A-O-TAKEの隠し部屋

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zoom RSS 外伝的なお話2

<<   作成日時 : 2013/08/13 23:18   >>

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 親戚からとうもろこしを貰ったので。

 今回は料理がメインのお話で、内容は殆ど有りません。

**********



 夏季休暇に入って何日か経ったある日のこと。

 千早たちは既に各々の家に帰っており、寮内に居るのは薫子と香織理だけ。
 誰に憚ることもなくベッドの上で漫画を読みながら過ごしていた薫子は、空腹を覚えて時計を眺めた。デジタル表示は11:30。ちょっと早いと思いつつも、薫子は自室を出て食堂へと向かった。
 ぺたりぺたりと力の抜けた歩き方でスリッパを引き摺りながら、それでも一応は身嗜みを整えてから食堂へと入る。

「あ〜……お腹空いた〜」
「この子はまた……」


 椅子に座って机の上に上体を投げ出した薫子。食堂でTVを見ていた香織理は溜め息を吐きながら、それでも薫子の為に目覚ましのお茶でも入れようと厨房へと入る。

「随分だらけているわね?」
「昨夜はちょっと漫画を読み過ぎて……」
「飽きないわねえ。課題をやってましたとか云うのなら、まだ可愛げが有るのに」
「本棚の整理とかしてるとさ〜、気になった本をいっき読みしちゃったりするじゃないさ〜……」


 確りと覚醒していないのか、間延びした返事をする薫子。休みに入ったのだからと要らない本を整理している途中で、シリーズ物の漫画を手に取ってしまったのが運の尽き。

「貴女、昨日のお昼から整理していなかったかしら?」
「ん……文庫版全50巻はきつかった……」


 それだけ云って顔を食卓に落とす薫子。香織理は思わず絶句した後、処置無しだと云うように首を振った。(ちなみにその漫画は独特の立ちポーズが有名な少年漫画である)
 腹を空かせている薫子の為に、時間が早いのを承知しながらも、寮母の作った弁当を持って食卓へと戻る。

「はい、お弁当」
「わお、ありがと。……あ〜、でも今日でお弁当もお仕舞いか……」


 休暇前の最後の仕事として、寮母が作っていったクラブサンド。弁当箱の箱を開けた薫子は歓声を上げるものの、直ぐに切なそうな様子で肩を落とした。
 自分の分の弁当を持ってきた香織理と二人、手早くお祈りを済ませてから、確りと味わって食事をする。
 口を動かしながら、点けっ放しになっていたTVを何気無く見ていた薫子は、ニュース番組の合間に流れるCMの台詞に手を止めた。

『夏山葵 鰻 蓴菜 鱧 白○ 笊豆腐 川海老 空豆 海栗 ○鶴』

 テンポ良く流れる映像は夏が旬の食材たち。日本酒のCMなので、どちらかと云えば酒のツマミになるのだろうが、薫子の目に映る鰻や海栗は実に美味しそうだった。
 作ってくれた寮母に悪いと思いつつも、薫子は手に持っていたクラブサンドをじっと眺めてしまう。

「夏の食材か……」
「鰻サンドでも食べたいの?」
「な、何故分かったっ!?」
「……薫子、CMに影響されすぎでしょう……」


 うぐ、と息を詰まらせる薫子。そっぽを向いて誤魔化す薫子を見た香織理は、意地悪く笑いながら腕を伸ばす。

「なら、そのお弁当はいらないでしょう? 私が貰うわ」
「だ、駄目だよっ。それはそれ、これはこれ!」


 じゃれるように薫子の腕を擽りながら弁当に手を伸ばす香織理に、薫子が根負けして逃げ出そうとした丁度その時。ピンポーン、と来客を告げる音が鳴った。
 思わず動きを止めて顔を見合わせる二人。

「今日、誰か来る予定って有ったっけ」
「無かったわよ。……ああ、良いわ、私が出るから」


 弁当箱を抱えたまま立とうとした薫子を制して、香織理が食堂を出て行く。薫子は食事を続けながら、誰が来たのかと耳を済ませた。
 上がって下さい。お邪魔します。そんな声が聞こえた後、足音が近付いてくる。薫子は、聞き間違えようのない懐かしい声に、慌てて口の中のものを紅茶で流しこんだ。

「さ、どうぞ」
「失礼します。久しぶりですね、薫子ちゃん」
「こんにちは、薫子さん」
「……お姉さま、それに響姫さん。お久しぶりです」


 やがて香織理に続いて食堂に現れた人影は、薫子の想像通りの人物。自分の姉である奏と、その友人の響姫だった。

「暑かったでしょう? 今、冷たいお茶を用意しますね」
「ありがとうございます、香織理ちゃん」


 香織理を厨房に見送ってから、奏と響姫は薫子の対面の椅子に座る。そして、薫子の前に有る弁当箱を見て、小さく微笑んだ。

「お昼の途中でお邪魔して御免なさい」
「いやいや、大丈夫だよ。今日はどうしたの?」
「あ、はい。今日はお裾分けを持ってきたんです」


 お裾分け? と首を傾げる薫子。奏と響姫は香織理が戻ってくるのを待ってから、足元に置いておいた袋を食卓へと上げた。
 買い物用のエコバッグから覗いて見えるのは、特徴的な黄色のヒゲ。

「とうもろこし?」
「はい。10本です」
「……それは、ありがたいですけれど。そんなに頂いても良いんですか?」


 戸惑いながら問い返す薫子に、奏と響姫は苦笑しながら頷いた。

「実は、これは紫苑お姉さまからのお裾分けなんですけれど、私と響姫さんだけじゃ食べ切れなくて、お友だちなどに配ってきたところなんです」
「そうなんだ。……ん? 配ってきて、それでも10本余ったって……元はどれくらい有ったの?」
「えっと……50本です」
「……」


 奏はどこか困った顔で、明後日の方向を見ながら答える。薫子と香織理は何とも云えずに押し黙った。薫子は勿論のこと、香織理も寮住まいになってからは紫苑と面識があるのだが、脳裏に浮かぶのはニコニコと笑って手を振っている姿。
 本人は勿論、善意でやっているのだろうが……限度と云うものが有るだろう。なにやってんのあの人は、と薫子は内心で頭を抱えた。

「自分の家だけでは食べられないからと云って、ダンボール5箱も頂いたときは……正直どうしようかと……ねえ、奏さん」
「ええ、まあ……」


 卒業後はルームシェアをして暮らしている二人なので、響姫もまた紫苑とは縁が深い。紫苑は奏の姉として色々と面倒を見ているからだ。

「今年は寮にも人が入ったって薫子ちゃんに聞いていましたから、もしかしたら食べる人が居るかなと、急いで持ってきたんですけれど……」

 寮内に上がった時点で人の気配が少ないことに気がついていた奏は、既にみんなが帰省しているのだろうと察して眉を寄せた。
 そんな奏にを不安にさせまいと、薫子はどんと自分の胸を叩く。

「大丈夫だよお姉さま。ありがたく頂きます」
「無理しなくても良いんですよ? 食べきれないと勿体無いですし……」
「へーきへーき。一人5本なんて楽勝でしょ」
「心配しないで下さい、奏お姉さま。薫子なら一人で10本くらい食べられますから」
「ふぁっ!? いや、香織理さんも手伝ってよ!?」


 目論見を崩されて慌てる薫子を見て、奏と響姫は楽しそうに声を上げるのだった。





 夏のとうもろこし





 奏たちが昼食を食べていなかったこともあり、一時間ほどの雑談をして二人は帰っていった。薫子としては、久々の再会なのでもう少し話をしていたかったのだが、奏の腹が鳴ってしまっては仕方がない。
 二人を見送ってから食堂へ戻って来た薫子と香織理は、机の上に乗ったままのとうもろこしを見て、ふむ、と腕を組んだ。

「とりあえず、食べよっか」
「そうね。……一本で良いわよね?」
「うん」


 薫子が頷くのを見た香織理は、自分の分も含めて二本を手に取ると、厨房へと向かう。薫子が残りを冷蔵庫の野菜室へとしまう間に、包葉と花柱を綺麗に取り除いてから水で洗った。
 戻って来た薫子は、香織理が湯を沸かさずに塩をとうもろこしに擦り込んでいるのを見て、首を傾げる。

「あれ、茹でるんじゃないの?」
「沢山食べるならそれでも良いけれど、二本ぐらいだと面倒でしょう?」


 香織理は塩を擦り込んだとうもろこしを、水切りしないままで適当な大きさに切ったラップの上に乗せ、丁寧に包む。そうして電子レンジの中に間隔を開けて並べるところを見て、薫子も漸くどうやって茹でるのかを理解した。

「なるほどね〜。そんな方法が有るんだ」
「昔、母さんに教わったのよ。寮の電子レンジは大きいから、二本並べても余裕よね」
「へえ……」


 香織理が滅多に話さない母親の話題を口にして、薫子は内心で驚いた。大して意味の無い軽口だからこそ、口が滑ったのかもしれない。
 自分にとって、料理を教えてくれる母親の役は奏だったのだが、その期間は短かった。香織理ならこういった裏技的なことも沢山教わっているんだろうなと思うと、ちょっと羨ましくなる薫子だった。
 二人の視線が電子レンジに注がれる中、ガラスのテーブルととうもろこしがくるくる回り、お決まりの音と共にタイマーがゼロになった。

「さてと、どんな感じかしら」

 鍋掴みを嵌めた香織理が、注意をしながらとうもろこしを取り出した。湯気で薄らと曇っているラップの内側を確かめてから、まな板の上へと乗せる。

「あっ、ちょっと待った!」

 香織理が包丁を持ってラップごととうもろこしを切ろうとするのを見て、薫子は慌てて声を上げた。

「ん? どうしたの?」
「あたしの分は切らなくていいよ。やっぱりとうもろこしは、そのままで齧り付くのが一番!」
「……薫子は豪快ねぇ」


 薫子は夜店で売っているとうもろこしを食べるように、手を口の横に持っていって歯を鳴らす。香織理は苦笑すると、熱いから気を付けるようにと注意してから、ラップを剥がしたとうもろこしを薫子に手渡した。

「おわっとっと、結構熱いね」
「粒の中に水分が詰まっているから、食べる時には火傷しないようにね」
「は〜い」


 薫子は頷くと、とうもろこしを片手に厨房を出る。香織理はそのまま食卓に座って食べるのかと思っていたが、薫子は何故かそのまま食堂を出て行こうとしている。

「ちょっと、行儀が悪いわよ。どこで食べる心算?」
「テラス〜。何て云うか、こう……夏っぽいじゃない?」
「もう、子供なんだから……」


 薫子は食堂の扉から顔を出してニヤッと笑うと、呆れている香織理を残して食堂を出る。確かに子供っぽいなと自分でも笑いながら、薫子は階段を上ってテラスの扉を開けた。
 ふと、さっきの食べ真似をしたときに思い出したのだ。まだ家業のこともよく分からなかった時分、自宅の縁側で男衆と共にとうもろこしを食べたことを。
 彼等は総じて強面で、どちらかと云うと暴力的な男たちだったのだが……不思議と愛嬌のある優しい人たちでもあった。

「両手で端っこを持って、真ん中から食べたっけ。……いっただっきま〜す」

 夏季休暇に入っているし、時間は昼の真っ只中。誰に見られる心配もないので、薫子は豪快にとうもろこしに齧り付いた。



「あひゅっ! あひゅ〜!」



「……だから云ったのに」

 輪切りにしたとうもろこしを食べていた香織理は、階上から聞こえてきた声に肩を竦める。
 だが、夏の思い出としては悪くないだろう。次は自分も薫子に付き合って、もう少し子供っぽく食べてみようかと思う香織理だった。







 そして、二日後の昼。薫子と香織理はまな板の上に並べたとうもろこしを前にして悩んでいた。

「とうもろこしってさ……茹でるか焼くか、それくらいしか無いよね」
「そうね」
「ぶっちゃけ、飽きた!」
「……」


 一人で5本くらいはと云っていたのに、あっさりと前言を撤回する薫子。香織理が突っ込まなかったのは、自分も飽きていたからである。
 翌日には、茹でたものをフライパンの上で焼いて、バターと醤油で味付けをして食べた。しかしその方法は結構手間が掛かったので、次の日は普通に茹でたものを食べた。残りは4本だ。

「お姉さまがどうして心配してたのか、良く分かった。毎日食べてりゃ飽きるよね」
「茹でて冷凍しておけば、日持ちはするけれど……どうせなら、新鮮なうちに食べたいわよね」
「丸齧りはもういいよ。歯の間に詰まっちゃうし」


 口をイーと開けて前歯を見せる薫子。勿論、食後に手入れしているので、今も歯の間に物が詰まっているなどと云うことは無い。

「でも、私も薫子も、他に料理の方法なんて分からないでしょう?」
「うん。だからここは、寮のお抱えシェフに力を借りようと云うことで」


 にひひ、と妙な笑いをしながら携帯電話の操作を始める薫子。香織理は薫子の考えていることに気が付いて、心の中で千早に黙祷を捧げた。それでも薫子を止めないのは、自分でも千早の料理がちょっと楽しみだったからである。





「……先に史に連絡を入れるあたり、薫子さんもずる賢くなりましたね」

 呼び出されて寮へとやって来た千早は、嬉しそうにしている薫子を見て半眼で呟いた。しかし薫子はどこ吹く風と、目を逸らしながらとぼけてみせる。

「え〜? だって千早の予定を確認するなら、史ちゃんに聞くのが確実だし」
「ふふっ……千早も寮に来たと云うことは、薫子の我儘を聞いてあげる心算なんでしょう? 薫子は私が後で躾けておくから、ここは大目に見てあげてね」
「えっ……し、躾ってなにさ。香織理さんだって千早の料理は食べたいでしょ!?」


 じゃれ始める二人を見て、千早は仕方が無いとばかりに大きな溜め息を吐いた。
 香織理の云うとおり、寮まで来た時点で千早の負けだ。炎天下の中、女装して寮まで来ることに皮肉の一つも云いたかっただけなので、別に怒っている訳ではない。

「ほら、そのくらいにして下さい。食事の時間が遅くなりますよ?」

 ただまあ、薫子が香織理に躾けられるのはそれはそれで構わないだろうと、千早は二人をその場に置いて食堂へと向かうのだった。



「さて、それじゃそろそろ始めますか」

 髪を後ろで纏め、エプロンを着けた千早が声を上げる。とうもろこしを使った料理と云うこと以外に注文は無かったので、千早は予めその他の食材を自前で用意してきていた。
 スパゲティにベーコン、ズッキーニなどの食材と、寮に置いてある調味料。パスタ料理だと云うのは薫子にも分かるが、それ以外はさっぱりである。

「ねぇねぇ千早、何を作るの?」
「内緒です」
「え〜? 良いじゃん教えてくれてもさ」
「……料理を手伝うと云うのなら、教えて差し上げますが?」


 にっこり、と笑いながら問い掛ける千早。迫力の有る笑顔に、薫子は呻き声を上げながら後退した。

「見学したいのなら、せめてエプロンを着けて髪を纏めてくださいね」
「は、は〜い……了解で〜す……」


 折角来て貰ったのに手伝いもせずに食べるだけと云うのは悪い、と云うことで薫子は香織理と共に千早の後ろに並んでその手伝いをすることした。女二人が男の手料理を待つだけ、と云うところに女の子としてのプライドが擽られたのかもしれない。
 ともあれ、二人の準備が整ったところで、千早は二人に説明しながら料理を始めるのだった。



「まずは、とうもろこしの実を外します。皮とヒゲを取ってから、包丁でこんな風に……」

 包葉と花柱を取ったとうもろこしを、包丁で削るようにして実を取っていく。大きめのボウルに実が溜まっていくのを見て、薫子はボロボロ実が取れるのが楽しそうだな、と思った。
 千早は実を落としたとうもろこしの芯を、包丁の背で擦って水分まで綺麗に落としていく。残った芯は、適当な長さに切って鍋の中へと移された。

「あれ、芯は捨てるんじゃないの?」
「芯から出汁を取るんです。色々と使い道があるんですよ」
「無駄にする所が無いと云うことね」
「ええ。……と云うわけで、残り三本、お願いしますね」
「えっ? う、うん。頑張る」


 薫子と香織理にとうもろこしを渡した千早は、場所を移してベーコンやズッキーニを切り始めた。スパゲティを茹でる為の湯を沸かすのも忘れない。
 その手際の良さは見事なもので、薫子と香織理が協力してとうもろこしの実を外し終わる頃には、千早は二人の後ろでその作業を監督している状態だった。

「やっぱり、千早が一人でやった方が早く完成しそうだよね」
「それは今更な話でしょ? ……とは云え、千早の料理を見ていると、私ももう少し出来た方が良いかなって思っちゃうけれど」
「料理だって練習有るのみですよ。さて、それじゃあこの実を使って、コーンクリームを作りましょうか」


 千早は鍋を中火で暖めると、大匙でバターを入れてそれを溶かし始める。ふんわりとした香りが広がる中、実を残らず投入して炒め始めた。
 火が通ってとうもろこしが鮮やかな色に変わっていく。千早は火の通り具合を確認してから牛乳を加えた。沸騰直前に火を弱めてから、ととうもろこしを柔らかくなるまで煮ていく。
 その鍋を薫子たちに任せると、千早は先程の芯を入れた鍋にも牛乳を入れて、同じように煮始めた。沸騰直前に火を弱め、煮ている間にスパゲティの方も確かめている。

「千早、実が柔らかくなったわよ」
「はい、それじゃ水溶きのコーンスターチでとろみを付けて下さい。一度に入れず、状態を確認してくださいね」
「ええ。……こんな感じかしらね?」


 少しずつ様子を見ながら、とろみを付けていく。牛乳も元の白さは無くなり、とうもろこしの黄色が混ざってクリーム色に変わってきた。

「もう良いんじゃないかな。何かネトッて感じ」
「どれ……ん、もう大丈夫ですね」


 様子を見た千早は、塩と胡椒で軽く味を調えてから、完成したコーンクリームを脇に除けた。

「こっちはこれで完成?」
「ええ。とは云っても、それをそのまま食べる訳じゃありませんけれど」
「そうなんだ。そのままでも結構美味しそうだけど」
「勿論そのままでも食べられますけれど、薫子さんはそれだけじゃ納得しないでしょう?」
「あは、そうかもね」
「む……千早も香織理さんも、あたしが食いしん坊キャラにし過ぎると思う」


 コーンクリームの入った鍋を持って口を尖らす薫子に、遠慮の無い笑いが飛ぶ。

「さて、パスタが茹で上がる前にソースを作りますか」

 一頻り笑った後、千早はコーンクリームを半分ほどに分けてボウルに移し、熱を取りながらオリーブオイルやパスタの茹で汁を少量混ぜて、クリームを少しのばした。
 それを暫く冷やしておく間に、先程切っておいたベーコンやズッキーニをフライパンで炒め、スパゲティの茹で具合を見ながら火を止める。
 茹で上がったスパゲティを笊に上げ、氷水で洗いながら確りと冷やし、水気を十分に切った。

「ああ、そこまで行けば分かる。冷製パスタだね」
「ええ。夏らしく行こうと思いまして。盛り付けをお願いしますね。その間にスープも用意しますので」
「ええ。史ちゃんほどではないでしょうけれど、綺麗に盛り付けてみるわね」


 千早の言葉に頷いた香織理は、薫子と共にスパゲティを皿に移し、炒めた具とコーンクリームをあえた物をスパゲティに掛けていく。

「千早、粉チーズはお好み?」
「ええ。その方が良いと思いますよ」


 一方の千早は、芯を牛乳で煮ていた鍋の様子を確認し、芯を取り出してから残っていたコーンクリームを加えてひと煮立ちさせた。
 適当なところで火を止めた後、ミキサーにかけてとうもろこしの実をじっくりと砕いていく。三分ほど掛けて滑らかにしてから、スープを漉した。

「コーンスープも冷たい方が良いですかね?」
「ん〜、温かい方が良いかな。お腹が冷えそうだし」
「分かりました」


 千早は少し冷めたスープを軽く温め直し、皿に盛り付けた後でパセリを軽く散らした。

「……完成?」
「はい」
「よっしゃ!」


 自分が手伝ったこともあってか、厨房でそのまま食べてしまいそうなほど喜んでいる薫子。千早と香織理はそんな薫子を宥めながら、パスタとスープを食堂へと運ぶのだった。

「は〜、お腹減った〜」
「はいはい、食べる前にお祈りでしょ?」
「主よ、今から我々がこの糧をいただくことに感謝させ給え、アーメン!」
「……アーメン」


 待ちきれないとばかりに早口で祈る薫子に、苦笑しながら言葉を合わせる千早と香織理。二人が目を開けたとき、薫子は既にフォークを手に取っていた。
 どうせなら薫子の反応を確認してからと云うことで、千早と香織理が見守る中、薫子が最初の一口を頬張った。モグモグと動く口の端が、嬉しそうに持ち上がる。

「うん、美味しい! 流石は千早だね!」
「そうですか。それは良かった」


 親指を立てて美味をアピールする薫子に息を吐いてから、千早と香織理もそれぞれのフォークに手を伸ばした。

「んっ……本当。美味しいわね。ベーコンやズッキーニにも合っているし」
「こっちのスープも美味しいよ。とうもろこしの甘さが良い感じ」
「コーンスープは、冷めても美味しく食べられますよ。冷めると味が濃く感じますけれど、そう云うときは牛乳を付け足して、塩で味を調えれば大丈夫ですから」
「へー、そうなんだ? 温めるだけならあたしにも出来るし、助かるかも」


 歓談しながらの食事は時が経つのも早く、それなりの量が有ったそれぞれの皿も、あっという間に綺麗になった。



「あ〜、美味しかった」
「ごちそうさま。千早の料理はいつも美味しいけれど、今日のは家庭料理みたいな感じで良かったわ」
「お口に合ったのなら良かったです」


 千早が料理を担当したのだからと云うことで、食後の片付けは薫子と香織理が担当する。食器をシンクに運ぶ傍ら、香織理が千早に質問をした。

「そう云えば、コーンクリームを自作するのって始めて見たわ。千早はやっぱり缶詰とかは使わないの?」
「そうですね……最近は、自分で作ってしまいますね。今回のように用途に合わせて調整も出来ますし、新鮮なとうもろこしなら味も違いますしね」
「……その、コーンクリームの缶詰とやらも見たことの無いあたしとしては、別次元のお話にしか聞こえませんな〜」


 あっはっは、と乾いた笑いを響かせる薫子。千早と自分の手捌きの差を見ては、開き直るのも仕方が無いと云ったところか。

「ふふっ……薫子さん、先程も云いましたけど、料理の腕前を上達させるのも、結局は練習して数をこなすのが重要ですよ。苦手意識が無くなるくらいまで頑張ってみてはどうですか?」
「う、う〜む……そう云われてもなあ」
「要努力、と云うところね。頑張りなさい、薫子」
「む〜……」


 薫子をからかいながら皿を洗う香織理を見て、千早はこっそりと苦笑する。薫子に比べればマシとは云え、香織理の手捌きも慣れているとは云えないものだったからだ。
 もっともそのことを声に出して指摘すれば、皮肉やら何やらで倍になって文句が返ってくると分かっているので、あえて何も云わないのであるが。





 その日の夜。薫子は電話で、とうもろこしを無事に完食したと云うことを奏に報告していた。

「――そうですか。美味しく食べられたのでしたら良かったです」
「うん。いや〜、あたしには茹でるくらいしか思い付かなかったからさ。あんなに簡単にスープになるなんて思わなかったよ」
「ふふっ……でも、私もとうもろこしをスープにしようとは思いませんでしたから、良いアイデアを頂いたのですよ。これで、家に有る分も食べられそうです」
「そっか、そりゃ良かった。しっかし由佳里お姉さまの時も思ったけどさ、料理の上手な人の手捌きってのは、やっぱり綺麗なもんだよね」
「……千早さんのお料理を見るの、好きみたいですね?」
「はっ!? あ、いや、それは何と申しますか……」


 ベッドに転がりながら、奏と他愛の無い話で盛り上がる。
 千早と史を相手にした夜のお茶会では話し難いことも、こうして奏と話しているとポロリと零れてしまう辺り、まだまだ甘えているんだなと自覚してしまう。
 会話の間合いを読んで話してくれる心地良さと云うのは、奏が隣に座っていなくても、自分を見ていると感じさせるものだった。

「あっと、もうこんな時間か。ゴメンね、長話で」
「いいえ、薫子ちゃんとのお話は、私の元気の元ですから」
「あはは、ありがと」
「あ……そうだ。薫子ちゃん、ちょっと云い難いんですが……」


 薫子がそろそろ会話も終わりと気を抜いたとき、奏が云い難そうに口篭った。薫子に対してははっきりと物事を口にする奏なので、滅多に無い状況に薫子は首を傾げる。

「大丈夫、遠慮しないで云ってみてよ」
「その、千早さんや史さんは、寮には居ないけれど近くに住んでいるのですよね?」
「うん。何、2人に用事が有るとか?」
「いえ、どちらかと云うと人数の方が大事で。……その、ですね。西瓜が5玉有るのですが、薫子ちゃん……食べられますか?」
「え゛っ」


 流石の薫子も、一人で1玉なんて楽勝だよね、とは云えないのだった。




**********

 今、お腹が空いてますか? 読んでお腹が空いたとしても、責任は持てませんよ(笑)

 なお、ちゃんとした料理を作りたいならば、確りとレシピを調べてからにして下さいね。

 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
なんていうか…奏のキャラが凄くいいですね。
なんかこう、面白いです。
初代の頃のおどおどした奏とも、「エトワール」の、一生懸命お姉さましている奏とも違った感じがいいですね。

私はほとんど料理をしない(夏に素麺、冬にキムチチゲを作る程度なので、薫子以上香織理以下?)ので、料理そのものについては知識が追いつかないですが…
薫子のセリフじゃないけど、料理している描写を見るのは楽しいです。

外伝でもなんでも構いませんので、たまにで結構ですから、こんな風に書いて頂ければありがたいです。
気長に待たせて頂きますので。
えるうっど
2013/08/14 22:17
えるうっどさん、こんばんは。

>奏
ビジュアルブックの巻末の話や、5巻での描写を見ると、薫子をからかって楽しむ(甘える)ことが出来るようになったようですから、こんなのも良いかなと。
瑞穂の妹の頃のように甘えるのにも不器用だった奏も、色んな意味で成長したと言うことで(笑)

>料理
三人称でも一人称でも、料理の描写って大変……やっぱり、実際に自分で食べたりしてないと、上手く描写できないです。ちなみに今回のは作ってませんので、本当に出来るかどうかは謎。レシピは見てますけどね。

これからも、気が向いたときに趣味としてポロポロ書いていくとは思いますので、あまり期待しないでおいて下さい(笑)

A-O-TAKE
2013/08/16 17:35
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