、長い間お付き合い頂いてありがとうございました。
回るカウンターこそが執筆する気力の源、コメントなんて……というとちょっと強がりですけどね。
多分、二ヶ月程度はこのままになるかと思いますが、気が向いたら何か書くかもしれませんので、今後は月一ぐらいでチラッと見ていただけると良いかと思います(笑)
A-O-TAKE
2013/04/22 21:28
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